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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第14話「冬山に想う」
124/212

その6

 二日目の行軍が始まった。昨日とは異なり空は少し曇っていて、気温も低い。

 ハヤトの体調は未だに優れない様子で、今日はシェリルの後ろに乗っている。昨晩使った障壁をハヤトの周囲に作り、彼の回復を少しでも早める算段だ。


 傾斜の激しい坂を、バドルたちが登っていく。さすがに消耗しているように見るが、時折ミランダの喝が入ると、彼らは元気を取り戻す。


「シェリル、障壁を出しっぱなしで大丈夫?」


 すぐ前を進む、コリンが声をかけた。

 シェリルはこの寒さにも関わらず少し汗をにじませていたが、笑顔でこたえた。


「大丈夫、です。それにハヤトさんがよくなる方が優先ですから」

「わかってんじゃないのさ」


 ミランダが笑顔を向けると、シェリルは若干顔を紅潮させた。


「あんたが頑張る分、ハヤトが楽になるんだろ。こいつはあんたにしかできないんだ。せいぜい根性見せてくれよな、シェリル」

「はいっ!」


 シェリルの表情は幸福に満ちていた。

 コリンは首をかしげる。


 どういうことだ。


「コリンちゃん、こっから先は完全に凍りついちまってるみたいだ。このコースのままで大丈夫か、見てくれないか」


 ロバートの声がその思考を遮る。

 コリンはバドルを降りて、少し先まで走って地面の雪を触った。


 コリンはザイド・ウィンターではないが雪国の出身である。

 こう言った状況には慣れており、その判断も的確であった。


 しばらく状況を見てから、コリンが戻ってきた。


「問題なさそう。でも何時間かしたら吹雪くかもしれない。いざという時のために、シェリルの障壁は一度解いてもらって“魔力”に余裕をもってもらうべきだと思う」


 ロバートは不安げに目を細めた。


「そうか……。君が言うなら、そうした方がよさそうだ」

「大丈夫です。このまま行きましょう」


 しかし、シェリルが言った。

 マヤが心配そうに彼女を見る。


「でも、シェリルさん。あなたは少し無理をしすぎだと思います。コリンちゃんの言うとおりにしたほうが」

「大丈夫、です。ハヤトさんが治る方が、優先です」


 シェリルは、はっきりと即答した。

 コリンは、意外そうにする。


「シェリル」

「コリン。私、なんとかしてみますから。このまま進みましょう。もう半分は過ぎたはずでしょう」


 そう語る彼女の瞳は力強かった。

 コリンは、思わず頷いてしまった。


「う、うん。じゃあ……そうして」

「へえ、珍しいねえ。デコッパチが折れたよ」

「おいミランダ。コリンちゃんにへんなあだ名をつけるのはそろそろやめろよ」

「でも『でこっぱち』はコリンのチャームポイントなの」


 ルーのひとことに、コリンが振り向く。

 彼女はまたもや、驚いたような表情をしていた。


「チャーム、ポイント……」

「そうなの。バドルのみんなもそう言ってるの。コリンは『でこっぱち』なの」


 バドルたちが例によって、ぎゃあぎゃあ鳴く。

 マヤが眉をしかめた。


「ルーも、そういうことを言うのはやめなさい。全く、ミランダさんの影響を悪い方向に受けちゃってるんだから」

「それはどういう意味だいマヤ?」

「言ったままです! ハヤト君がこんな状態なんですから、少しは緊張感もって下さい!」

「おお、怖」


 結局、シェリルの障壁を維持したまま先を進むことになった。

 しばらくして、少しばかり吹雪き始めた。


 コリンは、眼前に吹き込む雪を見ながら思った。



 彼女は、春の都でザイド王・ルドルフから勇者の道案内を頼まれた。かつてソルテスとザイドを旅をしたこともあるので、その実績を買われてのことである。


 正直、めんどうだと思った。

 彼女にとって勇者はソルテス一人であり、英雄もまた、ソルテス一人であった。

 ルドルフ王も恩義のある大切な存在だが、彼女にとって一番はソルテスであった。


 だからこそ、「勇者」ハヤトは偽物であると、コリンは心の中ではっきりと決めていた。


 こんな無駄な旅、早く終わればいい。

 そう思った。


 だるくて仕方がなかった。

 すぐにでも帰って、春の都でシェリルとの仕事を再開したい、そう思っていた。


 だが、彼女はこの旅で、たくさんの変化を目にした。


 夏の遺跡、秋の里での、異常な戦い。

 あのアンバーという女のことはよくわからないが、ハヤトたちが少なくとも特別な存在であることは理解せざるを得なかった。


 そして、シェリルの変化。

 さっきみたいに、強く自己主張できる子ではなかった。

 出身の秋の里で、彼女は何かを手にしたのだろう。自分は大して貢献できなかったが、それについては純粋によかったと思う。


 そして、認めたくはないけれど……。


「コリンちゃん、何してんだ。君が道を見てくれないと進めないんだぜ」


 またしてもロバートの声が、思考を遮断した。


 コリンは、バドルを駆りながら思った。


 ずっと望んでいたはずの、旅の終わりが近づいている。

 でも、なぜだろう。こんなに、寂しいのは。


『自分のことを……そんな風に言うなよ。見捨てていい人間なんていない』

『俺は……魔王も倒して、ソルテスも救いたいと思っている』


 どうしてだろう。夏の遺跡で聞いたハヤトの言葉が、耳を離れないのは。

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