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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第14話「冬山に想う」
122/212

その4

 山中の夜。ハヤト一行はキャンプを張った。

 ザイド・ウィンターの気温は非常に低い。しかし、障壁のようなものが彼らを覆うようにしていた。


「へえ、あったかいね。これで寒さをしのげるってわけかい。便利なもんだね」


 ミランダが、障壁に手を出し入れしながら言う。シェリルが嬉しそうにほほえんだ。


「この障壁は体を通過してしまいますから、寝ている時に出ないよう、注意してくださいね」

「だとさ、マヤ」


 急にふられたマヤだったが、彼女は不思議そうに首をひねった。


「どうして私に言うんです?」


 全員が絶句する。寝相の悪さに自分で気づかないのだろうか。

 ロバートは苦笑しながら立ち上がった。


「今夜の番は俺がするよ。みんな、ゆっくり眠ってくれ」

「月が十五度傾いたら起こして。アタシが代わるよ」

「いいや。ハヤト君が不調の今、何かがあった時にこのパーティの主力になるのは、マヤちゃんとミランダの二人だ。体力をつけておいてくれ」

「で、でも。それじゃロバートさんが」


 ロバートはマヤの言葉を遮った。


「たまには役に立たせてくれないか」

「ロバートのくせにちょっとかっこいいの」

「うるせえ。ガキは早く寝ろ」

「なんでルーにはそうつらく当たるの! もしかしてロバート、ルーのことが好きなの? でも、ごめんなのロバート。ルーにはハヤトがいるから」

「わあ、よくわからんが勝手にふられた」


 ともあれ、彼以外の全員が眠りについた。


 ロバートは月を眺める。


 この旅に加わってからというもの、色々なことがあった。

 死にかけたことも数え切れない。魔王軍の連中は誰も彼も自分とはレベルが違っていて、はっきり言って対峙しているだけでも生きた心地がしない。

 先日だって、「ブレイク」能力を解放したアンバーが起こした“魔力”の衝撃だけで、右腕を折った。もっとも、そういったダメージは回復魔法ですぐに癒すことができるが、もし、その一発で自分が息絶えてしまえば……。

 力の差を考えれば、いつ死んでもおかしくないだろう。


 それでも、ロバートは今の生活に満足していた。


 生など、タウラでとっくに捨てていた。


 傭兵としてモンスターと戦ってきたロバートは、これまで何度も命を落としかけてきた。

 だが、彼の傍らには従姉妹のミランダがいつでもいた。

 ミランダは惚れ惚れするほど強く、どんな苦境でも諦めない強い心の持ち主だった。


 ロバートはある戦いで、一度自分の命を諦めたことがある。

 現在戦っている魔王軍と比べれば天地の差ではあるものの、強力なモンスターと対決した時のことである。傭兵部隊は苦戦を強いられ、親しくしていた彼の仲間が何人か、命を落とした。

 補給もなく、武器も全て壊れてしまった。ロバートにはもはや、何も残っていないと感じられた。

 じり貧の状況で諦めの境地にたどり着き、とうとう彼は素手でモンスターへと向かっていこうとした。


 その時、彼を殴りつけた女がいた。


 それがミランダ・ルージュであった。


「簡単に、諦めるんじゃねえ!」


 ミランダは、ロバートを押し倒し、獣のように猛った。何度も何度も殴られて、モンスターではなく彼女に殺されるかと思った。

 だが結果としてその後、援軍がかけつけてロバートたちは生きながらえることができた。


 自分はあの時、死んだのだ、と、ロバートは思っていた。


 だからこそ今ある生を、おもしろおかしく過ごして行きたい。そう感じていた。

 今の旅は、それにぴったりであった。


 そして、何より――。


 ロバートは、口をぱっくり開けて眠るミランダを見やる。


 彼女を助けなければ。

 自分を救ってくれた親戚を。

 そして、異常なまでに強い力を持ってしまった、姉貴分を。


 ロバートは、ミランダの「ブレイク」能力についての説明を聞いた時、まず感じた。

 この先、ミランダは魔王軍にまず狙われる対象となるだろう。魔王軍には、ビンスを始め、魔法を使う人間も多いからだ。それを真っ向から否定できる「白銀の鎧」は、魔王軍にとっては邪魔な存在であろう。


 彼女を、守るとまではいかずとも、その助けになれれば。

 そして、本人は気づきもしていないだろうが、今までとは遙かに異なる本物の恋を、成就するところを見届けてやりたい。


 ロバートはただ、そう思っていた。

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