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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第14話「冬山に想う」
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その2

 一行はバドルで雪山を登る。

 体調の優れないハヤトは、マヤと一緒にしんがりのバドルに乗っている。


「大丈夫、ハヤト君?」

「あ、ああ……」


 言いつつも、ハヤトはふらふらしている。明らかに大丈夫ではない。

 マヤは“魔力”を練り、ハヤトに回復魔法をかけてやった。


「気休めにもならないだろうけれど……」

「なあ、どうして大けがも治せる魔法が風邪には効かないんだ?」

「風邪は“魔力”の逆流が問題だから……説明しにくいけど、そういうものなのよ。ハヤト君の『蒼きつるぎ』で体調不良を壊せれば、きっと治ると思うんだけどね」

「『蒼きつるぎ』の効果は、俺自身には効かないみたいだからなあ。うう、頭痛がひどい。ちょっと寝るよ」


 マヤは自分に寄りかかって眠るハヤトに、魔法をかけ続けた。

 その上で、改めて思った。やはり彼も人間なのだ。


 マヤは、先日のことを思い返した。

 アンバーを撃破した後、ハヤトに何か魔法のようなもの――彼は、内容について詳しくは話してくれないが、アンバー自身の過去、「絶望」を見たという――をかけている際、マヤは彼女に訪ねた。


「アンバーさん。あなたのかつての仲間に、グラン・グリーンという人がいませんでしたか」


 アンバーは頷いた。


「グラン・グリーンはソルテス一派の副リーダーだ。旅をしている際も、決め事はほとんど彼とソルテスのふたりで判断していた。ソルテスも、彼を兄のように慕い、信頼していたように見えた」


 兄。その単語を聞き、マヤの胸がぴくんとはねる。


「私は、マヤ・グリーンと言います。彼の妹です。教えてください。兄さんもやっぱり、魔王軍に……?」


 アンバーは少なからず、驚きを見せた。


「あいつの……? やつはおそらく、魔王軍にいるだろう。グランはソルテスたちと魔王との決戦に挑んだからな。それにザイドの海で戦ったリブレ・ラーソンとも仲が良かった」

「いったい、どうして」

「さっきも話したが、理由はわからん。私が知りたいくらいだよ。会って確かめる他ないだろう。しかし、妙だな……」


 アンバーは、マヤをじっと見た。


「グランに、きょうだいがいるだなんて話は一度も聞いたことがない」

「えっ」


 マヤの顔から、表情が消える。


「奴はソルテスや魔法の師匠と出会うまでは天涯孤独だったと、よく話していたよ」

「そんな!? 私はちらりとですけど、ソルテスと顔を合わせたことだってあるんです! その時に、妹だって紹介してくれました!」


 アンバーは首をふる。


「ソルテスからも聞いたことがない。……君も、そうなのか」

「ど、どういうことです?」


 アンバーは、「知らない方がいい」と小さく言って、それ以降何も教えてくれなかった。


 なんとも後味の悪い、不気味な情報だった。

 これだったら、聞かなかったほうが良かったのかもしれない。


 だが。


 マヤは、確信していた。

 グラン兄さんに、魔王の島で何かが起こったのだ。そうに決まっている。でなければ、彼が今やっていることに説明がつかない。

 かつて守ろうとした世界への反逆……彼の性格からすれば、あり得ないことなのだ。

 きっと、絶望的な何かが、起こったはずなのだ。


 兄の顔が浮かんだ。

 透き通るような長い金髪に、優しげな青い瞳。

 だけれど、その意志は誰よりも強かった。


 兄さんに、何かがあったのだ。

 私が助けなければ。


 だからこそ、勇者ハヤト・スナップをサポートしていかなければならない。


 マヤは、再びハヤトを見る。

 バドルに揺られながら寝息を立てる彼は、なんとも頼りなさげで、弱々しく見えた。

 でも、その彼に、これまで何度助けられて来たことか。


 ハヤト・スナップ。彼はいったい何者なのだろう。

 悪人でないことはもう疑う余地もないが、彼には妙なところがたくさんある。

 もっと彼のことを知りたい。理解してあげたい。

 そして、できれば……。


 そこまで考えてマヤは、はっとして赤面し、首をぶんぶん振った。

 違うの。そういうのじゃない。

 彼を知りたいというのは、単なる仲間としての感情、友情に近いものであって!

 ……って、一人で何考えてるんだろう。


「マヤ……」


 そのとき、ハヤトがぼそりと言った。


「ひゃい!?」


 マヤの声は見事に裏返った。


「……悪いな、世話焼かせちまって」

「べ、べつに……仲間として当然じゃない。ルーでも、ミランダさんでも、こうするわ」

「はは。お前のそういうとこ、あいつにそっくりだ」

「あいつ?」

「こっちの話。悪い、もう少し寝るよ」


 「あいつ」と聞いて、思い出した。


 結局船の一件でうやむやになってしまったが、「ユイ」とはいったい、誰のことなのだろう……。


 マヤはハヤトの顔を一瞥してから、バドルの手綱を引いた。

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