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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第13話「オータムの決闘」
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その20

 アンバーは走った。

 仲間が死んだ。家族のように思っていたみんなや、シェリルが死んだ。

 あの男は、あまりにも強すぎる。次元が違いすぎる。

 自分一人では勝つことはできない。


 だが、ロックとおんばあなら。

 自分よりも強い彼らならきっと、あの憎たらしい魔族の男を倒してくれるはずだ。この恨みを晴らし、里を守ってくれるはずだ。


 だから一刻でも早く屋敷に戻り、少しでも役に立たなければ。

 

 そのとき、先の方角で爆発が起こった。

 いやな予感を感じ、アンバーはさらに急いだ。



「くるな、アンバー」


 里に戻ったアンバーが見たものは、炎に包まれ、煙を立てる屋敷と倒れる仲間たち、そして膝をついている傷だらけのロックであった。


 その先には、先程の男とフローラ婆が対峙していた。

 男は、感情のない声で言った。


「どいてくれ」


 フローラの体はロックと同様傷だらけだったが、彼女はなお、闘志に満ちた瞳で男をにらんでいた。


「去ね、小僧」

「諦めが悪い人だ。ではあなたは、その小僧に殺されることになる」

「黙れ、魔性の者!」

「おんばあっ!」


 アンバーが叫んだ時には、フローラ婆は“魔力”の槍にその胸を貫かれ、倒れていた。


 男は何事もなかったかのように、死体となった彼女の体を足でのけ、崩壊した屋敷の向こうへと歩いてゆく。


 それを見たアンバーは激昂し、双剣を抜く。


「きさまあああっ!」


 男が振り返った。すでに、先ほどフローラを殺した際に使った“魔力”の槍が、アンバーの元へと向かっていた。

 アンバーは、死を覚悟した。


「ぐっ!」


 だがその前に、ロックが飛び出して彼女をかばった。

 “魔力”の槍は、彼の胸を貫いた。


「ロッ……!」


 アンバーにはその様子が、スローモーションのようにして見えた。

 ロックは血を吐きながらも、アンバーを抱きしめて“波動”を練ると、その場から消えた。


 男は興味なさげにそれを見送ったあと、屋敷の残骸の中へと入っていった。



 炎に包まれた森の中で、黒い服を着た男が倒れている。

 傍らには、同様の服を着た一人の女性が寄り添うようにして座り、肩をふるわせていた。


「泣くな……俺は後悔などしていない」


 ロックが、言った。その声は優しかった。

 アンバーは、いやいやをするように首をふる。

 頬を涙が伝った。


「嫌だ……あなたがどう思おうと、私はこんなの、嫌だ……」

「おまえに、涙など似合わない」


 アンバーは、すがるように言った。


「だったら、立ち上がってよ……また、抱きしめてよ……」

「すまない。もう、できそうにない。これが、俺たちの運命だったのだ」

「こんなのって、ない……」

 

 森の炎が、どんどん強さを増す。

 アンバーは絶望の中で思った。これで里は終わりだ。


 ロックは苦しそうにうめく。

 アンバーは彼の手を取り、強くつかんだ。


「早く、行け。おまえだけでも生き延びるのだ」

「行けるわけ、ないでしょ……私も、このまま一緒に……」


 もはや、生きている理由などない。

 だが、ロックは息を荒げながらも、強い口調で言う。


「馬鹿者……! おまえにはやらねばならぬことがあるのだろう……!」

「私、何を信じればいいのか、もう、わからないの」


 ロックはせきをしながら、手に力を込めた。

 その口から、どす黒い血が吹き出す。

 アンバーが、それを見て表情を変えた。


「何を……!?」

「ならば、生きていてくれればよい……おまえが、生きてさえいてくれれば、私は」


 ロックの手がから光があふれ、アンバーを包み込む。


「生きよ。さらばだ……」

「ロック! ロックッ!」


 ロックは、笑みを浮かべた。

 アンバーは、最後まで彼の名前を呼び続けた。



「……じょうぶですか、だいじょうぶですか」


 アンバーが気づくと、そこはザイド・オータムの山岳地帯の入り口付近だった。

 誰かが回復魔法をかけてくれたようだった。彼女は、なんとか起きあがった。

 黒髪の少女が、彼女の肩を掴んだ。


「まだ、動かないで。傷が開くわ」

「ロック、ロックッ……!」


 アンバーは、遙か先で立ち上る煙を、ただ見ていることしかできない。

 山の植物は、すでに全て枯れていた。


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