その13
全壊した屋敷の瓦礫が、ぐらりと動いた。
「めちゃくちゃだな……」
その中から現れたミランダがつぶやいた。どうやら、シェリルが「ウォール」を精製して、彼女を瓦礫の被害から守ったようだった。
「だ、だいじょうぶですか?」
「フン、礼だけは言っておくよ。助かった。……だが、どうしてあの時、あいつに攻撃しなかった。アタシは言ったはずだ。戦わなきゃ、何も戻ってこないってな。見てみろ、あの女の変貌ぶりを」
ミランダがあごをしゃくる先には、アンバーが立っていた。彼女はこちらではなく、先ほど攻撃したロックとハヤトのほうを見ていた。
シェリルはつばを飲む。
「あね様……」
「あんたのあね様とやらは、もうあんたなんか見ちゃいねえ。あいつはあいつで、やるべきことがあるんだろうよ」
ミランダは、間を置いて言った。「でもよ」
「あんたがここで諦めなかったら、何かが変わるかもしれねえんだ。可能性は低いかもしれねえよ。でも、決してゼロじゃねえ」
「ミランダさん……」
「アタシは当然の事を言っているだけだ。だからそんな神妙そうに見てるんじゃねえ。てめーにできることをしな」
シェリルは、うつむきつつも、ミランダが負った怪我を魔法で治す。
そして、顔をあげた。
「あね様には……何ひとつ、勝ったことがありませんでした。で、でも……私が立ち向かうことで、あの人を少しでも、楽にできるのなら……!」
シェリルは“魔力”を練る。
アンバーがそれに反応してこちらを見たが、彼女はすぐに向き直った。
シェリルはその様子に愕然とした。
明らかに、自分に興味すら示していない。
恐怖に支配されそうになる。
「あに様」ロックや、勇者ハヤトの攻撃も全く通じなかった。今の彼女に自分が攻撃したところで、どうなるというのだ。
「だから、考えんじゃねえよ!」
背後からミランダの怒号が飛ぶ。
「躊躇してる時間は無駄なんだ。ぶっ飛ばせ。今できる全力でぶつかれ。じゃねえと、前になんか進めねえんだよッ!」
だんだんと、シェリルの中に熱い気持ちが生まれてゆく。
彼女は、きっとアンバーを見つめた。
「私……こんなの、怖いし、やりたくもない……! でも、あなたの言うとおりかもしれない。私は、あね様を取り戻したいのっ! だから……!」
シェリルが地面に手をつくと、地が“魔力”で盛り上がった。
「『ランドスネーク』ッ!」
「ランドスネーク」は蛇のようにぐねぐねと曲がりながらアンバーへと向かった。
アンバーのすぐ近くで、大きな地面の爆発が起こる。
「あね様! どうか戦いをやめてください!」
だが、アンバーは無傷だった。やはりこちらを見てすらいない。シェリルは 何度も「あね様」と呼びながら魔法を撃ち続ける。
しかし、アンバーは視線すらくれず、前を見ている。
やがて、視線の先に積まれた瓦礫から、ハヤトが現れた。すでに息も絶え絶えと言った様子だ。
「さっきの技は、完全に直撃したはずだ。お前が立てたのは奇跡だな。それとも『蒼きつるぎ』の力か」
「負ける訳には……いかない!」
ハヤトの剣幕に、さすがのアンバーも少々驚いた様子だった。
「いったいなにが、お前をそうさせるというのだ?」
「ユイは、兄貴の俺が止めなきゃならないんだっ!」
ハヤトは猛然と突進し、アンバーに「蒼きつるぎ」を振るう。
一撃を刀で受けたアンバーの体が、後方に押された。
「こいつっ……! どこにそんな力がっ!」
アンバーは二本の刀で、確実にハヤトに傷をつけていく。
しかし、ダメージを受けながらも、だんだんと「蒼きつるぎ」を持つハヤトの動きが速くなっていく。
ぎぎぎぎ、がががが、と金属音が乱射する。
火花が飛び散り、アンバーとハヤトの声が漏れる。
アンバーは再び、突きを放つ。
対してハヤトは間合いに踏み込み、「蒼きつるぎ」に力を込める。
アンバーはもう片方の刀で迎撃しようとしたその時、地面に穴があき、彼女はバランスを崩した。
アンバーは、この状況にも関わらず、思わず振り返った。
「シェリルか……!」
「『蒼刃……破斬』っ!」
アンバーの横っ腹に向け、蒼き“波動”が炸裂した。




