その2
寄り合い馬車が止まった。同時に、乗客たちが降りていく。
「着いたみたいね」
マヤにけしかけられ、隼人は馬車を降りた。
「うわ……!」
隼人は思わず息をのんだ。
まず目に入ったのは、大きな灰色の壁だ。緑の芝を断ち切るようにして、右に左に、延々と続いている。乗客たちは、その中心にある大きな木製の門に向かっていく。先には、白い建物がならぶ街が見えた。
マヤはのびをした。
「うーん、この城壁を見るとベルスタに帰ってきた! って感じがするわ」
ベルスタ。マヤが住んでいるという街だ。
二人は城壁をくぐり、白い煉瓦が敷き詰められた街の中へと入った。
道沿いに露店が広がっており、多くの人が歩いていた。
「すごい人だな。まるで祭りみたいだ」
「あなた、田舎出身? だったら驚くかもね。さ、城に行く前にうちに寄りましょう」
「城?」
マヤが右を向いて指を指す。隼人はそちらを見た。
いくつかの塔に囲まれるようにして、百メートルほどの洋風の城がそびえていた。
マヤの家は、さきほどの喧噪から少しばかり離れたところにひっそりとたたずんでいた。
「さ、服脱いで」
開口一番マヤに言われ、隼人は思わず赤くなる。それを見てマヤの顔も同じようになった。
「へっ、ヘンなこと想像しないでよね! その妙な服じゃ、城に入れてもらえないわ」
隼人は自分の服を見る。
黒いフード付きパーカーに、ちょっとくたびれたジーンズ、そして底がすれたスニーカー。
確かに、どう考えても浮いている。
だが、これを脱いだが最後、このわけのわからない夢の中に、自分が完全にとけ込んでしまうような気がした。
「さあ、早く。ここに置いておくからね。私も着替えてくるから。……言っておくけど、次見たら、たとえ勇者だってただじゃおかないわよ」
マヤは奥のドアを閉じた。
勇者。さっきからこの言葉を彼女は何度も口にしている。
確かに説明を受けた。「蒼きつるぎ」を持つ人間は、勇者なのだという。確かにさっき、自分はそれを手にしていた。瞳も輝いていたらしい。
でも、どうして?
隼人にはわけがわからなかった。といっても、ここに来てからは訳のわからないことが連続していて、多少マヒしつつあるが。
どうするか迷っていたその時、外から何かが爆発する音と振動が響いた。
「なっ、なに!?」
音を聞きつけ、マヤが部屋から出てきた。だが、まだ着替えが終わっていなかったらしく、マヤは上半身になにもつけていなかった。
沈黙。
やがて隼人はおそるおそる言った。
「い、いやあ……これはまた、ご立派なお乳で」
マヤの悲鳴とともに隼人の顔に木製のコップがごちん、とぶつかった。