その12
ハヤトを吹き飛ばしたアンバーは、刀を納めようとしたが、はっとして飛んできたクナイを弾いた。
弾かれたクナイは、そのまま消滅してしまった。
「これが、お前の狙いだったというのか」
ロックが、苦しげに肩を掴んで歩いてきた。
アンバーは無表情で答えた。
「お前が知る必要はない」
「その力で、あのソルテスという女と戦うのだな」
「黙れ、関係ないことだ」
「関係は、ある」
ロックは、折れてしまった忍刀をアンバーへと向ける。
彼は、変貌した彼女の姿を見て、少し悲しそうに言った。
「お前はなぜ、拙者に何も話してくれなかったのだ……。里を襲うなどという形でなければ、力になれた可能性もあった」
「これはもはや、そんな生ぬるい話ではないのだ。もう私に顔を見せるなと、言ったはずだ」
「いいや。拙者はお前を連れ戻し、また……」
「言うな。お前の言葉は、私には届かぬ」
「ならば、届かせてみせる……アンバー、拙者に全て話せ。そして楽になれ。あの頃のように」
アンバーは、髪を少しばかり逆立てた。
「あの頃……あの頃とは、いつのことだ……!」
「お前がまだ旅に出る前……お前が私に寄り添い、私もそうした……あの頃に」
アンバーはそれを聞くや否や表情を変え、かっと目を開いた。
「偽物……!」
「なんだ、何を言っている……?」
「偽物なのだ。どれもこれも……! まったく不愉快だ……! 不愉快でならないっ!」
アンバーは地面を蹴り、刀を空中で振り“魔力”を精製する。
「散れ!『風遁・豪螺旋』!」
アンバーが刀を一回転するように振ると、強大な風が起こり、風は竜巻となった。
竜巻はどんどん範囲を広げ、周囲の全てを拒絶し始めた。
ロックはそれが近づいてくるのを、ただ見ているしかなかった。
だがその時。彼の目の前に、人が現れた。
竜巻を、蒼き“波動”が受け止めた。
ロックは思わず声をあげた。
「勇者、ハヤト……!」
「偽物って……ロックさんは、ここにいるじゃないか!」
ハヤトはもはやぼろぼろだったが、「蒼きつるぎ」を竜巻に向ける。
アンバーが叫ぶ。
「お前も本当に聞き分けが悪い奴だ。力の差は歴然。それ以上抵抗すれば、殺さざるを得なくなるぞ!」
「こんなところで死んでたまるか! 俺は、ユイに会うんだっ!」
アンバーは、ハヤトの名前を叫んだ。
竜巻は、里全体を包み込んだ。




