その11
その場にいる全員が、目をみはった。
さっきまで屋敷だった世界が、大きく開けている。
やはり秋の忍び里に酷似したもので、長屋や武家屋敷、遠目には山も見える。
そしてご神刀を突き刺したアンバーは、明らかに先ほどまでと様子が変わっていた。
黒ずくめだった衣装は、髪の色と同じ、紫色の屈強な鎧のようなものに変化し、束ねられていた髪は不自然なほど伸び、彼女の力を誇示するかのように、ゆらゆらと揺れていた。
そしてその瞳は、真っ赤に染まっていた。
アンバーはそれを確認すると、手をぐっと握った。
「成功だ……。これで私は、魔王と戦える。だがその前に……」
アンバーは、両腰に下がる刀を同時に抜いた。短剣ではなく、先ほどのご神刀に近い、長い太刀である。
「聞き分けの悪いお前らを、全員立てなくする必要がありそうだ」
ハヤトたちは武器を構えた。
“魔力”を練りながら、マヤが言う。
「ハヤト君、あれは……」
「ああ……。原理はわからないが、マヤの『翼』の力と同じだ!」
ロバートが矢をつがえた。
「あんなの、どうせこけおどしだ! 『オーラアロー』!」
アンバーは“魔力”の矢を、剣で軽々と弾く。
彼女は上を見る。すでに無数のエッジが向かってきていた。
「『インフィニティ・エッジ』なの!」
どかどかどか、と激しい音を立てながらルーの「エッジ」が落ちる。
だが、その全てを受けたアンバーには傷一つついていなかった。
彼女は、ロバートとルーをにらみつけた。
「どけ」
瞬間、“魔力”の衝撃波が起こる。ロバートとルーの二人が、はじき飛ばされるようにして屋敷の壁にたたきつけられた。
「マヤ、二人で行くぞ!」
「ええっ! 『ライトニングブースト』!」
マヤとハヤトが地を蹴った。目標への到達が速かったのはマヤである。
「はあああっ!」
マヤは思い切り「紫電」をたたきつける。
アンバーは刀でそれを軽々と受け止めた。
「私の分身と互角以下では、『相応の力』とは呼べぬ」
アンバーは雑に腕をないだ。
それだけで、マヤは猛烈な勢いで上空に飛ばされていった。
その隙をめがけ、ハヤトが「蒼きつるぎ」で攻撃に出る。
「おおおおっ!『蒼刃破斬』!」
アンバーは、もう片方の刀でそれを受けた。
“魔力”の火花が散ると同時に周囲の空間がじわりとゆがみ、地面がはじけた。
それでも、アンバーはまだその場から一歩たりとも動いていない。
「くそっ! 『障壁』か!?」
「ハヤト……残念だが私は、まだそれすらも使っていないぞ」
「なっ……!」
「そうだ。これが、今のお前と魔王軍の使っている力の差だ! お前には、勝てる要素が何一つないッ!」
アンバーが、ようやく動く。
彼女はハヤトの剣をはじくと、一歩踏み込んで強烈な突きを胸に打つ。
「吹き飛べッ!」
ハヤトの鎧は一瞬にして剥がれ、彼の体はきりもみ回転しながら屋敷の方向へと飛ばされた。




