その10
「す、すごい……」
マヤが思わずつぶやいた。
剣を振り切ったハヤトが、爆発で起こった煙から飛び出して着地すると、空に放り出されていたアンバーが力なく、地面にどしゃりと倒れた。
ハヤトも、驚きを隠せなかった。
たった一週間の修行だけで、これほど変わるとは。
確かに言霊を込めることで、今までにないくらい、攻撃がうまく決まった感じがした。
「すごいな、今のがハヤト君の新しい技か。まさか一発で倒しちまうなんてな」
「さすがルーの未来のお婿さんなの!」
ロバートとルーが歩いてきた。
「みんな大丈夫だったみたいですね」
「ああ、ミランダがちょっとばかりやられたみたいだが、すぐに戻って来るだろ」
五人は倒れるアンバーを取り囲んだ。
「アンバーさん。神器を渡してください」
アンバーは、その場に大の字になって言った。
「いいや……ダメだな」
「どうして!」
「わからないのか……? ハヤト、今のお前の技は確かに強力なものだった。だが、私の分身を殺せないくらいでは、ソルテスに勝てる訳がない」
「分身……?」
その時、屋敷の壁が爆発し、二人の人影が現れた。
片方は先ほどアンバーにやられたはずロックだった。必死に忍刀を振るっている。
それをパリーしながら戦っていたのは、アンバーその人であった。
彼女の周りには、小さな勾玉、装飾の施された鉛色の鏡が浮かんでおり、腰には精霊のご神刀が下げられていた。
マヤが驚きの声を上げる。
「そんな! じゃあ今まで戦っていたのは……」
全員が、囲っていたアンバーを見る。
アンバーの「分身」だったものは、跡形もなく消えていた。
本物のアンバーとロックは、またしても超スピードで戦いを繰り広げていた。
しかし、今回は多少、ロックが劣性だった。
「ちいっ……!」
「時間稼ぎは終わった。お前は用済みだ」
アンバーが精霊のご神刀を抜くと、“魔力”の衝撃が起こり、ロックは吹き飛ばされた。
アンバーはその場で立ち止まり、ハヤトを見据えて言った。
「本番はここからだ、『蒼きつるぎ』の勇者! 私はもう、お前をこれ以上進ませないッ!」
勾玉と鏡が、アンバーの体へと吸収される。同時に、紅い色のオーラが彼女の体を包み込み、胸の部分に輝くひびが入った。
「あ、あれは……!?」
ハヤトとマヤが反応する。
見覚えがある。
「ザイド・アトランティック」号の一件で、マヤが見せたものと同じだ。
アンバーはご神刀を逆手に持ちかえると、雄叫びと共に、それを自分の胸に突き刺した。
「『ブレイク』ッ!」
アンバーの「亀裂」が、はじけとんだ。




