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イモータル・マインド  作者: んきゅ
第13話「オータムの決闘」
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その9

 ハヤトは、「蒼きつるぎ」を地面に突き刺してマヤに言った。


「……あれをやる。しばらく頼めるか?」


 マヤは黙って頷くと、一振りの日本刀を取り出した。

 三人目のアンバーは目を鋭くさせる。


「『紫電しでん』か……」


 修行の際、日課の素振りをしていたマヤを見て、フローラは開口一番言った。


「嬢ちゃん。あなたは向いてないね」


 マヤはすぐに反論しようとしたが、フローラはそれを手で制した。


「剣術の話じゃないよ。その剣……そのものがさ」


 マヤは、愛用の両刃の剣を見て言った。


「どういうことですか?」

「踏み込みの入り方といい、振り下ろす際の体の動かし方といい、その剣とあんたの体が合っていないんだ。不思議なことだがね、あんたの剣筋は、私ら忍のそれとよく似ている」


 フローラはマヤに待っているよう伝えると、部屋に入って一振りの日本刀を持ってきた。


「こいつを使いな」

「不思議な形の剣ですね。少し反っている……?」


 言いつつも、マヤは鞘を抜く。

 波打った刃紋に、細身の刃。

 マヤは不思議と、それに懐かしさを覚えた。

 一度、踏みこんで空を斬る。

 マヤは驚いた様子で、もう一度剣を振る。


「なんだろう……体に、しっくりくる」


 彼女は気づけば、素振りに夢中になっていた。


「そいつの銘は『紫電』という。長らく使い手たる人間が現れなかったが……嬢ちゃんにあげるよ。あんた、それを振ってりゃ、蒼き“波動”の部分以外は、ハヤトに勝てるかもしれないね。そうそう、おもしろい使い方もあるんだ。たしか嬢ちゃんは、雷遁が得意だったね」


 マヤは「紫電」をアンバーに向けると、“魔力”を剣に集め始めた。


「アンバーさん……。あなたは船での戦いの時に言いましたね。『魔王軍と戦うのなら、相応の力を得ろ』と。私は、もっともっと強くなる。ハヤト君を助けるために、そして、兄に会うために……! あなたには、聞きたいことが山ほどあるっ!」


 マヤが足を踏み出す。アンバーは剣を受け止めるために双剣を重ね合わせる。

 走るマヤの足下から、ばちばちと青白い電撃がほとばしり、「紫電」の刀身が輝いた。


「『ライトニングブースト』ッ!」


 マヤの体の周囲に“魔力”の火花が散り、一気に加速する。

 アンバーはそれを見て防御を解き、クナイを投げ込んだ。

 マヤは「紫電」を振るい、クナイを弾きながらアンバーの眼前まで迫る。

 二人は剣を打ちつけあった。


「風遁の次は雷遁か。おんばあもこの短期間で、まったくよくやってくれる」

「余裕ぶってる時間なんて……与えない!」


 マヤは体を反転させると、猛烈な勢いで斬撃を振るい始めた。アンバーは両手の剣で、それを全て防御する。


 もはやハヤトには、二人の姿は目で追えない。

 だが、彼は気にせず、地面の「蒼きつるぎ」の側面に手を置いた。


 蒼き“魔力”が、彼を包み込む。


「『蒼きつるぎ』よ、力を貸せ……」


 ハヤトは目を閉じる。



「言霊を込めな」


 術の修行をしている際、フローラはそう言った。ハヤトが首をかしげていると、彼女は驚いた様子だった。


「もしかして、知らないのかい?」

「え、ええ……」

「術を使う際には、言霊を込めるのさ。仲間が術を使うところを見たことがあるかい? だったらわかるはずだ」


 そういえば、今まであまり疑問を感じてこなかったが、この世界の人々は、たいていの場合、魔法の名前を呼ぶ。


「フローラさん。でもそれって、戦う上で不利になるんじゃないですか?」

「もちろん、相手に何をするか伝える訳だからね。私ら忍は、属性まで宣言してしまうから、相手の勘がいいと、見切られてしまうだろう」


 ハヤトはますます混乱した。


 意味がない。


 フローラはその表情から察したようだった。


「意味はある。自分の“波動”に問いかけて決意を口にし、それを相手に伝達する。“波動”の極意は両者の認識にある。逆説的だが、相手にどんな術か聞かせてやったほうが、威力が上がるのさ」

「言わない場合はどうなるんですか?」

「もちろん威力は落ちるが、宣言しないで戦ったほうがいい場合もあるからね。それでも術について端的にわかるようにしてやれば、威力は増すよ。だから、言うんだ。“波動”を言霊に変え、力にしなさい」



 ハヤトは、目を開いた。

 わずかだが、激しく戦うアンバーとマヤの二人が、見えるようになった。

 新しい武器と戦闘方法を手に入れたマヤは、思いのほか善戦していた。

 だが、確実に消耗している。

 やらなければ。


 彼は剣を引き抜いた。


「いっくぞおおおおっ!」


 ハヤトの声に反応し、マヤが“魔力”を解放する。


「『ショック』!」


 アンバーは電撃をかわして空を舞ったが、そこにハヤトが狙いをつけていた。

 彼は、ありったけの力を込めて、アンバーに斬りかかった。


「『蒼刃破斬そうじんはざん』ッ!」


 強大な“魔力”の振動が起こり、視界がぐにゃりと曲がる。


 空間を包むほどの“魔力”の大爆発が起こった。

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