その8
ミランダとコリンは、悲痛な表情で膝をつくシェリルを守りながらアンバーの分身と戦う。
「オラァッ!」
ミランダが突きを連射するが、アンバーはそれ以上の速さでその場を動きまわり、彼女を翻弄した。
時折、ナイフを持ったコリンが死角をついて攻撃するも、それすら読まれている様子だった。
コリンは苛ついた様子で舌打ちした。
「やみくもに攻撃しないで。邪魔なだけ」
「うるせえぞ、チビ……! あんたは黙ってアタシにあわせてればいいんだよッ!」
ミランダは踏みこんでさらに攻撃を続けようとするが、アンバーはその一瞬の隙をつき、懐に入る。
「『雷遁・槍』」
アンバーの掌底打ちと共に、ばしんと“魔力”がはじけ、ミランダの体じゅうに電撃が走る。彼女は体をはねさせ、その場に倒れ込んだが、なんとかこらえ、顔を上げた。
「おおおっ!」
ミランダは必死にアンバーにつかみかかるが、アンバーは表情を変えずに“魔力”を練る。
「『雷遁・剣』」
さらに強力な電撃がミランダを襲う。体からぶすぶすと煙をあげながら、ミランダは地面に倒れた。
だが、その手はなおアンバーを掴んだままだった。そこをコリンが狙う。
アンバーは瞬時にミランダの手を弾いて短剣を手に取り、コリンのナイフを受け止める。
「君たち二人は、術を使えないのか。それでよく私に挑もうと思ったものだな」
「私、そういうのは嫌いなの。魔法はシェリルに全部任せてる。……だから、私にはあの子が必要なの」
近くで顔を伏せていたシェリルが、はっとする。
「クソピンク……あんた案外、悪い奴じゃないのかもな」
意識を取り戻したミランダが、アンバーの両肩を腕でホールドした。
アンバーは術を使おうとするが、ミランダはさらに強い力で彼女を拘束する。
そして、叫んだ。
「おい、デカブツ女!」
シェリルが思わずきょとんとする。
「で、デカブツ……」
「そうだよ。そのでかい乳と尻を明らかに持て余している、残念なあんただ。お前がこいつをやれ」
シェリルは後ずさりする。
「わ、私は……」
「ホントにうざってえ奴だな。今の状況、見てみろよ。あんたのあに様とやらは、この女にぶっとばされたぞ。悔しくないのかよ」
「う……」
「なんとか言いやがれ、たかが男相手におびえやがって、ほんとに気に食わねえ。アタシは女だぞ。だからはっきりしゃべれ。こいつを取り戻したいんだろ? だったら、お前がやるんだよ! ぶっとばして、お前は間違ってるって、わからせてやれ! じゃねえと、何にも戻ってきやしねえぞッ!」
シェリルは明らかに混乱している。
さすがに、アンバーもそれ以上は待たなかった。ミランダの体に再び電撃が走る。
彼女はミランダの額に手を当てた。
「『風遁・羅刹陣』」
ミランダの体が忍者屋敷に向けて吹っ飛んでゆく。
コリンが、その一瞬の硬直を再び狙い、ナイフを投げる。
アンバーは空踏みでそれをよけたが、上空から大量の「エッジ」が降ってきた。
アンバーの分身は煙になって姿を消した。
「やったの、二連勝!」
「大丈夫か!?」
ご満悦のルーが、ロバートと共にその場にやってきた。
コリンが息をつく。
「シェリル。あんまり同調したくないけど……あの女の言うとおり、だと思う。今は戦わなきゃ、何も戻ってこない」
シェリルはせっぱ詰まった表情で、ミランダが吹き飛ばされた屋敷へと走っていった。コリンもそれに続く。




