その6
ハヤトは剣を振り切って、アンバーを弾き飛ばす。アンバーは一回転して着地したが、すでにハヤトが迫ってきていた。
ハヤトは勢いをつけて剣をなぐ。アンバーはしゃがみ込んでそれをかわしながら彼の脚をつかみ、彼を上空へと投げ飛ばす。
彼女はすでに忍術を使うため、もう片方の手で“波動”を練っている。
「『氷遁・氷柱針』!」
鋭い氷柱が何本も精製され、ハヤトへとめがけて飛ぶ。
しかし彼は、宙を蹴って横っ飛びし、それをよけた。ほぼ同時に「翼」をはやしたマヤが彼をキャッチして遠目に着地した。
アンバーは舌打ちした。
「おんばあから『空踏み』を習ったか。だが、それで勝てると思っているのなら、勘違いもいいところだぞ」
空踏み。空中に極小の「ウォール」を精製し、宙を蹴る技である。
夏の遺跡でジョバンニが見せた、空を歩く技と同様の技術を、ハヤトはわずか数歩だけではあるものの修得していた。
「あんたこそ、よそ見はよくないぜ!」
ロバートが背後から矢を発射する。
アンバーはそれを見ることすらせず体をずらし、回避した。
だが、ロバートはそれを見て笑った。
「『グローエッジ』なの」
ブーメラン状の魔法の刃が、すでにアンバーの移動地点に向けて向かっていた。アンバーは空を踏み、体をひらめかせる。
だが、ルーの「グローエッジ」はその場で形を変え、方向転換しながら三つに分かれ、三方向から再び彼女を襲った。
アンバーはけだるげに“波動”を練った。
「『火遁・陽炎』」
「グローエッジ」がアンバーの体を通過する。
アンバーは着地すると、息をついた。
「貴様ら、それで強くなったつもりか? ハヤト以外の連中に用はない。『火遁・幻影陣』」
アンバーの姿が三つに分身した。
ルーが驚きの声を上げる。
「『グローエッジ』のまねなの!」
「真似をしたのは君のほうだ。付け焼き刃の忍術もどきで、私に勝てると思うな……!」
ルーとロバートに向け、一人が走っていく。
もう一人のアンバーは、シェリルに向かって歩いていく。
「私の元から消えないというのなら、お前は私が消す」
「あ、あね様……」
コリンがシェリルを守るように道をふさいだ。
「ふざけないで。この旅には、シェリルの力が必要なの。あなたに勝手なことはさせない」
「へっ……」
彼女に続き、神妙な面もちのミランダが槍を構えて現れた。
「……クソピンク、たまにはいいこと言うじゃねえか」
「あなた、この間から様子がおかしいけれど。頼むから足を引っ張らないでね」
「言ってろよ……」
二人はアンバーと対峙する。
分身したアンバーの最後の一人は、ハヤトとマヤに向かって言った。
「戦うというのなら、私はお前を殺すぞ、ハヤト」
「上等だっ!」
ハヤトは剣を正眼に構える。
こうして、三人のアンバーと勇者一行の戦いが始まった。