その5
「ここは……」
玉に取り込まれたハヤトが見たのは、大きな屋敷だった。どうやらその中庭の部分にいるようだ。フローラ婆のそれによく似ていたが、細部が違って見える。
「どうやら、結界の中みたいね。あの屋敷のモンスターの時と一緒よ」
マヤが辺りを見回しながら言う。
ロックがつぶやく。
「だとすればこれは、アンバーが作った世界だとでも言うのか」
「来たか」
返答が、屋根の上から聞こえてきた。
屋根に立つアンバー・メイリッジが、苛ついた表情で彼らを見下ろしていた。
ロックが猛る。
「アンバー! きさま、一体どういうつもりだ!」
アンバーは応えず、ハヤトを見る。
「ハヤトが、蒼き“波動”を使ったのだな。それにしても早すぎるが」
「フローラさんから、力の使い方を教わったんです。アンバーさん、俺たちは聖域に行かなきゃならないんです。秋の精霊と契約させてください」
「まったく、よけいなことを……ハヤトよ、唐突な提案になるが……どうか旅をここでやめてはくれないか」
「い、いきなり何を……?」
「ソルテスは、私が倒す」
アンバーの目は本気だった。
「私は神器を用いて力を得た。だから『蒼きつるぎ』の力を、これ以上使わないでくれ。このままでは、同じことの繰り返しに……」
「答えろ、アンバー!」
言い終わる前に、ロックが抜刀してアンバーに襲いかかった。
しかし、彼女は人差し指と中指の間でそれをつかみ、手首をひねらせた。
直後、ロックの体が、上空へと吹き飛ばされる。
「なにっ!?」
「……これ以上、私にその顔を見せるな」
アンバーは飛び跳ねて彼の頭をつかみ、投げ飛ばした。
彼の体ははるか先の障壁の壁にぶつかり、地面へと落ちた。
全員が戦闘体勢に入る。
シェリルが一歩前に出た。
「あね様! あなたは一体、何を抱え込んでいるというのです! みんなで……みんなで協力すれば、解決できることではないのですか!?」
「説明してどうにかなる問題ではない」
「でも! 私はもう、恋人同士だったあに様とあね様が戦うのは……見たくありません!」
アンバーはそれを聞いて、表情を変えた。
彼女は、シェリルよりも悲しげに言った。
「……頼むからそれ以上、何も言わないでくれ」
「い、嫌です……! 私はもう耐えられません。あね様、どうか里に戻ってきてください」
「やめろ……! それ以上言えば殺す……!」
「私も、忍術はてんでダメだったけど、また里に戻ります。それであね様に教わって、あに様にしかられて……!」
「やめろおおおっ!」
アンバーは叫び声を上げながらシェリルに襲いかかる。
ハヤトは判断よく飛び出すと、瞬時に「蒼きつるぎ」を呼び出し、シェリルを守るようにしてアンバーの攻撃を受け止めた。
「アンバーさん……! あなたの言っていることはよくわからないけど……俺は、俺たちは、進んで行かなきゃならない! 俺は、ソルテスに会わなきゃならないんだっ! その邪魔をするというのなら……あなたを倒す!」
「力の差は、この間見せてやったはずだ! お前には何もできはしない」
「だったら……」
ハヤトは、目をかっと開いた。
「今から覆すッ!」