その3
「まったく、信じられん……」
ロックは木の枝を飛び移りながら、思わずつぶやいた。
すぐ後ろについて枝を飛ぶシェリルが反応した。
「あに様、神器のことでしょうか」
ロックはシェリルをひとにらみしてから、前を向いた。
「お前もよく知っているだろう。先祖代々伝わるあの神器を守ることが、我ら秋の忍の勤めなのだ。それをどうして、おんばあ様はああも易々と……」
「……相手が、あね様だったからではないでしょうか」
「黙れ、奴は今や裏切り者なのだぞ」
シェリルは自分の掌に浮かぶ“魔力”の玉を見ながら、悲しげに言う。
「そんな言い方、しないでください……。あに様とあね様が戦う姿なんて、私はもう見たくありません」
「だったら、ついてくるんじゃない。里を出たお前には、もう何も関係のない話だ」
シェリルはうつむいたが、そのまま言った。
「そうかもしれません。でも今の私なら、魔法であに様の手伝いができます。あね様の“波動”は、私がなんとしても見つけだしてみせます」
ロックは応えない。
あれから秋の忍たちは、アンバーの行方を追って山中を駆けて回っていた。「才能がない」とロックに叱咤されたシェリルも、移動忍術だけはなんとか使うことができるため、単独行動をとる彼に勝手について行く形で探索を行っていた。
アンバーほどの忍ならば、罠を抜けてこのザイド・オータムを出ることは容易いだろう。
それでも彼らが何周もこの地帯を駆けていることには理由があった。
「お頭」
別の忍が彼のすぐ近くの枝に現れた。
「どうだ、首尾は」
「ダメです、やはり見つかりません。しかし山に変化はありませんから、間違いなく、奴はまだこのオータムの中にいます」
シェリルはつばを飲む。
秋の精霊を宿す神器である刀、鏡、勾玉。このみっつが外に持ち出されると、加護がなくなり山が朽ち果て、里は滅びると言われている。これこそが忍たちが神器を守る理由である。
しかし、だからこそ忍たちは混乱していた。
アンバーは、ここを抜け出さずに一体何をしようというのだろうか。
「とにかく、警備を続けろ。四班には西部地区に行くように伝えてくれ」
ロックが指示を入れたその時、シェリルの玉が少しばかり光った。
「あね様の“波動”……! 見つけました!」
シェリルが飛び出してそちらへと向かう。ロックもそれに続く。