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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
(新)第Ⅰ部 大衆教育社会の欠陥教師―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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(新)第5話 私は、黙っている~第二節~

 今日の仕事も終わる頃には、職員室での私が見られる目が変化しつつあった。今日のことで、昼休みに御庭先生が私に激励をくれたのだ。おかげで、教師内での私の株はそれなりに上がっていた。

 それに互理の罵声が聞こえたとき、また記憶を思い出すという僥倖にも巡り合えた。それは鮮明で、時間も長い。これで少なくとも四つ以上の記憶らしい記憶を思い出したことになる。

 私は帰りの準備を一旦やめて回転椅子に腰掛けつつ、その記憶の回想を始めた。学校を出てからも、やることがいくつかあるから、まだ鮮明なうちに思い出しておきたかった。

 脳内の映写機が、回転を始める。

 その部屋は、大きさでいえば、教室の一・五倍ほどの大きさ。長方形の部屋だった。そこには三十人程度の険しい顔をした者たちが前から順に座っている。その格好はまばらだ。スーツ姿の者もいれば、作業服の者もいる。私は机郡の中央付近に座っていた。隣に座る大柄の男は、私の先輩だと思う。


「いいか、債権者集会なんて、お前にはいい勉強の機会だからな。しっかり学んどけ」


 確かに手元のしおりには、そのような旨が書かれている。その中を見ると、本日の予定等とともに、会社の資産の一覧、バランスシートなどが打ち込まれた資料が添付されている。

 やがて開始時間となる。ふと後ろを見ると、いかつい白スーツの中年男と、余裕ぶった表情の灰色スーツが入ってきて、私たちの一つ後ろの席に着いた。いずれも、がっちりした堂々たる体格である。


「あほ社長、さっさと出てこい!」

「こらあ、いつまで待たせるんや! こっちも忙しいんや!!」


 周りは殺気立っている。やがて扉が開いた。向かい中央の長机に、社長と、その弁護士が座った。やがて手元の資料についての説明を始める。


「当社は……資産の三〇倍ほどの負債がありまして……しかしながら、民事更生法で……」


 要するに倒産したものの、会社を再生させたいという意思を表明していた。ふと真後ろから声が聞こえる。その声の主は灰色スーツの方だった。


「かませ」


 私が一瞬「?」となった、そのときである。

 バーン!! 机を叩いて、後ろの白スーツが立ち上がったのだ。


「再生だかなんだか知らねえけどな、現実にこっちは現金を失ってんだよ! 帳簿をいじくってなんとかしようってんだろ。圧縮もクソもあるか、勝手なこと抜かすな!! おい、そこの弁護士ふんぞり返ってんじゃねえ!! ふざけんな!!」


 周りが、シーンとなる。ガタッという音とともに、また別の人間が立ち上がった。社長席の近くである。やはり表情は険しい。


「どこのヤクザ屋さんかは知りませんけどね、静かにしててもらえませんか? 金はこの会社にはないんですから、時間をかけてゆっくりと回収しましょう。ほら皆さんも、その方がいいでしょ」


 会場の人々はうんうん、といった具合に頷く動作をしている。その一方で、隣の先輩は微動だにしていない。私たちの属する組織が貸したであろう負債は大丈夫なのだろうか?

 呼びかけを行った男性の方に、ヤクザと思しき灰色スーツが歩いていく。やがて、その前で立ち止まって対峙した。社長とその弁護士は、明らかに怯えた様子である。


「金融屋が、そんなこといってお前、この会社を食い物にするつもりだな。ならこっちにも考えがあるぞ。いいか、金の問題ってだけじゃないんだぜ?  お前らと違ってな、俺達はメンツがそのまま生活に繋がってんだよ! いいぜ。今、俺の持ってる二千万分の不渡り手形、ここで破いてやる。その代わり、そこでガタガタ震えてる社長と、その一族には遠洋漁業船に乗ってもらう! 手配と乗船は一日で終わらせるからなぁ!!」


 その怒号を聞いて、呼びかけた男性は静かに座り込んだ。出席者の説得は諦めたようである。灰色スーツは続ける。


「よし、わかったようだな。社長、あとで事務所におじゃまするぜ」


 灰色スーツは、にやりと笑った。ここで私の先輩が立ち上がる。灰色スーツへと一直線に向かっていく。何か言ったようだが、後ろ向きだったので良く聞こえなかった。

 

「おう、○○屋さんか。あんたらとこは大丈夫だろ、余裕ぶっこいてたらいいって」

「……!!」

「……!?」


 そこから先の会話は記憶が途切れている。先輩らしき男がヤクザと口論をやり合っているような姿は確認できたのだが。

 (第5話、終)

毎週、金曜日から更新です。それでは、ゆっくりお読みください(。。)...

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