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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅳ部 本物の大人になるために―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第30話 追憶~第一節~

 女は弱い男を支配するよりも、強い男に支配されることを望む。



8/6日(土)夜

 まとわりつく、タキプレウスの白皙はくせきたる細腕。それは異様な触感であった。人の手であるのは一目瞭然なのだが、あたかも獣毛のような異質でもって、私の触覚に訴えかける。


「ちょっと、誰?」


 調歌が近づいてくる。言い訳を考える最中に、さっきの雰囲気の理由を悟った。

 タキプレウスは、自分の存在を消すことができる。ただし、それには効果範囲があるらしいことまで分かっている。つまり、さっきは私からタキを認識することは出来なかったが、向こうから見れば彼女の存在はくっきりだったというわけだ。


「ああ、調歌。これはな」

「いぬ先生、約束は?」

「賢先生……」


 苹樹ひょうじゅまでもが、訝しげな視線を投げてくるのを見て、忙しなく仕事を続ける脳回路に、さらなる拍車がかかる。まずいぞ、剣呑な雰囲気だ。どうしようもない。理由なんて、こんな短い時間で考えられるはずもない。

 とかく相手の信頼を得るには、論理ではなく態度による。少なくとも、日常的コミュニケーションにおいてはそうだ。そうだろう、そうに違いない!

 ……自分でも分かっている。混乱していることぐらい。


「関係者、うん、知り合いだよ、彼女は。可愛いだろ、親戚なんだ」

「え、聞いてないですよ。乾先生、今日はわたしたちと回るんでしょ?」


 律子は、唇を結びながら、搾り出すような呪詛を述べるのだった。結果的に、女を裏切ると、こんな雰囲気になってしまうのだな。


「いや、まさかこんなに早く来るとは思ってなかったんだ。自由行動のときに、ゆっくり相手をしようと思ってたんだ。おい、庚子こうこ。挨拶しような」

 タキは、私が、彼女との立会いに遭遇された時のために考えておいた名前を呼ばれると、素早く反応して、かしこまるようにちょこんとお辞儀した。私の頭の中を読めるのだし、この反応速度は当然か。


「始めまして。『こうこ』と言います。小学5年生です。宜しくお願いします」

「こ、こちらこそ。九里村です」


 律子まで含めて、夢にも接したことのない美しさをもつ少女に、招かれざる客の印象をぶつける中、


「わたし、音恋苹樹ねこいひょうじゅっていうんだ。よろしくね」


 さすが、わが教え子だけある。突発的な事態にも人との関係を大事にする。政治家には必須なコミュ力。


「ウチ、調歌ちょうか部井調歌とりいちょうか

「か、加目田彩季かめださきです」


 もう少し時間があれば、みんな満足な自己紹介ができただろうか。というのも、調歌が紹介を始めた時点で、タキは、いや庚子こうこは、私の身体を揺さぶってまなかったから。

 かくいう私も、タキプレウスの、少女としての完璧な美については認めねばならない。ピ○チレモンとかいう、小中学生御用達の読者モデルですら庚子こうこの美貌には叶うまい。

 無造作なロングをささっと巻いて、かんざしで刺し貫くようにまとめた庚子こうこの髪の端が、肌蹴た私の胸元に当たると、何とも言えないくすぐったさが湧き昇ってくる。

 今の私は、彼女らとの約束を反故にして、庚子こうこと祭りを見て回ろうという、そういう悪魔のような考えを、考えている。 

毎週、金曜日から更新です。注釈文は最終節にあります。それでは、ゆっくりお読みください(。。)...

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