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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅳ部 本物の大人になるために―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第28話 動学ゲーム~第三節~

恐れ入りますが、今週は以上です(。。)...


来週と再来週は、合計4節を投稿します(。。)...

 燦々(さんさん)と照りつける太陽に、汗を滲ませて校長室まで歩いていく。職員室に入ると空調の心地よい風が吹き付けてきた。


「ああ~、涼しい! 田奴先生、ほらほら!」

「あなた、子どもじゃないんですよ。僕はしません」


 空調に手を翳(かざ)す私を尻目に、足早に職員室へと入る田奴。私も、すぐに追っていく。


「失礼します」


 簡易的な木製の扉を開き、中に入ると、校長と教頭が立っている。


「で、どうだった?」


 淡々とした様子で問いかける教頭。


「はい、成功しました。詳細は後で詰める予定ですが、来年度より順次、支所の方に清掃を移行していく予定です」


 同じく、淡々とあまり抑揚もなく答える田奴。やがて校長が、こちらに一歩近づいてくる。その面持には複雑な色が見える。なんとも、渋い表情とでも言えばいいのか。


「あのですね……数分前に電話があったんだが。単刀直入に言うと、清掃の件はこれまで通りのままにして欲しい」


 未知の衝動は私の聴覚を貫いた。片頬が引き釣る感触とともに、言い様のない切迫感が襲ってくる。田奴の表情など怖ろしくって見る勇気もなかった。

 私たちが問う前に、教頭の口が開く。


「さっきなあ、音恋議員から電話があったんだよ。鴨支所の方に話を持ち込んだそうだけど、今回は自分の顔を立ててくれと。もし次に似たようなことがあれば、責任もって直接話し合いに参加してくれるそうだ、音恋議員が。 議員の口からそこまで言われるとなあ。2人とも、本当にすまない」


 交渉終了の直後、勇一さんが受話器を取ったのは間違いなかった。そうでなければ、高々、十数分の間でここまで事が運ぶはずもない。

 次だと? 体のいい口実に過ぎない。市会議員がこんな小さな問題に口出しする理由はない。もし次回があったとしても、直接、音恋議員が出てくることはないだろう。何らかの理由をつけて本庁の財政課員でも派遣するに違いない。


「……」


 私は、何も言えなかった。「はい」と答える気概すらなかった。努力が徒労に終わるというテンプレじみた展開の不甲斐なさを感覚している。


「分かりました……すいません、ご迷惑かけて」

「いやいや、ようやったよ」


 等しい拍子で、フォローを入れる校長と踵を返す田奴。私も続いて、そこから出て行った。僅かな開扉の合間に、思う。

 清掃費用としては今後の年間総額でも10万円いくかいかないか、といったところ。支所にとっては、そんな端金でも予算を逼迫するに違いなかった。だが何より、慣習的な要素が大きかったのだろう。

 役所というのは、変化を嫌う。どんな制度でも先人が積み上げ、一応は均衡させてきた仕組みだ。それを壊せば不均衡に陥るやもしれない。それは論述的な合理主義では予測不可能である。

 結果的に支所長のメンツを潰すような行為になったのも問題だろう。苦虫を噛み潰したような頬面の支所長を見て、勇一さんは妻のコネを使うという苦渋の決断を下したに違いなかった。

 夕闇。そろそろ蛍光灯を点(つ)けねばならない時間帯である。

田奴は残業中であった。私といえば、帰り際に声を掛けようとして、だが掛け辛く、何となく職場に残っている。私たちの他に教師は居ない。なかなか、やり辛くはあるのだが、いつまで好機を図っていても仕方がない。


「田奴先生。すいませ……」

「謝る必要はありません。謝るのはこちらです」


 机から立(りっ)しつつの謝罪。次いで沈黙。およそ1分程度だったろうか。


「乾先生」

「はい」

「実はね、僕はずっと、この仕事をやりたいと思ってたんです。恥ずかしながら、僕も金網に挟まれて怪我をしたことがあります。でもね、外部交渉なんて教師の仕事じゃないから。管理職に上がるまでは、そういう仕事はしないと自分で勝手に決め付けていました。線引きしてたんです、勝手に」


 意外であった。「田奴先生でも尻込みすることがある!」という意味で、鴨中学校の教師陣にとって予想外の回答であった。


「でも、乾先生がそれをやるといった。ここでも僕は消極的な対応に出ました。あなたを主(しゅ)にして責任を逃れようとしたのです。それが今回の僕の罪です。ところで最もいけなかったのは、あちらのメンツを潰したことですね。支所側には、こんなしょうもないことで議員級のコネを消費させて。どちらにも申し訳ないことをしました。乾先生、すいません」


 私は、何も言えなかった。ただただ沈んでいく空間ではあったが、以前と異なる関係へと変化した私たちならば言えることがある。


「田奴先生……」


 猫背気味に立ち竦(すく)む田奴の右肩に、左腕を通す。スクラムのような格好だ。


「今日、飲みに行きましょうよ」


 職員室に掛かる時計は何秒間を鏤刻したろうか。こういう情況は時間を長く感じる。


「いいですよ」


 私は、田奴の表情を覗かなかった。

毎週、金曜日から日曜日まで更新です。それでは、ゆっくりお読みください(。。)...

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