プロローグ
……人を創るのは、何だと思う?
ちょっと待ってほしい、人間ごときの視界で分かる話をしたいんじゃない。それについて、分かったつもりになっていないだろうか? ここで論じたいのは、ある人間に対して、その深くで影響を与えて続けているような、そう。
本質、とか言われるものだ。人間であり、生ある限りはそこに存在を続ける人生の質感と言い換えてもいい。それを形作るものは、いったい何だろうか?
私が最も憎いと思っていた敵は、このように答えていた。言っておくが、一字一句間違ってはいない。
「自分の限界に挑戦を続ける。そして、どれほどの努力を自分に蓄積してきたか。その積み重ねが人間を創る」
なんにもわかっていないのだ。私のライバルだけあって。
私の妻となる予定だった女の答えは、なかなかいいところまで迫っていたと思う。繰り返すが、一字一句間違ってはいない。
「素質だと思う。生まれ持ったそれは、死ぬまでその人を縛り続ける。プラスに働くときは祝福なんだけど、そうでないときは呪いとして扱われるの。大抵は後者なんだけど」
惜しい。だが、いいところまでいっている。この女は人生についての十分な理解を得ていると思う。私の想い人だけあって。
だがやはり、私の大切な知り合いたちは分かっていないのだ。完全には。妻となるはずだった女は、いいところまでいっているのだが。
人はみな誤解しているのだ。自らの意思というものについて。
それを信じてもらうためには、私が些細な幸せに包まれながらも、苦痛ばかりの人生を歩んできたことを証明せねばならない。
あの日から、私の人生は何ひとつうまくいっていないのだ。私の人生の大切な欠片たちは失われ、もう元には戻らないのだから。
これを見て欲しい。ジャージ姿の男が、スチール机に突っ伏しているだろう? その見た目は、お世辞にも人に良い印象を与えるとは言い難い。頭の一部が禿げ上がっているし、着ているジャージだってボロボロだ。
だが何より、こいつの人格が草臥れている。
この男について、仕事が出来なさそうとか、結婚はしていないだろうとか、そもそも女と付き合えそうにない、とか想像する者は多くいるだろう。
すべて正解である。
だが、この男はもっと特別な性質を有している。なにしろ、この時すでに誰も聞いたことのない症状に蝕まれているのだから。
男は目覚める。時刻は朝8時25分。
いつ出勤したのか? そんなことはどうでもいい。始業直前まで堂々と眠っているからして、その仕事に大して興味はないのだろう。
ようやく、彼はだるそうに身体を起こして、職場の仲間たちが既に仕事の準備を終えていることを察知するのだった。
教科書と筆記用具を持つ者。資料の入った籠を運ぶ者。大きな三角定規を脇に抱える者もいる。肝心の彼はといえば、未だ何をする様子でもない。
違う、出来ないのだ。何故なら、今の彼には記憶がないのだから。
※重要なお知らせ
(旧)第Ⅰ部と(旧)第Ⅱ部は削除しております。恐縮ですが、初めて来られた方におかれましては、目次ページを下方向にスクロールして下さい。第Ⅲ部と第四部の後に、(新)第Ⅰ部と(新)第Ⅱ部があります。
作者多忙のため、4月11日から7月後半まで、新しく作成した第Ⅰ部および第Ⅱ部でもって更新させて頂きました(詳しくは、活動報告をご覧下さい)。
なお、運営としては小説の削除はなるべく行わないで欲しい(http://syosetu.com/help/list/categoriid/e5b08fe8aaace7aea1e79086/#help1)とのことですので、このような形で旧版を残させて頂きます。分かりにくい小説表示にはなりますが、どうかご了承ください。
おそれいりますが、これは処女作であり、あまりにも読みにくい箇所があります。特に中盤がひどいです。後半になると、だいぶマシになります。