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俺の嫁さんは本当にサキュバスだった

体調不良により投稿が遅れました。


ペツォッタイト編です。嫁さんが大波乱を起こすので、私は執筆中思わず笑いましたけどどうでしょうか?皆さんも楽しめたら幸いです。


誤字修正しました。

更なる修正とジュエルイーターの大きさについて追記しました。

本を開いた者の全員に何の種族か注釈を追加。例:アレックス→アレックス(オークの王)

 俺は確かに【ペツォッタイト】飛んだはずだった。


「ん、ここは…?トオヤ様は……?」

 目の前には【ユークレース】で別れたはずのリーナが目の前にいる。つまりはここは【ユークレース】で俺が女になってしまったか、【ペツォッタイト】だがリーナが付いて来てしまったか、はたまた完全別世界のどれかだな。俺はとりあえず念のため確認をする。

「うーん、俺は女になっているよな」

 ムニムニと自分の胸を揉むがちゃんと感触も有る。失礼ながらもリーナより豊満である自分のボディを丹念なく調べたがどう見ても女になっている。気付けばリーナが不思議そうな顔で俺を見ていた。いきなり目の前で自分の体触りだしたら不思議がるか。

「なあ、俺って今女だよな?」

「え?ええ、どう見ても女ですよ」

 目の前のリーナからも今の俺は女になっていると確証を得た。その後に「えーと…どちら様でしょうか?」とリーナが言っていた気がするが、俺は今それどころではない。

 つまり結局どうなった?と思ったところで馴染みの音が聞こえる。

―ドドドドドッ!

「お前ら、今日も絶好調だな!!」

『ったりめーだろ!リハビリも兼ねてるからな!』

「そういや、お前らこの間の戦で重症だったしな」

『おう!先生が回復魔法を使えるようになって助かったぜ』

『おっ、また他部族がいるぞ!』

「おーし、お前らいくぞー!!」

 砂埃を上げながらお馴染みの連中が来る。「お前らいつも同じこと言ってないか?」と思わず言いたくなったが、もう1つの確証も得られた。少なくてもここは【ペツォッタイト】と言うことは確実だ。つまり原因は分からないが、リーナも一緒にこちらの世界へ来てしまったという訳だろう。


―ドドドドドッ

「お、アキラじゃんか!1ヶ月ぶりだな!」

『おー!彼女か、ってもう1人居るぜ』

『そっちの子も激マブじゃないか!俺達は本当に付いてるぜ!!』

 大きな声を出しながら件のケンタウロス達はやってきた。近づく時には砂埃を立てずにゆっくり近づいてくるところが実にむかつくほどの紳士っぷりだ。

 そしてケンタウロス達が俺達の側までやってきた。

「おっすアキラ、久しぶりだな!見ての通り俺は回復したぜ。お前の調子はどうなんだ?」

「俺はまだあれから1日しか経ってねーから、ちっとも回復しとらん」

 こいつらにとっては1ヶ月前の話かもしれないが、俺にとってはつい昨日のことだ。だから魔力が回復するわけも無い。


 俺とロレオが話し込んでいたためか、他のケンタウロスらはリーナにちょっかいを出していた。

『ヘイ彼女!俺の背中に乗らないかい!!』

 バカ馬がリーナをナンパし始めた。リーナが若干引き気味だけどそれが本来の反応だと思います。

『ちょっと待てよ!俺の背中の方がいいぜ!俺にしとけよ!』

 リーナを取り合う2人のケンタウロス。いつの間にか俺はロレオ専用になっていたらしく、俺の横取りはしないみたいだ。この間はロレオに乗って戦ったしな。

「や、止めてください!!」

『乗るだけでも楽しいぜ!俺が楽しいドライブへ連れてってやるからさ!』

『おい、お前いい加減にしろよ!彼女は俺と一緒に行くんだっての』

 相変わらずこいつらはギャーギャーと騒がしく喧嘩をしている。1ヶ月前のあの戦いで大きな傷を残してしまったが、普段どおりに元気なようで俺はホッとした。

 ケンタウロスらに迷惑したリーナは、急に立ち上がるといきなりケンタウロスを睨みつけた。ついに堪忍袋の緒が切れたのかもしれない。

 しかしリーナは俺の斜め上を行った。

「私の体に触れていいのは夫のトオヤ様だけです!!」

 辺りがシーンと静まり返り、そして俺は鼻血を噴いた。


 俺が2つの世界を行き来している事と、こちらの世界では女の体になってしまうことをリーナに説明した。ロレオたちも聞いているのだが何故か反応が薄い。

「なあ、ロレオ?お前さ、体が女でも中身男を乗せてたってのに冷静だな」

 普通だったら「うわぁ…」とかドン引きするものではないだろうか。

「ん?俺は別に男でもガンガン乗って欲しいぜ!」

 そうでした。この人たちは変態でした。

「あ、あの本当にトオヤ様なんですか?」

 信じられなかったのか、上目遣いでリーナが俺に確認してくる。俺はリーナに向かってこくんと頷く。それよりも俺は先ほどから気になっていたことがある。

「それよりさ、リーナ体大丈夫なのか?今まで寝たきりだっただろ」

 あの寝たきりだったリーナが立ったり座ったりしていたので、そのことにとても驚いてしまった。少なくてもかなりの年月寝たきりだったはずだ。やはり普通の人間とは違う生物なのだろうか。

「えーと、そうですね大丈夫みたいです」

 リーナは軽く動いたり可愛く回ったりしている。うん、下着も黒なのか。また鼻血出そう。

 チャームの影響がだいぶ薄くなっているが、それでも若干あるので俺は鼻血がとても出やすくなっているみたいだった。

「んーまあ、とりあえず回復は成功したみたいだな。きっと長老も喜ぶだろう」

 この世界へ一緒に飛んできたことは分からないが、嬉しそうに可愛く走ったりしているリーナの姿を見ただけで、俺は鼻血をたらりと出しながら胸いっぱいになった。

「おっと、アキラそろそろいいか?もしアキラを見つけたら先生に連れて来いって言われているんだ」

「はいはいっと、じゃあいつもどおりに乗せてもらうけど…リーナはどうする?」

 俺がリーナに声を掛けるとササッと先ほどのケンタウロスが我先にリーナの前に座り込む。相変わらず抜け目がないやつらだ。

「あの、私は―――


―ドドドドドッ!

『なあ、俺達は怒って良いと思うよな!?』

『ああ!俺が許可する!!』

 走りながら隣で騒ぐケンタウロスら。彼らが怒るのもそれはそのはずだ。

―ギュッ

 ロレオに乗っている俺の後ろからリーナがしがみついている。小さいながらも立派に主張しているのは分かるがくっつきすぎじゃないだろうか。それと若干すりすりしてませんか。

 本来2人乗りは重たいかもしれないが、サキュバスが飛べる性質を持っているためリーナはかなり軽いとのこと。イリアが無事に生きていて、これを聞いたらまた羨ましがるんだろうな。


そして俺達は、ザグラスが待つ【スペサタイト王国】へたどり着いた。



  ***



「待っていたよアキラ。それと見慣れない娘だな」

 俺達が図書館に着くとザグラスが歓迎してくれた。ケンタウロス達はどこかへ行ってしまい、今は俺とリーナとロレオの3人だ。ロレオとザグラスに軽くリーナの紹介をして本題に入った。

「本を開いた後、私にも放出魔力が扱えるようになった。ただし詠唱は出来なかった」

「やはり本を開くと魔力が得られるのか……」

 俺は手元の本をジッと見つめる。これを開けたのはアレックス(オークの王)、シーグラルド(インプの王)、ロレオ(ケンタウロスの王)、ザグラス(カラドリウスの司書)、イリア(エルフの王族)、ルウ(ハーピィの王族)、サイカ(ウンディーネのリーダー)、そしてリーナ(アマゾネスの長の娘とインキュバス・サキュバスの王族のハーフ)の8人だ。

「いや、追加で魔力を得られた訳ではない。我々の力は元々封じられているが、その封じられている力が戻ったと言うべきだろう」

「封印か…つまり元々持っている能力に戻ったということなのか」

 参考例が少なくあまり確証は持てないが、オークが元々は巨体であったり、エルフの跳力があんなにあっても違和感はない。ロレオやザグラスが魔法を扱えるようになっても元々使えたものだろうからこちらも違和感も無い。

「だが、何故こちらの世界では魔法詠唱が出来ないんだ?」

「それは分からない。こちらの世界だけではなく【ユークレース】でも何かが欠けていると思われる」

 確かに【ペツォッタイト】で魔法詠唱出来ないのであれば【ユークレース】でも何かが使えない可能性がある。

 しばらく話し合ったが、これと言った答えは見つからなかった。


 俺は話を変えて今度はリーナ――つまり、サキュバスのことについて聞くことにした。

「リーナが俺の本を開いたと同時にこちらの世界へ一緒に飛んできたんだが何か分かるか?」

「なるほど、サキュバスのハーフの娘か…ちょっと待っててくれ」

 ザグラスは本を探しに行くと、手に本を持ちながらすぐに戻ってきた。

「先に聞くがリーナシアはサキュバスについての知識は?」

 ザグラスが声を掛けるとフルフルと首を振った。リーナはリーナが生まれてすぐに父であるインキュバスと死に別れたため、サキュバスについてはほとんど知らないらしい。長老もそこまで詳しくないので、何も分からないと言えるだろう。

「そうか、あまり文献がなく厳しいのだが…サキュバスか。夢魔であるわけだからそれに関する魔法を得意としているようだな」

「そういえば、リーナは【ユークレース】出身だからもしかして魔法詠唱が出来るんじゃないか?」

 俺はふと思ったことを口にした。【ペツォッタイト】の世界に【ユークレース】出身者が訪れたのは今回が初だ。なのでどんな結果になるのか興味が沸いた。

 しかしそんな俺に返ってきた言葉は。

「あの私、魔法を使ったことないからよく分からないです」

 そういえばこの娘ってずっと寝たっきりだったな。



「とりあえずサキュバスの基本である魅了系の魔法から使ってみようか」

 ザグラスの持ってきた本を借りて俺とリーナは特訓することにした。ザグラスは引き続き他に詳しい文献が無いか調べている。ロレオは傍らで見守っている。

「うーん…、詠唱は出来そうにないですね」

「つまりこの世界では誰もが詠唱することだけは無理ってことか。でも放出魔力はあるみたいだな」

 ザグラスが先ほど、放出魔力を簡単に調べられる簡易計測機を持ってきてくれた。脱ぐ必要は無く、この間のは医療用なのでそれとは別のものらしい。ちなみにリーナの潜在的魔力が半端なく高いことも分かった。

「とりあえずこの魔法からやってみるか」

「はい、では行きます!えーと、んーーーっ!」

 詠唱不要な魔法なら普通に使えると思うので、俺は適当に1つの魔法を選んだ。リーナは魔法の使い方が分からないため、思いっきり気合を込めてその魔法を使った。

―キュゥゥゥゥンッッ!

「っっ!!」

―ガタンッ!

 俺は椅子から滑り落ちた。滑り落ちただけじゃなく全身を酷く痙攣させている。あまり言葉にしたくはないが、物凄い快楽を直接ぶち込まれた感じで大変なことになっている。過度過ぎて苦痛でしかない。

「トオヤ様大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

 リーナがユサユサと俺の体を揺らすが、俺は体を痙攣させることしかできなかった。



「あのさ、次から限度っていうか加減を覚えてね…」

 なんとか手伝ってもらって立ち上がった俺は椅子に座る。まだ足もビクビクしていて下着もやばいことになっている。スカートすら貫通して普通に漏らしたようにしか見えない。

「ご、ごめんなさい……」

 シュンと落ち込むリーナ。初めて魔法使った訳で力加減も分かる訳がない。俺が初めて使った時なんて辺り一面焼け野原にしたぐらいだ。

「で、他の魔法はーっと……」

 俺は本のページを捲っていく中、リーナが隣から顔を出して一緒に本を読んでいる。

 そして"とある魔法"にリーナの目が留まった。

「あの、この不能にするって何ですか?」

 俺とロレオは一瞬にしてリーナから距離を置いた。今の俺は女だがどんな効果が出るかは分からない。

「お、おいロレオ。お前が受けろ!どうせここには男しか居ないだろ」

「無茶言うなアキラ!あんな強力なもん食らって二度と使えなくなったらどうするんだ!」

 リーナと距離を置いてヒソヒソと擦り合いをする。リーナは魔法が不安定な上に魔力が膨大なので、その一発がとても重たい。下手するとロレオの言うとおり二度と使えなくなる恐れもある。

 そこへザグラスがやってきた。

「お前達は何をしているんだ?……ほうほう、不能の魔法か」

「ザグラス。お前が練習台になるんだ!鳥だから大丈夫だ!」

「アキラの言うとおりだ!鳥だから多分平気だ!」

 明らかにめちゃくちゃな事をザグラスに向かって言う俺達。鳥だからなんて保障はもちろん無い。

 だがこのダグラス、俺達よりも一枚上手だった。

「この魔法は浮気防止の魔法だ。リーナシアが愛する者へ使うと良いだろう」

「わかりました。じゃあトオヤ様に今度使ってみようっと」


 はい、俺終わった。




「それでアキラ、リーナシアがこちらの世界まで引っ張られた原因は恐らくこれだ」

 ザグラスは本を掲げながらこちらに説明をしてくれた。それはやはりと言うべきか契約が原因だった。

「サキュバスの契約については、サキュバス側にのみ効果が現れる一方的なものだ。血を与えることによって常にその相手と側に居ることも出来、そしてサキュバスは対象者と同じ性質を若干受けることが出来る。その干渉によって何かが引き起こされたため、その膨大で異常な魔力やこちらの世界まで来れたのかもしれない」

「魔力か、そういやリーナの魔力を俺に移すことはできないのか?まだ回復しきっていないだろうし」

 この体もだいぶ回復はしているけれど、全盛期の半分程度しか力も出ていない。つまり完全には回復しきっていないのだ。

「お勧めはしない。相手はサキュバスの血を引いているんだ。魔力なんて受け取ったら大変なことになるだろう」

 受け取った場合、どうなるかも説明を受けた。完全に俺がリーナの虜になる可能性があり、下手すれば廃人にもなりかねないそうだ。受け取るにしても微々たる程度に押さえなくてはならない。

「なるほどなぁ…」と俺は説明を先ほどのものを綺麗にしながら聞いていた。とてもアレな気がしたが、誰も特には気にしていないようだ。

「それと強く思ったり感じた事を薄っすらと共感出来るらしい。一種のテレパシーだな」

「ふーん、なんか色々出来るんだな」

 つまり俺の強い思考や感情などがリーナに軽く伝わるとの事だった。

 俺は一応試しに念じてみた。

(パンツ見せてパンツ見せてパンツ見せてパンツ見せてパンツ見せてパンツ見せて)

 モテない男の思考なんてこんなものだ。試しなんだからいいんだ。俺は悪くない。

 リーナが俺の袖を引くので、付いていくと図書館の隅まで連れて行かれた。

 そして見せてくれた。お洒落なレースの黒だった。俺は盛大に鼻血を噴いた。



 その後も調べつくしたがこれ以上のことが分からなかったので、俺達は再び魔法の練習に戻ることにした。ハーフであるため、使える魔法もたくさんあるので練習するに越したことはないだろう。

「リーナはアマゾネスの魔法の方は使えないのか?サキュバスの魔法で訓練されたら俺の身が持たない」

 そして今度はアマゾネスについて本で勉強中。ずっと寝込んでたリーナはもちろんアマゾネスの魔法すら知らない。

「アマゾネスの魔法は強化が多かった気がします。あと仲間にもかけられるみたいです」

「よしっじゃあ俺に筋肉増強の魔法を使ってみてくれ!」

「はい、ではいきます。んっ!!」

 リーナの膨大な魔力が俺の体に一気に注ぎ込む。

―バリバリリッ!!

 俺の筋肉が思いっきり膨れ上がり、上半身の服が吹き飛んだ。

「だから加減しろっつってんだろうが!!」

「ごめんなさいー!」


 俺の服は手先が意外にも器用なケンタウロスに直してもらった。



  ***



「さーて、最近ドワーフの地区で暴れてる魔物がいるんだって?」

 俺とリーナはロレオに乗りながら、ドワーフの鉱山都市【ターフェアイト】へ向かっている。昔からカラドリウスとドワーフは交流があり、出来るだけ解決させてあげたいとのことだが、カラドリウスが先の戦争でだいぶ数が減ってしまったため代理で俺達が向かっている。

 カラドリウスは魔法アイテムの生成を手がけていて、その材料にはドワーフから貰う鉱石等もたくさん使用されていたとか。なんにしても他部族間の交流は大切にしたい。

「ああ、この間のヤツラではないが巨大魔法生物が暴れてるらしい!」

 魔法生物とは魔法で生成された生物だ。特に知能と言う知能を持たず、与えられた命令をままに動いている。大昔生成された者も、一度召喚されたら倒されるまでずっと生き続けるため、野良としてたまに現れる場合があるそうだ。

「リーナは平気か?戦うの初めてだろうから無理はしないでな」

「大丈夫です!契約した時ですが、少しトオヤさんが経験したものが流れ込んで来たので感覚は分かります」

「結構便利そうだな…その契約って」


 そして俺達はドワーフの鉱山都市【ターフェアイト】に着いた。




『おお!待っていましたぞ!』

 【ターフェアイト】に着くと、ボロボロの服をしているドワーフが俺達を待っていた。【背は俺の腰辺りのサイズでいかにも髭が伸びた小汚い爺さんといった感じだが、とても大らかな性格をしておりニンマリと笑うのが似合っている。服はいたるところボロボロだが、頭には2本の角の生えた特徴のある帽子、前開きのニットの下にはガッチリとした鎧を着ており、小さいながらも戦闘民族と言う雰囲気を十分に放っていて、その手には自分と同じサイズのハンマーが握られている】

「俺はアキラ。で敵の詳細と被害はどれぐらいになってるんだ?」

『わしはバルトじゃ。ドワーフの被害はないんじゃが、鉱石の方が酷くてなぁ。鉱石を食べる魔物でな。ジュエルイーターと言った名前じゃったかの』

 自慢の髭を擦りながらバルトは次々と説明してくれた。

 ジュエルイーターなる者は鉱石の中でも、純度が高く魔力を含む宝石を好んで食べるそうだ。そして蓄積された魔力のせいか、とても体が頑丈で太刀打ち出来そうに無いとの事だ。襲うよりも食事を優先にしているため、人命には被害らしい被害は出てないが鉱石の方は尋常な被害が出ているとの事。

 俺達はすぐにバルトの案内の下、ドワーフの鉱山である洞窟まで案内された。


「これは…無理じゃないか?そもそも暗くて見えん」

 俺達の目の前に現れたのは無数の穴。どうやらジュエルイーターが蟻の巣の如く食べ散らかしているらしい。ご丁寧にも照明宝石まで食べられているため、洞窟内は真っ暗だ。

「これを使うんじゃ。非常用の照明宝石じゃが、純度が高く明かりも強いんじゃよ」

 バルトは腰からぶら下げていた袋からとても光を放つ宝石を取り出した。直接見たら目が痛くなりそうだ。

「ってことはこれも宝石だから、ジュエルイーターがこれを食いに襲って来る可能性があるな」

「トオヤ様、私は暗くても見えますので光が届いてない奥の暗いところは任せてください」

 サキュバスは一応夜に活動するためか、目も良いらしい。ここまで来ると何でも出来る気がするな。

 ロレオはここはあまりにも足場が悪いので留守番のため、俺とリーナとバルトの3人だけで洞窟の奥まで進んでいった。


―ガガッガリガリガリッ

 奥の方まで進んでいくと、明らかに異質な音がしはじめた。どうやら例の魔物が近くに居るらしい。俺達はなるべく音を立てないようにソロリソロリと歩いていく。だがすぐに行き止まりになっていて、周囲にも横穴が見つからない。

「おかしいな…音だけは聞こえるんだが……」

 天井なども隈なく調べたが穴どころか小さな隙間すらも開いてない。どこからかは音がしているのだが、洞窟内のため反響していて音の出所が分からない。

「そうじゃのう…、この近くには居るはずなんじゃが。壁の裏に居るかもしれないのう」

 バルトは小さなトンカチを取り出すと壁をコンコンと叩き、空洞がないか調べはじめた。リーナは軽く宙に浮かびながら心配そうな顔で俺を見ている。軽くだが空も飛べるようになったらしい。今まで寝たっきりだったため、もちろん羽の使い方も知らなかったそうだ。

 俺はそこらへんの出っ張った石に座ると「ふぅー」とため息を付いた。いくら明かりがあるといえでも、洞窟内をこんな奥まで探検したのは生まれて初めてだ。そもそも地球に居た頃で洞窟に入ったことも一度も無い。洞窟に入る前はワクワクしていたが、今は空気が薄く無駄に動くとすぐに息が切れてげんなりとしている。

―ズズッズバンッ――ドタンッ!

「うわぁっ!」

 俺の椅子にしていた石がいきなり無くなって、俺は床に尻餅を付いた。しかし尻餅をついた部分が空洞になっており、尻が思いっきり挟まった。気付いたリーナは慌てて引っ張るがすっぽり嵌って抜け出せない。

―モゾモゾッ

「うひゃ!な、なんだ!?」

 嵌った尻に何かが触れる感触がある。ごつごつとしているので岩か何かと思うのだが、さっきから軽く引っかくような感じでずっと触られている。

「リ、リーナ早く持ち上げてくれ!下に何か居る!」

「ううーーんっ!!」と物凄い力でリーナが引くが今だ抜けない。腕に力が相当掛かっていてとても痛いが我慢する。それより俺はどんだけの威力で尻を穴に突っ込んだんだろうか。リーナはこう見えてもアマゾネスのハーフなので女verの俺ほどではないがそこそこ力もある。

「どうしたんじゃ?何かあったか?」

 慌ててバルトが駆け寄ってきた時――

―ズガァァンッッ!

 俺が嵌っていた岩が丸ごと何者かに破壊された。しかも俺の足元は空洞であり、俺は穴に落ちていく。リーナが引っ張ってくれてるので落下スピードはとても遅かったが、リーナの飛行能力では俺の体を持ち上げられないらしく、上まで戻れそうにはない。

『ガァァッ!』

 足元の方から声がした。下を見るとこちらに大きな口を開けているとても巨大な魔物が居た。【その大きさはとても大きく、恐らくアレックスに匹敵するぐらいだろう、口の長さが半分ぐらいのアリクイのような形をしているが、皮膚がとても硬い石で出来ているような魔物だった。歯と爪は物凄く鋭く、辺りには石で出来ている洞窟だと言うのに爪あとが無数にあった】。そして恐らくあの口で先ほど俺の尻を突付いていたのだろう。つまり食われる一歩手前だったようで俺はゾッとした。

「リーナ!ジュエルイーターだ!俺をあっちに投げ飛ばしてくれ。後バルトも連れて来い!」

「はいっ!」とリーナが元気よく返事をするのを確認して、リーナが俺を投げた勢いを使って俺はジュエルイーターの口を避けて床に着地する。リーナは盛大にパンツを見せながらも上に戻ってバルトを下ろしに掛かる。

 そして俺は鼻血を出しながらジュエルイーターと対峙した。相手もこちらに敵意があると認識したのか、食事をやめて俺の方を向いている。

―ダダダッ!

「はぁっっ!くらえ!!」

 俺は一気に駆け出して、ジュエルイーターの横に回りこむと、走った勢いを利用しながら腰を捻って回し蹴りを放った。

―ガンッッ!!

「いっっ!?いてえええええーーー!!!」

 相手の動きは遅いので狙いは簡単なのだが、その皮膚はとてつもなく硬い。俺はぶつけた足を掴みながらピョンピョンと飛び跳ねた。相手の様子を見る限りでは完全に無傷だ。これでは攻撃の仕様が無い。

「トオヤ様大丈夫ですか!?」

 リーナがバルトを下ろし終えて俺のところへ駆けつけた。しかし、俺の前には前足を振り上げるジュエルイーターの姿があった。

「まずいっ。んっ!!」

―ブンッッ!ズガガガッ!!

 ジュエルイーターが爪を横に薙ぎる。俺は素早くリーナを抱きかかえると横に避けた。ジュエルイーターの空振りした爪は地面に爪あとを残す。動きが遅くとも攻守ともに厄介な敵だ。

「バルト!硬すぎてダメージが与えられん!武器か何か無いのか!?」

「ちょっと待っておれ、これを使え!」

 バルトは俺に向かって持っていたハンマーを投げてきた。って俺に当たるだろ!サッとリーナを抱きかかえながら避けるとそのハンマーはズガァンッ!と言う音共に壁にめり込んだ。

「何やっとる!ちゃんと受け取らんとダメじゃろうが」

「バカ野郎!!殺すつもりかーー!!」

 抱きかかえたせいか頬を赤く染め上げているリーナを床に俺は下ろすと、ハンマーを壁から取り出した。バルトの背と同じ高さのとても重たいハンマーだ。女verの力が無ければとてもじゃないが持ち上げられなかっただろう。これを平然と投げるバルトもバルトだが、それでもダメージが入らなかったらしい。

 ジュエルイーターはノシノシッと音を立てながらこちらへ向かってきている。

―ダダダダッ!

「はあああっせい!!!」

 俺は一気にジュエルイーターの距離を狭めると、飛び上がりながらハンマーを振り上げ、敵の頭に向かって思いっきり振り下ろした。

―ガァァンッッ!!

 ブオンッという音を立てながら振り下ろされたハンマーだが、敵が硬すぎてそれでも弾かれる。手と腕が痺れで物凄くビリビリと感じる。この状態ではもう一度ハンマーを振り下ろすことも出来ないだろう。俺はハンマーを力ずくで引っ張って強引に距離を取る。

「ダメだ、硬すぎてどうしようもない!せめて魔法が使えれば……」

 物理攻撃に対しては無敵の硬さでも、魔法ダメージは簡単に通るはずだ。この場でもし俺が男の状態でも俺は魔力不足で使えない。つまり今魔法を使えるのはリーナしかいない。

「リーナ!!何かあいつを何とか出来そうな魔法とかないか!?」

 ノシノシッと俺の方へ向かってくるジュエルイーターを警戒しながら、リーナに声を掛ける。だが魔法をほとんど知らないリーナは、どうしたらいいか分からないようだ。

(あの硬すぎる皮膚さえ何とかなれば。どうにか剥がす方法は……、んっ!?)

 俺はハッと気が付く。リーナとの魔法訓練中時、俺は服を剥がされたことが有る。あれと同じことを敵にやったらどうなるだろうか。皮膚があんなに硬いので筋肉が膨張した時に、あの硬い皮膚が吹き飛ぶかひびが入ったりするのではないだろうか。

「よし、リーナ!敵に向かって筋肉増強魔法を手加減無しで使うんだ!!」

 俺はリーナに向かって今の閃きを伝える。バルトもジュエルイーターの皮膚を破壊出来ないのだからもう打つ手はこれしかない。

「わかりましたー!すー…はー…全力全開で使います!!うぅんんんっっ!!!」

 とてつもなく膨大な魔力がジュエルイーターに流れこむのが感じ取れる。

 そして俺はこの世界へ来てから一番の恐怖を体験した。


―ボゴンッドゴッ!!グチャッッッ!!――ズズーンッ!

 突然ジュエルイーターの筋肉が内部から膨れ上がると、あまりにも強硬な皮膚に挟まれジュエルイーターの内部から破裂し、辺り一面にその破裂した肉が……(以下自主規制)

「うっ!!お、おえっっ」

 気持ち悪くなった俺は視線を一気に外した。あれはとてもじゃないけど見てはいけない。

「どうやら、死んだようだの……」

 バルトが無残な死体になったジュエルイーターを確認していた。どうやら完全に中身が潰れてしまったらしい。リーナ恐ろしい子。

「はぁはぁはぁ……トオヤ様ー!私、やりました!!」

 うん。本当に殺りましたね。でも俺には絶対に使わないでね。お願いだから。



  ***



 結果がどうであれ、敵を無事倒せた俺達はドワーフの手厚い持て成しを受けることになった。主に酒とかだったが何故かリーナとロレオは一切酒を飲まず、俺とドワーフ達しか飲んでいなかった。ドワーフ達は結構な酒飲みらしく、騒がしく皆飲んでいる。

「ぷはー、って何でお前達は飲まないわけ?」

「ん?ケンタウロスの飲酒運転は罪だからな」

「この世界にそんな法律あるのか…?しかも馬が酒飲むと飲酒運転扱いなのか」

 ロレオはよく分からない世界観を教えてくれた。でも飲酒運転は、ダメ絶対。

「んで、リーナはなんで飲まないんだー?」

 隣に居るリーナに声を掛ける俺。俺は酔っ払ってなんていないぜ?ほんとほんと。

「あの、こういうの飲んだことが無くて…」

「ほら良いから良いから、グイッとほらグイッとな」

 俺はリーナの肩を掴んで、強引に酒を飲ませた。

 そしてこれが悪夢の始まりとなったのだ――



「も、もうやめるんだ!!本当にこれ以上はやめてくれ!!」

 俺の酔いはすっかり醒めていた。

 すみません、絡み酒で本当にすみませんでした。全部私が悪いんです。

「うふふ、そんな顔をしてどうしたのトオヤ様?」

 服が半分脱げてあられもない姿のリーナ。大事なところは俺が死守してるから平気だが、問題はそこではない。

 周囲を見ると先ほどまで騒ぎに騒いでいたドワーフ達は全員悶絶してぶっ倒れている。

「もう、トオヤ様ったらこんなところで……」

 気付けば俺はリーナの胸を揉んでいたらしい。ではなくこいつを早くなんとかしないといけない。

 そう、酔っ払ったリーナは魔力全開で周囲全体に魅了魔法を放出している。周囲の者は強制的に快楽を叩き込まれ、ロレオを含むドワーフ達は下半身を汚しながら悶絶していた。俺の下もやばいことになっているが、鋼鉄の意志でこいつを止めるために立ち上がってる最中だ。

「こうなったら仕方がない……」

 俺は覚悟を決めた。ザグラスから聞いた話でサキュバスの契約についてもう1つの隠された力を使う時がやってきた。

 それは――

―ガシッチュゥゥ!!

 俺はリーナを思い切り抱きしめ深くキスをする。そして念じる。

(今すぐ寝なさい今すぐ寝なさい今すぐ寝なさい今すぐ寝なさい)

 ザグラスの言葉を借りると「深くお互いが繋がっている状態で契約相手が強く念じると、サキュバス側はその命令に必ず従う」と言うことだ。深く繋がるってことはつまりディープキスのことらしい。

「んんぅーっ……すぅ…すぅ…」

 リーナは俺の腕の中で眠り始めた。俺はそっとリーナの服装を整えてから、俺はドワーフの皆さんにこう言った。


「ほんまに、すいませんでしたーっ!!」



  ***



 そのまま解散となり、俺はドワーフから衣服を借りて着替えた。

 そして俺はバルトを呼んだ。バルトはやはりドワーフの中で一番偉い位であり、鉱山都市の責任者だった。王制は既に廃止されており、王ではないらしい。

 すやすやと今だ俺の腕の中で眠るリーナをよそにバルトに話を進めた。

「俺の首から掛かっている青い本を開いて欲しいんだ」

「青い本じゃと?これか…」

 バルトは俺の首からかかっている青い本を見て手に取る。だがその前に俺は伝えないといけないことがある。

「まず本を開くとどうやら封印されていた魔力が戻るらしい」

「なんと!それは凄い力じゃな。ドワーフはその昔、名の有る武器を作れる能力を持っていたという話でな。今は封印されておって作れなかったんじゃよ」

「どれ、今度おぬしの武器もわしが作ってやろう」とバルトはニンマリしながらドワーフの魔法ついて詳しく教えてくれた。武器が手に入るのはとても大きいものだ。今まで武器らしい武器も無かったので素手でやってきたが、今日みたいな敵も多いだろう。

「本を開けば俺は自動的に向こう…【ユークレース】の世界へ飛ばされて、一ヶ月後こちらへ戻ってくることになる」

 俺は説明を続けた。バルトは「ふむふむ」と頷いて話を聞いてくれている。

「それとリーナのことだが、ちゃんと【ユークレース】まで一緒に飛ばされるか分からないから、万が一飛ばされずにここに残ったら世話をしてやってくれ」

「うむ。分かったが、恐らくその心配は無用じゃろうな」

 カカカッと笑いながらバルトは俺の腕の中で眠るリーナを見る。俺が着替えてる時ですらずっと離れなかったぐらいだから、このまま【ユークレース】に行っても絶対離さなそうだ。

「じゃあよろしく頼む、バルト」

「達者でな。本当に助かったありがとう」

 バルトは最後にお礼の言葉を言い、青い本を開いた――


 そして俺とリーナは【ユークレース】へ飛ばされた。



俺の異世界の旅はまだまだ続く。




次はユークレース編になります。


ちなみにトオヤ(男)の魔力は、体内魔力の損失により魔力をほとんどを失っております。その体内魔力の回復はとても遅いため一朝一夕では回復しない、と言うことです。

そして体内魔力の正常なリーナは放出魔力しか使っていないので、リーナの魔力は数時間置けばすぐに回復しております。


これで武器入手フラグが立ったので、アキラ強化フラグも立てそうです。


ではまた次回。

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