魔法の秘密、そして神との戦い
前半がとても長くなったのでバトルは短くしてます。
大半が魔法についての説明です。全部自分で考えて設定したんですが、探してみると似たような物がたくさんありますね。
―ドドドドドッ!
ここは【ペツォッタイト】の【ルベライト王国】の【ローズ平原】。その中砂埃と共に走る3人組の姿があった。
「お前ら、今日も絶好調だな!!」
『おうとも!今日こそ新記録を更新するぜ!』
『だからってロレジャー!"アレ"を使うのは反則だぜ!』
『当ったり前だろうが!あれはアキラから貰った力で、無断で使ったりするか!』
その3人組は以前、碧尭――アキラ(女)が知り合ったケンタウロスの3人組であった。その3人の先頭にはケンタウロスの王子である、ロレジャーが走っていた。
「あれ?あそこになんか居ねえ?」
『誰か倒れてるぞ!!』
『他部族みたいだな!』
3人が【ローズ平原】を走っている時、サバンナの中倒れている人間を発見した。発見した3人は急いで駆け寄ることにした。
―ドドドドドッ!
砂埃を撒き散らすのは止めてその倒れている人間までゆっくり近づいた。それはアキラだった。
「おい!アキラじゃないか!?どうしたんだ!」
『あの時の彼女か!今日も尻が輝いてるぜ』
「バカなこと、言ってんじゃねーよ!アキラ、どうしたんだ!」
ロレジャーがアキラの肩を揺するが起きない。良く見るとアキラの顔色がとてつもなく青ざめていた。
『な、なあロレジャー。これは死んで無いか?』
「いや、生きてはいるみたいだ。でもいつ死んでもおかしくなさそうだ」
『やばくね!?これはマジやばいんでない!?』
ケンタウロス2人が慌てだすが、ロレジャーは冷静に状況を見極めて判断を下す。
「俺がカラドリウスのとこまで連れて行く。お前らは最近現れる"あいつら"が万が一現れた時のために国へ戻っててくれ」
『おいおい、"王"が都を離れていいのかよ!?』
「わりぃな。俺はこのお姫様をどうしても救いたいんでね」
いつの間にか王になっていたロレジャーはアキラの体を仲間にも手伝ってもらい、自分の背に乗せる。
「アキラ、今すぐ連れてってやるから間に合ってくれよ!!」
そしてロレジャーはカラドリウスの国【スペサタイト王国】へ向かった。
***
―バンッ!
スペサタイト王国の一番大きな図書館の扉が勢い良く音を立てて開かれた。
『誰だ?乱暴に入ってこないでくれ――ん、ロレジャーか』
図書館の中に1人の白衣を着た者が扉を開けて入ってきた者へ声を掛けていた。図書館内に居た者はカラドリウス族であり、その者の風貌は【人間の腹ぐらいまでの高さを持つ鳥の姿で、器用にも白衣を着ている。全身は白い羽毛に覆われており、ところどころ青のラインが入った鳥類】であった。
「わりぃ先生、急患だよ。この姫さんを診てやってくれないか」
『そもそも、私は医者ではないのだが……まあいい連れて来てくれ』
白衣を着たカラドリウスが奥まで案内をしてくれる。ロレジャーはアキラに出来るだけ負担がかからないよう揺らさずにカラドリウスの後を追う。
『ここに横たわらせてくれ』
奥の部屋には患者を乗せる台があり、周囲には医術道具と思われるものがたくさん設置されている。ロレジャーはその台へ行くと、アキラを横たわらせた。
『ふむ、種族不明の女か……どれ』
そうカラドリウスが声を掛けると翼の先で器用に服を脱がし始めた。
「お、おい!何脱がそうとしてるんだ?相手は女なんだぞ」
『調べるためだ。それに私は人型に興味はない』
カラドリウスはそう答えると服を脱がしてアキラを裸にした。ロレジャーは後ろを向いて見ないようにしている。
―パサッ
『シーツを被せたので、もうこちらを向いて良い』
カラドリウスがロレジャーに声を掛けると、ロレジャーも振り向いてアキラと向かい合う。アキラのラインがとても出てしまっているが、裸よりはずっとマシであろう。
『では、診察してみるが』
ガサゴソと道具を漁り出して何かの機械の先に聴診器のような物が付いている物を持ってきた。
「それはなんだ?何かを計測するものか?」
『これは体内魔力を調べる道具だ。見た所外傷が全く無いどころか、体だけを見れば健康体だ』
「じゃ、じゃあなんで今にも死にそうな顔をしてるんだよ!!」
ロレジャーはカラドリウスに掴みかかるが、カラドリウスは『だからそれを今から調べるんだ』と、呆れた声を出しながら答えた。カラドリウスはシーツを捲り、アキラの上半身を露にする。
「うわわ」と情けない声を出してロレジャーは後ろを向く。病人とは言え裸を見るのは許しがたい行為だからだ。他部族を大切に思うケンタウロスだからこその態度と言えよう。
『ふーむ』とカラドリウスが唸りながら患部に機械の先を当てて調べていくが、その表情は厳しくなりつつある。
『これは……胸の辺りの部分から体内魔力が大幅に不足している。普通では絶対ありえないことなのだが』
「な、それはどういうことなんだ!?教えてくれ!」
ロレジャーはアキラの露出部をなるべく見ない様にカラドリウスへ詰め寄る。カラドリウスはそのままアキラの体を診ていたが、頭を横に振った。
『説明より先に結果だが、治療しようが無い』
「だからなんでだって言ってんだろ」
興奮するロレジャーに『とりあえず、落ち着け』と、落ち着かせるカラドリウス。先ほど道具をしまい、そしてロレジャーと向かい合った。
『まず、この娘の症状は肉体を保持する魔力が不足しすぎている。そしてこのままだと肉体はいずれ崩壊する』
「肉体を保持する魔力ってのは何だ…?」
カラドリウスは小さな眼鏡を取り出し顔に掛けると、部屋の中の隅にあった本棚に近寄った。その本棚から一冊の本を取り出し、元の位置に戻った後その本を読み出した。
『魔力とは2種類あり、放出魔力と体内魔力の2種類からなっている。放出魔力は文字通り外部へ放出できる魔力であり、攻撃魔法や肉体強化魔法など様々なものも有る。中には自然に体内魔力へ変換されて身体的に影響が出る者もいるが、その場合は放出魔力のほとんどが失われる』
本のページを捲り、カラドリウスは次なる説明を続けた。
『体内魔力とはその名の通り体内に宿らせて置くべき魔力だ。我々は放出魔力を溜め込むことと魔法詠唱が一切出来ない状態だが、体内魔力については完全な形で保有したままだ。そして体内魔力とは主に肉体形成に主に使用されている。これが不足すると身体能力の低下や肉体を維持出来なくなり、最悪死にいたるケースもある。つまりこの娘がそれだ』
「それで、それを助けるにはどうすりゃいいんだ!?」
本を閉じたカラドリウスに再び詰め寄るロレジャー。だがカラドリウスも再び首を振るばかり。
『放出魔力と体内魔力は同一のものだから本来であれば治癒も可能だが、我々は魔力を放出する術を一切持たないため治癒が出来ない。そして放出魔力を使わない方法を取るにしても、娘に与えるだけの魔力を体内に宿らせてはおらん。この娘の必要体内魔力はあまりにも異常と言える程のありえない数値だった。もし我らの体内魔力からこの娘へ分け与えるとしたら、全てのカラドリウスとケンタウロスの命を犠牲にしても足りない。つまり現状では回復が不可能だ』
「くそ!どうすればいいんだよ!!」
カラドリウスの説明を受け落胆するロレジャー。アキラを回復する術は一切無いのだ。
だがロレジャーは何かに気付き、ハッと顔を上げてカラドリウスに詰め寄る。
「ん…?ちょっと待て!詠唱は出来ないが俺、今なら魔法使えるぞ?」
『どう言う事だ?放出魔力は得る事は不可能なはずなのだが。まあ……計測をしよう』
カラドリウスは別の機械を取り出して計測していく。そして結果が出た。
『確かに原因不明だが放出魔力の存在が確認できる。しかしこの量では恐らく全く足りないだろう。それと、もし与えるならば君はしばらく並に走ることすら出来なくなるぞ。放出魔力が失う分を体内魔力から回復しようとして、擬似的に消耗し、元の運動能力になるまで半月から1月はかかる。魔力を無理して使った場合は君の寿命が消耗していくことだろう』
「それでも構わん!良いからアキラを治療してやってくれ!」
ロレジャーはカラドリウスの説明を聞いた上で頭を何度も下げた。カラドリウスは道具を取り出し魔力を移動させる準備を整えた。
『王である君が犠牲になるのは好ましくはないが、王である以上1人でも救いたいと思うのは道理だな』
カラドリウスがそう呟くと治療は始まった。
***
とても頭と胸が痛む。しかし先ほどより若干は軽くなった。でも、体に力が入らない。
「ぐぅ……」
痛みによって声が出る。声は出せるようだが体がまともに動かない。俺は必死に目を開けた。目の前にはケンタウロスの王子であるロレオと見慣れぬ鳥類が見える。俺に気付いたのかロレオが必死な顔をして俺に声を掛けてきた。
「アキラ!ちゃんと生きていたんだな!!」
そう言ってロレオは涙をにじませて乱暴に目を擦っていた。俺は見慣れない鳥類へ視線を向けると、その者が俺の視線に気付いたようだ。
『私の名はザグラス・S・シュベリウス。このカラドリウス族王立図書館の司書をやっている者だ。医療に関する様々な知識を持つため、たまに君のような患者を取り扱う場合もある』
ザグラスは俺に自己紹介をすると、聞きたいことがあると質問してきた。
「君の症状の原因は分かるか?君の今の状態は通常ではありえない症状だ」
「俺も、分からない。いつの間に【ペツォッタイト】にたどり着いていた理由も分からない。【ユークレース】で魔法を使ってから記憶が一切無い」
「【ユークレース】か、なるほど。でも例えあちらの世界であっても君の症状はありえない。理由は体内魔力だけ損害が出ることがありえないからだ。例えば攻撃魔法を食らえば体内魔力にも損害は出るだろうが、肉体へダメージが皆無と言うことは絶対にありえない」
ザグラスが丁寧に説明してくれるが、俺には一切知らないことだった。
「先生!本当に何にもないのかよ!?例えばそう言う魔法があるとかさ」
「うーむ、可能性としては一つだけある。意図的にそうされた場合だが……」
その時、辺りが騒がしくなる。どうやら部屋の外にいる者達が騒いでいる様子だ。
そして誰かがこの部屋に入ってきた。
―バンッ
派手な音を立てて入ってきたのはカラドリウスの鳥類と、大怪我をしたケンタウロスだった。
「何事だ?」とザグラスはその者へ近づいたが、緊急事態が発生したらしい。
『司書!新しい魔物が出現してケンタウロスの都市を襲われました。そして王が居ないため劣勢が続き、こちらへケンタウロス達が避難してくるとの事です。しかし足止めもままならず、その魔物もこちらへやってきています』
「なっ!?すまねえ、全部俺の責任だ……」
その報告を受けロレオが頭を下げて謝罪する。だがこの場で彼を責める者は誰も居なかった。
『俺達は、ロレジャーにどこまでも付いていく。ロレジャーは正しいと思った事を突き進めてくれ…っ』
ボロボロになったケンタウロスはそう言うと意識を失った。
「とりあえず君の治療はこれ以上施しようがない。もう1つあるとしたらヤツラの捕獲だ」
ザグラスは俺に服を着させてながら説明していく。そのもう一つの可能性とは。
「ヤツラは放出魔力も体内魔力も私達より遥かに凌駕している。生死は問わず、その肉体から魔力を君に移せば有る程度は回復出来るだろう。そしてヤツラは私達と違い、放出魔力を所持することが可能だ」
着替えを終えた俺は体を起こす。ゆっくりなら問題なく立てる。だが走ったり、戦ったりするのは到底無理だろう。
「なら、ヤツラを倒せばアキラも回復できるし一石二鳥じゃねーか!」
意気揚々にロレジャーは言うが問題もあった。
「どうやってお前が戦うと言うのだ。彼女もお前もまともに走ることすらままならん。出来ても指示と傍観が精一杯だ」
ザグラスは俺が立つのを手伝ってくれながら駆けつけたカラドリウスに声を掛ける。
「到着したケンタウロスと、カラドリウスの全員をこの王立図書館前に集合させよ」
***
現在物凄い数のケンタウロスとカラドリウスが集まっている。ケンタウロスの中には酷く負傷しているものもいて、図書館内で治療を行っている。そしてその者達の前にはザグラスとロレオと俺が居る。俺は満足に立てないためロレオに乗っている状態だ。
「皆、集まってくれたな。ケンタウロスからの情報によると、ユニコーンと思われる馬に騎乗している騎士がケンタウロス達を襲ったとのことだ。そして我々の王国へ今も接近している」
ガヤガヤと辺りは騒ぎ出す。実際見たケンタウロス達は酷く青ざめていた。その強さはとてつもなく、かすり傷すら与えられない内にケンタウロスがかなりの数皆殺しにされたとのことだった。
「我々カラドリウスは戦力としてはならないが、知識としては誰にも負けるつもりはない。今から我々カラドリウスとケンタウロスはお互いに手を取り、その騎士を殲滅する!」
『オオーーー!!』とザグラスに答えるように皆が声を上げる。
弓や槍で武装したカラドリウスはそれぞれのケンタウロスの背に乗り、戦いの火蓋が切って下ろされた。
準備が出来た俺達は【スペサタイト王国】から外に出た。ケンタウロスは野を駆け走るのが得意なので、篭城するよりは勝率が上がるので野戦での戦いだ。
俺は今ロレオに乗せてもらっていて、俺の後ろでは更にザグラスが乗っている。ロレオはいつの間にか王になっており、ザグラスも指揮官であるため後方から指示をするだけ。先ほどのことでロレオも走ることも出来ず、戦力にならないため仕方ないだろう。
「アキラ!お前まで参加すること無かったんだぜ」
「良いんだ。中で待っているだけなんて耐えられない」
「そうか、だけどお前はまだまともに動けないんだから絶対に無理すんなよな!」
俺を心配してロレオが声をかけてくれるが、後ろに下がることは絶対に出来ない。きっと俺がこの世界に来たばかりであったら簡単に見捨てていけたのだろうが、俺はこの世界で色んな友を失っていった。とても悔しかったこの思いがある限り、逃げ出すわけにはいかなかったのだ。
その時、遠くから物凄い速度で走りぬける姿が見える。どうやら騎士だろう。【ファンタジーで出てくるユニコーンを乗りこなす騎士。そのユニコーンの角は鋭く尖っており、そしてその速度は軽くケンタウロスを凌駕していた。そして上に乗る騎士はまさに騎士の姿であり、白と銀で装飾されている鎧を上から下までガッチリと固めている。その顔は見えず、その手には赤褐色の独特な大きな槍を持っていた】そして俺にはその姿にとある神の姿を髣髴とさせる。
(いや、いくらなんでもそんな訳ないよな……)
俺は手にギュッと力を込めた。そして騎士が持つ槍が輝きだす。俺の予想は嫌な方向で当たっていたみたいだ。
「ロレオ、あいつの槍は大規模な破壊力をきっと持っていて、遠くから投げてくる可能性が高い……。そして狙ってくるのは恐らく俺達だ。俺達と敵の間から引かせて俺達は必死に避けるぞっ」
ボロボロの体で、俺は必死に声を出す。それでも小声になってしまったが、ロレオはしっかり聞いており全軍に指令が出された。
―ズバシュゥンッッ!!
そして騎士の手から槍が放たれる。その槍は神々しいまでに大きく光を放っていて、光に触れた地面を抉りながらこちらへ一気に飛んでくる。投げている間の騎士の体は完全に停止しているが、あまりの威力に誰も近寄れない。
「こいつは避けられないな…仕方ねえ!かなりきついが使わせてもらうぜ!」
ロレオはそう言うと足が光りだした。まるで俺のあの魔法を思い出す。
「ロレジャーその体で無茶をするな!最悪死ぬぞ!?」
「このまま避けられなくたって死ぬだろうさ!!」
そしてロレオは一瞬で移動して槍の軌道から外れる。だがあの槍は……
「何、方向を変えた!?追跡してくるのか、よっ!!」
ロレオが上手く移動していくが、槍の軌道からは外れられない。そこでザグラスが叫ぶ。
「陣を張る。ロレジャーはその中心へ行け!」
そう言うとザグラスは白衣の中に持っていた試験管のようなものを地面に投げる。そして地面に当たった試験管は割れ、その試験管に入っていた液体が地面にしみこむ。
すると、地面には魔方陣が出来てその中央には俺達が入れるぐらいの円が描かれていた。ロレオがその中央へ行くと不思議なことが起こる。俺達の体が光に包まれたのだ。
―シュイン!
騎士の槍が俺達の目の前に来た瞬間それが起こった。俺達はテレポートしたかの如く、大きく距離を移動してた。そして目標を失った騎士の槍はそのまま彼方へ飛んで消えた。彼方へ飛び去る途中で槍の姿が消滅したので恐らくあの槍は再び騎士の手元に戻るだろう。
「今のは…魔法なのか?」
「転移魔法を封じているアイテムだ。詠唱と放出魔力を得る事は不可能だが、とても長い年月をかければこういったアイテムが作れる」
ザグラスは俺の質問に丁寧に答えてくれるものの、騎士の手には再びあの槍が構えられた。もう一度打たれたら恐らくもう一度回避することは出来ないだろう。
「全軍攻撃しろ!弓でけん制しながら、接近しろ!!」
ロレオは全軍に指示を出し攻撃を始める。だがユニコーンの移動能力もあり、まともにダメージ与えることが出来ない。
「何か、何かないのか…何か…」
俺は突撃していき、一撃で返り討ちにされていくケンタウロス達を見ながら必死に考えた。あの騎士の弱点が全く思い当たらない。
「あの槍が強力すぎる…何か、手を……ザグラス、さっきの転移魔法はまだあるのか?」
俺はとある方法を思いついた。とても危険ではあるが、これにかけるしかない。
「後1つ。このアイテムは作るのがとても大変なのでな」
ザグラスは転移魔法の試験管を受け取り、この魔法の使い方を教わる。この転移魔法のアイテムは地面に設置するか対象物に直接振り掛ける必要がある。地面に設置しない場合は効果が薄く方向転換程度しか使えない。そしてその使用タイミングはザグラスが念波を送ることで使用出来るそうだ。
「後はどう接近するか……」
俺もロレオもほとんどボロボロの状態で騎士と直接立ち向かうには命を捨てるようなものだ。しかし、もうこの方法しかない。
「アキラ、あいつに近寄れればいいのか?」
俺の小声の独り言が聞こえていたのかロレオが俺に声をかける。
「ああ、でもどうやって近寄ればいいのか……」
「俺に任せろ。一瞬のタイミングしか取れないだろうが、後は任せる!」
ロレオは全軍に命令を出した。
俺がロレオに命令を取り下げろと、必死に止めてもその命令を止めてくれなかった。
「全軍、命顧みずに総攻撃を仕掛けろ!!!」
ロレオは必死に足を動かして走っている。今も真っ直ぐ敵に向かって。
「止めろ……ロレオ今すぐ命令を取り消せっ」
小声でしか出せない俺は必死に声をかける。今まさに目の前で次々と殺されていくケンタウロス達がいる。あたり一面が屍だらけになりつつある。
「倒せるかもしれないんだろ?俺達を舐めるなっての!!」
ロレオは必死に騎士を追いかけた。既に限界を通りこしているのだろうがザグラスも何も言わない。元々死をかけた戦いだったからだ。
「なんで、いつもこうなんだよっ」
俺はロレオに寄りかかった体勢でボロボロと涙を零した。いつもいつも、仲間を守れない自分がふがいなくて。
「アキラ、前を見るんだ。そして君が居なくとも私達はこうなっていたんだよ」
ザグラスは俺の肩を掴むと前へ向けさせる。今も無残に散っていく仲間の姿が目に入る。
「私達とヤツラの戦いは今に始まったことではない。それも大昔からあったことだ。だから君が気を病む事はない。そして仲間達の最後を見届けるのは私達、上に立つものの使命なのだよ」
ザグラスは力強く俺に前を向かせた。俺は仲間の上に立っているからこそ逃げられないのだろう。アパートで1人浪人生活をしていた頃が懐かしく感じる。まだ一週間も経ってないはずが、こんなにも懐かしく感じるとは思いもよらなかった。あの時は1人だったからこそいつも俺は逃げ出していたんだ。
俺はキッと相手を強く睨むように力を入れる。涙は止まらないだろうが、仲間のためにもこれ以上逃げることも出来ない。
そして俺達は多大な犠牲の元にようやく敵に近づけた。
「アキラ、良いか?近寄れるのは一瞬だけだぞ」
俺はこくんと頷き、試験管の蓋を外した。チャンスは一度だけで、しかも多大なる犠牲の下で行ったため失敗ももはやできない。緊張するがもう引き返すことは出来ない。
「ロレオ行ってくれ。必ず成功させる」
「おう!」とロレオは俺に返事をすると足を光らせる。きっとロレオもこれで最後であろう。これ以上は体も持たない。
すぅーはぁーと深呼吸を続ける。今までの戦いを振り返って、その経験を全て今ここに集める。
「恐らく接近したら俺達を確実に狙ってくる…だから上手くギリギリで槍を避けてくれ」
「おーし、んじゃいくぜ!!」
―バァァンッッ!
物凄い音を出して一気に駆け出す。スピードだけならあのユニコーンよりも速かった。俺が【ユークレース】で必死にエルフの国まで走った時なんかと比べ物にならないぐらいに速かった。それぐらいの速さを命を削りながらロレオは走っていた。
一瞬のうちに騎士に近づいたが騎士も速く、こちらを迎撃する形で待ち構えている。俺は手に持った試験管をしっかり握り締めその一瞬を狙う。
―ビュンッ
風を切る音と共に槍が振るわれていく。俺はスローモーションの中その一瞬を狙い試験管を槍に向けて投げつけた。
―ガシャンッ!
試験管は上手く槍に当たり、俺達は一気に後ろに下がる。ほんの一瞬の出来事だったが俺は確かに成功した。
「グハッ!!ア、アキラ……後はどうすんだ…?」
血を思い切り吐き出しながらロレオは俺に聞いた。後はあれを撃たせて軌道を変更するだけだ。
「全軍を下がらせてくれ。そしてあれをもう一度撃たせろ」
「ああ、全軍下がれ!!怪我を負ってるものはそのまま退却するんだ!!」
そして、残ったケンタウロス十数名は後ろに下がった。
俺達は騎士に再びあの槍を投げさせ、その槍を転送し騎士に槍を直接当てることで勝利を収めた。
多大なる被害を持って……。
***
俺は今、先ほど戦った騎士とユニコーンの死骸から魔力を受け取っているところだ。だいぶ力が沸いてきたものの、全盛期にはまだ程遠い。ボロボロになってしまったロレオは隣で寝そべっている。しばらくは走ることも動くこともままならないとか。
「ロレオ、ケンタウロスの被害はどうなったんだ?」
「生き残ったのは俺を含めて24名だな。元々は400以上居たんだがずいぶん減っちまった」
「済まなかった」
俺は悔しさに涙をにじませていたがロレオは「気にすんな」と手を横に振っていた。どうしてこの世界の住民達はこんなにも前向きで強いのだろうか。
「私達は元々先ほどの者達と戦う運命なのだ。あまりにも戦力に差があるためずっと封印されてきたのだがな」
俺の治療をしてくれているザグラスが口を開く。昔あのようなものがこの世界には跋扈していて、敵対していたが封印をすることで閉じ込めたらしい。しかし、その封印も限度があり、ほころび始めている。
「封印?その封印が解けるとどうなるんだ?」
「【ペツォッタイト】と【ユークレース】が一つの世界として融合し、そして2つの世界に封印されているそれぞれが完全に蘇る」
魔力を吸い上げ終えたらしく、先ほどの騎士とユニコーンの体が砕け散って消えた。俺は裸でうつぶせのままの体勢だったので起き上がり、服を着ながら話を続ける。
「2つの世界は1つの物だったのか…まあ確かに共通点は多かった気はするが…」
「私が知っているのはここまでだ。何故2つの世界に分ける必要があったのかは分からない」
ザグラスは俺の治療に使用していた道具を片付けながら説明を終えた。
「そう言えば、さっき俺の症状がありえないと言っていたのはどういう意味だ?」
戦闘になる前のことを思い出し、俺はザグラスに向かって質問を投げかける。
「ああ、体内魔力だけが損失するのはありえない。どのような結果になろうとも肉体ダメージも発生する。だが君は無傷だったと言うわけだ」
「それはありえないことなのか?」
「どんな攻撃魔法でもそれはありえないことだが、1つだけ可能性はある」
ザグラスはそこで言葉を区切った。
そしてこれは俺にとって希望にもなる言葉だった。
「治癒魔法を使用する時に本来ならば肉体ダメージと体内魔力を同時に回復していくものだが、その場合だと回復速度がとても遅くなる。つまり急激に治癒しなければならない状況で、更に治癒術者が居た場合ならありえるというわけだ。カラドリウスは元々治癒魔法を使えたので治癒魔法についての文献が山ほどある。だからこれは確かなことだ」
「つまりそれは……」
俺はつつーと自然に涙を流していた。その様子にロレオは「どうした?」と心配な顔をしていたが俺はそれに気付くことはなかった。
あの時、あの場に居たのは俺と死んだはずのイリアとルウとサイカとサイカの部下だけだ。その中で治癒魔法を使えるのは1人しかいない。
「よかった、よかったっ、うっうっ……」
俺は安堵して1人泣き出してしまい、何事か分からず心配顔のロレオは俺の背中を撫でてくれていた。
「ふむ、これを開けばいいのか?」
ザグラスは俺の首下の青い本を手に取る。落ち着いた俺はザグラスに本を開いてもらうように頼んだからだ。【スペサタイト王国】では昔は王が居たのだが、今ではザグラスが王の代わりに国を治めているとのことで、ザグラスならきっと本を開けるであろうと、予感があった。
「ああ、頼む。きっと開けると思う」
「アキラ!また逢おうな!」
結果が分かっているロレオは俺に向かって親指を立てながら言った。ロレオには世話になったからとても感謝している。
「確かに開けるようだ。このまま開くぞ」
「ああ、頼む。きっと一ヶ月後にまた俺は戻ってくる」
ザグラスの手によって青い本が開かれ、俺は本が放つ光に包まれた。
***
【ユークレース】に着いた俺はとてつもなく焦っている。
問題が起こったからだ。前回のようなものではないが、これはこれで大問題だ。
「こ、こ、これはいったいどこなんだーー!!」
周りには木々がうっとおしいほど生えて、複雑に入り組んでいる場所から俺は叫んだ。
そう今、俺は密林――つまり、ジャングルの中にいる。
俺の異世界の旅はまだまだ続く。
というわけで次回は【ユークレース】のジャングルからスタート。ジャングルと言えばあれだよね!
オーディンみたいな人が投げてるのはグングニル?
オーディンとグングニルを意識しておりますが両方とも本物ではありません。本当に神様との戦になったら軽く殺されてますしね。だから乗っている馬もスレイプニールではなくユニコーンとなっております。
しかし、アキラちゃんはオーディンだと思って戦っております。現代っ子ですので。
最後簡単に倒してるけど…?
投げている間は魔力を放出させて操るため、騎士と馬共に身動きが取れません。そのため反射させれば余裕で勝てると言うわけです。説明不足済みません。
結局前回の話の最後何があった?
いつか教えてくれます。