第8話:夢の中と夢の外
「美緒さんは、双真さんとはどう言った関係なんですか?」
「えっ!?」
双真を部屋まで運び、服を着替えさせ、ベットに寝かせた後、ホーミィは美緒に質問をしていた。
「どうって……幼馴染だよ?」
「いくつ位からのお知り合いですか?」
「小学校入る前からかな、あの頃、私イジメられてたから……」
「そうですか…それを双真さんに助けてもらっていたと」
「う、うん……」
美緒の顔が赤くなる。
その頃からもう双真に好意を抱いていたのだ。
「私はカリバーンに入学が決まって、初めて来るこの町を歩いていたら、いつの間にか裏路地へ入ってしまい、男の人に絡まれている所を助けてもらいました」
「双君、以外にベタな事したんだね……」
「とても嬉しかったです。一緒のクラスになった時、一番安心できる人が双真さんでしたので、パートナーになって頂きたいと思いました」
「でも、双君のパートナーは私だよ?」
「はい、なので譲っていただこうと思ってます」
その発言に美緒は驚愕する。
「ちょ! ちょっと待って!! 譲らないよ!? 双君は!!」
「パートナー制度は1ヶ月は強制力を持ちますが、一ヶ月を過ぎると、新しいパートナーを選ぶ事が出来るので……」
「そう言えば、そんなのあったね……」
(まずいっ! 一回決まればずっと一緒だと思ってたけど、ホーミィが全然諦めてない!!!)
「でもホーミィって他の人からも一杯声掛けられてるじゃん」
そう言うとちょっと寂しそうな顔をするホーミィ。
「その、悪い人では無い事は分ってるのですが、どうしても……」
「男性恐怖症か何か?」
「いえ、そうではないのですが、最初に絡まれた事が頭に残ってしまっていて……」
それって、絡まれたときの怖さなのか、双君に助けられた嬉しさなのかどっちなの。
重要なのはそこだよ……!!
「じゃあ女性のパートナーにすれば?」
「そう思い、声を掛けた事もあったのですが、他に一杯申し込んでくる人がいるからそっちにしたら? と言われてしまいました」
それは、ホーミィの人気に嫉妬しているだけじゃない………
「それに、必ずしもパートナーを決めなくてはいけないと言う事でもないので……」
「それで、もう少しで一ヶ月経つから、来月は自分のパートナーになって欲しいって事?」
「はい。そうです♪」
満面の笑みである。
ライバルとしては手強すぎる。
どうにかして他の男と引っ付けないと……でもどうやったらいいかな。
ブライト辺りは結構お似合いだと思うけど、本人に問題があるしなぁ。
あの軽そうなイメージが無ければ良い男だけど、未だに他の女性にも声を掛けまくって、撃沈記録更新中だからなぁ……
「ぐ…ぅ……!」
考え事をしていると双君から苦痛の声がした。
眠っていても辛いのだろう。
回復魔法で痛みを和らげる事しか出来ない自分が悔しい。
それも回復魔法なら、ホーミィの方が圧倒的に上手い。
今回自分は殆ど出る幕が無いのだ。
「双君……大丈夫かな……」
「大丈夫ですよ美緒さん、私達が双真さんを信じなくてどうするんですか?」
「そう……だよね。明日になったらいつもの双君に戻ってるよね」
「はい、過出力症は長くても半日位で症状が治まるので、明け方には元気になりますよ」
「うん、苦しそうにしてる時に、回復魔法で紛らわせてあげれば……大丈夫だよね」
「はい、大丈夫です」
こうして私と、ホーミィは一晩中双君の看病を続けた。
「お前……誰だ?」
違和感を感じる。
多分此処は夢の中だ。
それなのに、何か別の物が居る。
「お前か、私を倒した者は」
あの時の声がする。
「別に争う気は無い。私は褒美なのだから」
確か、倒した時にも同じ事を言っていたな。
「褒美って……どういう事だ?」
「勝手だが、お前の記憶を覗かせてもらった。私がその褒美その物だ」
「お前があの鱗なのか?」
頭の中に流れてきた情報を元に、俺はこの鱗を真っ先に入手した。
「正確に言えば鱗に封印されている物だ。お前達の世界では私の事を宝玉と呼ぶ」
「宝玉!?」
宝玉、強大な魔力を持つ魔物が極稀に発見される。
似た物に竜玉というものがあるが、これはドラゴンの力の一部が結晶化したものだ。
宝玉とは、その魔物の力その物が内装されている。
レア度で言うなら超激レアだ。
一番安い宝玉でも家が建つ程の値段はする。
「宝玉に意思があるなんて聞いたこと無いぞ。知らないだけかもしれないが、とにかく敵対心は無いんだな?」
「だからお前の夢を介して話をしに来たのだ」
「つまり、残存思念って事か……」
「少し違う。私は本体から分離した魂の一部だ。つまり、お前の倒したドラゴンと同じ魂を持っている」
「しかし、物好きだな、自分を倒した相手に話があるとは……」
「与えたのは良いが、使われなければ意味が無い」
使うか使わないかは本人次第だと思っていたが、どういうことだろう?
使ってもらわなければいけない事情でもあるのだろうか。
「たしかに、使い方なんて全く分らないが…」
「先ずはお前の血を一滴垂らせ、その後に私の名を呼べば契約は成立する」
「契約って事は、俺にも何か制限が掛けられるのか?」
「生きている内はほぼ無い、死んだ後に少しある」
「内容は?」
「お前の血肉を貰い、私が復活する」
「って事は、わざと負けたのか!? 俺を次の肉体にする為に!?」
「違う、私もまさか負けるとは思っていなかった。だが負けてしまってはお前を次の寄り代にする以外、私が生きる方法が無いのだ。お前は力を得る。私は次の生を約束される。生きている内にデメリットはない。悪くないはずだが?」
確かに悪くない、褒美と言われた意味も使わなければ意味が無い事も理解した。だが………
「1つだけ条件を追加していいか?」
「内容による」
「俺が敵との戦闘中に死んだ場合、その時だけで良い、俺の仲間を守ってくれ。その後、仲間に契約内容の説明するだけでいい」
「………分った。良いだろう」
「契約成立だ。起きたら鱗に血を垂らして名前……なんて言うんだ?」
「バビロン」
「分った。これからよろしくな、バビロン、今の所はあまり出番が無いと思うけどな」
「なぜだ? 力があるのだから使えば良いだろう」
「今使ったら研究所が絶対何か言って来て、間違いなく面倒な事になる」
「私はこの世界に来たばかりだ。何も知らない、お前と共に過ごしながら色々見ていくとしよう」
「場合によっては盗まれる可能性があるんだけど、そう言うときはどうすればいい?」
「契約時に自動転移が設定される。世界の何処に居ても私を呼び出せるようになる」
「なら問題ないな。早速明日使わせてもらう」
「私は使えないんじゃなかったのか?」
「出番が無いだけさ、練習はする。お前を使っても絶対ばれない空間があるのさ」
「よく分からない世界だ……」
「じゃあ、楽しみにしててくれ。これから色々あるだろうから」
「ふむ……ではお前の人生を見せてもらうとしよう」
そうして、俺はバビロンと契約をするのだった。