第7話:決戦は金曜日!
気合充分、練習不十分、今日はトーナメント当日、俺は臨戦状態でも何とか美緒と同じぐらいの魔力に抑えたまま魔力をコントロール出来る様になった。
これで加速魔法が行えるようになったのでトーナメントでも良い所までは行けそうな気がする。
「うわぁ! 双君に魔力が追いつかれてる!! 一体どういうこと!?」
「ふふふ…ホーミィからのアドバイスに更に自分で改良を加えた結果さ……」
「凄いですね……双真さん、私もその内追い越されてしまいそうです」
一生懸命頑張って魔力抑えてます。
なんて言えない……魔力の量は十分だってことが分かったのなら、今後は足りない技術面を優先的に鍛えて行きたい。
その為にもほかの人の戦闘を実際見て、参考に出来る所を取り入れようと思っている。
「皆さん、今日は全力で! 全力で!! 勝ちに行ってくださいね!!! 手加減なんてする必要はありません!!!」
エヴァンス先生のテンションがどんどん上がっていく……
「宮元君…? 成程そうしましたか……」
「まぁ、コレが一番無難だと思ったので」
「能ある鷹は爪を隠す…でしたっけ?」
「よく知ってますね。日本のことわざなんて、でも今日でばれちゃ良そうですけどね」
先生は俺の選択に満足しているようだ。今日バレるとしても、今後のために魔力の消費を抑える手段は知っておいたほうが良い。
「目標は?」
「ベストを尽くします!」
「優勝してきなさい!!」
怒られた。
まぁ全魔力を使って持久戦に持ち込めば優勝も出来なくは無いかもしれないけど、それが出来る相手が現状では少ない。
俺自身この力を隠し通せるとも思ってない。
今までが弱すぎて現実視出来なかった事ばかりだったから、これからはもっと上を目指せるはずだ。
そしてこのトーナメントで美緒も気が付くと思う。
自分の可能性に、まだまだ底が見えない所じゃない。
まだスタートラインにも立っていない事に……
「美緒」
「何? 双君」
「よく覚えておけよ。このトーナメント」
「どう言う事?」
「お前はまだスタートラインにも立っていないって事がよく分かる。お前もこのトーナメントできっかけを作れるといいと思う」
多分言ってもまだ理解は出来ないと思う。
けど言っておけば少しはきっかけになるかもしれない。
「もう、双君? 頭おかしくなっちゃったの? 魔力が私と同じくらいになっただけで?」
「井の中の蛙大海を知らずって事さ、きっとまだ俺も……」
「まるで今の私が何も知らないみたいな言い方だね……?」
怒ってる怒ってる。
けど、現実を見れば言葉を失う。
自信も無くなる。
だから予め脅しておく事でそれを緩和するのだ。
「そう言う双君はどうなのよ!! 私より弱っちい癖に!!」
「安心しろ。今日の順位は間違いなくお前より上だ。だから最初っから全力で飛ばせ。じゃないと一回も勝てないまま終わるぞ」
そして丁度美緒が呼ばれる。
トーナメントの初戦はランダム抽選だ。
誰に当たっても文句なしと言う事だ。
「初戦か、都合がいいな、後の試合全部見れるぞ。全部見ておけよ? 絶対お前の為になる」
「ふんっ! 絶対負けないんだから!!」
これで美緒は最初から全力を使うだろう。
エヴァンス先生の言葉が本当なら美緒の勝率は50%かそれ以下だ。
A組サーシャ=ケルエムさん対B組麻井美緒さんの対戦です……試合開始!!
「はぁ!!」
美緒はセオリー通りの遠距離攻撃の連射だ。
サーシャはそれを難なく避ける。
相手の出方を伺っているようだ。
更に美緒は威力を抑え、手数を増やし相手を翻弄しようとする。
「へぇ……以外に頭は回るんだ」
「減らず口を叩くのもそれまでよ!!」
他の魔法の中に隠していた一発が死角からサーシャ目掛けて飛んでくる。
咄嗟のことにシールドも出せないままサーシャに直撃するが……
「威力不足だね」
余裕の表情を保ちつつサーシャは反撃を仕掛ける。
「くぅっ!!」
美緒はシールドを使うが、すぐにシールドは破壊され、あっという間に魔力は削られていく。
魔力が違いすぎる……!!
一体どうやってここまでの魔力を……
それに双君の言葉はこの事を言っていたの…?
「弱くは無いよ、でも決して強いわけでもない。でも今の貴方じゃ他次元関係の仕事は務まらない。まずは心構えからやり直してきて。それが出来なければ貴方はカリバーンを卒業できない。今のはアドバイス……折角入学したのだから、現実だけでも受け止めてね。さっきの攻撃には驚かされたから、素質はあると思う」
サーシャは優しく笑っていた。
優しく現実を私に教えてくれた。
トーナメントを覚えておけ、その言葉の真意が見えた気がした。
私の完敗だった………
「お疲れ」
「うん、私ね……」
「言わなくて良い、自分が一番分かってるはずだから」
ショックだろうな流石に、でも今日それに気が付けたのは大きな一歩なのだと思う。
「うん、ちょっと……トイレ行って来るね」
「あぁ」
そっとしておいてやらないとな、こういう時は……
そして俺の名前が呼ばれる。
「俺も、気合入れていかないとな!」
首をコキコキ鳴らしながら俺は会場に向かっていった。
「よろしく」
「っけ、スカウト組が……調子に乗るなよ」
相手は同じクラスの奴だった。
スカウト組否定派の1人だ。
「なんでスカウト組そんなに嫌いなんだ?」
「気に入らないんだよ、俺達は真面目に試験受けたって言うのに、楽して入ってきた奴に俺達の苦労が分るかよ!!」
「器が小さいな、だったらスカウト組を引っ張っていく位の器を見せてみろよ。先生達の評価が違ってくるぞ?」
「……うるせー、調子に乗ってんじゃねーよ。お前はここで再起不能にしてやるよ」
どうやら癪に障ったらしい。
敵意が嫌でも伝わってくる。
でも、甘いぜお前、過程はともかく今はお互い立場は変わらないんだ。
大事なのは今からどう結果を出していくかだ。
「試合開始!」
お互い無言で突っ込む。
どうやらこいつも近接が得意らしい。
懐かしいな。
美緒もホーミィも遠距離か中距離ばかりで近距離戦闘は本当に久しぶりだ……!!
結構早い、コイツも実力を隠しているのだろうか?
そう思いさらに速度を上げる。
相手の戦法を見たい俺は直接殴る事より、シールドや攻撃を防ぐ事を重点に置いた。
「おまっ!?」
相手に焦りが見える。
どうやらこの速度で限界のようだ。
以前の俺ならこの速度でもついてこれなかったと思う。
こいつもまだ美緒と同じなんだろう。気付いていない。自分自身に……
「悪いな、終りだ」
拳に魔力を込めシールドを掻い潜り鳩尾に入れる。
相手は魔力切れと同時に気絶、俺の勝ちになった。
そして会場がざわつく……今まで殆ど無名だった俺が急に力を付けたからだろう。
ひょっとしたら隠していたと勘違いしている奴も居るかもしれない。
「おい」
聞いた事の無い声に突然呼ばれ、振り返る。
グランだった。
正確にはグランの周りに居る1人が声を掛けてきた。
現状一年生最強のグラン、取巻きを連れてのご登場か。
ネトゲのボスみたいだな。
「何?」
「おい! グラン様に向かってその口の聞き方はなんだ!」
今の時代に本当にこういうこと言う人居るんだなぁ。
グランはスカウト否定派ではあるが、イジメをしているとかそう言う悪い噂は聞かない。
「あれが君の全力かい?」
「さぁ? 最近力に目覚めたばかりでな……使い勝手がよく分からん」
「スカウト組にしてはまとも奴がいると思ったけど、僕の勘違いかな…?」
「じゃあお前は強いの? ちょっと見せてよ」
どうせいつか当たるんだ。
今ある程度力を確認しておいても良いだろう。
「お前……!!」
取巻きが胸倉を掴む……が
「止めろ、お前じゃ勝てない」
グランに言われると、取巻きは不満そうな顔をしながら手を離した。
「まぁ、お前でも勝てないけどな?」
さて……乗ってくるか?
「無駄だ。そんな挑発には乗らない」
「そうか…意外と冷静だな、俺の知り合いなら間違いなく突っ掛かって来たんだが……」
「そんな奴と俺を一緒にしないでくれ、決勝で待ってるよ」
「珍しいじゃないか。学年最強で有名なグラン様がスカウト組にそこまで言うとは」
「君に興味が沸いただけだ。そこまでの実力があれば、普通に試験を受けて合格できそうだが、なぜそうしなかった?」
「だから、俺の力は最近自覚したばかりで、使い勝手がよく分かってないんだ」
「成程、ますます君と戦うのが楽しみになってきたよ、決勝戦で会おう」
「いや、そもそも決勝まで行けるか分からないっての……」
そう言ってグランは去っていった。
「どう? グラン君は?」
気が付くと隣にエヴァンス先生が居た。
「完璧じゃない? 初めて話したけど自分に絶対の自信を持ってる」
「貴族なのよ、両親揃っての」
「融通が利かないって奴か……」
「でも、カリスマ性もあるからああやって取巻きも出来るの」
「努力したんだろうな……それ相応の」
「宮元君だって努力したんでしょう?」
努力? 違うな、俺は別に努力したわけじゃない……あんなのは努力と言わない。
「先生、俺は努力したんじゃないんです。必死に耐えて来ただけなんです。3年間色々な苦しみから」
「それがきっと今の貴方の力なのよ。その耐えている間にレアスキルが発現したのかもしれないわね」
「止めて下さいよ先生、そんな事言ったら、俺は力なんて要らないから、あの過去を無くして欲しいです……周り全てが憎かったあの頃を……」
俺は、あの3年間の苦しみが無くなるのであれば、本当にこの力を手放しても良いと思っている。
「トラウマのようね……」
「一生消えることは無いと思います。でも、あの過去が有るから現在がある。今は後ろを振り返るより今は前に進みたいです」
振り返っても過去は変わらないなら、思い出したくない過去より、新しい力を手にした未来へ進むべきなんだ。
「頑張ってくださいね」
「優勝できるとは限りませんよ?」
そして2人で笑った。
そう、俺は笑えるようになったのだ。
それは間違いなく良い事だと信じている。
「双君…? コレは一体どう言う事……?」
「まいぱわー」
「おかしいでしょ!? ありえない魔力してるよ!? ホーミィより上だよ!?」
あの後結構手強い人が居たので思わず魔力を抑えずに戦ったのだが、試合終了後早速美緒に尋問された。
「今までが待機状態ぃ…?」
「だから、レアスキル持ちは潜在魔力も高いって……」
「はぁ、私、自信無くなっちゃったよ……」
「美緒、最初に言ったこと覚えてるか? トーナメントを覚えておけって言ったろ?」
「そうだけど、こんなに差をつけられちゃったら……」
「力は掴み取る物だ。力を精錬する物が技術だ。まぁ先生の受け売りなんだけどさ……美緒は今の俺よりは強くなれると思ってる」
「無理だよ……私一生懸命頑張ってきたんだよ? 自分の部屋でも一生懸命練習してるんだよ? どうして? ねぇどうして!?」
いかん、完全に混乱してるな……
「美緒、よく聞け。今からちょっとだけお前に答えを教える。意味が分れば、お前は強くなれる」
「え……?」
「お前は、魔法を使う時に何を考えてる? 何の為に魔法を使う? その先に答えが待ってる。後は自分で考えな」
「双君……」
「俺は次の試合があるから……」
そうして俺は美緒を別れた。
次の試合……決勝戦、相手はグラン。
まさか本当に戦う事になるとはな……
でも、ここで勝ってスカウト組を卑下してる連中に一泡吹かせることが出来れば、少しは印象が変わるかもしれない。
「よく来たね」
「勝ち続けたら結局こうなるだろ……ひとつ聞きたい、なぜスカウト組を否定するんだ?」
「自分を向き合おうとしないからだ。自分と向き合ってさえ居ればスカウト組なんて無くなる。皆強くなれるんだ……! なのに……!!」
それは結果論だ。
向き合って初めて分かることだ。
皆お前みたいに強い奴ばっかりじゃない。
間違ってはいないが正しくもない。
「人にはそれぞれのペースって物があるんだよ」
「それでは生き残れない。僕はそう教えられ育ってきた」
「頭固いなお前、もう少しユーモアのセンスを磨くことを勧めるぞ」
「だが見てみろこの様を、目覚めているのは全体の半分以下だ。だから見せ付けるのさ。強さを、自分自身に気付かせる為に!!」
グランが魔力を開放する。
それは一年としてはオーバースペック、2年生のトップクラスと比べても遜色は無いだろう。
「そうか、お前は独りなんだな……」
強すぎる力、それは人を孤独にする。
表面は良い格好をしても、裏側までは分からない。
だからこいつは寂しいのだ。
故に強さを掲示し、それに感化され自分と同じ様に目覚める人間を待っているのだ。
自分と同じ位強いのなら、きっと友達になれると思ってる。
俺にはわかる。
グランは自分の力で寂しい、寂しいと訴えている。
「うるさい!! 黙れ!!」
その顔が言ってるぞ。
俺が羨ましいと……そして試合が始まった。
「お前なんかに!!」
俺には美緒という幼馴染が居る。
だがグランに幼馴染は居ない。
たった1人理解してくれる友人が居るか居ないかだけの差、美緒が居なかったら、俺もグランと同様になっていたのかな。
昔はあんなに――てやりたいと思ってたのに……
「分かるかぁ!!」
感情に任せ高威力の魔法を雨の様に落としてくる。
俺はそれを避けつつ、グランに接近する。
「わかんねぇよ!! そんな事!!」
殴る。
吹っ飛ばされる。
殴られる。
吹っ飛ばす。
喧嘩そのものである。
何時しか複雑な魔法など使わない、拳に魔力を乗せただけの殴り合いになっていた。
「はぁ…はぁ…やるじゃないか…!」
「そっちこそ! 流石一年最強のグラン様だな…!!」
殴る際の魔力消費は俺の方が上だが、俺の方がグランよりスタミナがある。
結果として状況は五分五分と言った所だ。
「じゃあ、そろそろ終りにしてやろう…!!」
更にグランの魔力が上がる。
「マジかよ……参ったなこりゃ……」
等と言っているが、顔はニヤけて心の中はワクワクしていた。
「いくぞぉ!!」
俺も魔力を更に上げてグランに殴りかかろうとした瞬間……
ズウゥゥ……ン!!
何も無い空間から突如巨大な生物が現れた。
「なっにぃ!?」
「馬鹿な!! ドラゴンだと……!?」
ドラゴン、他次元に生息する竜種の総称。
大抵のドラゴンは属性を一つ以上持っており、それぞれの属性のブレスや魔法攻撃を行う。
トレジャー中に遭遇しても基本的には穏便に済ませることが多く、滅多な事では手を出さない。
「冗談じゃないぞ……こんなの俺達が手に負える相手じゃない……」
「むしろ、どうやって入ってきたんだ!?」
ドラゴンが2人を見る。
黒い巨躯、雄雄しい牙、逞しい翼、鋭い眼……双真は生まれて初めて見るドラゴンに不謹慎ながらカッコいいと思っていた。
そして、ドラゴンが眼をしかめた途端……2人は隔離された。
「どうなってるんだ!? これは!?」
何が起こったのか全くわからない俺はかなり焦っている。
「落ち着け、結界に閉じ込められただけだ。最悪なケースだが……」
結界の中に居るのは俺とグランとドラゴンのみ、結界の大きさは対戦スペースを丸ごと呑み込んだ位のサイズだ。
「いや、だから!!」
「落ち着け!! 死にたいのか!?」
落ち着けという言葉で冷静さを取り戻す。
(どうする?)
必要以上の刺激を避けるため思念会話に切り替える。
(他の奴らが外側から結界を破ってくれるのと待つしかない……)
(それまでコイツとやりあえってか?)
(無理だ、今の俺とお前では1分も持たない)
(内側から破れないのか?)
(結界自体を破壊するのは無理だが、ドラゴンにダメージを与える事が出来れば綻びが生まれ突破口になるかもしれない)
(つまり……どの道アイツとやるしかないって言うのか……)
(馬鹿な事は考えるな、魔力を通せる武器も無いのではどうする事もできない。外では恐らく教師陣を総動員して外側から救出を試みているはずだ、今は1秒でも時間を稼ぐことを考えろ)
(いや、無理だろ、多分……大人しく殺されるか、抵抗して殺されるかのどっちかだと思うぞ?俺は……)
漆黒の竜はこちらの様子を伺っているが、結界に異変が起きた途端襲ってくるだろう。
相手が動く前に俺達は作戦を決めなければならない。
(…………宮元、まだ魔力余ってるか?)
(それなりには)
(お前は大人しく殺されるのと、抵抗して殺されるのはどっちが良い?)
(抵抗するに決まってるだろ。外には美緒達だって居るんだ。少しでも魔力を消費させる)
(こんな時まで他人の心配か?)
(どの道ここで死ぬのなら、他の奴等には生きて欲しい、それに万が一って言う事だってあるしな)
(何もせずに死ぬのは無駄死と言う事か……納得だ)
(どうした)
(覚悟を決めた。お互い出し惜しみは無しだ)
(分かった、作戦は?)
(動いた瞬間にお前の右手に剣を転移させる。俺の家の家宝だ。それを使え)
(家宝の剣?)
(竜殺しの剣アスカロンと言う魔剣だ、剣に魔力を注げば発動する。ありったけの魔力を使ってアイツに突っ込め、隙は俺が作る)
(自分の家の家宝ならお前が使えばいいじゃないか、俺が使ってもいいのか?)
(本来ならばそうだが、お前の方が魔力が高い、今は、少しでも生きる可能性を重視する。隙は作れて一度だ。外すなよ?)
(分った…!)
闘志を漲らせ、自分を興奮状態にする。ここから先は試合じゃない。
殺し合いだ。
殺されなかった方しか生き残れない。
ビビったら負けだ。
(行くぞ!!)
(任せろ!!)
グランが動く。
水属性のウォーターアローを連射する。
それと同時に俺の手に竜殺しの魔剣アスカロンが転移された。
ずっしりと来る重さ、剣の纏っている魔力も半端じゃない。
だが臆している場合ではない。両手で握り締め、グランの言っていた隙を待つ。
「このおおぉぉ!!!」
連射に次ぐ連射、漆黒のドラゴンは避けもせず、黒いシールドを使い完全に攻撃を防ぎきっている。
とても隙など生まれそうに無い。
ドラゴン自体も遊んでいるように見える。
これでは埒が空かない……!
俺もこの剣を使って突っ込めば……
大剣を構え援護に突っ込もうとした時……
(止めろ!!)
グランに止められた。
(奴はまだその剣が竜殺しの剣だと知らないんだ! 今使って警戒されればその時点で勝機は無くなる!! 黙って見ていろ!!)
「クソっ!!」
焦っている。
このままではグランの魔力が尽きてしまう。
そうなれば、なりふり構わず俺が突っ込むしかない。
あのグランの猛攻を物ともしていないドラゴン……そんな奴に正攻法が通じるわけが無い……!!
(もうすぐだ……準備しておけ!!)
もう、信じるしかない、グランの作る隙を……!!!
そして、グランがニヤリ笑った。
横目で見ていた俺は確信する。
次の一瞬で奴に隙が出来ると……!! 魔力全開、先ずは当てることに専念する!!!
次の瞬間、漆黒の竜は氷付けになった。
周りに飛び散った水を瞬時に氷に変えたのだ。その瞬間、俺は爆ぜた。
「あああぁぁぁぁ!!!」
全速力でドラゴンに突っ込む、このタイミングなら間違いなく直撃する!!!
ギィン!!
何かに遮られた。
氷ではない。
だが関係ない。
何に遮られていようがやる事は一つだ。
ありったけの魔力を剣に叩き込む!!!
「いけぇぇぇぇぇ!!!!!」
遮っていたのはドラゴンの張ったシールドだった。
だが、咄嗟の事だったのか、シールドが薄い、アスカロンがシールドを破壊する。
パキィン!!
その瞬間、結界も破壊された。
だが、此処で終わってはいけない。
これは千載一遇のチャンスだ。
今しとめておかなければ被害は増えるだけだ!!
アスカロンの刃がドラゴンに触れる寸前、また遮られた。
今度はシールドではない。
ドラゴンは自分に纏わせた魔力のみで剣を押し止めている。
「くっそぉぉぉぉ!!!」
俺の魔力ももう限界だ。
万事休すか……!!
(力は、掴み取る物です)
思い出す。掴み取るという言葉を、自分の中にある得体の知れない「何か」、その「何か」を掴み取り、アスカロンに叩き込む。
その瞬間アスカロンは輝きを増し、ドラゴンの魔力を吹き飛ばし、深々と突き刺さった。
そしてアスカロンの竜殺しの魔力が体内を駆け巡る。
「グガアアァァァ!!!!!」
ドラゴンは絶叫を上げ、その場に倒れた。
「はぁ!! はぁ!! はぁ!! はぁ!!」
俺は乱れた呼吸を整えることで精一杯だ。
魔力もからっぽ、剣を振るうことも出来ない。
そんな中頭の中に声が聞こえてきた。
(見事だ……褒美をやろう。持ってゆけ)
そして、頭に流れてくる情報。
成程、これが褒美らしい。
「宮元君!? スフィア君!? 大丈夫ですか!!!?」
血相を変えてエヴァンス先生が飛んでくる。
周りを見るとエヴァンスは離れた所で倒れながら此方を見ていた。
お互い魔力はカラッポなので思念会話も出来ない。
「生徒を避難させてから、救出に向かおうと思っていたのですが………」
俺とグランを回復させながら結界の外で起こっていた事をエヴァンス先生から聞いた。
結界が張られた後、すぐに生徒を避難させた。
外側に更に結界を張り、その後に教師総出で救出に向かう予定だったそうだが、生徒を避難させ結界を張った所で、俺たちが自力で脱出したそうだ。
ドラゴンへの攻撃は俺がドラゴンから離れるのを待っていてくれたそうだ。
「直に助けに行けなくてごめんなさい……」
申し訳なさそうに頭を下げるエヴァンス先生。
「じゃあ、先生、ちょっと質問があるんですけどいいですか?」
エヴァンス先生の回復魔法で、ある程度動けるようになった。
今の内にドラゴンの言っていた褒美を貰っておこう。
「あのドラゴンだけど、倒したのは俺とグランだから、あのドラゴンは2人で山分けですよね?」
「確かに、俺達2人で倒したからそのはずですから」
グランも、回復魔法である程度は元気を取り戻したらしい。
「はい、そうですが新種の場合、一部の素材は研究所に寄付と言う形を取ってもらうことになると思います」
「じゃあ、その一部は俺とグランの両方が許可をしたもの限定とさせてもらいます」
「それは……研究所との相談になると思います」
ここまでは予想通りの返答だ。
突然現れたドラゴン。
新種の可能性もある。
となると、生態の研究のために研究所がサンプル提供を言ってくる事は間違いない。
研究所で調べられれば、間違いなく褒美は研究の対象となり持って行かれてしまう。
そうなってしまう前に、俺が手に入れなければいけない。
命懸けで倒したのだ。
その報酬を横取りされては堪らない。
「じゃあ、俺は今ファーストドロップ権を使います」
ファーストドロップ権、その獲物を倒した人達が得られる権利。
この権利を使った品物は本人の独占が許さる。
但し、それは一つの獲物につき、一つの素材のみである。
「グラン、お前はどうする?」
「俺は、少し休憩する。それにそいつはお前が倒した獲物だ。俺はサポートをしただけさ」
「持ち上げるなよ、お前のアスカロンがあったから倒せた。2人じゃなきゃ倒せなかったんだ。ファーストドロップ権はお前にもある」
「じゃあ、先に選んでくれ。俺は後でいい。アスカロンには察知の魔法もある。どの素材が上質な物か判別できるぞ? 使うか?」
「生憎、魔力はカラッポさ、それに、どうしても早く見せたい相手が居てな、今剥ぎ取らないと暫く研究所保管になると思うし」
「確かに、そうなると少し先になるな、アドバイスだ。鱗を選べ。それで武具を作れば、お前のスピードを生かした戦闘が出来るようになるだろう」
「そうか! ありがとう」
俺は息絶えたドラゴンを1周する。
デカイ。
こんな奴に勝ったなんて今でも信じられない。
完全に不意を付いた筈なのに、二度も止められた。
思い出しただけで震えてくるような魔力を感じだ。
はっきり言って、もう二度と相手にしたく無い。
「これだな……」
尻尾にある1枚の鱗、これが褒美の情報だ。
あの声が本当にこのドラゴンだったのかは分からない。
だがあの声が聞こえたときに頭にこの鱗の情報が流れてきた。
何かあるに違いない。
だからファーストドロップ権を使ったのだ。
研究所に渡る前に、俺がどうしても手に入れておきたかった物。
アスカロンを使い、丁寧に剥ぎ取る。
「先生、俺はこれを貰います」
「分かりました。それはもう宮元君の物です」
「結構時間が掛かっていたな?」
「どれが綺麗かなって見てたのさ。どうせなら綺麗な鱗が欲しいだろう?」
「見せる事が目的なら確かにそうだが、本来なら上質な素材を見分け、厳選するのが基本だからな」
「そっか、じゃあ素材を分けるときはアスカロンを使って分けたほうがよさそうだな」
「そうするとしよう。双真」
初めてグランから名前を呼ばれた。
そして、その顔からは敵意は無い、清々しい顔をしている。
憑き物が取れた感じだ。
「所で、決勝の勝敗ってどうなるんだろうな?」
「そんなの、どっちでもいいじゃないか、あんなのと戦った後だぞ?」
違いない、と2人で笑う。
すると、そこによく見知った2人が来た。
「双君!! 双君!!」
抱きついてくる美緒。
そこでようやくく気が抜けたのか、俺は眩暈を感じた。
「双真さん……? っ!? 大丈夫ですか!?」
後から来たホーミィにすぐバレた。
頭痛と吐き気がする。
「気が…抜けたからかな……部屋で休んでくるわ……」
体が重い。
足元がふらつく。
さっきまで何も無かったのに、一体どうなっているんだ……?
「っつ!?」
倒れそうになった所を美緒に支えられる。
「双君!? 大丈夫!!?」
「あぁ、休めば大丈夫だろ……悪かったな」
そのまま歩こうとするが、足が言う事を聞いてくれない。
今度はホーミィに支えられる。
「双真さん……一人で行くのが無理でしたら私達が付き添いますから……」
本気で心配している。
大丈夫な所を見せようと思い踏ん張ろうとしても力が入らない。
「あ……れ……?」
今度は方向感覚まで狂って来た。
自分が立っているのかすら分からない……
「過出力症だ。滅多に起きない症状だが……起こっても不思議ではない。最後の魔力は尋常じゃなった。明らかにキャパシティを越えた魔力を使っていた。その反動だろう」
過出力症、今まで使った事の無い魔力をいきなり行使し、体が魔力に着いていけず起こる症状だ。
「個人差もあるが、最悪の場合死ぬ……」
「死ぬって……そんな……」
美緒の顔が青くなる。
「大丈夫です! 絶対に死なせたりはしません!!」
ホーミィが言い切る。
「先生、私達2人に双真さんの部屋の外泊の許可をください。何かあれば必ず知らせます」
「分かりました。他の先生はこのドラゴンの事で手が一杯でしょうから、何かあったら直に連絡してください」
美緒達は何を言っているんだ……?
良く聞こえない……早く……休まなきゃ………
そして、俺は意識を失った。