第6話:始まりの目覚め
カリバーンに通い始めて一週間、勉強は美緒にサポートしてもらいながら、何とかこなしている。
実技の方はそれなりに順調だ。
今日の最後の授業はエヴァンス先生の属性魔法についてだ。
「では、今日は属性魔法についてです。属性魔法には、火、水、土、風の4属性に光と闇等の特殊系があります。4属性は皆さんが練習すれば習得する事ができますが各属性に得手不得手が存在します。光と闇等の特殊系はレアスキルである事が殆どです」
ひょっとしたら俺のレアスキルも光属性か闇属性の可能性があるって事か。
光の勇者とか、闇の戦士とか。
やっべカッコいいな……
「苦手な属性については、エレメントか魔物の素材を使った武器や防具で補う事ができます。中には光属性や闇属性を備えた武器も存在しますが、非常に高価ですので今の皆さんでは見る事はまず無いと思います。予定では来月から属性魔法の実習を行っていきます」
エレメント系の武器とは通常の武器に後から属性を付加した物を言う。
魔物の素材を合成して作る場合は、その魔物の得意な属性がその武器に付加される。
基本的にエレメントよりも魔物の素材を使ったほうが質の良い物が出来る。
中にはその魔物の素材を使わないと使えない魔法もある。
そう言う武器や防具は錬金術をする場合に特に重宝される。
一通り基本的な事を勉強した所で今日の授業は終わった。
そして今週末は初期段階の実力を見極める為の実戦形式のトーナメントがある。
HRにエヴァンス先生から説明があった。
「今週末のトーナメントのルールを説明します。一学年全ての生徒が参加をします。勝敗は公式試合と同じく、場外、魔力切れ、降参の3つで勝敗が決まります。是非とも優勝してください!!」
エヴァンス先生の張り切りを見ると、教師陣の争いは既にこの段階から始まっているらしい……
「スカウト組も参加するんですか?」
「勿論です。スカウト組も含めて全員参加です」
一部の生徒がニヤニヤと笑っている。
スカウト組は一部の生徒達からの卑下されている。
正規の手順を踏まずに入学しているスカウト組は、将来的な実力を視ている教師と違い、現状の実力しか視ていない一部の生徒から酷く毛嫌いされている。
幸い俺には一年の中で十指に入る実力のホーミィが俺を贔屓してくれているお陰でクラスの中では穏やかに過ごせている。
「流石に、戦闘実践となってしまっては私にはどうにも出来ないですね……試合開始直後に降参したらいいのでは?」
「ホーミィ……それだと俺自身の為にならないよ……練習してる魔法も試せないし……」
「双君もそれなりに練習の成果が出てるとは言え、やっぱりまだ厳しいと思うよ?」
俺はホーミィと美緒の合同練習が終わった後に1人で練習をしている魔法があり、一度試してみたいと思っている。
前から練習しているのだが制御が難く、まだ合同練習では使っていない。
完璧にコントロールが出来ないと練習とは言え危険が伴う可能性があるので使いたくない。
だが、それは親しい友人と言う間柄だけで、他の生徒(主にスカウト組を毛嫌いしてる奴ら)になら使ってもいいと思っている。
なので、俺はこの戦闘実践を実は楽しみにしている。
「宮元君、放課後ちょっと来てください。話があります」
「はい」
俺って何か問題起こしたっけ?
身に覚えはないけどなぁ……そしてエヴァンス先生に連れてこられたのは、プライベート空間だった。
プライベート空間、一般練習部屋ではなく、誰にも知られたくない魔法を練習する為に用意された部屋。
入るには予約をする必要がある。
比較的高レベルの生徒しか入れない。
俺のクラスではホーミィが申請すれば予約が取れるかもしれない。
「プライベート空間なんて初めて入りましたよ……」
「ええ、ここなら話をしても誰にも聞こえませんからね」
「何の用ですか?」
「ここで全力で魔力を開放してください」
よく分からないが、言われたとおり全力で魔力を開放する。
「入学式の検査で見たときよりは上がってますね」
「毎日練習してますから、それがどうしました?」
エヴァンス先生は落胆している。
おかしいな、これでもちゃんと魔力は上がってるはずなのに……
「これではトーナメントで戦う所ではありません」
「それは……どういうことですか?」
「一学年の半数以上の生徒は本当の実力を出していません。隠している人は最低ホーミィさん位は強いです。ホーミィさんはあの性格ですから仕方ないですけど、宮元君? 貴方は自分の力を発見する前と今と比べてどれ位自分は強くなったと思いますか?」
「自分なのに自分じゃないような感覚になりました。頭の中でこれだけの魔力があれば何でも出来ると錯覚するほどに……でも現実は全く違った。カリバーンでは俺程度の魔力は当たり前でした」
今思っている正直な気持ちだった。
俺は自分が世界レベルから比べるとどの位置に居るのかさっぱり判らない。
中学の頃は美緒がかなりレベルが高いと思い込んでいたが、カリバーンに入ると普通になっていたのだ。
そう言う意味では俺は世界が見えていない。
「成程、力の発現が唐突過ぎたという事ですか。では私が思っている中で一年生で一番強いと思っている生徒は誰だと思いますか?」
「やっぱり、A組のグランじゃないですか? 一回練習見ましたけど、あいつは別格ですよ」
グランは魔力、技術共に非常に高い。
恐らく1年の全生徒に同じ質問をすれば殆どグランと言うだろう。
ディートハルト中学の時の美緒のような状態だ。
そして彼もスカウト組にはいい印象を持ってないらしい。
しかし、エヴァンス先生の答えは信じられない答えだった。
「私が一年生ので一番強いと思っているのは宮元君です」
いや、ありえないだろう……クラス単位で見れば俺は半分から下の順位だ。
一学年全体で見ても下の中辺りを彷徨っているだろう。
「先生……鼓舞のつもりですか? 流石に自分の実力位分かりますよ……」
そしてエヴァンス先生は真剣な眼差しを向けて俺に言った。
「宮元君、貴方は何時まで待機状態の魔力で戦っているのですか?」
「えっ……?」
待機状態だって? そんな馬鹿な話があってたまるもんか。
それは待機状態じゃなくて全力でしか使ってないだけなんだけだ。
あぁ、そう考えるとますます頑張らないとって思えてきた。
「その様子ですと自分で気が付いて居ないようですね、私はてっきり隠している物だと思っていましたが……」
先生は先ほどまでの落胆の表情はないが、非常に困った様な顔をしていた。そんな事を言われても俺の方が困ってしまう。
「先生、この魔力が待機状態ってどういう事ですか? 全く分からないですよ。それに俺がグランより強いわけ無いじゃないですか」
「その魔力を何処までコントロール出来ますか? 待機状態の魔力では一定の出力しか出せませんよ? 強くも弱くも出来ないはずです」
今まで俺は自分より強い奴としか戦っていなかったので、常に全力で魔法を使ったことしかなかった。
「では強弱をつけて魔法を使って見て下さい」
「分かりました……」
最初はいつもの様に全力で魔法を放つ。
その後にその半分くらいの威力で……
あれ? 威力が下がってない?
何度打っても同じ威力にしかならない……
「自分でも分かったようですね。戦闘中は一時的に興奮して強弱が出来ていたと勘違いしていたのでしょう」
そんな、まさか……でも先生の言ってる事が本当だとしたら……
「待ってください先生。これが本当に待機状態だとしたら……」
「私の見立てでは現在の3年生と同等レベルの魔力だと思っています」
先生、それはちょっと持ち上げすぎじゃないですかね。でもどうやったら俺の本来の魔力を引き出せるんだ?
「でも、俺どうやってやったらいいのか……」
「今まで力を出さない様に押さえつけていたので、その影響かもしれませんね。全力で使われては他の生徒に甚大な被害が出ると思って呼んだのですが……」
全く逆の意味で予想が外れて、エヴァンス先生もどうして良いのかわからないようだ。
「先生、待機状態から臨戦状態になるコツって無いんですか?」
「やり方は人それぞれですから、宮元君は普段どのようにして待機状態になっていますか?」
そして俺は、普段の魔力の解放だと思っていた事を事細かく説明した。
「つまり、自分の中に「何か」を見つけると待機状態になると……」
「はい、「何か」については自分でも分かってないですが、とにかく「何か」あるんです」
「恐らくその「何か」が宮元君の力だと思います。見つけることにより、魔力を認識して待機状態になっている……その「何か」に触れて見て下さい」
言われたようにしようとするが、思い通り自分の中を動かせない。
少しして漸く触れることが出来た……その時
「素晴らしい……」
満足の行く結果だったのかエヴァンス先生は関心している。
そして俺は自分では信じられない程の魔力纏っていた。
しかし、なぜか心地良い……何て言うか、やっと自分に会えた様な気がした。
「信じられない……けど、なんか懐かしい感じがします」
生まれて初めての戦闘状態、ホーミィを越えている。
美緒なら強引に突っ込んで押し切る事だって出来るだろう。
「これで全力ですか?」
「初めてだから全く分からないです。けどまだ上げれます」
「使い方に気をつけてくださいね」
コントロールが出来るようになるまでは絶対に使っちゃいけないな。
特に美緒達が居る時には……
「先生、俺待機状態のままで戦っていいですか?」
「どうしてですか? 戦闘実践では隠している人達もそれなりに力を使ってくると思いますよ?」
「ハッキリ言って未知の領域なので使うのが怖いです。手加減も出来るか分かりません」
「分かりました。宮元君専用のプライベート空間を一つ用意しますので、そこで練習してください」
え、そんな超VIP許されるの…?
「良いんですか……?」
「教師の特権と言う奴を使います」
何時も予約で埋め尽くされているプライベート部屋がこうもあっさりと使えるようになるなんて……
「今日から暫く美緒達との練習はお預けか……」
「必要ならば何人か連れてきても構いませんよ? 宮元君が必要と感じるのならその方が良いでしょう」
「あ、あと先生って強いんですよね? ちょっと試したい魔法があるんですけど……」
力を得ると使いたくなるのは人の性なのだろうか……
「良いですよ? 私で良ければ時間さえあれば付き合いましょう」
そう言って先生も臨戦態勢に入る。
流石先生、今の俺より遥かに上だ。本当に俺は世間知らずだと言う事を思い知らさせる。
「じゃあ、早速!」
俺が練習していた加速魔法、身体強化と飛行魔法を組み合わせた物だ。
今まではコントロールが出来なくて、飛行速度に感覚がついて来れなかったりしたが、今の状態なら……
「成程、加速魔法ですか、近接戦闘が得意な宮本君には相性がいい魔法ですね」
エヴァンス先生はその場から動かず俺の向かって魔法を放つ。
俺としては理想的な練習を即座に読み取ってくれるエヴァンス先生に感謝だ。
「それにしても、中々の速度ですね。ではレベルを上げますよ!」
さっきまでより早く、変則的で追尾までしてくる。
今までの俺では避ける事すら出来なかっただろう。
だが、前と違いコントロールが出来る今の俺ならば捌く事が出来る。
それに接近さえすれば先生でも勝てるんじゃないだろうか。
試してみるか…!!
「っふ!!」
気合を入れて急加速をしエヴァンス先生の懐に飛び込む。
結果としてエヴァンス先生の目の前に俺の顔がある状態になった。
「コントロールは上手く出来ましたか?」
エヴァンス先生は俺の成長が嬉しかったのかご機嫌な笑顔をしている。
まだ俺程度の速度では驚きもしない。
ちょっと悔しい。
「宮元君? 速度を上げるのは良いですが、あらかさまに魔力を高めてはすぐにバレてしまいますよ?」
「精進します……」
「どんなに魔力が高くても使い方次第なのですから」
やっぱ先生には勝てないや。
けど今日一日で世界が変わったかのように感じた。
これが俺の本当の魔力なんだ。
これからはこの力を自分で磨いていくのだ。
「じゃあ後は適当に練習して帰ります。この力寮では使わないほうがいいですよね?」
「そうですね、調整が出来ないと部屋が大変な事になりますよ、寮では待機状態で他の魔法を練習してください」
そして先生がプライベート空間から出て行く直前こちらを振り返った。
「いいですか宮元君? 力というものは掴み取る物です、そして力を精錬する物が技術です。覚えておいてくださいね」
そうアドバイスを言い残していった。
その後俺は臨戦状態へのスムーズな移行と自分の最大魔力の確認だけしてプライベート空間を後にした。
「双君? 先生と何やってたの?」
美緒はいつものように校門で待っていてくれた。
「トーナメントの事でちょっと話してた」
美緒にはまだ言わないほうがいいな。
俺の本当の魔力の事は……
プライド結構高そうだし、俺に対してだけだが。
「ふーん、じゃあちょっとは強くなった?」
「分らん、それと今日は技術系の練習したいんだけど」
「分かった。じゃあ後で私達の部屋に来てね?」
「同棲の許可した覚えないけど……ホーミィにも見てもらいたいから、ホーミィが予定空いてると助かるんだけどな」
「勿論空いていますので、私の部屋でお待ちしてますね」
いつの間にかホーミィが近くに来ていた。
「うわっ! ビックリしたなぁ、ホーミィ」
「脅かすつもりは無かったのですが……すみません」
「いや、俺としても都合がついて助かったよ、じゃあ後でお邪魔するな」
あっ、言い忘れてたことがあったな
「2人とも」
「「?」」
「俺明日から放課後は1人で練習するわ」
「なんで!?」
「どうしてですか!?」
「ちょっと先生に甘えすぎって言われてな。トーナメントまでは1人でやろうと思ってる。聞きたいことがあったら聞きに行くけどな?」
途端に2人が不安そうな顔をする。
「イジメられているのですか…?」
「先生に相談しにいった後に、他の生徒にちょっと顔出せよなんて言われたからこんなに遅かったの……?」
スカウト組はイジメられやすいと言っても、一部の奴が荒れているだけで、その他の生徒は殆ど気にしていない。
それにスカウト組の人数自体極少数だ。今年の一年生スカウト組は俺を含めて3人しかいない。
その内の1人が結構酷い目に会っている様だが……
「大丈夫だって、一年の中で美緒とホーミィを敵に回して勝てる奴は居ないだろ」
そう言って、今は誤魔化す。
きっとトーナメントでバレるけど……
よし、明日からプライベート空間で練習だな!
気合入れていくか……まずは今日の晩飯を豪華にするとしよう!!