第5話:自己紹介と混沌の始まり
「はじめまして、今日からこのクラスを担任するエヴァンス=ティニシュです。一年間担当しますので、皆さんよろしくお願いします」
最初のHRは教師と生徒の自己紹介から始まった。
「麻井美緒です。トレジャー志望です。よろしくお願いします」
「はい、はーい、彼氏とか居ますか?」
一流の学校でもやはりこういう色恋沙汰はあるらしい。
「彼氏は居ませんが好きな人は居ます。ごめんなさい」
パチパチパチ……この拍手の半分は質問をした男子に向けえられた物だと俺は思う。
美緒は無難に終えたようだ。
中には自分の家柄の事を話し出して10分以上話したところで先生に止められていた人も居た。
「宮元双真です。志望はまだ決まっていませんが、トレジャーか騎士団のどちらかにしようと思ってます。よろしくお願いします」
よし、練習してきただけはある。
しっかりと言えた……心の中でガッツポーズを取りながら暫く自己紹介を聞いていると、何処かで聞いた声がした。
「ホーミィ=ミクフィールです。志望はまだ決まっていません。この一年間で決めていこうと思っています。よろしくお願いします」
あの人、路地裏の時の……
カリバーンに来れるレベルだったら無理に介入しなくても良かったんじゃないか……?
「あっ、あなたは」
しかも向こうもこっちに気付きこちらに来る。
何も返さないのは流石にまずいな……
「あぁ、久しぶり…?」
。
定番の返し言葉だ。
「その節はお世話になりました。これから一緒に頑張りましょう」
笑顔で手を差し出され、そのまま握り返す。
近くで見たがやはり美人だ。
上品な感じ、やっぱりおっぱいデケー……美緒よりあるな……
「宮元君だっけ? 君はホーミィさんとどういった仲なんだい?」
話しかけてきたのは結構イケメン、外見はその辺でナンパをすればほぼ確実に成功しそうだ。
流石、金髪上品美人だ。
早速狙われている。
「一ヶ月位前に路地裏で絡まれてた所を助けた」
「一ヶ月位前に路地裏で困っていた所を助けていただきました」
ハモる。
イケメンの顔が面白くないと言う顔をする。
あぁ、展開が予想できる。面倒くさい……
「つまり……恋人とかそう言う仲ではないんだね?」
「あぁ、そういった仲じゃない」
今の所はな。
「なら良い、安心したよ」
そう言って手を差し出してくる。
「悪かったな、勘ぐり過ぎた。俺はブライト=ハーケンだ。これからよろしくな」
「宮元双真だ」
「東洋の名前だな? もう1人の麻井美緒さんとも知り合いか?」
俺と美緒の出身地日本は、別次元の東の地として東洋と呼ばれている。
俺達からすれば東洋はアジア全般を指すが、首都アヴァロンから見れば、別次元に東洋と言う場所があり、ちょっと変わった名前を持っている位の豆知識になっている。
「あぁ、美緒とは幼馴染で出身も同じだ、ちょっと珍しい名前だったか?」
「君は僕にとって初めての東洋の名前を持った友人だ。なんだか嬉しいよ」
さっきの面白くない顔はなんだったんだろうか?
ホーミィを狙ってるみたいだが、俺が興味なさそうな返事をしたから安全牌と思ったのか?
まぁクラスメイト以上に仲良くなろうとは今の所思ってないが……
「双真さんは東洋の方なのですか!? 実は、私は一度東洋に行ってみたいと思って居るんです! いつか連れて行っていただけませんか?」
この人天然か!?
ブライト……悪い奴ではなさそうだが、ちょっと可哀想な奴だな……
「別に構わないぞ? ブライトも興味があるのなら一緒にどうだ?」
さりげなくフォロー入れてみる。
「あ、あぁ、俺も東洋には興味があってな、独特の剣があると聞いた…えーと確か……」
「日本刀かな? 写真有るから今度持ってくるよ。現物は店に行かないと置いてないけどさ……」
「本当かい!? それは凄く楽しみだな!!」
ブライト、イケメン、良い奴、っと……
全員の自己紹介が終わるとまずは一限目を使い、オリエンテーションを行うことになった。
エヴァンス先生がカリバーンと寮のルールを説明をそれに対して生徒が質問をしていく。
そしてオリエンテーションは順調に進んでいった所でエヴァンス先生が爆弾発言をした。
「それでは以上で大まかな説明は終わりました。そして今年初めて導入されたパートナーシステムについて説明します」
パートナーシステムは今年からカリバーンに試験的に導入された。
お互いを高めより質の高い人材を育成するプログラムだ。
男女問わず1人パートナーを作り、本人達の同意があれば寮の同じ部屋で生活する事も許される。
パートナーが決まった時点で教師に書類を提出すれば、正式にパートナーとして認められる。
中にはパートナー限定の行事も考えているそうだ。
「先生、それって倫理的にまずいんじゃないですか?年頃ですよ?俺達……」
流石に冗談だろうと思った生徒が質問する。
「なので、お互いの同意が前提です。それでも問題があった場合は逮捕される場合も有るので注意してください」
先生の言葉が本当なのだと分かった瞬間、男達は動いた。
「美緒ちゃん! 俺とパートナーになってよ!」
「ホーミィさん! 俺とパートナー組まない?」
大多数の男は美緒とホーミィの元に押しかけていた。
俺が言うのもなんだけど、2人ともレベル高いからな……
特にブライトの速度はその中でも群を抜いていた。
実は結構強いかもしれない…
「「ごめんなさい!!」」
2人が同時に頭を下げた瞬間に俺は逃げる。
こんな修羅場が確定する所に居たくない!!
ホーミィは兎も角、美緒は間違いなく俺の所に来る。
あの美緒に押しかけた人数から察するに、幼馴染な上に好意を持たれている事が分かった時には、男子勢から目も当てられなくなる可能性もある。
「そこぉ!! 逃げるなぁ!!」
頭を下げた瞬間を狙ったというに……!!
「ええぃ! 奴は化け物か!!」
それに、これは試験的に導入された物であり義務は無い。
だが、成績としてはプラスになる上に普段から競争相手や練習相手が居るのであれば一人の時より、効率的になるのも確かだ。
合理的って言葉は素晴らしいな……
「っとぉ!?」
振り向くと目の前に誰か居たので急ブレーキを掛ける。
「あの、双真さん。もし良かったら私とパートナーになって貰えませんか? 東洋の事色々教えて欲しいです」
会心の笑顔。
エンジェルスマイル。
まじパネェっす……
けど……後ろに禍々しいオーラと言うか魔力を纏ってる約一名が居るので、ちょっと勘弁して下さい。
そして速攻苗字じゃなくて名前で呼びますか……
「双君…? 当然私と組むよね……? 今まで一緒に練習してきたからその延長だよね……?」
おい、笑いながら眼の光を消すな。
なんか○○デレに何か入りそうな勢いなんだが……
むしろ、東洋の事を知りたいのなら……
「美緒とホーミィさんがパートナー組めば? 美緒も東洋の事色々知ってるよ? 美緒もホーミィさんなら文句無いだろう?」
「私は双君がいいの!」
美緒は即答。
「実は、路地裏の一件でお礼をしていない事に気付きまして、そのお礼もしたいと思っていたのですが……」
それってお礼になるんですか? 私の方が強いから色々教えてあげますって意味かな? 色々って所には非常に興味があるが……
何これ…自分を変えられる所の騒ぎじゃない!
この四面楚歌……男子勢が運よく周りに居ないからいいが、この情報が流されたら偉い事になりそうなんだが……
「あの、2人とも自分の立場分かってる? どれだけの男子が2人に押し寄せた?」
「ごめんなさいって言いました」
「断ったよ? 双君以外興味ないから」
駄目だ…コイツら…早く何とかしないと……
これからの生活の為に……
まずは美緒だ。
コイツなら幼馴染と言う事で組んでも特に問題は起きないだろう。
おそらくホーミィさんもそれで納得してくれる。
逆にホーミィさんを選んだ場合だが、美緒が諦めないので寮生活そのものが危うくなる。
ってもう決まっちゃったー……
「分かったよ……俺のパートナーは美緒、お前だ」
「うん! そう言ってくれると思ってたよ」
「残念です……でもたまには一緒に練習とか付き合ってもらっても良いですか?」
ホーミィさんは、諦めてないというより、単純に俺と美緒に興味があるのかもしれない。
東洋の国の出身者と言う意味で、何か特別な思い出でもあるのだろうか?
「俺は別に構わないですよ? ホーミィさん」
「んー……私もどっちでもいいかな? 邪魔しなければ……」
最後のほうは小声なのでよく聞こえなかった。
「ではよろしくお願いします。後、私の事はホーミィと呼んでください」
「そっか、じゃあよろしくホーミィ、後で部屋番号教えるよ」
「はい、よろしくお願いしますね。困った事があったら直に相談してくださいね?」
「じゃあ早速だけど、ホーミィはどれ位強いの?」
「そうですね……試験の結果ですと上位10位には入っていましたけど……」
「10位!? それってめっちゃ強いんじゃ……?」
その言葉に美緒が反応する。
「ホーミィ! 勝負よ! 今から!!」
うわー火がついたよこの人、まぁ一応首席卒業だったしな……プライドもあるんだろう。
「でも私……余り人を傷つける事が苦手で……」
成程……だから裏路地の時も無抵抗だったのか。
だとすると寧ろ直したほうが良いだろうな。
「やってみたら? 美緒は俺達の中学を首席で卒業してるから、それなりには強いから練習と思ってさ、いざと言う時守りたいものがあっても、守れないかもしれないよ?」
「そう……ですね……他次元では何が起こるか予想もつきませんから……」
だが本人は余り乗り気じゃないらしい。
「強すぎるのなら手加減を覚えれば良い、手加減を覚えれば、裏路地みたいな事が起きても大丈夫だから」
「分かりました…美緒さん、放課後にお手合わせお願いします」
そしてその日の放課後……
「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」
2人とも魔力を開放する。美緒も凄いがホーミィも凄い……
「魔力出力は殆ど互角か……となるとホーミィの戦闘スタイルが見どころか」
あとおっぱい…揺れ方に注目だな。
眼福眼福
「開始!」
俺の合図と共に2人は攻撃を開始する。
2人とも遠距離攻撃だ。
美緒の攻撃をホーミィは上手く捌いている。
防御しているというよりは弾いて別の方向に向けていると言った感じだ。
俺の様に無理やり相手側に返すより魔力消費は少ない。
けど……これじゃ魔力切れになるまで決着が着かない。
そうなるとホーミィの練習にならないんだよなぁ。
「う~!! 当たらない~!!」
美緒は自分の攻撃が有効打にならないのに気が急いでいるようだ。
更に手数を増やすが全て弾かれてしまう。
「そこです!」
美緒が攻撃に意識を集中しすぎた所を間髪居れずに接近。
美緒もそれに気が付き退避するが、ホーミィの方が速い。
迎撃を行うが距離はどんどん縮まっていき……
「はぁ!」
「きゃあぁぁぁ!!」
シールドが破壊され、吹き飛ばされ壁に激突する。
「いたたた……」
体を覆っている魔力が衝撃を吸収するため、かなり衝撃は緩和されるがそれでも結構でかい音がしたので思ったよりダメージは大きいようだ。
「終りです」
ダメージが抜け切れていない美緒の前にホーミィが次の魔法を構えて立っていた。
勝負ありだ。
うん、俺も勝てないな。
「うーん……双君には一回しか負けたこと無いんだけどなぁ……」
「戦闘スタイルの差もあるだろう……俺は近距離、美緒は遠距離だし、ホーミィは万能って感じ?」
「結局の所私が一番得意としてるのは回復魔法ですから、得意な距離と言うは特に無いです」
それにしては、美緒の攻撃を全部丁寧に処理をしていたなぁ……
「それであの強さ…? ホーミィ凄いなぁ、私は首席で卒業したから自信あったのに」
「じゃあ俺ってどうなの……?」
「私で勝てないのだから、双君じゃ勝てるわけ無いじゃん」
「まぁ、そうだろうなぁ……ホーミィの魔力出力も全開じゃなかったでしょ?」
ホーミィが美緒に遠慮をしている事をなんとなく感じていた。
手を抜いているのじゃなくて、もっと別の……
「はい…美緒さんの出力に合わせて戦ったほうが傷つかないと思って……」
「一回全力見せてもらえない? 参考程度に……
「では……」
そして見せてもらったホーミィの全力は美緒の約1.5倍、俺と比べると約2倍。
これがカリバーンに入学してくる人の実力なのだと思い知らされた。
「練習あるのみだね、双君」
「奇遇だな、俺もそう思ってた所だ」
流石は幼馴染、こういう時だけはやけに気が合う
「練習見せてもらって良いですか? アドバイスできる所があればと思っているのですが…」
「「是非!!!」」
「ふふ……美緒さんが羨ましいです」
「どうして?」
「双真さんと幼馴染だからです。私も双真さんみたいな幼馴染が欲しかったです」
「幼馴染にはなれないけど、友達ならなれるよ」
「そ、そうですね! これからですよね!」
そして、言ってないが、ホーミィは俺にとっても美緒以外の初めての友達だったりする。
そして、ホーミィの顔は赤かった、なぜだろう?
その後、俺と美緒は普段の練習を見てもらう事にした。
ホーミィにアドバイスをしてもらうのだ。
俺も早く追いつきたいなぁ……