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第34話:ある日森の中魔族に出会った。

今回の事件はあっという間に村中に知れ渡った。

イデアの水浴びを覗き、勝手に村を出て森の守護者に剣を向けた。


エルから召喚された事と族長の計らいで村を追い出されることは無かった。

あの森の守護者は村では尊敬し崇める存在だったようで、それに剣を向けた俺は村八分の扱いになった。


唯一の救いはホーミィがその扱いに含まれていない事だった。

そしてホーミィが村八分の俺を気遣う姿を見て、


「彼女のような天使は尊敬に値する」


と言っていたらしい。





俺が村八分の扱いになって3日が経った。

食事を貰えない訳ではない。

水浴びが出来ないわけでもない。

ただ、村人に挨拶しても返事が返って来ない。

聞きたいことがあっても聞けない。

イデアに至っては話す前に睨みつけられる。

当然村の外に出られるわけが無い。


だが、この状況をどうにかしない限り、俺達は元の世界に帰れない。

いっそ、村を脱走する事とも考えたが、森の中で食べられる物を知らない。

魔族を見たことが無いので前の様に勘違いする可能性がある。

そもそも必ず勝てると言う保証も無い。

リスクが高すぎる。

なので最近は飯を食った後は村の森の外れの方で自主トレーニングをしている。


「はぁ、どうしたもんかなぁ……」


一通りトレーニングが終わったので木にもたれ掛かっていると、足音が聞こえた。


「村人……じゃないな」


村人にしては足音が大きすぎる。

そうじゃない場合は魔族の可能性がある。

そう思い俺は剣を抜いて身構えていると、森の守護者様が現れた。


「あんたか……」


前のように勘違いされては堪らない。

今度こそ村を追い出されてしまう。

俺は急いで剣を引っ込めた。


(此処で何をしている? エルの戦士よ)


守護者喋れたんだ……思念会話だけど……


(自主トレですよ。えっと修行です)

(エルの戦士は勇敢だ。直ぐにでも村を出て魔族と戦っていると思ったが、森を見回ってもお前の姿が見えない。気になって来てみた)


どうやら森の守護者は剣を向けた事は水に流してくれているらしい。

だが、村の人間はそうではない。

とりあえずその後の経緯を説明した。


(成程、私に剣を向けたことによって行動が制限されてしまったか)

(俺としても早く元の世界に帰りたいから、早く行動したいど……今のままじゃ何も行動が起せない)

(始祖のエルフは信仰深い。故に問題が起こると深刻化しやすいのだ)


そうか、だから天使と称されたホーミィはあそこまでもてなされていると言う事か。

誰にでも優しく笑顔を絶やさない。

学校でも天使を称されていただけはある。

つまり村人のハートを鷲掴みしているのだ。


(勘違いは誰にでもありえる。この世界に来て間もないのならなおさらだ)

(早めに解決してくれないかなぁ……)


しかし、守護者がここまで話の分かる奴とは思わなかった。

村に居るより森の守護者と行動を共にした方が良いんじゃないだろうか?

彼は姿形は獣だが、賢く理解もある。

村人からは尊敬の念を抱かれている。


(村人達を、悪く思わないで欲しい)


難しい顔をして考えていると守護者にそんな事を言われた。


(別に悪くは思ってない。勘違いだったとはいえ俺が悪かったんだ。けど、今の状態は勘弁して欲しい)

(では、少し昔話をしよう)


今から約50年程前、俺と同じようにエルに召喚された者がいた。

人族の男で名前はホキ、彼はとても優秀だった。

剣術の腕はそれほどでもなかったが、魔術の才能があり特に幻術に秀でていた。

彼の幻術により魔族の仲間割れを起し、村は救われた。

他の地域でも成果を上げ、大陸中でホキを英雄と称えた。


だが、突如ホキは魔族と手を組んだ。

理由は失恋だった。

彼は始祖の村のエルフに恋をしていた。

大陸中で英雄と称えられたホキは彼女に想いを告白をした。

当然良い返事が帰ってくると信じていた。

そしてこの世界に永住し、彼女と一緒に死ぬまでずっと世界を守って行くと決めていた。


だが彼女から返って来た答えは拒絶だった。


想いが届かなかった事に絶望したホキの所にとある魔族が舞い降りた。

そしてホキに問いかける。


「欲しい物ならば、自分の物にしてしまえば良い。私はその手伝いをしてやろう。英雄ホキ」


ホキは英雄の自分に酔っていた。

自分は特別な存在だ。

今まで死ぬ様な思いを何度もしてきた。

そんな特別な自分がエルフ一人思い通りに出来ない。

そんな事があって良い訳が無い。


しかし、魔族と組むと言うのは今まで助けてきた人達への裏切りとなり自分は英雄でなくなる。

なのでホキは魔族を利用するだけ利用して殺してしまおうと考えた。


しかしこの魔族は賢かった。

彼の言った通りにしただけで目の前には自分の欲しかった(エルフ)が居た。


「やっと……やっと……僕の物になるんだ……」


晩秋の想いが歪んだ欲望へ変わる。

開ききった瞳、三日月に開いた口。

その表情から感じられるのは狂気。

この瞬間英雄ホキは死んだ。

ホキの生贄に捧げられたエルフは助けが来る10年間幻術をかけられ続けた。




(これが、実際にあった出来事だ)

(そんな事があったのか……)

(あの事件はエルフだけではなく大陸中を震撼させた。英雄が魔族に堕落した。その頃から魔族は急激に侵攻速度を上げて行ったのだ)

(そんな事があって人族が警戒されている中召喚されたのが人族の俺で、勘違いとは言え守護者に剣を向けた。この待遇も納得できる)


エルフは寿命が長い。

50年とは言え、少し前にこんな事があった位の認識なのだろう。


(でも、こうしている内にもエルの力はどんどん弱くなっている)

(その通りだ。今この付近で戦える者は少ない。早く瘴気の原因を叩かなければ手遅れになってしまう)


守護者も焦っている様だ。

俺も待っていても状況は好転しない。

ならば、こちらからアピールをする必要がある。


(森の守護者。提案がある)

(ブームでいい)


名前を教えてもらった。


(じゃあブーム。ブームの見回りに俺も連れて行って欲しい)

(何故だ? 村の戦士の許可無くお前は出れないはずだが?)

(許可を待ってる間にエルの力が完全に無くなったらどの道帰れない。ならば自分で行動を起すだけさ)

(今度こそ本当に村を追い出されるかもしれないぞ?)

(そうなったら本当に寝るときもブームの傍に居るさ。自立出来るようになるまで)

(……いいだろう。ついて来い。私が連れ出したと言えば問題ないだろう)


ブームの了承を得たので俺はブームついて行く事にした。

完全に村の規則を破ったが、既に村八分状態だ。

これ以上は追放以外酷くなる事はないだろう。


見回りをしている間ブームと色々話をした。

俺は元の世界の話や俺の使える魔法。

ブームはこの世界の常識とこの近辺で食べられる果物等をだ。


ブームは思ったよりも広範囲に見回りをしていた。

何とか村の方向は分かるが、どうやってここまで歩いてきたのかは全く分からない。


「さて、此処で良いだろう……」


ブームが喋ったが俺には何を言っているのか分からなかった。

当然だ、俺はこの世界の言葉を知らないのだから。

だから、この時の俺は全く知らなかった。

俺自身が罠に嵌められている事に……


「出て来い。約束した者を連れて来た」

(ブーム? 何を言っているんだ?)

(最後になったが言わせてくれ。本当にすまない。私にはこうするしか無かった……)

(何を言ってるんだ? ブーム?)


森の奥から何か出てきた。

全身を茶色の鱗が覆い顔はトカゲに似ていた、手には槍を持っている。

ブームの知り合いだろうか?


「ふむ、コイツが今回召喚された男か。まだ小さいじゃないか」

「ホキの時もそうだった。成長すればホキの様に強くなるのだろう」

「確かに、見た事のない顔だ。おい、名前は何て言うんだ?」

(えっと誰? ブームの知り合い? まだ思念会話じゃないと話せななくて……)

「そうか、言葉も知らないのか。それに魔族も見た事が無いとは……好都合だ」

「約束だ。子供を返してもらう」

「まだだ。まだコイツが本当に召喚された男か確信が持てない」


なんかこのトカゲ顔とブームが険しい表情をしている。

縄張り争い?

すまないと言うのはこう言う事だろうか?

だが次の瞬間俺は嵌められたと言う事を理解する。


ガチャリ。


「へ?」


気が付くと俺は手背中に回した状態で鎖で縛られていた。

慌てて周囲を見渡すと、トカゲ顔がぞろぞろ出てきた。


「お前にはもう一仕事してもらうぞ。ブーム。それが出来たら子供を返してやる」

「貴様らぁ!!」


ブームが激昂し凄まじい咆哮を上げた。

そこでようやく俺はこいつ等が噂の魔族だと言う事を理解した。

なぜこのような芝居をうったのか良く分からないが、ブームなりの作戦があるのだろう。

俺は人質の役らしいのでとりあえず無抵抗を貫こう。

だが、他のトカゲが手にしている物を見て、俺は真実を知った。

小さく白い獣の子、ブームの子供だ。

確信した。

ブームは魔族に脅されている。


そして助けを呼ばなければ俺も殺されると……

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