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第32話:起きたら其処は……

起きたらまったく別の部屋に居た。


「ここどこ……?」


あの後、旅館に帰っておいしい料理を堪能した後温泉に入った。

その後俺の部屋で今後の休みのスケジュールを話した後俺だけ先に寝たのだ。


部屋を見渡すと、土色の壁に布のようなが下がっていたり、壁にはアクセサリーのような物や弓矢や剣が飾ってある。

とても日本の旅館の一室には見えない。


誘拐?

可能性は0では無いがほぼそれに等しい。


美緒とホーミィのドッキリしては手が込みすぎている。


そして今更ながら気が付いたが着ている服が違う。

寝る前は浴衣を着ていたはずだが、今着ているのはどこかの民族衣装だ。

状況がさらに分かり難くなった。


じっとしていても始まらないのでとりあえず部屋を出ようと思ったら、誰か部屋に入ってきた。

老婆に見えるが、耳が長い。

ファンタジーの世界のエルフだった。

他次元と繋がりで色々種族を見てきたが、その中でもエルフは珍しい。


「お前誰?」


とりあえず事情を知ってそうな顔だったので挨拶をしておいた。


「おまえだれ?」


俺は驚愕した。

まさか、そのままの言葉が返ってくるとは思わなかった。

まさか、この婆さんも俺と一緒で誘拐されたのか?

と言う事は、美緒とホーミィも捕まっている可能性がある。

となると、まずはこの婆さんと一緒にここから脱出する事を考えないと……


(これがあなたの世界の挨拶ですか?)


心に直接声が届いた。


(いや、お前誰?って聞いたんだけど……)

(そろそろ目覚める頃だと思っていました。突然の召喚だったので戸惑っていると思い説明をしに来ました)


言葉を聞いている感じは悪意があると言うわけではなさそうだ。

だが召喚ってんだよ、召喚って……


(此処は始祖の村。そしてあなたはエルが召喚した戦士です)

(分かった。とりあえず全ての経緯を聞こう……)


この時点で突っ込みたい事は沢山あったが、まずは話を聞こう。


話を要約すると、

エルとは全ての世界の魔力の源。

そして今エルの力が弱まっている。

原因は魔族。

このままではエルの力が完全の失われてしまうと判断したエルフの族長がこの危機を救うべく召喚したのが俺。


(えっと……召喚の判断基準は?)

(エルには意思があり、私達に語りかけてくるのです)

(この日、この時間にこの召喚を行いなさい……みたいな事を言われたと?)

(その通りです)


つまり、俺は族長の意思ではなくエルの意思によって召喚されたということになる。


(元の世界に帰りたいんだけど……)

(それはエルの意思が決めることであり、私達が決める事ではありませんので)


やべぇ、人権とかこの世界には通用しないのか……って通用する分けないか。


(それに、今のあなたは実体ではありません。精神体です)

(精神体って言われても俺の体もちゃんと此処にあるじゃない)

(それはエルによって作られた模造体です。役目を終えれば自然と元の世界に帰れるでしょう)

(でも精神体って事は自殺すれば模造体は消滅して俺の精神は元の体に戻るんじゃない?)

(いえ、模造体とは言え魂の入った生命です。正規の手順を踏まなければ魂は元の肉体は戻らず消滅するでしょう)


つまり、この世界での死は元の世界での死にも繋がるって事か。


(じゃあ元の世界の俺はどうなってる?)

(昏睡状態と言えば分かりますか?)

(あぁ……分かる)


なんてこった。

良く分からないエルの意思とやらに呼び出されて役目を終えないと帰れないなんて……

どっかの勇者ゲーじゃん。


(今の状況は理解できましたか? ソーマさん)

(待て、なんで俺の名前を知ってる。俺はまだ自己紹介した覚えは無いぞ)

(はい、それはソーマさんより先に目覚めた彼女から聞きました)

(……彼女?)


まさか、美緒とホーミィも巻き込まれたのか!?

だがその場合、彼女達と言うはずだ。

ならば、ホーミィか美緒のどちらかだけ巻き込まれたと言うことになる。


(何処に居る。今すぐ案内してくれ)

(分かりました。此方へどうぞ)


族長に案内されたのは直ぐ隣の部屋だった。


「あ、双真さん気が付いたのですね! 説明は受けましたか? 私も何となく理解は出来たのですが、具体的にはどうやったら帰れるのかは全く分からなくて相談しようと思っていました」


いたのはホーミィだった。

彼女も俺と同じような民族衣装を着ている。

突然召喚されたというのに特に不安には思っていないようだ。


(なぜ彼女まで召喚されている? 彼女は戦いが苦手だ。魔族を倒すことなど出来ないぞ)

(彼女にも説明はしましたがおそらく巻き込まれたと思われます)

(巻き込まれた? どういう事?)

(召喚は魂を移動させます。ですが召喚対象と密接していた場合、無関係な魂もついてきてしまう場合があるのです)


つまり、俺は寝ている時に召喚されて理由は分からんがホーミィは俺に密接していたと言うことか。


(エルとやらと話をさせてくれ。俺はともかく無関係な彼女は即刻送り返したい。そして彼女には向こうで俺の状況を説明してもらう)

(エルの意思は一方的に私に話しかけてくるだけですので……)

(何とかしろ。無関係な人間を巻き込んだんだぞ。彼女が帰るまで俺は協力する気はない)

(わ、分かりました。次に啓示があった時に……)


今までずっと思念会話だと言うことは、俺達の言葉は全く通じないと言っていいだろう。

どうやら俺はこの世界で役目を果たさないと帰れないという事は分かった。

だが、無関係なホーミィまで巻き込む事は俺は許さない。

最初の説明だとエルは自分の消滅を恐れて俺を召喚したと言う。

ならば俺が今のままでは協力する気が無いと言えば行動を起すはずだ。


(時間を無駄にしたくない。具体的に俺は何をすればいい?)

(先ほどは協力する気は無いと……)


別に協力する気が無いとは一言も言った覚えは無いんだが……

だってやらないと帰れないじゃん。


(彼女が帰った後に聞くより今聞いておいたほうが良い)

(分かりました。まずはこの村の周辺の瘴気を取り除いてください)

(瘴気?)


瘴気とは魔族が体から放っている邪悪な気と説明してもらった。

つまり居るだけで害悪を振りまいてるって事か。


(始祖の村は自然豊かな村です。ですが最近魔族の動きが活発になり村の付近の森は瘴気が漂っています。その瘴気のせいでエルの力は弱くなっているのです)

(つまり、この村の瘴気さえ何とかしてしまえば、エルがこれ以上弱くなることは無いという事?)

(はい。始祖の村の戦士は他の地域のエルを護りに出払っており、村を護るので手が一杯なのです)

(エルはひとつじゃないの?)

(エルは全ての魔力の源。ここに在るエルも他の地域に在るエルも全て同じエルです)


各個体はあってもHPは共通って事か。


(つまりどれかひとつでも消滅したら全部消滅すって事か)

(はい、我々始祖のエルフはエルの番人。故にエルの危機と分かれば各地域のエルの護衛にエルフの戦士を派遣するのです)

(そして派遣したのはいいが、肝心な自分の村のエルを護るだけの戦士が足りなくなったと……)

(はい、なのでおそらく今回の役目と言うのは、この始祖の村近辺の瘴気を取り除くことだと私は思っています)


状況は分かった。

これなら思ったより簡単に帰れそうだ。


俺みたいな学生が呼び出されるんだ。

世界を救うとかそんな大それた事になるわけが無い。

たまたま、俺の魔力が高めだったから呼び出されたのだろう。

と言うことは、早く瘴気を取り除けばそれだけ早く帰れることになる。


「ホーミィ」

「何ですか? 双真さん」

「聞いた話、案外早く帰れそうだ」

「本当ですか!」

「あぁ」


俺は族長と話した事をホーミィに伝えた。


「成程、この村の付近の瘴気を発生させている魔族を倒せば帰れると言うことですね」

「あぁ、ちょっくらぶっ飛ばして来れば良いだけだ」

「じゃあ、もう安心ですね」


そう言ってホーミィは俺の胸に顔を埋めてきた。


「ホーミィ?」

「本当は……ずっと怖かったんです。でも双真さんが傍に居るからって……言い聞かせて……」


なんだよ。

俺はホーミィを見れていた気がしただけで全然見れてないじゃないか。

なにが不安そうな顔をして無いだよ……

こんなになるまで我慢させておいて……


「すまん、俺のせいで……」

「いえ、もう済んだ事です。もう大丈夫です」


というか、密着状態じゃないと付いて来れないって事は、ホーミィは俺に何をしようとしてたんだ?


「なぁホーミィ、召喚に巻き込まれる条件として密着してないといけないって言ってたんだけど、俺に何してたんだ?」

「えっ!? えっと……それは……」


ホーミィは耳まで赤くしながら下を向いてモジモジしていた。

これ以上は聞かないほうがよさそうだ。


「まぁ、いいや……帰ったらさ、花火でもやろう。凄く綺麗だからさ」

「ハナビ…?」

「日本の風物詩のひとつさ。夏に公園に水の入ったバケツを持って花火をする」

「楽しそうですね」

「ああ、楽しいぞ。美緒やグランも呼ぼう。絶対に気に入るから」

「はい、そうですね」


顔を上げたホーミィは笑っていた。

今度こそきっと本当に笑っているのだと思う。


「ちょっと族長さんと話してくる」

「はい、いってらっしゃい」


希望は見えた。

だが問題も残っている。

それは、今の俺は魔族と渡り合えるのかと言う事だ。


(今村に戦士っていますか?)

(はい。それがどうしました?)

(手合わせをお願いしたくて。俺の力が果たして魔族に通用するかどうか、実際戦ったことのある戦士と手合わせするのが一番早いと思ったので)


そう言うと、族長は困った顔をした。


(………動きを見てもらうだけではいけませんか?)

(どういう事ですか?)


戦士は怪我でもしているのだろうか?


(戦士は居るのですが、少々問題がありまして……)

(戦えない戦士が村を護ってるんですか!?)

(いえ、魔族相手には問題は無いのですが……)


ひょっとして滅茶苦茶強くて手加減が出来ないとか?


(戦闘状態になると、我を忘れて襲い掛かってくるとか……そんな感じですか?)


俺の頭の中では叫び声をあげながら荒削りの石刀を振り回す2mを超える巨漢がイメージされていた。

いや、流石にアレは勝てないっすよ。

だってBランク以下の攻撃全部無効化しちゃうんですよ?

その上12回も殺さないと死なないとかマジチートじゃないですか。


(いえ、そのようなことも無いです)


俺のイメージした凶戦士とは違ったらしい。


(じゃあ、なんで?)

(それは……)


族長はなにやら言い難そうにしている。


(じゃあその戦士を紹介してください。後は自分で言いますので)

(いえ……そういう問題ではなく……)


どうしたんだろう。

かなり俺とは会わせにくいらしい。


(どうせ思念会話なら通じるんだし、自分で探します)

(わ、分かりました。案内しますのでついて来て下さい)


何をそんなにもったいぶる必要があるのだろうか。

召喚された俺がこんなにやる気になっているのに……


だが、その答えは彼女に会った瞬間直ぐに分かった。

彼女は男性恐怖症だったのだ。

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