第31話:夏休みと約束
「俺は! この日を! 待っていた!」
終業式が終り、久々の自宅に戻ってきた。
婆ちゃんの挨拶も済ませた。
掃除はホーミィに教えてもらった魔法で終わらせた。
さて、夏休み気分になる前に一つ確認しておく事がある。
「とりあえずアレに何か分かる事ある?」
アレと言うのはサバイバルの最後に使った魔法剣の事である。
覚えている事と言えば、
急に体が発火したと思う位熱くなった事。
極度の興奮状態になった。
この2点だ。
あの後調べたが、近いような症状が出る魔法を見つけたが俺の使った魔法剣との関係性は無かった。
(魔法の反動……という感じではなかった。恐らく魔法自体は問題ない。もっと別に原因がある)
「別の原因って言われても、全く分からないんだが」
(魔法を発動した時に体に異常が発生した場合、その原因は2つしかない。魔法による反動かその魔法に使用した魔力のどちらかだ)
「って事は俺の魔力と魔法の相性が悪かったって事か?」
しかし、そうなってくると更におかしい。
あの魔法は初めて使った魔法ではない。
だが、おかしな感じはあった。
エアロウィンドを使ったはずなのにエアロウィンドではなかった。
あのおかしい感覚はなんだったんだろうか。
あの大剣を構成していた魔法は一体なんだったんだろうか……
「バビロン、あの魔法剣の時ってお前が魔力供給してくれた?」
(していない。アレは全て双真の魔力だ)
「そっか……」
つまり、俺はあの時自分の知らない魔法を無意識に使った事になる。
そして、その時使った魔力によってあんな興奮状態になった。
「というか、魔力って何種類もあるのか」
(難しい質問だな。無いと言えば無いが、あると言えばある。例えば双真自身が使っている魔力と私が供給している魔力は別の種類だ。だが一度魔法として使えばどちらも同じ魔力だ。魔力に種類をつけるとしたらこんな感じだろう)
「でもそうなると俺の魔力とバビロンの魔力ともう一つ魔力がある事になるんだけど……」
(そこまでは分からん。危機を感じあの時だけ潜在的に隠された何かが発動した可能性が一番高いだろう)
「俺のレアスキルって奴?」
(そう考えるのが妥当だ)
「んー……でもあの反動は厳しいな」
慣れなのかもしれないが、練習しようと言う気も余り起きない。
あの状態で確実に止まってくれるのならば良いが更に酷くなるかも知れない。
そうなった時自分で止められるが無い。
なので練習も出来ない。
困った。
(使い方が分かるまでは使わないほうが良い。分からない力をそのまま使い続けた結果など聞くまでも無いだろう)
その通りだ、聞くまでも無い。
「分かった。この件は保留だな」
(あぁ、今はそれで良いだろう)
「こんにちはー」
玄関の方から声がしたので玄関に向かうと瑞穂が居た。
「よぉ、そっちも式終わったみたいだな」
「うん。終わったよ。だから遊びに来たんだけど……迷惑だった?」
「いや? 俺も暇をもてあましてた所だ」
「ねぇねぇ、だったらどっか出かけようよ? 今日秋葉でイベントやってるよ?」
マジか、なら参加しない理由はない。
「OK、行こうか」
そして俺と瑞穂は聖地へ赴くのだった。
「ふふふふーん♪」
私、麻井美緒は今とてもご機嫌である。
終業式が終わった後直に王宮に呼ばれた。
お父様が一緒に食事をしてサバイバルの事を話したら嬉しそうな顔をしていた。
そしてその後自由に使いなさいと袋を持たされた。
中にはブライティア特産の宝石が入っていた。
供給は安定しているが、それでも結構値段の張るものだ。
少なくとも私の金銭感覚の中では……
「これでどんなアクセサリーを作ろうかな~♪ ブレスレット? ネックレス? それとも……ゆ・び・わ? きゃ~!」
頬に手を当てその場でもじもじしてしまう。
他の通行人が変な人を見る目でこちらを見ていた。
その視線に気が付き、急いで平常心を取り戻す。
「あー……そっか、海に行くんだから新しい水着買わないと……」
去年の水着……と言ってもスクール水着なのだが、それはそれで狙えるのだがインパクトが足りない。
何か新しい水着を着て、双君をメロメロにしないと本当にホーミィに取られかねない。
「よし!」
美緒はアヴァロンのデパートに向かった。
「お客様! とてもお似合いですよ!」
「そ、そうですか?」
適当に店員さんに見繕ってもらった物だが確かに似合っている。
水色のビキニだ。
成長し続けている胸を強調しつつ、露出が大目の浜辺の定番パターンだ。
「はい! でも……お目当ての人が居るのなら……こちらなんてどうでしょう?」
店員さんが持ってきた水着はビキニより露出は多くなかったが……
「最近はこういうのを好きな男性が多いですよ?」
確かに分からなくはない。
大胆なビキニよりも露出は少ないが絶妙にエロティックを醸し出している。
ホーミィはあの体系だ
ビキニで攻めてくるだろう。
となると、同じビキニ対決では悔しいが敵わない。
ならこういうのもアリなんじゃないだろうか。
「あの……お客様?」
「えっ……あ、これください」
少し考えている時間が長かっただろうか。
とにかく今年の勝負水着はコレで決まりだ。
俺と瑞穂は秋葉に着いた。
さすがイベントがある日だ。
「ところで今日はどんなイベントなんだ?」
「コスプレイベントだよ?」
「マジかよ! テンション超上がるな」
この会話から分かるように俺と瑞穂は以外にも趣味があった。
「ねぇねぇ、あっちで撮影会やってるよ?」
「よし、見に行こう。そして撮らせてもらおう」
こりゃあ、カメラ持ってきて良かったぜ。
「後で双真君の家で見せてよ」
「おう、分かってるって……ん?」
あれ?
今見たことある人が通ったような?
まぁ、気のせいだろう。
俺は今から2次元と3次元の壁を超えるのだ。
「撮った撮った。大満足だ」
「うん、可愛い人多かったもんね。私もかなり興奮しちゃったよ」
イベントをたっぷりと楽しんだ後買い物をして俺と瑞穂は家に帰ってきた。
「あれ? 誰か立ってるよ?」
「本当だ」
よく見ると玄関の前に誰か立っている。
その人物はこちらを見ると走ってきた。
「こんにちは、双真さん……と誰ですか?」
玄関の前に立っていたのはホーミィだった。
とりあえず事情を説明する。
「桜井瑞穂です」
「ホーミィ=ミクフィールと言います」
先週はライバル同士で戦ってた事を考えると少し不思議な感じもする。
「まぁ、何しにきたのかは知らないけど上がってよ」
食材はたっぷり買い込んできたのでホーミィが居ても十分足りる。
「瑞穂。お前料理出来たっけ?」
「出来ないよー」
美緒はかなり出来る。
ホーミィもそこそこ。
そして瑞穂は駄目と……
「俺もそこまで得意ってわけじゃないからなぁ……」
美緒の料理は美味い。
味付けを俺好みにしているということもあるだろうがそれでも美味い。
ホーミィと比べると今は俺に軍配が上がるがいずれ抜かれるだろう。
ホーミィは何でも上達が早い。
初めてホーミィの家で食べた時と今週作ってきてくれた弁当はまったく別物だった。
その内美緒も抜くんじゃないだろうか。
「ねぇ、双真君? 今日の夕飯は何?」
「女体盛り」
「いい趣味してるね~」
趣味は合うとは言え下ネタはNGだったらしい。
目が笑ってない。
冗談はさて置き、今日のメニューは圧力鍋を使った肉じゃがと山菜の炊き込みご飯だ。
もう一品欲しい所だが、あいにく俺のレパートリーはそこまで広くない。
後一品はデザートで許してもらおう。
「出来たぞ~」
「女体盛り?」
瑞穂が日本語で冗談を言うとホーミィの顔は真っ赤になった。
日本語での会話のはずなんだが、なぜホーミィは真っ赤になっているのだろうか?
いや、まさかね……
あまり考えたくない事なのでこの会話はここで止めよう。
「炊き込みご飯と肉じゃがだ」
「出ました! 男を落とす女の定番料理だ!」
間違っちゃいないが、この場合俺がお前らを落とす様に作ったように聞こえる。
「さて、今日の成果を拝見しようとしましょうか!」
「待ってました!」
「お二人は今日何をしてきたんですか?」
あ……まずい。
ホーミィ居る事忘れてた。
だが時既に遅し。
パソコンの画面にはHDサイズのコスプレ写真が映っていた。
「………」
「………」
「双真さん?」
あかんって、こっちの趣味が分からない人にこれは駄目だって。
ちょっとパンツ見えてるもん。
「これなんですか?」
「写真……」
「今日の成果ですか?」
「はい……」
怖くて後ろが振り向けない。
それは瑞穂も同じのようだ。
ホーミィは勤勉だ。
いつの間にか知って良い事と悪い事ををちゃんと知っていた。
つまり、天然のこの服可愛いですね。がもう通用しない。
「何か、言うことは?」
怒ってる。
絶対怒ってる。
「えと……その……消せばいいですか?」
「それを消すなんてとんでもない!!」
瑞穂、お前男だな……女だけど。
「美緒さんに報告しておきますね」
ニッコリ笑顔だった。
ただし目は笑っていない。
「やめて! それだけは!!」
美緒に知られたらパソコンごと破壊されかねない。
「なぁホーミィ、今度トラットリアに……行かないか……?」
「トラットリア?」
「あぁ、お洒落なレストランで、貴族しか入れない所なんだけど、俺は訳あってフリーパスなんだ……」
ホーミィがピクンと反応する。
ここだ!
ここで畳み掛けるしかない!!
「前はグランと一緒に行ったんだけど、今度ホーミィと行きたいな」
出費はかさむが今はそんな事を言っている場合ではない。
大事な俺のお宝を死守しなければいけない!
「お洒落なレストラン……2人っきり……」
ホーミィの頬が赤く染まり人差し指を立てながら天上を見ている。
色々なシーンを思い浮かべているのだろう。
よし、ここで最後の一押しだ。
立ち上がってホーミィの手を掴む。
「俺はホーミィと行きたいんだ!」
まっすぐホーミィの目を見る。
決して逸らしてはいけない。
「は…はい……では明日ご一緒させて頂きます……」
ホーミィは真っ赤な顔をしたまま俺から目を逸らしてそう言った。
(双真君、GJ!)
(半額出せ)
(えぇ!?)
(半分はお前のせいだろ!? あそこ高いんだぞ!?)
(参考までに……)
(一人6000円する)
(何それ!? 私の半月の食費じゃない!)
一ヶ月12000円の食費ってどんな食事だよ。
むしろそっちのほうに突っ込みたいわ。
俺は容赦なく瑞穂から半額出させた。
「いらっしゃいませ、宮本様……とお連れの方」
マスターが一瞬だが言葉を失った。
無理もない。
今日のホーミィの格好はダンスパーティに行ったとしても羨望を浴びる。
服装だけではない。
髪型、装飾品まで全てバッチリ決めてきた。
はじめてあった時この格好をしていたら間違いなく住む世界が違う人間をイメージする。
すこし洒落た普段着を着てきた俺が恥ずかしくなるレベルだ。
「これは大変失礼いたしました。何処の貴族の方でいらっしゃいますか?」
「い…いえ、私は貴族ではありません……」
「それはそれは……大変麗しいお嬢様でしたのでどうかご容赦ください」
マスターが勘違いしてもしょうがない。
俺も最初誰だか気がつかなかった。
携帯に電話したら真横で鳴り出した時はびっくりしたものだ。
一応マスターには前回の件もあるので事前に説明はしておいた。
社交辞令も兼ねているのかも知れないが、此処に来るまでに何度か何処の貴族ですか? と声を掛けられている。
トラットリアは基本的に貴族専門だ。
失礼があっては店の評判を落とすことにもなるので予防線の可能性もあったのだろう。
「では、ご案内いたします」
そしていつもの様にマスターは席に案内してくれた。
「双真さん、そんなに貴族っぽく見えますか?」
「俺は最初ホーミィって気がつかなかったしな」
「そうですか、ふふふ」
思ったより上機嫌だ。
「けど、なんでそんなに気合を入れて来たんだ?」
「双真さんから貴族しか入れないと聞いたのでお母さんと相談したらこうなりました」
これほど度肝を抜かれたのは美緒のウェディングドレス以来だな。
なんというか、元が良いからどんな服を着せても雰囲気を纏ってしまう。
ある意味女優とかに向いているのかもしれない。
「それにしても良くそんなドレスあったな……本当にびっくりしたぞ?」
「お母さんが昔着ていたそうです。私にも何とか着れました」
何とかっていう部分は言わなくても分かる。
極一部分はドレスを着ていた頃のシルウィさんよりもあったという事だ。
「お待たせしました。本日のオススメ、ベベソースパスタでございます」
そして俺とホーミィは食事を楽しんだ。
結局美緒とホーミィ両方連れてきちゃったな。
まさか今度は瑞穂をつれてくることにはならないよな……?
そして家に帰り、俺は美緒を家に呼んだ。
「お邪魔しまーす」
「あぁ、居間まで来てくれ」
「分かった~」
さて、なぜ美緒も呼んだかというと……
「海水浴の日程を決めようと思う」
「ついに……」
「来ましたね……」
夏休みの課題はこの3人でやれば全員7月までに終わるだろう。
そうすれば、泊り掛けの旅行に行く事だってできる。
つまりそういうことだ。
「7月中に宿題を終わらせて、8月1日から2泊3日の海水浴に出かける!」
「お泊り!?」
「旅行ですか!!」
「……日帰りのほうが良かった?」
そう言うと二人ともぶんぶんと首を横に振った。
「いや、全然良いよ! むしろそこまで考えてくれてるとは思わなかっただけで」
「私も嬉しいです!」
うんうん、2人とも喜んでくれてるみたいで俺も嬉しい。
「あと部屋割りなんだけど2部屋しか取れなくてさ。悪いんだけどホーミィと美緒は相部屋で頼む」
「え? そんなの必要ないよ? ねぇホーミィ?」
「そうですね。私も必要ないと思います」
「まさか部屋ひとつで良いとか言い出すんじゃないだろうな」
「だってそっちのほうが安いでしょ?」
まぁ確かに安いっちゃ安いけど……
「私とホーミィが良いって言ってるんだからいいじゃない。一部屋だけで」
もうこうなると俺の意見は聞いて貰えないんだろうな……
俺は諦めた。
輝く砂浜。
所狭しと立てられたビーチパラソル。
そして青い海。
そう俺達は海へやってきた!
そして俺は美緒とホーミィが着替えをしている間にビーチシートを敷いたり、パラソル立てたり陣地確保をしていた。
「……遅いな」
既に用意は出来た。
だが、何時まで経っても2人ともやってこない。
脱衣所が込んでいるのだろうか?
等と思っていると前方から大人数の団体がこっちに歩いてきた。
「双君~!お待たせ~!」
おかしいな、あの団体の中から俺を呼ぶ声がする。
「双真さ~ん!」
俺に大きく手を振っている人も居るが……はて?
考えている間に団体は俺達のシートまで来た。
はやり、団体の中に居たのは美緒とホーミィだった。
「大きいお友達がいっぱいだな」
「まぁ全員ナンパなんだけどね」
まぁそうでしょうね。
そして面倒ごとを片付けないまま俺の所にやってきたと……
「モテる女は辛いね~」
「早く帰ってもらえ。ライフセーバー来るぞ」
めんどくさそうにしていると浜辺でナンパしてます! って代表格の奴が声をかけてきた。
「兄ちゃん。この子らの何なの?」
「クラスメイトだけど?」
「なら借りてっても良いって事?」
「おいおい、俺が何の為に海水浴に来てると思ってるんだよ……」
この2人の水着姿見るために決まってるだろ。
「悪いけど、他所を当たってくれ」
「いやいや兄ちゃん。片方だけでも良いじゃない」
「悪いな、俺は欲張りなんだ」
「なぁ兄ちゃん。俺達が穏便に済ませようと思ってる内に済ませた方がええで?」
「んじゃ2人に聞いてくれ。2人がそっちと遊ぶって言うのなら俺は止めん。けど俺と遊びたいって言ったらこの話はここまでだ」
そんなもん、聞くまでも無いけどな。
「私は双君と遊びに来たから他の人とは遊ばないよ?」
「私も同じ意見です」
だろ?
「だってさ、諦めてくれ」
「いやいや、俺達と遊んだほうが絶対楽しいって」
「そうそう、飯とかカキ氷奢っちゃうよ?」
俺がこの人達と遊びたくなってきた。
だが、次の美緒の一言で全てケリがついた。
「警察呼びますよ?」
この一言でナンパ男達は去っていった。
日本は平和だと思う。
さて、改めて見てみよう。
ホーミィは白布地に花柄の模様が描かれたビキニだった。
かなり大胆な水着だが、ホーミィのボディラインを考えると素晴らしい選択だといえる。
出ている所は出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいるホーミィにぴったりだ。
まぁ性格と水着があっていない所にギャップを感じないことも無い。
そして美緒だ。
俺は美緒もビキニで来るものだと思っていたら、まったく違うものできた。
「……それなんていうの?」
「モノキニ」
エロい。
布地はビキニより多いのに、なぜかエロい。
何だこの不思議な水着は……
「どう? びっくりしたでしょ?」
そういって手を腰に当ててポーズをとる。
「あぁ、最近の水着は侮れんな……」
2人の水着披露が終わった。
もちろん撮影もしている。
最近のカメラは小型化もさることながら防水仕様だからな。
GOのメンバーを裏切るわけにはいかん。
遊んでいる間も何度も2人はナンパされたが丁寧に帰ってもらった。
「ふぅ、遊びに行ったのかナンパされに行ったのか分からなかったな」
「双君? これがどれだけ幸福なことか分かってる?」
「そうですよ? そろそろ覚悟を決めて頂きたいです」
「んー……でもホーミィの次元で結婚すれば別に2人とも貰っても構わないんだろう?」
「そりゃ、そうだけど……む~……」
やはり美緒は納得がいかないようだ。
俺のハーレムはそう簡単には出来ないらしい。
「カリバーンを卒業したら一緒のチームで行動しませんか?」
「もう卒業後の話?」
「別に悪くないんじゃない? 戦闘が俺で後衛が美緒そしてサポートがホーミィならバランスも取れてると思うけど」
うん、確かに悪くない。
普通のチームも大体3人~5人が一般的だ。
それにバランスも取れている。
そう思うとこの関係はかなり長く続くのだと思う。
だが事件は次の日に起こった。