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第30話:目論みと決着

「前方から多数の敵戦力が来ます!!」


ルナティックアローを打ち終わり、確かな手応えを掴んでいたルティス陣営に衝撃が走った。


「どういうこと!? ルナティックアローが成功したのよ!? まともな戦力が残っているわけが無い!」


即座に携帯端末で状況を確認する。


「残存数79人!? 一体どういう事!?」


ルナティックアローは完璧だった。

一瞬で混戦地帯を焦土にしたと言っていい。

そのはずなのに何故79人も残っているのだろうか? ありえない話だ。

この残り方は普通じゃない。

スパイをどうこうを言っている場合ではない。


「全員戦闘準備!! 本部を中心に防衛線を敷きます。ポーション等が残っている人は今すぐ使って!!」


サバイバルでは一般的なトレジャーが持っているアイテムなら使用していい事になっている。

武器防具、市販されている回復アイテム。自ら獲得したした素材等も含まれる。

だがルナティックアローに命運をかけていたルティスには余力は残っていなかった。


戦闘が開始されるが、カリバーン側の勢いは凄まじくこちらの防衛線はあっというまに崩されていく。


「ヒースさん、こっちへ!!」


最後の護衛が倒され、ヒースは瑞穂に呼ばれ直に瑞穂と背中合わせの体制を作る。


「ヒースさんアレ使います!!」


アレとはヒースが瑞穂を自分のPTに引き入れるきっかけを作った魔法。

この年でその魔法を使えること自体才能を持っているといっても良い。

来年度以降のリーダー候補としてヒースは瑞穂を自分のPTに入れていた。


「使えるの!?」

「ポーション飲んだのでギリギリ何とかなります!」

「分かったわ!」


そして私は瑞穂の時間稼ぎをする為に、前に飛び出し注意を引く。

迎撃しようとしてくる相手に閃光の魔法で目を眩ませた。


「桜井さん!!」

「行きます!!」


瑞穂は上空に魔方陣を展開。

魔方陣から敵を察知して範囲を決める。

そして瑞穂はありったけの魔力を注ぎ込み叫ぶ。


「グングニル…!!」


発動させるのがギリギリなので威力は最弱。

しかし対竜用の魔法だ。

最弱とは言え威力不足ということは無い。


瑞穂とヒースを中心に無数の槍が上空から放たる。

その槍は本部ごと周り全てを吹き飛ばし、最後には瑞穂とヒースを残すのみとなった。


「はぁ……はぁ……使っちゃいましたけど大丈夫ですよね……?」


周りの惨状を見て瑞穂は使った事を後悔していた。


「恐らく大丈夫でしょう。直撃してない限り……」


一定ダメージを越えると強制転移が働くが即死攻撃は例外。

攻撃を受ける本人が死を瞬間にも飛ばされるのでよほどの死にたがりでもない限り死ぬことは無いはず。


「けれど、これで勝ちみたいね」

「はい、もうヘトヘトです……」


だがいつまで経っても勝利のアナウンスが聞こえてこない。


「あれ? 勝利するとアナウンスが聞こえてくるんですよね?」

「えぇ……おかしいわね? まさか!?」


急いでヒースが携帯端末を確認する。

そこには2対1と表示されていた。


「馬鹿な……1人だけ温存しておいたと言うの!? 何の為に!?」

「……待ってくださいヒースさん。多分この人魔力が枯渇してるんじゃ……?」


瑞穂に指摘され、ヒースは冷静になる。


確かに……ルナティックアローを打ち破った時点でこっちに戦力が残っていない事は明白。

第2陣を仕掛けるにしても1人と言うのはおかしい。

そうなってくると1人というのは魔力が枯渇しているか、何らかの理由で行動が出来ない戦力外の人数と数えるのが妥当だろう。

幸い私は万全とは言わないが魔力に余裕がある。

疲弊しきった1人程度問題なく倒せるだろう。


それにサバイバルのルールで最後の戦闘が終了してから30分以上戦闘を行わなかった場合人数の多かった方が勝ちになると言うのがある。

つまり30分逃げ切れば私達の勝ち。

魔力の枯渇した奴に捕まるほど私は馬鹿ではない。


「桜井さん。お疲れ様。後は30分休んでいるだけで勝てるわ」

「本当ですか!?」

「えぇ、そう言うルールですから……」


ヒースは勝利を確信し笑うのだった。





その頃双真は激戦区だった森林地帯を歩いていた。


「本部に反応が2つ。その内1つは殆ど魔力が残ってないけど……」


残りの1人がかなり魔力を残した状態だ。

今の俺じゃ全く歯が立たないだろう。

グングニルが落とされてから20分が過ぎた。

後10分以内に戦闘行為を行わないとこっちが負けてしまう。

だからと言って無闇に突っ込んで勝てる訳でもない。


「すー……はー……」


大きく深呼吸をする。

勝てる方法を模索する。

残っている僅かな魔力でどれだけ意表を付けるか。

その方法、その後どうやって相手を戦闘不能まで持って行くか。


……駄目だ、今の魔力じゃ簡単な魔法を数回使った時点でまた枯渇してしまう。


「しかし、このまま引き下がるわけにも行かない……ん?」


何か蹴っ飛ばした。

ふと下を見ると、そこには中身の入った瓶が転がっていた。

そこで閃く打開策。


「ひょっとして!」


強制転移で転送されるのは本人だけだ。

厳密に言えば本人と接触している物だが、道具や武器関係は触れていない限り基本的に転送されない。

つまり、今この地点にはそう言う落し物が最も落ちている場所なのだ。

すぐさまポーションを一気飲みし、バビロンの目で周囲を見渡すとポーションが数本落ちていた。


「おぉ! あるぞ!」


全快には程遠いがある程度は魔力が回復するだろう。


「よし!」


すぐさま全てのポーションを回収し魔力を回復させる。

失格になるまで残り5分。

そして、さらに面白い物も見つけた。

ルティス側の無線機だ。

当然本部と繋がっているはず。


「あーもしもしー? 聞こえるー?」


手に持ったルティス側の無線機に向かって声を掛ける。

さて、ファイナルバトルが始まるぜ?





~カリバーン校長室~


「成程、ルナティックアローで脱落した生徒のポーションを使うとは考えましたな」

「あのタイミングでグングニルを使える魔力を残していたあの生徒の方が上手でしょう。本来ならばあの攻撃で勝敗が決まっていました」

「それも全てはルナティックアローを防いだあの生徒あってこそのこの進展。生徒に恵まれましたな。アイルハイルさん」

「だから言ったでしょう? 今年は良い生徒が入った……と」


大画面に映るサバイバルの実況を見ながらカリバーンとルティスの校長がお互いの生徒を褒めあっていた。

カリバーンとルティス、両校はライバル校であるのだが、なぜか校長同士は仲が良かった。


「しかしヒースさんは相変わらずですね。ルナティックアローを毎年見事に使いこなしている」

「私が直接教えてますからね。彼女は才能がある。カリスマもある。将来人を束ねていく人間だ。ならば最大限その手助けをしたいと思うものでしょう?」

「そのお考えには同意します。ベインス校長」


2人の後ろから別の声がする。


「あぁ、エヴァンス先生。お久しぶり」

「お久しぶりです。今年は宮本君にしてやられたと言う感じですね」

「ほう。あの生徒は宮本君と言うのかね。実に素晴らしい盾を持っているね」

「彼は次元竜の所持者です。私も次元竜があそこまで強力な力だとは思っていませんでしたが……」

「ルナティックアロー78本を耐え切るなんて、今は隠居生活をしてる爺さんでも出来るかどうか」

「称号を持っているあの方なら簡単に出来そうですが?」

「単純な盾の性能だよ。どれだけ膨大な魔力を持っていても元がお粗末ならば大した物にはならない。攻撃を受け続ければどこかに綻びが生じそこから崩れていく」

「つまり、盾の性能は一流という事ですか……」

「一流じゃない。超一流だ。あそこまで高性能な盾は見たことが無い。ただ……使っている本人が未熟なのが残念だ」


ベインスが目を伏せる。


「まだ15歳です。無理も無いでしょう」

「故に勿体無い。彼に次元竜は早すぎる」


そう言ってベインスはあごに手をやる。


「然るべき人材に委ねるべきではないだろうか? なぁアイルハイル?」

「私もその考えには賛成ですね。彼は次元竜を使い切れていない。宝の持ち腐れになっている。然るべき者に渡れば、充分に力を発揮し次元開拓に貢献すると思います」

「それに新たな錬金術も生まれるかもしれん」


この2人は既に次元竜の力を見抜いていた。

見抜いた上で双真には相応しくないと判断している。


「しかし、法律で保護されてます。宮元君を通さなければ次元竜は動かせないですね」

「何か良い策は無いだろうか? エヴァンス先生。これでは次元竜が可哀想では無いか?」


エヴァンスは考える。

出来れば宮元君には迷惑をかけない形で事を運ぶ事は出来ないだろうか。

宮元君は私がスカウトした中でもお気に入り。

出来れば成長にマイナスになる要因を入れたくない。

そうだ、スフィア君が居る。

貴族としても名高く今年の代表生徒にも選ばれた。

スフィア君は賢い、彼なら良い判断をするだろう。


「次元竜は所有者がもう1人居ます。彼は宮本君より交渉がしやすいかと思います」

「その所有者の詳細を教えてもらえるかな?」

「はい」


サバイバルの裏側で次元竜という力に目を付けた者達が居た。





「あーもしもしー? 聞こえるー?」


突然無線機から聞こえる声に、ヒースと瑞穂は聞き覚えがあった。


「あれー? 聞こえてない? それとも壊れてる? あ、そっか近くにいないのか。困ったなぁ……」


ヒースと瑞穂は迷っていた。

この声に反応していいのかどうか。

反応しなくても問題はなく、勝利も揺るがない。


「ひょっとして、勝ち逃げなんてせこい事を考えてるのか?」

「せ、せこいですって!?」


反射的に口が出てしまった。

しまったと思ってももう遅い。


「なんだ、居るんじゃないか。直に応答してくれよ」

「……何の用です?」

「こっちには戦う意思がある。あんたが何処に居るのか知りたい」

「教える必要があると思っていますの?」


教えた所でそれは自分に不利にしか働かない。

そんなことを教えるほどお人好しでもない。


「へー、じゃあ勝ち逃げ? こっちは正々堂々勝負しようって言ってるのに?」


カチンと来た。

勝ち逃げと言う言葉に無性に腹が立つ。

まるで勝てないから逃げているんだろう? と言われているような気がする。


「あれ? だんまり? あ、ごめんごめん、図星だった?」


わざとらしい演技だ。

こちらを挑発していることが見え見え。

それなのにどうしてこんなに無性に腹が立つのだろう?

喋り方も軽くとても一流校の生徒の言葉遣いではない。

それが逆に癪に障る。

こんな奴らに自分のルナティックアローが潰されたのかと思うと……


「ひょっとして……負けるのが怖い? そりゃそうだよねぇ~このまま逃げ続けれてば良いもんね? わざわざ俺の挑戦なんて受ける必要全然ないもんねぇ?」


手に力が入り、端末がミシミシと音を立てる。

何故ここまで自分達は馬鹿にされなければいけないのか?

どうせ、魔力を使い果たして歩くのがやっとな癖に……


「そういう、試合に勝って勝負に負ける奴の事を俺は負け犬って言ってる」


負け犬という言葉にヒースの我慢の限界を超えた。


「良いでしょう!! その挑戦受けて立ちますわ!! 私達は本部に居ます!! 逃げも隠れも致しませんわ!!」


怒りに任せ端末に怒鳴りつける。


「おっけー、その言葉が聞きたかった」


その言葉はヒースの真横から聞こえた。

その事に気づき振り向いたその先には拳が待ち構えていた。


「ぐっ!?」


咄嗟に腕を上げガードをした所にミドルキックを入れられた。

脇腹を強打され体勢を崩される。


「一体……どうやって……」


顔を顰めながらさっきまで軽口を叩いてきた男、宮元双真を睨みつける。


「はい問題。隠密部隊の全てに的確な指示を出し殲滅した立役者は誰でしょう?」

「貴様かぁ!!」


ヒースの怒りが頂点に達した、折りたたみ式のトンファーを取り出し突撃。

魔力を使って速度と威力をブーストさせる。

魔力補助なしに反応できない速度、間違いなく獲った。


ギィン!!


見えない壁に弾かれる。


「なっ!?」


ありえない。

相手は指一つ動かしていない。

だが、その大きな隙を相手が許してくれるはずも無く、鳩尾に正拳を叩き込まれた。


「かはっ!!」


その場に崩れ落ち体が言う事を聞かない。

魔力が枯渇している相手に苦戦している事が理解出来ない。


「あんまり女を殴るのは気が進まないが……」


嘘だ、ニコニコしている。

こいつ……間違いなくドSだ。

そう思った瞬間私は意識を刈り取られた。





「ふぅ……ビビッた……」


全く魔力を使わなかったわけじゃなかったけど、上手くいって助かったな。

オリハルコン競争で使ったグラビティウォール。

相手の攻撃が早ければ早いほど強固な壁になる。

あそこまで煽っておけば全力で攻撃してくる事は目に見えてたからな。

少し危険な賭けだったが成功してよかった。

なにより、物理攻撃じゃなくて魔法攻撃だったら俺の負けだったし……


気絶させた事によりヒースが転移されたのを確認した後双真は瑞穂に向き直った。


「さて、残ってるのはお前だけだな。瑞穂」

「相変わらずの強さだね双真君。まさかヒースさんを一方的に倒すとは思わなかったよ……」

「一方的? それは違う。奇襲が上手く行ったって言うだけだ」


無線連絡で相手を怒らせながら近づき、顔への分かりやすいフィントでガードを誘い最初の狙いである脇腹にミドルキック。

そして距離が開いたところで更に挑発をして冷静さを失わせる。

冷静さを失い全力で殴りかかってきた所を重力の壁で弾き、急所にきついのをお見舞いする。


まず挑発に乗ってくるかどうかが分からなかったし、重力の壁だって防げるのは物理攻撃だ。

魔法攻撃だとしたら負けていたのは俺の方だ。


「そうだとしても、それをやっちゃうのが凄いって言ってるの」

「運も実力の内って事にしておくよ」


瑞穂の魔力は殆ど残ってない。

恐らくあのグングニルは瑞穂が打ったんだろう。

強くなったもんだ……あの頃の面影は一切無い。


「でもね、結局最後に勝つのは私達なんだよ?」

「……何?」


明らかな強気。

何かあるに違いない。

だが見たところ魔力は殆ど残っていない。

注意深く周りを見回しても怪しい物も全く無い。

只のハッタリか?


「なんだ、ハッタリか……ビックリするじゃないか。でもこれで終……」


(上だ!)


「!?」


上空にはありえないものが存在していた。


「馬鹿な! ルナティックアローだと!?」


だが、確かに存在していた。

巨大な魔方陣はまだ消えてなかった。


「そう、私の分」

「どういう事だ……?」

「ルナティックアローは、魔力充填が終わったら直に発射シークエンスに移るけど、発動のタイミングはターゲティングした人が決められるの」

「いや……それにしたってお前……」


俺はターゲティングされた覚えが全く無い。

一体何時ターゲティングされたんだ?

サバイバルが開始されてから俺は本部から動いていない。

魔力充填は標的が全て決定した後じゃないと行えない。


「これで決めるよ!!」


既に瑞穂は手を上げ発動のタイミングに入っていた。

最後の一矢。

今の俺に防ぐ方法は存在しない。


ドクン……


瑞穂の手が振り下ろされる瞬間、俺は死を覚悟するより生に縋りついた。


「くそったれぇぇぇ!!」


今の魔力を全て使いそれを構成する。

魔法その物の形を変化させる俺のオリジナル魔法。

使った魔法はエアロウインド。

形状は大剣。

右手に出現させた大剣を掴み上空から降ってくるルナティックアローにぶつける。


ぶつかり合った瞬間2つの魔法は同時に爆ぜた。


「ぐうぅぅ……!」


爆ぜた衝撃に吹き飛ばされそうになるが何とか踏ん張る。

元々エアロウインドは自分の周りの攻撃を吹き飛ばす為の魔法だ。

方向を調整してやればルナティックアローの爆風を防ぐ盾となってくれる。


だが、違った。

使った魔法は確かにエアロウインドだったはずだ。

だが、この大剣はエアロウインドで構成されていなかった。

もっと別の何かの魔法で構成されていた。

俺は本能的にそう感じ取っていた。


俺は一体何を使った?


その疑問を持ったまま、俺は瑞穂に向き直った。

今はそれよりも聞かなければいけないことがある。


「瑞穂、どうやって俺をターゲティングした?」


自分でも怖いぐらい興奮している。

そして体は発火でもしたのかと言う位熱い。

その気も無い筈なのに瑞穂に殺気を放っている。

俺を見る瑞穂は明らかに怯えていた。


「あの……時……」


あの時……?

一体何時の事だ?


「あの時じゃわかんねぇだろ!!」


訳も分からずキレていた。

自分が制御できない。


「京都駅で握手した時!!」


京都駅……?

あのお互いサバイバル頑張ろうぜって言った時か、っておいそれって……


深呼吸をして何とか自分を落ち着かせようとする。

これ以上怒っていてもしょうがない。

先ずは冷静になれ。

寧ろなんでこんなに怒っているのか俺自身理解出来ていない。

どの道俺の勝利はもう揺るがない。

鎮まれ……鎮まれ……


「お前……ルールちゃんと把握してんのか?」


冷静に言ったつもりだが、脅してるようにしか聞えない、


「え……?」

「サバイバル開始前に自軍に有利になる行為は禁止されてる。お前のターゲティングはそれに当たるって言ってんだ」

「………」


瑞穂の顔が真っ青になる。

漸く俺の言ってる事が理解できたようだ。

俺も何とか心を落ち着かせる。


「ふぅ……俺の勝ちだな」

「そんな……」


最後はなんともあっけない終わり方だった。





こうして今年のサバイバルはカリバーンが勝利した。

瑞穂はルールを知らかったとは言え、違反したにも拘らず多大な戦績を残したので来年の出場は禁止。

戦績がそこまで良くなければ厳重注意に留まる筈だったが、グングニルでカリバーンの残党を一掃したのがかなりの高得点だったらしい。


今年は死者はでなかったが、重症者が多かったので医療室は暫く多忙だろう。

表彰式は1週間後に持ち越されることになった。

美緒とホーミィも重傷者に入っており、2人とも一週間入院する事になっている。

グランは俺の負担を軽くする為にルナティックアローが打たれた時に自分から医療室に転移したそうだ。

後から聞いたが、発射シークエンスの2分間で魔力が尽きるまで相当暴れまわったらしい。


「よぅ、ちゃんと療養してるか?」

「あ、双君!」

「双真さん!」


美緒とホーミィの部屋に見舞いに行くと、それまで寝ていた美緒がいきなり起き上がった。


「こらこら、重症者なんだから大人しくしてろ」


やっぱりルナティックアロー食らった奴は大体重傷者っぽいな。


「ルナティックアローだっけ? 食らった本人から言わせて貰うと、一瞬でその場から吹っ飛ばされた感じがして気が付いたら医療室に転移されてたよ」

「まぁ一定以上のダメージをその一瞬で食らったんだろ?」

「シールドでも張れれば違ったと思うけど、そんな余裕も無かったよ」

「空が光ったと思った瞬間に降ってきたからな」

「私は何か来ると思って咄嗟にシールドを張ったのですが、駄目でした」

「成程、だからホーミィの方が退院が早いのか」


魔力感知はホーミィの方が鋭かったな。


入院の予定は美緒は一週間でホーミィは2日なのだ。


「でも、やっぱあれは反則に近い攻撃だったなぁ。それなりのリスクもあったけどさ」

「打ったら勝ちみたいなものだったもん。良く勝てたね?」

「対策練ったからな」

「え!? じゃあルナティックアローの事知ってたの!?」

「あぁ」

「酷い!! 何で教えてくれなかったのよぉ!!」

「そりゃあ俺のそいつだけのギブアンドテイクだったからだ。必要な奴以外は教えてない」

「ルティスに知り合いでも居るの?」

「あぁ、美緒も知ってる奴がな」

「私も知ってる……?」

「代表挨拶の時にバッタリあって、京都駅で色々話してたときにヒントだけ貰ってた」

「ルナティックアローって事に気が付いたのはサバイバルのちょっと前だったからな、対策練るのも必死だったんだぞ?」

「それで、その対策をグランさん率いる総勢150人の大軍団に使ったって事?」

「その通りだ。まぁ実際打たれたときは俺含めて80人位しか残ってなかったけどな」

「その後本部強襲してMVP取ってきました! だもんなぁ……納得行かない!」

「まぁまぁ美緒さん、これで双真さんの夏休みが確実の物になったんですから良いじゃないですか」

「ま、まぁ確かに当初の目的は達成したしね。次からこういう抜け駆けは許さないからね?」

「許さないも何もパーティだって違ったし、トレジャーになったらこういう危険予測が一番大切なんじゃないか?」

「くぅ~、言いたい放題言ってぇ……」

「勝者の特権だ。大人しくしてるんだぞ」





そして1週間後表彰式が行われた。


「貴方に言われた通り、足を掬われました」

「来年は通じるとは思っていません。来年も良い勝負をしましょう」


両校の代表生徒が片方は爽やかな笑顔で、片方は歯を食い縛り無理やり作った笑顔で握手していた。

恐らく思いっ切り力を込められてるんだろうな……


「それでは今回のMVP、1年B組宮元双真。前へ」

「はい!」


大きな返事をしアイルハイル校長の前に立つ。


「君は、今回のサバイバルで大変優秀な成績を収めた。その成果を労い一つ褒美を取らせよう」

「はい、では僕の期末試験の赤点を全てなかった事にしてください」


会場全体が固まった。


「い、今なんと言ったのですか?」


アイルハイル校長には良く聞こえていなかったらしい。

もう一度しっかり言わなくては。

大事な事は2回言わないとな。


「僕の期末試験の赤点を全てなかった事にしてください」

「わ、分かった。MVPを取るほどの君が何故赤点を取ったのか気になる所だが、何か事情があったのだろう……」


アイルハイル校長は必死でこの空気をどうにかしようとしていた。

だが、2回も同じ事を言ったので、会場に集まった全員に俺の言葉は届いた事だろう。


「ありがとうございます」


一礼し、そのまま俺は元の位置に戻って行った。


(宮本君。後で話があります)


俺はエヴァンス先生に呼び出しを食らった。





表彰式終了後のルティスの生徒の落ち込み様は凄まじかった。

所々から聞こえる赤点…赤点…の声。

自分達の切り札ルナティックアローを防ぎ、代表生徒のヒースを打ち破った男がなんと期末試験で赤点を取っていた。

そしてMVP報酬でその赤点を無かった事にした。

自分達は赤点生徒に惨敗した。

あまりの衝撃に怒りも沸いてこない。

完全な無気力状態でルティスの生徒はカリバーンを後にした。


その後エヴァンス先生からのお説教は2時間を超えた。

2013年3月31日

全体的に行間等を修正しました。

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