第29話:サバイバル開始!
「GOプロジェクト最後の集会を始めます。作戦も固まり後は一致団結して戦うのみとなりましたが……重大発表があります。それも勝敗に直接関わるレベルで……」
会場がどよめく。
そりゃそうだ。
この集会は緊急に行った物であり本来は予定していなかった。
だが瑞穂の言っていたルナティックの正体が分かり対策も立てられたのだ伝える必要がある。
「ルティスの切り札となる魔法の正体が分かりました」
ルティスの切り札はルナティックアロー。
広範囲殲滅儀式魔法だ。
瑞穂の「運」と言うのは日本で言うツキが回っているのツキの事だったらしい。
ツキ→月→ルナティック。
広範囲殲滅系魔法の本を見ながらジョークを考えていた時に気が付いた。
むしろこんな下らないダジャレを瑞穂がしていたのだと思うと案外趣味は合うかもしれない。
調べた所、使い方は難しいが運用が出来れば途轍もなく有効な一撃になる。
儀式魔法とは一定の手順を踏まないと発動しない魔法だ。
その分、威力や範囲は普通の魔法とは段違いの性能を誇る。
ルナティックアローの手順は3つだ。
まず標的を定める。
その後必要な魔力が充填する。
そして次第発射シークエンスに入る。
ルナティックアローのターゲティングの限界数は儀式魔法の中心人物の技量によって変わる。
標的を決める方法は直接触れるか、専用魔法を相手に当てる事。
その後必要な魔力が溜まると自動的に発射シークエンスに入る。
矢の速度は音速に近いので打たれると分かっていても避けられない。
「それって……どうしようもないんじゃないか?」
「幾らなんでも無茶苦茶過ぎるだろう……」
会場が不安に染まる。
回避できない広範囲殲滅。
しかも一撃で戦闘不能にする威力を有している。
恐らく一昨年からルナティックアローを使っていたのだろう。
発射されたらカリバーンの9割近くの戦力が削られるのだ。
打たれた時点で負けである。
「安心してください。対策は既に出来てます」
対策は既に出来たのだ。
この方法ならルナティックアローを無効化出来る……はず
「なので今日はその練習をしたいと思います。練習する時間も限られていますが、非常に簡単なのですぐ出来ると思います」
まぁ、合図をしたら俺の指定した方角に一直線に並ぶだけだからな。
思った通り練習はすぐに終わった。
「本当にこんなんでルナティックアローを防げるの?」
「防げなかったら水着ムービーが見れないだけです」
「しかし、俺の全魔力を費やせばこの人数なら防げると思います。なので俺は一切戦闘行為に参加しません」
GOプロジェクトの参加人数は約150人の30パーティ。
5パーティを1部隊として指示を出す。
発射シークエンスに入り次第部隊を一箇所に集まり防御の陣形を取る。
ルナティックアローを防いだ後は間髪入れずに本陣へ突撃をして一気に殲滅する。
これがGOのメイン戦略になる。
ルナティックアローは集団で行う儀式魔法。
消費魔力もその分多い。
打った後まともに戦える人数は数人程度だろう。
そしてこちら側が50人も残れば、勝利したような物である。
「防げる根拠を示してもらいたい」
そう言ったのは戦闘指揮官の1人だった。
当然の疑問だろう。
彼らの目的は勝つことではなく水着ムービーを見ることだ。
それが現実味を帯びているからこそ協力をしているのであって非現実的ならば今すぐにでも彼らはGOを抜けるだろう。
「分かりました。ではこの場に居る全員で攻撃してください。それを全て防ぎきる事が出来たらこの案を通してもらうと言う事で良いです」
次の瞬間から言った本人から攻撃が飛んでくるが、バビロンのシールドで防ぐ。
今の所このシールドで防げなかった攻撃は無い。
魔力の減り方は普段使ってるシールドの比ではないが、性能も比べるまでも無い。
問題なく全員分の攻撃を防ぎきった。
「では、この案採用って事で……」
そうしてルナティックアロー対策も含め万全の体制で俺達はサバイバルに挑むのだった。
サバイバル当日、両陣営が配置に着く。
直径20kmの巨大なフィールドは人数が少なくなるにつれて狭くなっていく。
参加者は一定以上のダメージを受けるか死を感じた時点で強制的に医療室へ転移される。
なのでうっかり殺しちゃった♪ なんて事にはならない。
まぁ例外も幾つかあるが、非常に稀なので説明する必要は無いだろう。
自陣のどこかの本部を設けて、作戦指示は各部隊リーダーに通信専用アイテムを無線代わりに持たせて思念通話で飛ばす。
ルナティックアローの発射シークエンスは2分。
その間にルティス側は可能な限り巻き込まれないように本部に撤退するのだろう。
発射シークエンスはバビロンが感じ取れるのでGOのメンバーは中盤戦以降は戦闘可能エリアが限られてくる。
「宮本君。敵の動きが見えるとは本当なのかい?」
「はい、本当です。自軍と敵軍の違いまでは分かりませんが、何処にどれ位の人数が集まっているかくらいはわかります」
人間の目には映らなくてもバビロンの目は魔力そのものを見ることが出来る。
つまり動いている魔力は人間と言う事になる。
制限されているのは魔力だけだ。
活用できるものは全て活用させてもらう。
俺の夏休みのために……!
開始から20分最初は中央寄りに大規模な戦闘が行われていたが、それが徐々に左へと傾き始めた。
「戦場が左により始めました。右側が手薄になりかけてます」
「分かった偵察に向かわせ、必要ならば暗部を送ろう」
「あ、数人抜けてこっちに向かってきました」
「第5部隊、左混戦地帯から数人抜け本部に接近中、確認した後迎撃しろ」
「了解!」
暫くして迎撃完了の報告があった。
こうして少なくともGOに所属しているメンバーは着々とポイントを稼いでいった。
グランは一番大きな戦場の真っ只中で細かい指示をしている。
美緒は離れた所から高威力の遠距離魔法を敵陣に打っていた。
ホーミィは前線から少し下った所で負傷者の治療をしている。
これだけ見ると、サバイバルと言うより軍隊同士の模擬戦にしか見えない。
「素晴らしい。これならルナティックアローを打つ前に決着が着きそうだ」
今の状況だけを見ると、カリバーンが圧倒している。
相手側の隠密行動は全てGO部隊が潰しているからだ。
定期的に何人か敵の本部に戻っているので恐らくルナティックアローのターゲティングをしているのだろう。
混戦地帯と相手の本部の中間に部隊を送り込んでも良いが、ルナティックアローを防げる位置ではないので送り込む事ができない。
その頃ルティス側は………
「何? 隠密部隊が全て潰されているだと?」
「はい、例外なく全て……」
偵察からの報告を聞きヒースは考える。
1つ、完全にこちらの想定したルートを見張られている。
2つ、一定感覚で魔力感知者を立て、反応した所をしらみつぶしにしている。
3つ、完全なる偶発。
3つ目は考えにくい。隠密部隊とて1人や2人ではない。
5~10人のチームに1人は魔力感知の高い者を入れている。
先手を取られるとは考えにくい、仮に先手を取られていたとしても同じ程度の人数ならば全滅する前に何人かは報告に帰ってくるはずだ。
つまり、5~10人のチームを一網打尽にするほどの人数を的確に配置もしくは迎撃させていると言う事になる。
そうすると、今度は混戦地帯の人数がおかしくなる。
混戦地帯の人数は此方の方が少ないが、徐々に下らせているので何とか均衡を保っている。
隠密部隊を迎撃する事に力を入れているのなら、戦力が分散され混戦地帯の戦況が変わってくるはずだ。
つまり、隠密部隊を迎撃しているのは恐らく20~30人程度、それも反撃を一切許さない攻撃魔法の集中砲火だろう。
だが、そんなことが本当に出来るのだろうか? 隠密部隊の位置を正確に把握し、その部隊を一網打尽に出来る配置を敷き一斉攻撃など……
「そうか、成程……」
ヒースは4つ目の応えにたどり着く。
そうでなくてはこの様な状況にはならない。
「桜井瑞穂を帰還させて。そして隠密部隊は混戦地帯の外側から遠距離魔法を打ってる奴らのターゲティングを取って来なさい」
ヒースの出した答えは、ルティス側にスパイが居ると言う事。
そしてその可能性が一番高いのは代表同士の挨拶の時、一番怪しい行動をしていた桜井瑞穂だ。
今スパイ行動を問いただした所で状況は好転しない。
彼女は一年の中でも優秀だ。
捨て駒にするには惜しい。
何故スパイになったのかの理由は定かではないが、スパイを行動が出来ない様に自分の護衛をさせればいい。
理由はサバイバルが終わった後に問いただす。
その後然るべき罰を受けてもらう。
「桜井瑞穂。戻りました」
瑞穂は息を切らせながら本部に戻ってきた。
「良く戻りました。今から本部で私の護衛に当たってもらう。隠密部隊が全て潰され本部が危うくなる危険性が出てきた」
「隠密部隊が全て!? ……はい! 分かりました」
瑞穂の驚いた表情を見てヒースは白々しい……と思った。
そして少しでも不審な動きをしたら自分も迎撃行動が出来るよう準備をしておく。
「ヒース様、予定数のターゲティングが完了しました」
「よし、全員ルナティックアローの準備に入る!」
ルナティックアローの準備が出来た事が全員に伝わり、混戦地帯の士気は一気に高まった。
「なんだ……?」
今まで徐々に押していたはずのカリバーンの進行が急に止まった。
狙撃部隊も殆ど潰して全体の人数もこちらの方が上のはずだ。
と言う事は何か理由がある。
そんなものは一つしかない。
ルナティックアローの準備が整ったのだ。
「指揮官。ルナティックアローの準備が整って、魔力充填の段階に入ったと思われます」
「理由は?」
「こちらの進軍が止まりました。恐らく間違いないと思います」
「了解した。GO全部隊に陣形が取れる位置を確保するように伝える」
後は魔力が溜まり次第自動的に発射シークエンスに入る。
俺の出番ってわけだ。
今混戦地帯居るのは魔力充填までの時間稼ぎだ。
長期戦から短期戦へ切り替えた戦法を取っているのでカリバーン側の進軍が止まったのだろう。
よし、後は陣形を取る位置を決めるだけ……
(発射シークエンスに入った)
バビロンからの報告に俺は耳を疑った。
「何!? もう発射シークエンスだと!?」
幾らなんでも早すぎる。
まずい! 多少目立っても良いから陣形を作るしかない。
「本部から伝令お願いします。上空に居る俺の後ろに陣形をとるように伝えて下さい!!」
指揮官の答えを待たずに俺は本部を飛び出し一直線に戦場に向かった。
その直後混戦地帯に一気に煙が舞い上がる。
魔力の尽きたルティスを一気にカリバーンが押し切ろうとしているのだ。
だがこれは自分達に意識を集中させて、ルナティックアローから意識を遠ざける為の囮だ。
その証拠にルティスの生徒は煙幕や幻覚などの魔法を使い足止めをした後一目散に本部に逃げている。
「巻き添えは出来るだけ避けたいからな……」
俺だって巻き添えはごめんだ。
上空の目立たない位置にルナティックアローは存在した。
巨大な魔方陣が展開されていた。
恐らくあの中心部からターゲティングした目標に一直線に飛んでいくのだろう。
場所は確認したので後は可能な限り迅速に陣形を取るだけだ。
「方角は!?」
既に集まったメンバーに方角を指示して一直線に並ばせる。
残り20秒の所で残存しているGOメンバーは全員集まった。
「人数は!?」
「78人です!」
半分ほど減ったが、ルナティックアローを使用した後は向こうも疲労しきっているはずだ。
この人数で強襲をかければひとたまりも無いだろう。
「はぁぁ!!」
最大出力でシールドを展開。
後は俺の魔力を信じるだけだ。
「来るぞ! 全員衝撃に備えろ!!」
そしてルナティックアローは発射された。
一瞬空が光り輝いたのではないかと錯覚したが、その直後俺の魔力がゴリゴリと削られ始めた。
「おおぉぉ!!?」
今までに感じた事のない感覚。
魔力が減ると言うより抜け落ちていくと表現したほうがいい。
シールド越しからでも衝撃を感じる。
バビロンのシールドを使っても防ぐのがギリギリのようだ。
(残り半分だ。ふんばれ)
どれ位時間がたったのなんてさっぱり分からないが、俺はとにかく耐えるしかなかった。
「はぁ…! はぁ…! はぁ…!」
衝撃が収まった。
それはルナティックアロー78発分を全て防ぎきったと言う事だ。
しかし、流石に78発分は無理があった。
俺は空中に待機する事が出来ずそのまま落ちていった所をメンバーに助けられた。
「すげぇ……本当に防いじまった……」
メンバーの何人かは本当に防げるとは思っていなかったらしく防げた事に高揚感を感じている。
だが、一番重要なのはこれからだ。
「何やってるんだ!? 強襲するチャンスは今しかないんだぞ!? 何の為に俺が防ぎきったと思ってるんだ!! 全員で本部を強襲しろ!!」
「けど、お前は……」
「俺の事は放っておけ!! 俺達は全員でGOなんだ!! 全員の願いは一人の願い、一人の願いは全員の願いのはずだ!! 行けぇ!!」
最後の方は絶叫していた。
「「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」
そして同志達は勝利の一本道を駆け抜けていった。
「ふぅ……勝ったな……」
魔力は全て使い果たした。
それどころか足りなかったので、バビロンに魔力を供給して貰った。
今は立つ事も出来ず大の字で寝転がっている。
(すまん、頼らないって言ったのに……)
(作戦自体は良い作戦だった。今回は演習だが、実戦だった場合私を使っているはずだ。ならば問題はなかろう)
(今度は頼らなくて良いような作戦を考えるよ)
(それでいい)
大体7割防いだ所で俺の魔力が枯渇して直にバビロンが足りない分の魔力を補充してくれた。
魔力供給自体はサバイバルのルールには引っかからない。
「よっと……」
何とか立ち上がれるくらいまでは回復した。
携帯端末で状況を確認。
やはり、俺が防いだ人数以外は全員やられたらしい。
何人かは逃れているかと思ったんだけどな。
そして強襲した同志達が次々を戦果を上げているようだ。
ルティス側の生存人数がどんどん減っていく。
バビロンの目を使って周囲を見渡したが、本部以外に誰も居なかったので、このまま本部を制圧してカリバーンの勝ちになるだろう。
そして、ルティスの生存人数が2人になった時、空に魔法陣が展開された。
「なんだ? あれ……」
ルナティックアロー程ではないが範囲攻撃魔法なのは間違い無さそうだ。
(アレはまずいぞ)
「え?」
直後、魔方陣から何本もの巨大な槍が放たれ本部を襲った。
その衝撃波凄まじく1km以上離れている俺の体まで振動が届いた。
対竜殲滅魔法グングニル、実際見るのは初めてだ。
むしろ、普通模擬戦でそんなもんぶっ放すか? まぁルナティックアローも似たようなものだが、
恐る恐る、携帯端末を確認してみる。
ルティス側生存数2人、カリバーン側生存数1人。
「マジっすか……」
グングニルを2人で使ったとは考えにくい。まだ1人は普通に戦える状態と見て良いだろう。
こっちは魔力が枯渇している。
どうみても詰んだ。