第28話:再会と対立
そして、サバイバル一週間前、ルティス校の代表とカリバーン校に挨拶に来た。
今回の開催場所がカリバーンなので視察も兼ねている。
「こんにちは。今年のルティス学校代表のヒースです。後ろの4人は私のパーティメンバーです」
メガネを掛け、金髪を腰まで伸ばした吊り目の女子。
自尊心が高そうなイメージだ。
「ようこそカリバーンへ、私が今年のカリバーン代表のグランです」
代表同士が固い握手をすると、パーティメンバーもお互いに名前を言い合い握手をしていた。
「桜井瑞穂です。良い戦いをしましょう」
桜井……はて聞き覚えのある名前だな。それもかなり昔……
「宮元双真です。こちらこそお手柔らかにお願いします」
「………え?」
どうやら向こうも俺の名前に覚えがあるようだ。
(双真……君?)
(やっぱり瑞穂か)
桜井瑞穂。
小学校2年まで一緒だったが親の事情で転校していった。
(なんで、カリバーンに居るの?)
(色々あってな、美緒も居るぞ)
(美緒ちゃんまで!?)
「何時まで握手をしているの?」
ヒースに言われ、2人とも同時に手を引っ込める。
思念会話に気を取られて握手していた事を忘れてた……
「すみません、ぼーっとしていて……」
「俺の方こそすみません」
「まぁいいでしょう。今年も勝たせていただきますから」
流石2連勝中自信満々だ。
だがグランも負けてはいない。
「今年のカリバーンは一味違いますよ? 足を掬われないよう……」
その言葉にヒースは苛立ちを感じたのか、無言で去っていった。
(双真君。今日の午後6時京都駅改札口で待ってる)
京都駅改札口に行くと瑞穂は直に見つかった。
「お、居た居た。おーい瑞穂~」
瑞穂が気が付き近寄ってくる。
「久しぶりだね? 小学校2年生以来?」
「まぁ、瑞穂は引っ越しちゃったからな」
瑞穂は2年生の時に美緒がイジメにあっていた。
美緒のついでに助けたのだがその時からずっと美緒と俺にくっついて来るようになった。
一緒に遊ぶような仲になったのだが、その後転校した。
そこまで印象が強くなかったので思い出すのに時間がかかった。
「しかし、良く覚えてたな。俺は名前聞いただけじゃ思い出せなかったぞ」
「双真君から見ればそうかもしれないけど、双真君はあの頃から私の憧れなんだよ? 忘れるわけないじゃん」
黒髪黒瞳のショートヘア。
小学校の時はどちらかと言うと大人しい感じだったが今はその逆で活発なイメージがある。
「しかし、ルティスとはなぁ……」
ルティスもカリバーンのライバル校とあってかなり競争率が厳しい。
良く入れたものだと感心する。
「私も色々成長したの。きっかけは双真君が作ってくれたけどね?」
「そっか、良い風に変われみたいだな?」
「おかげさまでね……それで、昔の約束覚えてる?」
「昔の約束?」
はて、何か約束なんてしたっけ?
「何時だったか俺に勝ったら何でもいう事をひとつ聞いてやるって奴」
「あー……なんか言った覚えあるな」
「じゃあ、サバイバルで勝ったら昔言ってた約束守ってもらうよ?」
「あぁいいぜ? 俺出来る範囲ならな? だたし、その約束は今回だけだぞ?」
「うん、じゃあ勝ったら私と付き合ってね」
「は?」
付き合うって……買い物とかで良いんだよな?
「だから、勝ったら私と付き合ってもらうからね?」
「別に良いけど、何処に行くんだ?」
「違う違う、買い物とかじゃなくて私の彼氏になってもらうって事」
最近モテ期が到来している事は自覚してるが、こうも立て続けに来ると流石に怖い。
「ひとつ……いいか?」
「いいよ?」
そして俺は疑問に思っていた事を口にした。
「俺でいいの? 俺相当手癖とか悪いし、人に言えないような趣味してるぞ?」
まぁ喧嘩はしょっちゅうしてたし、休日はギャルゲー三昧だし……
本当は休日も練習に充てようと思ってのだが思ったのだが、バビロンに休日は休めと言われて休んでいる。
「別に私は双真君がアニオタでもヒッキーでもニートでも構わないよ? アニメなら私も好きだし」
なんだ、瑞穂も意外とやるじゃないか……じゃなくって
「えっと……俺の意見は?」
「大丈夫、今は普通でも付き合ってる内に好きにさせるから」
瑞穂ってこんな強引な子だったっけ?
時間は人を変えるというが本当のようだ。
「変わったな……瑞穂」
「双真君のお陰だよ。私は双真君に言われて強くなった。そうしたら自然とこうなってた。でも……憧れだけは変わってないよ…?」
頬を染めながら上目遣いで俺を見て来る。
こりゃたまらん……
「じゃあ、俺が勝った場合は?」
「私の事を……好きにして良いよ?」
それってどっちに転んでも瑞穂の良い様になるって事じゃん。
んー……どうしようかなぁ。
相手は2連勝で勢いがあるし、安易に約束をするのは得策ではない気がする。
「じゃあ、この話無かったって事で」
まさか無かった事にされるとは思ってなかった瑞穂は心底驚いた。
「えぇ!? なんで!?」
どういうこと!?
私の事を好きにして良いって事は思春期の男の子が女の子にする妄想を全て私にぶつけても良いってことだよ!?
それでも不満があるの!?
……まさか彼女持ち!?
けど、彼女が居るのなら納得出来る。
ならその彼女から双真君を奪っちゃえば良いだけの話。
私の憧れの人は私がゲットするんだから…!!
「んー……昔と今が違いすぎていきなり彼氏とか言われても困る」
そう言いつつ、少し照れながら頭を掻いてる所は意外と可愛い……
「だから~それは私が双真君を好きにさせるから……」
そう言って腕を組みさりげなく胸を押し付ける。
私だって大きくは無いが小さくも無い。
だって良い方だと思う。
ぶっちゃけ落とした者勝ちだ。
「勝負をする事は別に構わないけど、ベットを別の物にしよう」
「私程度じゃ恋愛対象にならないって事? これでも結構自信あったんだけど……」
正直ショックを隠せない。
今までだって何度も告白をされて来た。
ルティスに入ってからもそれは続いており覚えているだけで5人は居る。
モテモテかどうかは分からないけど、決してモテない訳じゃない。
だからこそ大胆に迫ってみたのになんでこんな暖簾に腕押し状態になっているのだろう?
その時瑞穂はまだ知らなかった。
瑞穂が大胆に迫った行動は双真にとっては1日に1~2回は美緒かホーミィからされているので慣れてしまっている事を……
つまり「あ、今当たってるな」程度の認識しかない。
「将来子供をしっかり躾をしてくれる肝っ玉の据わった不細工な人と、世界は自分を中心に回ってると思ってるスタイル抜群で整った顔た美女じゃ俺は前者を選ぶって所だ」
「つまりは、中身を重視してるって事か。分かり難い説明だね」
「すまんな、旨く伝える事が出来なかった」
となるとこの作戦は失敗した事になる。
若さと色気で篭絡を狙ってたけど作戦を変更しないと、先ずは日常で出会う機会を増やさなきゃ……、
「じゃあ、私が勝ったらサバイバルの終わった次の日曜日双真君の家に連れてって」
「そんなんでいいのか…?」
ええ勿論。
部屋に上がりこんで隅々まで双真君の秘密を調べ上げますけどね……
「但し毎週」
そう毎週、これが肝心だ。
学校が違ってしまっているので平日会うのは殆ど無理。
なら休日に平日以上のコミュニケーションをとって得点を稼いで行き、フラグを作りイベントを消化していけば双真君ルートに入るはず……!!
「俺が家に帰る時でいいなら………」
よし、約束は取り付けた。
後は私次第って事で……どうせサバイバルは勝ったも当然だし
「じゃあ決まりね! サバイバル負けないよ?」
「あぁ、こっちこそ負けないぜ? 俺だけが使える魔法で驚かせてやるよ」
「双真君しか使えない魔法? どういうこと?」
今度は瑞穂のリアクションの薄さに双真は絶望を覚えた。
あれ?
次元竜発見のニュースってそこまで大きいニュースじゃなかったのか?
テレビ局まで来てかなり広い範囲に放送されたはずだけどなぁ……
「次元竜って聞いたこと無い?」
「次元竜……? あぁ、ちょっと前に発見された新種のドラゴン?」
「そうそう」
「知ってるけどそれがどうかした?」
「なんか噂とか聞いたこと無い?」
テレビに出てまで無名とはちょっと悔しいじゃないか、こっちは死ぬ思いで頑張ったのに……
「ん~、ルティスの研究員が素材を売って貰おうとして断られたって事位かな? 相当ケチみたい」
ケチですかそうですか。
多分発見された当初の時だろう。
大勢の研究員が押しかけてきて鬱陶しかったから全部断ったんだっけ。
「今の所一匹しか確認されてないんじゃ無理も無いんじゃない?」
ささやかな抵抗を試みる。
「まぁ分からなくもないけど、その内流通するようになるから一時的な優越感に浸りたいだけだと私は思ってる」
成程、そう言う捉え方もあるか。
「で? なんで次元竜の話が出てきたの?」
「だって素材持ってるし……」
「え…?」
瑞穂が凍りつく。
って事は……次元竜の発見者って双真君だったの!?
学校で新種のドラゴンが発見された話は聞いてる。
それも発見したのは私達と同じ年齢って学校で聞いたふーんとしか思ってなかった。
しまったぁぁぁ……
なんでケチとか優越感に浸りたいだけとか言っちゃったんだろう……
絶対怒ってるよぉ……
「ご、ごめん!!」
「え? 何が?」
とにかく謝らなきゃ!!
謝って何か褒めるような事を言わなきゃ!!
印象値が下ってしまう!!
「その……ケチとか優越感に浸りたいだけとか言っちゃって……」
「なんだそんな事か。気にしてないぞ? それに瑞穂の言ってた事も間違ってないと思う。まぁ優越感には浸ってないけどさ。やっぱり初めて捕まえた獲物だから記念って言うのかな? なんか手放す気になれないんだ……」
そっか……なんかそう言う気持ちも分かるな。
私もきっと初めて手に入れた素材はずっと取って置くと思う。
それがどれだけ弱くて価値の無い素材だとしても。
それは自分が歩んできた道のりを教えてくれる物だから。
「私もなんとなく分かるな……その気持ち」
「多分流通の目処が立っても、よっぽどの事が無い限り赤の他人には渡さないと思う」
「じゃあ仲が良い人ならあげても良いの?」
「構わないけど? 美緒ともう1人に今度鱗を一枚あげる予定だし……」
「幾らで?」
「金なんて取るわけないだろ……」
「本気で言ってる!? 欲しい人なら鱗一枚50万出す人だって居るよ!?」
「金で友情や絆が買えるか?」
そう言った双真君の顔は優しかった。
その顔を見ただけで心が温かくなってくる。
「……そうだね、お金じゃ買えない。はは…双真君には敵わないや」
「でも一回売りに出そうと考えた事もあってな……」
そんな事を話していると、ゲートが閉じる時間になった。
「よろしくな瑞穂。負けないぜ?」
「でもね、結局勝つのは私だよ? 私達の運には絶対に勝てない」
「運…?」
「これ以上は秘密。話した事も秘密。代わりに私も次元竜の事は誰にも話さない」
ギブアンドテイクって奴か……
「破ってやるよ。その運を」
「ふふふ…じゃあ期待してるよ」
2人で握手をする。
そして、この瞬間サバイバルの勝敗が決したのだ。