第25話:新たなる目標とサバイバルパーティ
そして授業後、俺はプライベート空間で先程言っていた魔法の説明をバビロンに話した。
(出来なくはないが、効率的と言えるのか?)
確かに、余り効率的とはいえないが、敵の意表は付けると思う。
(それに、この魔法は如何に高い魔力を保持し続けるかで威力が決まる)
「消費型にしちゃえば良いと思う。消えそうになったら魔力を補充するか、作り直すって感じで」
(それにしても効率が悪いのではないか?)
「でも、近接戦闘をしようと思うと、これ以外に何かある?」
ルティスはカリバーンのライバル校だ。
別次元にあるが、毎年この時期になるとサバイバルをしている。
両校の意地とプライドのぶつかり合い。
戦績は9戦6勝とややカリバーンの方が勝っているが2年連敗している。
どうやらルティスのスカウト組でかなりの化け物が居るらしい。
「向こうに化け物が居るって判ってるのにそれに素手で立ち向かうわけにも行かないだろう」
(日本刀とやらはまだ完成していないのか?)
「あれは……2学期の中旬位には出来上がると思うけど、フェンリルラブリュスが使えない今、どうにか自前でやるしかない」
(武器を作ってもらえば良いのではないか?)
「その通りなんだけど、金銭的に余り余裕が無くてな……」
(オリハルコンで貯蓄を全部使ってしまっていたな)
「そう言うわけなんだ。よろしく頼む」
(よかろう。では早速行くぞ)
「あ、ごめん。この魔法の練習はプライベート空間じゃなくても出来るから日中はちょっと別の特訓がしたい」
(では何故ここに来たのだ?)
「此処が一番落ち着いて話せるからだよ」
本当は今思いついたなんて言えないな……
「すみません。ゴルディ騎士団長はいますか?」
門番に勲章を見せて尋ねると門番は物凄い勢いでその場から居なくなりゴルディを連れて戻ってきた。
「お久しぶりです。ゴルディ騎士団長」
「まさかお前の方から来るとは思っていなかったぞ。王様から話は聞いている。今日は一体どんな用だ?」
「……強くなりたい」
ゴルディの瞳を真っ直ぐ見つめる。
これだけでゴルディは俺の気持ちを分かってくれた。
「良いだろう。あの時からお前を鍛えてみたいと思っていた」
(奇襲とは言え、この私を倒した男だ。さぞかし鍛え甲斐があると期待しているぞ)
「ありがとうございます。団長」
そして、俺はゴルディに訓練場まで案内された。
「どうして強くなりたいのだ?」
「来月ライバル校とのサバイバルがあるんですが、今のままじゃ勝てないと思って」
「あの攻撃を使えば間違いなく勝てると思うぞ?」
「一回きりだけの特別な攻撃だからもう使えないんです……後、俺は基礎が出来てないから、その基礎も教えて貰えると……」
「成程、荒削りだと思っていたが完全に我流とはな。良いだろう。獲物は何だ?」
「片手剣でお願いします」
「盾は持つのか?」
「盾も攻撃に使う感じにしたいです」
「そこは基礎が出来た後自分でアレンジするがいい。ではまず基礎から固めていくとしよう」
こうして俺は授業後毎日ブライティアへ行きゴルディの指導を受けることになった。
「思ったよりきつかったな……」
ゴルディの指導が終り、風呂で汚れと汗を流した後、俺は夜と特訓に入った。
根本的な属性魔法の威力強化に加え、その魔法をバビロンの重力で操ると言う物だ。
簡単に説明すると一度放った魔法を自分の思った通りに動かす魔法だ。
普通の魔法は打った後軌道を変える事は出来ない。
その普通では有り得ない事を重力操作を使って自由自在に操る事が出来れば、相手の意表を付く事ができる。
そしてその先に今回の魔法の最終目標がある。
「先ずは威力の底上げよりも制御の方をやってみるか……」
まず小さい水を出現させ風呂桶に落とす。
その後もう一度水を出現させて今度は落とす直前で止めてみる……が
ぽちゃん……と直に水は風呂桶に落ちてしまった。
数回繰り返してみたが、結果は同じだった。
自分の周りの重力を操るより大分難しいようだ。
(手本を見せてやろう)
そう言ってばバビロンは俺の出現させた水を自由自在に動かした。
「おぉ……」
(対象全体を包み込み、そのまま移動をさせればいいのだ。お前達の飛行魔法と良く似ている)
成程、普段は範囲を意識して使っていたが今回は対象全体を包み込む感じか。
「よっと……」
もう一度挑戦すると、水が風呂桶に落ちる直前で止まった。
そのまま動かそうとしたら、一部分の制御がズレそのまま水は落下してしまった。
(後は練習だ。一週間で私が見せた位に操れる様になれ。そうしないとサバイバルに間に合わなくなるぞ)
「おっけー、何とかやってやるぜ」
余りこういうのは得意ではないが、今日だけで何とか止めてから移動させられる位にはなった。
これは案外行けるかもしれない。
だが、問題はこの制御は物凄く集中しないと持続させる事が出来ない。
現段階ではとても戦闘中に使える代物じゃない。
(後は慣れだ)
「放課後はゴルディ、夜はバビロン、こりゃあ体が持たんかもな……」
そんな事を思いながらも充実した一日に満足して俺は眠りについた。
「最近双君冷たいよね……」
「そうですね、最近冷たいですね……」
充実した毎日を過ごし初めて2週間程した頃、美緒とホーミィに言われた。
「えっ? 何の事?」
おかしいな、最近の授業も大体美緒かホーミィと出てる。
昼飯だってたまに俺が3人分作ってくる事がある位だ。
そこまで冷たくした覚えは無い。
「何の事じゃないですよ。最近ずっと一緒に練習とかしてないじゃないですか」
おぉ、普段大人しいホーミィが意見を言ってくるとは珍しいな。
「え? 授業一緒に出たり昼飯だって一緒に食べてるし、そこまで冷たくしてる覚えは無いんだけど……」
「放課後、直居なくなっちゃうじゃん!」
「あー、なんだその事か」
「何処行ってるの?」
「ひ・み・つ」
数日前に喧嘩吹っ掛けに行った国に毎日通ってますなんてこの場で言えるわけが無い。
「んーでも毎日9時位には帰ってきてるぞ?」
「9時って……門限ギリギリじゃない」
「まぁな」
「では、何をしてるのですか?」
「来月のサバイバル対策だけど? 夏休み欲しいから」
「秘密の特訓と言う奴ですか?」
「まぁ平たく言うとそうだな。ホーミィと美緒もやってるんだろう?」
ちなみに美緒とパートナーを解消した後美緒は直にホーミィとパートナーになった。
大多数の男子生徒が挫折をしたのはまだ記憶に新しい。
俺の方はなぜか誰も誘ってこない。
誰かが裏で動いている気配がするが、騒がれないので今の所は知らないふりをしておこう。
「まぁね? サバイバルは5人までパーティ組めて、チームプレイも評価ポイントに繋がるからね。組んでおいて損はないよ」
「え……それ知らない……」
「ちゃんとルールブックに書いてあるよ? 今ならまだ私達のパーティが空いてるけど?」
「ぐらあああああん!!!」
美緒の言葉を完全に無視して俺はA組に突っ走って行った。
「私達って一体……」
その後にはポカーンと口を開けたまま動かない美緒とホーミィが立っていた。
「おい、グラン! サバイバルだけどパーティもう組んだ!?」
「いきなり教室に入り込んできて何かと思えばその事か。まだ組んでいないが?」
事情を話しパーティを組んでくれと頼んだら、仕方ないな……と言いつつも承諾してくれた。
マジ感謝。
「パーティを組む以上、一緒に練習や作戦と立てようと思っているがどうだ?」
「確かにそれもそうだな。今ちょっと通ってる所があるから相談してくる」
「師匠でも出来たのか?」
「んー……近いかな? 今日聞いてみるから、練習は明日からでいい?」
「まぁ、相手の事情もあるだろうしな。明日の放課後双真の教室に向かおう」
「分かった」
俺は放課後直にブライティアに向かいゴルディに事情を説明した。
「サバイバルの時に一緒に戦う仲間と一緒に練習がしたいか。良い事だ。仲間と絆を深める事はチームプレイの要となる。それに俺から教える基礎はもう教えた。後は自分でアレンジして行った方が自分の為になるだろう」
「ありがとうございます。団長」
「次に会う時に期待しているぞ」
「応えられる様に頑張ります」
こうしてゴルディの剣術基礎訓練は終わった。
「どうだった?」
「もう教える事は無いから、後は自分で学べって言われたよ。やっぱり実戦が一番の修行らしい」
「実際その通りだと思うぞ。実戦ほど予測不可能は事はない。それに来月のサバイバルこそその実戦じゃないか」
言われて見ればその通りである。
「じゃあ早速やるか、プライベート空間行こうぜ」
「何を言ってるんだ? プライベート空間なんて今予約で一杯だぞ?」
「あぁ、俺専用。必要なら他の人も入れていいって言われてる」
「本当か!? 一体どうやったらそんな優遇される?」
「んー、そこまでは分からないけど、よっぽど期待されてるらしい」
「そうじゃないとそこまで融通は利かせられないだろうな……」
確かに学年トップのグランよりも待遇が良いのは俺自身疑問に思っている。
魔力だけなら俺の方が高いが総合的に見ればやはり学年トップはグランだと俺も思う。
「戦闘になったら恐らく双真の方が強いだろう」
「んーでもあんな単純な殴り合いじゃなかったらグランの圧勝のような気もするけど」
「師匠から鍛えてもらったんだろう? そうなると恐らく双真の方が強いだろう。俺はそう言う実戦的なトレーニングは余りやっていない」
「俺はグランに魔法関係の事を教えて欲しい」
「成程、俺は護身術で双真は魔法技術か。良い練習が出来そうだな」
お互いの利害も一致した所で俺達はプライベート空間へ向かった。