第24話:休息の終り
「ん……」
眼が覚めると横に美緒が寝ていた。
パジャマ姿で胸元がチラっと見えるのがセクシーだ。それはさておきまずは朝飯を作るとしよう。
「ん~……」
美緒は眠たそうに寝返りを打っている。
朝飯が出来るまでは放って置こう。
「冷蔵庫に何かあったっけ……」
冷蔵庫を開けると、そこには何も無い空間が広がっていた。
「たまにしか帰ってこないんだから、買い置きなんてある訳ないか……」
コンセントすら抜いてあるのだ。
物が入っているほうがおかしい。
そして突然携帯電話が鳴り出す。
「朝っぱらから一体誰だ……?」
携帯電話を取り名前を確認する。
何とエヴァンス先生だった。嫌な予感がする。
「………もしもし」
「おはようございます。宮本君。私が何を言いたいか分りますか?」
「挨拶を忘れてました。おはようございます」
間違いなく昨日の事だがあえてとぼけてみた。
そうじゃなきゃ日本に来る訳がない。
「確かにそれもありますが、そうではありません。別の用件です」
「あー……すみません、無断で外泊した事ですね……」
「そうです。昨日は一体何処に行っていたのですか?」
なんだ、これなら反省文書くだけ終わりそうだな。
「祝日だったので、少し遊びに行ったのですが、気が付いたらゲートの時間が過ぎてしまって……」
「ブライティア王国の結婚式を滅茶苦茶にしてくるのが宮本君の遊びですか?」
ストレート過ぎる……
誤魔化す気も無くなった。
「テレビ……見てました?」
「見ていました」
まぁそうだろうなぁ……
「はぁ……それで用件は何ですか?」
飯を食う時間は無さそうだ……
「今トウキョウと言う所に居ますから今すぐ来てもらえますか?」
「反省文で何とかなりませんか? 授業後に提出するので……」
一応無断外泊した事は確かなので反省文も必要になるだろう。
「いえ、反省文を書いてもらう必要はありません。今此処にアイルハイル校長とブライティア王国のシュバイン王がいらっしゃいますので」
「………はい?」
一瞬で頭が冷えた。
流石にやり過ぎたか。
国家に喧嘩を売ったのは流石に個人じゃどうにもならないか……
それにアイルハイル校長とシュバイン王が東京に来てるって……何する気だよ。
なんか今度はこっちが詰んだ気がする。
エヴァンス先生に教えてもらったホテルの受付に名前を言うと部屋に案内された。
「改めておはようございます」
「おはようございます。宮本君」
「おはようございます」
「おはよう」
カリバーンの校長とブライティア王国の王と一般人が同席しているなんて、一体世の中どうなっているんだろうか。
日本で言うのなら天皇陛下御一家のお食事会に個人的に招かれているレベルだぞ。
「単刀直入にお話をしましょう。宮本君を此処に呼んだのは、アイルハイル校長とシュバイン王様があなたと話がしたいと要望があったからです。私はその傍観者と考えてください」
俺は諦めた。
もうどうにでもな~れ♪
「とりあえず、話って何ですか?」
「アヴァロンとブライティア王国の交流関係についてです」
アイルハイル校長が説明してくれた。
「俺って関係あるんですか?」
「大いにある」
今度はシュバイン王だ。
そりゃ昨日あんな目にあわされたんだ。
腹が煮えくり返っているに決まっている。
「それで……ブライティア王国の要求は?」
そう聞くとシュバイン王が俺の瞳をじっと見つめた。
「アセリアともう一度話がしたい。一国の王ではなく、1人の父親として……」
いきなり何を言い出すんだ……?
「それって、俺とどういう関係が……?」
「君が居なくてはアセリアはもう私に姿を見せてはくれないと思ったのだ」
なんだ、分かってるじゃないか。
「話の内容は?」
「他愛の無い話だ。断ってくれても構わない。もう一度アセリアと話す事が出来るのならば、我が国でしか採取の出来ない鉱石をアヴァロンに優遇しよう」
よく見るとシュバイン王の表情はとても暗い。
まるで救いを求めているかのように俺を見ている。
切り込むのなら今しかないと思った。
「ひとつ、質問に答えてもらっても良いですか?」
「なにかね?」
「アセリアから王宮に居る間貴方に脅されていたと聞かされています。内容は俺の抹殺。それは本当ですか?」
「………事実だ。本当に君に手を掛けるつもりは無かったが、アセリアを王宮に留めて置くのに必要だった」
「分りました。アセリアと話したいとの事ですが条件があります。1つはアセリア自身がそれを望むかどうか、もう1つはその会話にここにいる人全てが立ち会うことです。当然違法行為を行った場合は現行犯で逮捕します」
「……了解した」
「分りました、少々お待ちください」
俺は美緒に電話を掛けこの事を話した。
少しするとドアが開きカリバーンの制服を着た美緒が部屋に入ってきた。
一人にしておくのは危険だと思い、一応ホテルまでは連れて来ていたのだ。
「お父様……」
シュバイン王の暗い顔を見て、美緒も少し心配そうな顔をした。
「アセリア、これまでの事を許して欲しい。私は駄目な父親だ。自分の娘の幸せより自分の欲を優先させてしまった。彼とアセリアが一緒に闘技場を出て行った時、12年前の事を思い出し私は昨日一晩恐怖に怯えた……」
「急にどうしたのですか? お父様」
「王宮に戻ってきてくれた時、故郷の思い出話をしてくれた時、将来の夢を話してくれた時、私は涙が出るほど嬉しかった。そしてその後直に他国から大量の求婚が来た。私はお前を手放したくなかった。故に考えた。どうすればずっとこの王宮で一緒に暮らす事が出来るのだろうと……その答えがゴルディとの結婚だった」
「………」
美緒は黙って聞いている。
「お前の意思を無視して強引に結婚式を行った。この結果になったのは天罰だと私は思っている。だが、私にはもう二度とアセリアと会えない事が耐えられないのだ。分っていると思うが今の妃はお前の母親ではない。お前の母エレナは5年前にお前の事を案じながら息を引き取った。私の娘はアセリア……お前しか居ないのだ」
「時間をください……」
「私を疑うのは当然だ。今すぐに許して欲しいとは思っていない。少しずつで良い。また王宮に顔を見せに来て欲しい。欲しい物や情報があれば可能な限り協力する……」
「ひとつ……いいですか?」
「なんだい?」
「私は今王女と言う地位です。その王女が民間人と結婚してもいいのでしょうか? 民間企業に就職してもいいのでしょうか?」
「好きにしていい。私はもうお前を縛る事はしない。お前はブライティア王国の王女でもあるが、日本という国の民間人でもある。どちらを選ぶかは自分で決めなさい。しかし忘れないで欲しい。どちらを選んでもお前は私の大切な娘である事に変わりは無いという事を……」
「分かりましたお父様。またお会いしましょう。その時までに答えを決めておきます」
そして美緒は先に部屋を出て行った。
「宮本君ありがとう。王宮の中では誰が話を聞いているか分からない。こういう場を設けなければ本心を話す事もできない。王と言うのは面倒な物だよ。君に少し頼みたい事がある。もしアセリアの体に異常が起きた場合、直に知らせて欲しい。これを持っていればどんな時でも王宮に入れる」
王から勲章を渡される。
「これは……?」
「名誉勲章だ。ブライティア王国でもこの勲章を持っているものは片手に数えるほどしかいない。アセリアには言ってないが、あの子の母親エレナは民間人だった。私が一目惚れをして妃として向い入れたが歓迎しない者も多かった、12年前の失踪事件も彼らが起したのではないかと言う噂も未だに流れているほどだ。私の息が掛かっていない兵士がアセリアを監視している可能性もある。少しでも何か感じたら知らせて欲しい。あの子に私では与えられなかった笑顔を与えてやってくれ……」
「約束は出来ませんよ?」
「少なくとも、君の話をしている時のアセリアが一番良い笑顔をしていた。よろしく頼む」
「出来る限り……」
「君は面白いね、そう言う適当な事を言う割りに一旦行動を始めると目的に向かって一直線だ。そう言う性格私は好きだよ」
本当に何を考えているんだこの人は……本当に護衛の1人縺れて来ていない。
今の話は本当に信用して良いものなのだろうか……
「ありがとう。君と話せてよかったよ。君もアセリアと一緒にまた王宮へ顔を出してくれ。今度は精一杯の歓迎をしよう」
そう言ってシュバイン王はエヴァンス先生とアイルハイル先生と一緒に出て行った。
「なんだったんだ……マジで……」
「宮本君は麻井さんの近くに居てください。今日の授業は後日プリントで補習をします」
「学校の方どうにかしておいて貰えると助かります。もう人気者はコリゴリなんで……」
「わかりました」
これで学校はどうにかなるな。
当面の問題はなくなったな。
「美緒」
「何?」
「今日学校休んで良いってさ。どっか行くか?」
「外だと騒がれちゃうから、双君の家で良いよ」
昨日あれだけ派手な事した後だしな。
当然だろう。
「分かった。一応情報も整理しよう。学校はエヴァンス先生がどうにかしてくれるってさ」
「うん、なんかごめんね。結局最後の最後まで……」
「言っただろう? 直接助けるのはこれで最後だって、でも手助けとか出来る事があるかもしれないから、相談はしろよ?」
「うん」
やはり何処と無く元気が無い。
まぁ仕方ないと言えば仕方ないのだが時間が解決してくれるだろう。
「じゃあ適当に情報を整理しようか」
俺と美緒はこれまでの経緯と結果を話し合った。
「じゃあ、当分は元の生活に戻れるって事だね」
「まぁ、王女ってレッテルは張られたままになるだろうけどな」
「双君なんて皇族の結婚式ぶち壊したんだよ? バレたら偉い事になるよ?」
「それはエヴァンス先生がどうにかしてくれるから心配してない」
「この一ヶ月物凄く疲れたよ……」
「同じく……」
けど、一区切りついた。
アヴァロン側もブライティア側も上手く合わせてくれるだろう。
「ねぇ、双君急に話題が変わるけど」
「ん?」
「来週の試験って赤点取ると夏休みの半分が補習になるって知ってた?」
え……今なんて言った……?
「え……来週試験なの……?」
「あれ? 知らなかったの?」
ブライティアの歴史と法律覚えるばっかりで、学校のスケジュール何も気にして無かった。
そして俺は崩れ落ちた。
「どっどうしたの!? 双君!?」
「俺……夏休み補習だわ……何もやってない……」
「え………?」
そして気まずい空気が流れる……
「大丈夫!! 今からでも間に合うよ!! 私が教えてあげるから!!」
流石に残り数日で試験範囲を網羅するのは無理だろう。
徹夜かなぁ……
試験は3日間続くから3徹?
死ねるなぁ……
「でも、カリバーンの試験は筆記と技術の合計点で決まるから、筆記はともかく技術で補えば……!!」
「成程!! その手があった!!」
バビロンに頼めば技術の試験なんて満点確実だぜ!!
よし、夏休みをエンジョイできるぜ!!
(私は手を貸すつもりはない、今日の朝に素材以外の使用とサポートをしないとお前が言ったのだからな)
あ、はい。
確かに言いました。
「あかん……もう打つ手が無い………」
筆記は絶望的、実技は魔力量は全く加算されないので、幾ら魔力があっても意味が無い……
(諦めろ、もしくは抗え)
(抗う以外の選択肢が残ってない……)
そして俺はテスト前日まで徹夜をして試験範囲の技術特訓をしたのだった。
筆記?
そんなもの諦めてるに決まってるだろ。
テスト当日
「双真、今日の調子はどうだ?」
相変わらずテンションの高いブライトが声を掛けてきた。
「いやぁ4日振りに寝るとヤバイな……完全に遅刻しそうになったわ……」
「お前、直前に詰め込んでくるタイプだったのか……」
まぁ普段は違うのだが、今回はしょうがないだろう。
試験よりも大事な事があったのだから……
「もう、やるしかねぇ……」
「赤点免れる為だけにやったって感じだな」
「世の中には試験よりも大事な事があるんだよ……」
「そうか、試験が終わったら良いものをやるよ……」
「マジか…ちょっとやる気出てきたぜ」
ブライトが新作を仕入れてきたか。
コイツは楽しみだ……
「そうか、じゃあ後|《テスト後》でな」
そして俺達は戦場へ向かうのだった。
「あかん、筆記絶望的だ……」
眠すぎて筆記問題は半分も出来なかった。
実技まで時間があるから寝ていよう。
課題は4属性魔法の基礎攻撃と防御だった。
一応出来るには出来たが、自分では余り納得の行く出来では無かった。
そして同じ様な感じであっという間に3日間のテストが終了した。
「双真、挫けるなよ……」
ブライトは肩を叩きながら、俺の懐にDVDを一枚滑り込ませていった。
「まだだ……! まだ決まったわけじゃない…!!」
そう、あの時教えてもらったんだ。
最後の最後まで諦めちゃいけないって……!!
「テストを返します」
そして、エヴァンス先生から結果が返って来た。
「双君?」
「双真さん?」
俺は恐る恐る渡されたプリントを開く。
「………オワタ」
俺は敗北宣言をした。
「ちょっとぉ!! 夏休みは海水浴行くって約束したじゃない!!」
「そうですよ! 日本の海を見せてくれるって言ってたじゃないですか!!」
2人とも大ブーイングだ。おまけに声がでかい……ほらブライトが寄ってきた。
「おい双真、俺達友達だろ? 是非とも俺も海水浴に一緒に行きたいな~って思ってるんだが……」
コイツ本当に人の話を聞いていたのだろうか………
「だから、行けなくなったんだって……今のはそう言う話だ」
「双真!! テメェ!! 何でもっと頑張らなかったんだよ!!」
厄介なのがもう一人増えた。
ブライティア王国に喧嘩売りに行ってたからだよ。
何て口が裂けても言えないけどな………
「最後にもう1つ連絡があります。来月ルティス学校と練習試合を行います。サバイバルゲームで最後まで残った学校側が勝利です、本校が勝利した場合、勝利に最も貢献したMVP生徒の願いを1つ叶えると言う特典がありますので、皆さん頑張ってください」
俺のセンサーがここぞと言わんばかりに反応した。
筆記も技術も駄目だが、戦闘に関してだけならグランと対等に渡り合えるのだ。
(バビロン!!)
(力は貸さないぞ)
(いや、前から考えている魔法があるんだが、実現できるかどうかだけでも知りたい)
(その程度なら構わん。必要ならば手ほどきもしてやろう)
「美緒、ホーミィ」
2人を見る。
「コレしか無いね」
「コレしか無いですね」
3人で意思疎通を交わす。
他次元では強さこそ必要なのだ。
テストだとか実技なんてどうでもいい。
いや、本当はどうでも良くないが俺が夏休みを手に入れるにはもうコレしか残っていない。
「やってやるぜ……!!」
俺の心に炎が灯った。