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第23話:束の間の休息

「あぁ! 美緒! 美緒!!」


おじさんとおばさんが美緒に抱きついている。そして美緒も2人を抱きしめる。


「ごめんなさい、お父さん、お母さん……」


3人とも泣いている。

本当に上手く行ってよかったと思う。

若干心残りはあるが、これ以上ブライティア王国側からは美緒をどうこうする事はできない。

生中継されていたはずだからメディア関係も号外の嵐だろう。


「双真君。美緒を助けてくれて本当にありがとう……」

「でも、流石に国家に喧嘩を売りに行くのはもうコリゴリですよ? 予想外な事ばっかりだったし、本来の予定ならゴルディと戦う事もなかった……甘く見すぎていたのも事実だったかな……」


思い返してみればとんでもない事だったよな。

国家に喧嘩を売るなんて本当にどうかしている。

一体俺はどうしてしまったのだろうか。

以前の俺は向かっていく恐怖を知っていた。

バビロンの力を手にしてからだろうか?

強大な力を扱えるようになってしまった俺には、恐怖と言う感情が欠如してしまったのだろうか……


(バビロン、俺っておかしいか?)

(どういう事だ?)

(俺は昔、未知なる物に立ち向かう恐怖を持っていた。けど今回のブライティア王国に喧嘩を売りに行った時、俺は恐怖を全く感じなかったんだ)

(私の力を使う以前に感じていたのならば、それは私の力が原因で間違いないだろう。恐怖を感じなくなったか。だがそれは良い事ではないのか? 恐怖は判断や力を鈍らせる余分な物だと思うが?)

(恐怖は一種の防衛本能でもあるんだ。人間は自分の知らない物に対しては何かしらの恐怖を感じる物なんだ。カリバーンに入るまで人一倍恐怖に敏感だったはずなのに、今は人一倍恐怖に鈍感になってしまっている)

(シルバーフォングの時と同じという事か)

(近い、あの時はバビロンが守ってくれたし、それを自覚する事が出来たけど、今回の場合は最悪バビロンを使うという選択があったから、結局負けると言う事を考えていなかった。全てが終わった今省みてようやく自分の異常さに気が付いたんだ)

(私の力を持ってすればあの程度は容易い)

(そうやって油断してシルバーフォングにあっさりと殺されかけたんだ)

(つまり、私の力は不要という事か?)

(そうじゃない、普段から頼りすぎているのかもしれない。いざとなったらバビロンを使えば自分は絶対に負けないって言う方程式が自分の中で出来てしまっているんだ)

(成程、私の力自体は必要ではあるが、双真にはまだ早過ぎたたという事か……)

(そうだと思う。制御とかじゃなくて、バビロンの力を使う以前の問題だと思う)

(私の力が返って双真の成長を妨げてしまっていたとはな……)

(俺は、バビロンの力を封印しようと思う)

(今後は一切使わないというのか? それでは私が困る)

(違う。少なくともカリバーンを卒業するまでは使わない。本当に必要になった場合のみ使う。今回俺はゴルディに負けるべきだったんだ。ゴルディに負けても次元法を突きつければ美緒を連れ戻す事は出来た。ゴルディと戦ったのだって本当は自分が心地良い勝ちの決まった戦いがしたかっただけだったんだ……)


これが俺の行き着いた結論だった。

俺はあの決闘をゲーム感覚でやっていたのだ。

苦戦する事すらスパイスにして、最後は確実に自分が勝つ。

そしてその事に驚愕する周りの視線や声を聞いて悦楽に浸る。

完全な自己中心的な考えだ。

でも人生はゲームじゃない。


(お前の気持ちは分かった。力が本当に必要かどうかは私が判断しよう。それでいいな?)

(助かる。当分は開放の練習もしない。宝玉は素材としてのみ使わせてもらう)


今までは運よくこの力は身内の不幸を救った。

だが、この自己中心的な考えが今後どのような災厄をもたらすかなど想像もつかない。

取り返しのつかなくなる前に、俺はこの過ぎた力を封印する事にした。


「…君? 双君?」


急に美緒に呼ばれた。


「ん!? 美緒か……」


バビロンとの会話に意識を集中していたらしい。


「どうしたの……? 何処か痛いの?」


叔父さんと叔母さんも心配そうな顔をして俺を見ている。


「大丈夫、大丈夫、今日やった事を思い出してたらちょっとな……」


ははは、と笑いながら何とか誤魔化した。

そして今後について簡潔に話し合った。


「まずは、美緒の処遇だけど、法律的にブライティア王国の方からは絶対に手出しは出来ないから安全は確保されたと思って良い。美緒もシュバイン王にあそこまで言ったし、あの時の王の顔からして下手に逆鱗に触れようとは思ってないと思う」

「何でそう思うの?」

「王は美緒が生きていれば良いと言う選択をしたのさ。あそこで見逃してくれた所を察するとな……案外嬉しかったのかもしれないぞ? 自分の生きる道を自分で選んだんだから」


自分が使おうとした爆弾が自分に降って来たら堪らないからな。

少なくとも様子を見る以外どうしようもないだろう。


「後、何処までしらばっくれるか分からんけど、俺が介入した事は言わないでほしい。ゴルディに使った最後の一撃はもう俺には使えない。あの攻撃を話題に上げられると色々と面倒な事になる。それにこれ以上エヴァンス先生を怒らせるとマジで殺されちまう……」


「よく分からないけど、分かった。日本まで送り届けてもらった後すぐ居なくなった事にしておくよ」


叔父さんと叔母さんも、この件に関して他言はしない事を約束してくれた。

本当に今日が祝日で助かった。





「つっかれたあぁぁぁ………」


自宅に戻り久しぶりの自分の部屋で寝転がる。

とはいえ明日は学校なので早めに寝よう。


「お疲れ様です」

「あぁ、明日学校でどうなる事やら。そうだフェンリルラブリュスは決闘の時に使っちゃったから当分は此処においておかないとな……シルウィさんにバレそうでもあるが……その時はその時で考えよう……」


あれ……?

おかしいな。

この部屋には俺1人しか居ないはずだ。

玄関開けて一直線に自分の部屋に着たんだぞ?


「って、誰だよ!?」


急いで明かりを付けると、ウェディングドレスを着たままの美緒が立っていた。


「宮元双真様。この度は大変危険な事に巻き込んでしまい大変申し訳ありませんでした。意図せずとは言え今回のような状況を作り出してしまった事を心から謝罪申し上げます。私に出来る事がありましたらどんな事でもいたします」


それは美緒の心からの謝罪だった。

普段と全く違う雰囲気と真剣な表情を俺は初めて見た。

ならば俺もそれに答えなければならない。


「ひとつだけある」

「なんでしょう」


美緒の瞳は揺るがない。


「俺はもうお前を直接的に助けない。これからは自分に降りかかる災難は全て自分で解決しろ。そして今日でお前とのパートナーを解消する」

「……はい、分かりました」


俺はカリバーンを卒業するまではバビロンの力を使わない事を決めた。

となると俺が出来る事はかなり限られてくる。

と言うか出来る事が普通に戻ると言う事だ。

美緒を助ける余裕など無くなる。

どの道この事は言わなければいけなかった事なので今ここで言えた事は俺にとって僥倖と言えるだろう。


「後は、その気持ち悪い口調をそろそろやめてくれ」


「気持ち悪いって……本当に申し訳ないと思ってるから……! ちゃんと……謝りたくて……!!」


声がかすれ眼から涙が流れる。

美緒は双真に言い表せないほどの罪悪感を抱いていた。

このままカリバーンに戻ったら2人ともどうなってしまうのか考える事も出来なかった。


「今謝っただろう? それで良いんだよ。それでもお前の中に罪悪感が残ってるのならはっきりと言ってやる。今回の件で俺は怒ってない。俺が何でお前を助けたと思ってる? SOSのサインもあったが、俺が納得出来なかったから助けたんだ。それによって俺が被る被害はお前が考える必要は無い。お前は明日からの自分の事を考えろ」

「双君……」

「俺も今回の件で色々考える事があったんだ。直接的に助けないとは言ったが出来る範囲で手助けはしてやる」

「私の事……嫌いになった? 気安く話し掛けるなとか言って……」

「あの時は、美緒が自分の道を自分で決めたと思ってたからな、特に気にしてないぞ」

「本当はね、あの時凄く辛かった。王女になった時に従わなかったら双君を殺すって脅されて……メールを送ったのはもう私の事を諦めて貰うつもりだった」

「でも、無意識にサイン出したのがお前の失敗だな」

「まさか、こんな無茶苦茶するなんて思ってなかった……」

「やった後だけど、今回に関しては俺もやり過ぎたと思ってる。だから俺から直接助ける事はもうしないって決めたんだ」

「今回は運が良かっただけ、何かひとつでも失敗してたら取り返しが付かない事になってた」

「その通りだ。俺達はお互い成長していかないといけない。だからその最初の一歩としてパートナーを解消する」

「別のパートナーなんて私は嫌……」

「自分が良いと思った奴を探す事から始めればいい。俺達はお互いを知り過ぎてる。一度別れないといけないんだ」

「双君は………ホーミィと組むの?」


心がチクリと痛んだが、美緒にとってこの質問はとても重要だ。


「んー……選択肢としてはアリだな。美緒みたいにプライベートまで突っ込んだ事は無いから、新しい発見があるかもしれない」

「だ……駄目!! ホーミィは駄目!!」


気が付いたら大声を出していた。


「何でホーミィは駄目なんだ…?」

「え…と……」


駄目と言ったが、駄目な理由は個人的な理由で尚且つ双真には知られたくない内容だ。

そして咄嗟に出てきた理由は……


「わ、私がホーミィのパートナーになるから!!」

「成程、いい考えだと思うぞ」


確かに悪い考えではない。

私がホーミィを監視すれば、双君とホーミィの仲を邪魔できる。

2人きりにさせなければ劇的な進展など有り得ないのだから一石二鳥だ。


「でしょ…!? ホーミィならパートナーとして最適だなぁって思ってた所なの」

「じゃあ、俺は適当に探すよ。多分グランと組む事になると思うけどさ」

「グランさんの悩みも解決して一石二鳥なんじゃない?」

「んじゃ、明日の方針が決まった所で、風呂入って来いよ。顔が酷い事になってるぞ」


涙で化粧が酷い事になっていた。


「最後に……お願いしていい?」

「ん?」

「変な事しないから、一緒に寝てもいい?」


変な事って……まぁ1つしかないか。


「しょうがないにゃぁ……」

「それ私のセリフ!!」

「はははは、早く入って来いよ。」


そう言いながら美緒は風呂場に向かっていった。

暫く時間は掛かるだろうがもう大丈夫だろう。

俺の言いたい事は全部言ったし伝わったと思う。

俺の問題は明日だ。

名前は名乗らなかったけど、決闘の時は顔がモロに出てた筈だからな……





「はぁ……嘘みたい……」


湯船に浸かりながら、美緒は今日一日の事を振り返っていた。


「いきなり登場して、決闘に勝って私を攫っちゃうなんて……ドラマの世界のヒーローみたいだった」


そして私はそのヒロインかぁ……と考えると途端に顔が赤くなった。


「お父様達も完全に予想外だったんだろうなぁ……最後のはハッタリのつもりだったんだけど、案外効果あったみたいだし……」


それに決闘でゴルディを打ち破る程の腕を見せた双君に刺客を送るような事も無いと思うし、私もブライティア王国から開放された。


「でも、双君の言ってたもうあの攻撃は使えないって……どういう事なんだろう……」


反動が凄まじい?

武器の耐久力の問題?

それとももっと別の何か……?

幾ら考えても答えは出なかった。


「明日から学校かぁ……アヴァロンとブライティアの関係はどうなるんだろう。でも双君が謎の登場人物になってるから双君がバレ無い限りうやむやに出来ちゃうのか。だから名前言わなかったんだ……」


私の幼馴染って言う情報だけ。

私も覚えてない事にしてしまえば問題ない。

あのグレートアックスもこの家なら見つからないだろうし……


「まぁ、明日の事は明日にならないと分からないかぁ……それより……」


視線を下に落とす。

そこには立派に育ちつつある2つの膨らみがあった。


「双君って大きい方が好きなのか小さいほうが好きなのか今も良く分らないんだよなぁ……」


一般的に男は大きい方が好きだと聞いたけど、一般的な答えはどうでもいい。

双君がどちらの方が好きなのかが問題なんだよね……

もし大きい方が好きな場合、サイズ的にはホーミィに負けている。

けどブライトから聞いた情報によると大き過ぎても駄目な事を言っていたし……


「まぁ、いっか」


こんな事を考えられるようになるまで私は日常に帰ってくることが出来た。

その他の事はまた今度考える事にしよう。





「ふぅ……思ったより長風呂になっちゃった……」


双君の好みについて考えていたら時間があっという間に過ぎてしまい若干のぼせてしまった。

パジャマに着替えて双真の部屋に入ると既に双真は寝ていた。


「流石に寝ちゃったか……」


無理も無い、今日は大変な一日だった。

そして双真を起こさないように自分もベッドに入る。


「おやすみ双君、大好きだよ……」


そして美緒も眠るのだった。

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