第22話:決着
「決闘の結果が無効になった…?」
「あぁ、その通りだ」
「では私の発言はどうるんですか!? 私の今回の結婚に対する異議は!?」
「当然それも無効になる」
つまり……俺の異議自体無効にされたのか……
「分りました……なら私はもう一度異議を申し立てます!!」
「一回の結婚式で同じ人物が異議を申し立てる事が出来るのは一回だけだ」
「知っています。さっきの異議は俺の個人的な異議です。だが今回の異議は違います」
「今回の異議が違うとはどういうことだ!!」
シュバイン王の顔がまた険しくなる。
「今から異議を申し立てるのは俺個人ではなく、アセリア姫の育て親2人の異議申し立てです!!」
「馬鹿な!! 育て親の2人の異議申し立てなど出来るわけがないだろう!! 本人がこの場に居ないのだぞ!!」
「出来ます」
「言っている事が全く理解できん!! ええい!! この者を摘み出せ!!」
近衛兵が近づいてくる。
そして俺は今回の作戦の本命を使った。
「王様、他次元同士の結婚に必要なものは何ですか?」
「何を言っておる?」
「アセリア姫は他次元に渡って10年以上の月日が経っている。国際次元法では遭難者が10年以上同じ次元に滞在した場合、その遭難した次元の法律に準すると書いてあります。つまりアセリア姫はブライティア王国の法律ではなく、私の国の法律に従う事になるのです。と言うことはこれは同一次元の結婚ではなく、他次元同士の結婚になります」
「え……?」
「なんだと!?」
美緒は顔を上げ王は狼狽する。
「他次元同士で結婚するにはお互いの次元の両親の許可が必要です。今回の場合必要なのはアセリア姫の実の両親である王様と王妃様、ゴルディの両親、そして……アセリア姫を育てた両親の許可も必要になる。許可は取りましたか?」
「勿論だ。部隊を派遣し直接招待状を渡しに行ったのだからな。その時に説明をした」
「ひょっとして、共通言語で話されました?」
美緒の両親の手紙に訳の分からない言葉を話し、封筒を渡し握手をして帰って行った団体が居たと書いてあった。
その団体がブライティア王国からの使者だったのだろう。
「何を言っているのだ……」
「アセリア姫が育った日本って次元は、共通言語が通じません」
「何だと……!! だが確かに受け取ったと報告を受けている!! 笑顔で握手も交わしてきたと!!」
「私の国の人間は優しく友好的な人種です、言葉が分らなくても相手の表情を見て相手をする。向こうから握手を求められれば自然を握手をしてしまうそう言う優しい人種なのです」
「そ、そんな事は言い訳にしかならない!! 招待状を受け取って参席している以上それは許可をしたと思って良いだろう!!」
「参席したのは両親ではありません、共通言語を知っている私が両親の代理として参加しています」
「では何故貴様が招待状を持っているのだ!!!」
「アセリア姫からのSOSサインを見て直に私は育て親の家に向かい事情を説明しました。最初は信じられないといっていましたが、翻訳して聞かせたら直に納得してくれました。そしてその時に代理を頼まれました」
「だが、ブライティア王国では本人以外に異議を申し立てる資格は無い!!」
「資格は無いかもしれませんが、権利ならあります。私の国の法律を使って……」
「それがブライティア王国で適用すると思っているのか!?」
「いえ? ブライティア王国には適用しませんが、日本出身のアセリア姫には通用します」
そして一枚の紙切れを取り出す。
「何だそれは」
「委任状と呼ばれるものです。氏名と母音を押す事によって自分の持っている権限を第三者に移す事ができる契約書です。これには育て親の両親が今回の結婚式で自分達の持つ全ての権限を私に移すという内容が書かれています。その権限の中には他次元同士の結婚をする為に必要な両親の許可も含まれています」
「ば……馬鹿な……と言うことは……」
「そうです、私が異議を申し立てた時点で、両親の許可は得られてない物と見なされ結婚そのものが成立しません」
次元法に基づいてるから、この場合国王特権とやらも適用されない。
「だが!! 貴様の異議申し立ては国王特権で無効にした筈だ!!」
「何を言っているのですか? 王様が無効にしたのは私個人の発言であり無効にしたのは試合の結果です。だから最初に今回《・・》は個人的な異議申し立てだといいました。そして今回の異議申し立ては育て親の両親の権限を使っています。もう国王特権は使えません」
「貴様……まさか国王特権の事も知ってて……」
最後に俺はニッコリと笑いながらシュバイン王を見た。
「王様、これでチェックメイトです」
「お……おおおおぉぉぉぉ!!!!」
シュバイン王は両手で髪をかきむしりながら膝をついた。
手強かった。
国王特権の事は知らなかったが、委任状を作成してもらっておいて本当に助かった。
まぁ説明した時叔父さんと叔母さん2人とも結婚に猛反対だったしなぁ。
これで一件落着だな。
「双君!!!!」
頭上から声がした。
そこには綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにした幼馴染が立っていた。
そして俺はいつもの一言を言った。
「帰るぞ、美緒」
「うん!!」
そう言って美緒が俺に近づこうとした瞬間……
「アセリア王女を守れ!!」
「ゴルディ様の仇を今ここで取ってくれる!!」
突然ゴルディの部下達が俺を取り囲んだ。
「今のアセリア姫はブライティア王国の法律で縛る事は出来ない!! アセリア姫は返してもらう!!」
「うるさい!! アセリア姫はゴルディ様とご結婚なされるのだ!! それを邪魔する奴は容赦しない!!」
「っちぃ!! 最後の最後で……!!」
フェンリルラブリュスを取り出そうとした瞬間……
「止めなさい!!」
凛とした声が闘技場に響き渡った。
声の主は……美緒だった。
その声に反応して兵士達はその場に固まった。
「道を開けなさい。貴方達は自分達の法も守れないのですか?」
「ははぁ!!」
俺の囲んでいた兵士が全員膝をつき頭をたれている。
こちらに降りてくる美緒は正に王女の威厳を放っていた。
こういう教育は徹底してるんだな。
ちょっと見直した。
(やれば出来るじゃないか、王女様?)
(…………………)
(………美緒?)
「お父様、私は私の居るべき場所に帰ります。さようなら」
「ま、待ってくれ……アセリア……」
シュバイン王が縋る様に手を伸ばす。
「お父様、今後双君に手を出すような事があったら、私の全てを使ってこの国に復讐に来ますからそのつもりで」
シュバイン王を無視して美緒は歩き出す。
「行こう、双君」
「場所は日本でいいな?」
「うん」
日本語で話せば誰にも分からない。
俺はフェンリルラブリュスを取り出して美緒の後ろに付く。
それは今度襲い掛かってきたら容赦はしないと言う俺なりの意思表示だ。
そして俺と美緒は王宮を後にし、日本の美緒の実家に向かうのだった。