第21話:知恵と力と権力比べ
「本日は我が娘アセリアと騎士団長ゴルディの結婚式に参加してくれた事に感謝する。この良き日を迎える事が出来たのも、そなた達が今まで諦めず探し続けてくれた成果の賜物だ」
結婚式当日、セルリア闘技場の観客席は満員だった。報道では一般人は入れないとされていたが、観客席のみ一般人も入場出来た。
「では、新郎新婦の登場です」
司祭が合図すると、闘技場の入り口から美緒とゴルディが出てきた。
美緒は純白のウェディングドレスを身に纏っている。
美しい銀髪の相まって幻想的な雰囲気が漂い、観客の殆どが見惚れている。
対してゴルディも白銀色の礼装用鎧を着込んでいる。
どうやらこれがブライティア王国の正装らしい。
「マジっすか……」
滅茶苦茶似合ってるじゃねぇか。
普段見慣れてる俺でも思わず見惚れたぞ。
いかんいかん、本来の目的を一瞬忘れそうになった……
俺は観客席ではなく、親族席に座っている。
フードを被っている事に怪しまれたが、これが日本の文化的な伝統ですと言いくるめておいた。
俺が結婚式に参加した目的はひとつ。
この結婚式をぶち壊す事だ。
算段は出来ているが問題も残っている。
「それでは会場の皆様に問いましょう。この結婚に異議のある方は速やかに立ち上がり、新郎新婦の前に出てください」
この言葉はブライティア王国の結婚式で必ず行われる儀式のような物だ。
一般の結婚ではサプライズとしてわざと異議を唱える者も居るが、皇族の結婚式では今の所異議を唱えた者は居ない。
冗談では済まされないからだ。
だが立ち上がる。
立ち上がった事に気が付いた護衛がギョっとする。
歩き出す。
気が付いた来賓が、サプライズイベントだと勘違いをする。
新郎新婦の目の前に立つ。
新郎新婦と司祭が信じられないと言う顔をしている。
チラっとシュバイン王を見ると物凄い形相でこちらを睨みつけている。
そして大声で叫ぶ。
「異議あり!!」
その声は闘技場の観客席まで届いたであろう。
「い…異議を申し立てる理由を問おう」
「今回は個人的な理由だ。そして結婚式に異議を申し立てた場合、ブライティア王国ではどうなる?」
ゴルディが俺の前に立ち塞がる。
「決闘を行い、勝った者の意見が通る!! それがブライティア王国の慣わしだ!! 不届き者め!!」
そう言ってゴルディは双真のフードを掴み投げ飛ばした。
双真の顔を確認すると美緒の顔は驚愕の色で染まった。
その表情はゴルディの体で隠されており誰にも見えていない。
(なんで……? なんで双君が此処に居るの……?)
驚き、嬉しさ、悲しさ、後悔、その全てを美緒は感じていた。
美緒には何故双真がこの場に居るのか理解出来ない。
観客席から会場に入り込む事は不可能だ。
その不可能を可能にしてしまった驚き。
こんな状況でも大切な人に会えた嬉しさ。
大切な人が取り返しのつかない事をしてしまった悲しさ。
意図せずこの状況を作り出してしまった自分に後悔していた。
そしてゴルディは驚いていた。
目の前に立っているの人物に。
年端も行かぬ少年が何故このような愚行に走ってしまったのだろうかと考えた。
「君、前代未聞だよ。皇族の結婚式に異議を申し立てるとは……今なら牢屋に入れる位で見逃してやろう」
今日は幸せの門出を祝う日だ。
そんな日をこんな愚行で汚してしまって良いわけがない。
ゴルディは出来るだけ穏便に事を運ぼうとした。
「悪いけど、それは出来ないな。この結婚式をぶち壊して欲しいって言ってきたのはお前の後ろに居るアセリア姫だからな」
「何!?」
ゴルディは思わず美緒を見る。
その目には大粒の涙が浮かんでいた。
「アセリア姫……本当なのですか!?」
だが、感情の抑えきれない美緒は僅かな言葉を紡ぐのが精一杯だった。
「ちが……違うの……」
その「違う」の意味を正しく理解しているのは本人の美緒だけである。
だが、その端的な言葉をその通りに受け取ったゴルディは激怒した。
「貴様!! 姫様に向かって何と言う侮辱を働いた!!」
今にも切りかからんとするゴルディに向かって涼しい顔で双真は言った。
「アセリア姫の事信頼していないんだな」
「……今なんと言った」
「アセリア姫の事を信用してないって言った」
その瞬間、ゴルディの入ってはいけないスイッチが入った。
剣を抜き双真の喉元に突きつける。
「貴様に!! アセリア姫の何が分かるというのだ!! 王女として帰還されて日も浅く、慣れない生活を過ごされているアセリア姫の何が分かるというのだ!!」
殺意を放ち、俺が次に何か下手な事を言おうものなら間違いなくその剣で首を落とすだろう。
「じゃあなんで後ろを振り返った」
「何……?」
「信用してるんだろ? 愛しているんだろ? だったら何故俺の言葉に惑わされた。お前は俺の言葉でアセリア姫を疑ったから後ろを向いたんだ」
「!!」
ゴルディが狼狽する。
そこで俺は言葉を続ける。
「信用しているのならお前はアセリア姫の方を振り向く必要が無い。つまりお前はアセリア姫の事を信用してないんだ」
事実を突きつけると剣先が震え、ゴルディは顔を顰めながら俺の首元から剣を引いた。
「貴様は何者だ」
「名乗るほどの物でもないさ。やるのか? 決闘?」
そして話題を戻す。
これでゴルディは平常心を保てなくなった。
同時にこの場に居る全ての国民に自分はアセリア姫を信用していないと思われてしまった。
国民達を納得させるには決闘を受け入れ勝つしか無いだろう。
「その決闘を受けよう。貴様に勝ちアセリア姫にその勝ちを捧げ忠誠と変わらぬ愛を誓う!!」
会場が一気に沸く。
この一言で双真は完全なアウェーに立たされた。
急遽結婚式は中断され、観客席と報道陣が制限された。
そして決闘の準備が整いセルリア闘技場には皇族と来賓と一部の報道陣のみが残った。
「貴様、名を名乗れ」
闘技場の玉座からシュバイン王が命令する。その隣には美緒が震えながら座っていた。
「私は一国の王に名を名乗る程の地位を持っておりません」
寧ろ分かってるはずだ。
今さら言わせるな。
「貴様……来賓では無いな? どうやってここに入った? 本来入る資格のない者が異議を申し立てる事は出来ん。決闘をするまでも無かったな」
「入る資格ならあります。俺はアセリア姫の育て親の代理人として来ました。受付に説明して通してもらいました」
「何だと!?」
招待状を懐からだし、近衛兵に見せ本物かどうかを確認させる。
「シュバイン王……本物です……」
「ぐぬぬ……貴様は何故このような愚行を行ったのだ……理由を言え!!」
「その前に聞かせて欲しい事があります。何で私の周りに兵を配置したのですか?」
「質問に質問を返すな!!」
「私は民間人です。理由の無い民間人に兵を配置する事が次元法でどういう罰に当たるか知っていますか?」
「兵など配置してはおらん!!」
シュバイン王がそう言った後に俺はとある物を取り出し床に投げ捨てた。
「ブライティア騎士団アーレフ隊ビスマルクって誰ですか…?」
俺が投げ捨てたのは、隊員証だった。
ビスマルクはどうやら俺の監視役だったらしい。
逆に後を付けてねぐらを漁り、隊員証だけ盗んできたのだ。
逆探知出来るとか本当にバビロン様々だ。
「なん……だと……」
「何かの要人になった覚えは無いのですが。後2~3枚あります。アヴァロンの管理課に襲われたのでこれだけ奪って逃げましたって報告して来て良いですか?」
「倒したのか!? ビスマルクを!?」
「質問に質問で返すなって言ったのは王様ですよ。民間人への兵配置は次元法に違反しますが?」
「その件については私から説明しましょう」
今度は気難しそうで厳格な男が出てきた。
「ビスマルクからは隊員証紛失と言う報告を受けています。恐らくそれは貴方が盗んだ物ですね?」
「そうですが? でも兵が配置されていた事実は揺るぎませんが?」
「はい、貴方はアセリア姫の幼馴染であると同時にアセリア姫に大きな影響を及ぼす人物です。アセリア姫が公になった時、貴方が誘拐等の危険に会わないよう監視と言う名目で配置させて頂きました。連絡を差し上げなかった理由は、貴方に何も知らず安心して生活を続けて欲しいと言う私達の配慮でしたが、裏目に出てしまったようで申し訳ありません。私達にも非がありますので、隊員証の窃盗についてはこれ以上の追求はいたしません」
実際襲われてはいないから隊員証はもう役に立たないな。
「そうですか。おかしな気配がするから逆に気になっていました」
「それは申し訳ない事をしました。気分を害されたようなので、それだけ気配に敏感でしたら兵は必要ありませんね。兵は戻させます」
まぁ、美緒さえ結婚させてしまえば俺にはもう用無しだからな。
「部下が失礼をしたようだな。それに対しては謝罪をしよう。次は貴様の番だ。何故結婚に異議を申し立てた。皇族の結婚だ。個人的と言う理由では理由にならん!!」
「本人が望んでいないからです」
会場が一気にざわめき出す。
先程のゴルディのアセリア姫不信疑惑があったばかりなので、一定の信憑もあるのだろう。
テレビの前でこういう事を言うのもどうかと思ったがもうコレしか手段が残されて無い。
「本人が望んでいないだと……? ふふふ……はーはっはっは!!!」
シュバイン王は突然笑い出した。
「何を言い出すのかと思ったら……アセリアとゴルディは愛し合っておる。愛し合っているからこその結婚だ」
「根拠を述べて貰ください」
「根拠だと? では逆に問おう。貴様はアセリアがゴルディを愛していないという根拠があるのか!?」
「勿論ありますよ?」
「言ってみろ!! その根拠を!!」
「胸に手を当てて人差し指を動かせ」
その言葉を聞いた瞬間、美緒がハッとした。
何故此処に双真が来た理由が分かった。
婚約発表会の時に既に美緒の精神は限界に達していた。
極度の緊張の中無意識にサインを送っていたのだと今気が付いた。
「なんだそれは?」
「私が美緒に教えたSOSのサインです」
「な……に……?」
流石のシュバイン王もこの発言にはうろたえた。
今言ったとおりの行動をしている美緒を頻繁に目にしていた。
緊張した時の癖のようなものと思っていたが、まさかそんな事実が隠されているものとは思ってもいなかった。
美緒が結婚発表会の事をメールで送ったのは助けを求める為では無く自分を諦めさせる為であったが、結果的には助けを求める形になり、双真はこの結婚式会場までやって来た。
「で…出鱈目だ!! こんな事は出鱈目に決まっている!!」
「王様は私がアセリア姫の幼馴染だって知っておられる。アセリア姫から色々俺の事を聞いてるでしょう。だから私に兵を配置した。恐らくアセリア姫からの願いであったと推測しております」
幼い頃にイジメを受け幼馴染に助けてもらったと言う事はゴルディも美緒から直接聞いている。
だがサインがあった事は知らされていなかった。
「私は結婚発表会の時にそのサインを見てここまで来ました。アセリア姫の育て親の代理として会場に入り、SOS通り異議申し立てをしに来ました」
「これだけ大掛かりな計画です。特にアセリア姫の育て親に説明する事にとても時間が掛りました。嘘だというのなら日本に居るアセリア姫の育て親に聞いてみてください。同じ事を言うはずです」
「決闘を……認めよう……」
ついにシュバイン王から決闘の許可が下りた。
ゴルディが姿を現した。
「君には驚かされたよ。結婚発表会から1週間、その間にアーレフ隊の拠点を見つけ隊員証を盗み、アセリア姫の育て親を説得し此処まで来た。確かにSOSのサインだと認めざるを得ない。けれど、この決闘とは話は別だ」
「あぁ、結婚式は始まってしまった。もう止めるにはあんたを倒すしかない」
「止まらないよ結婚式は、君では私には勝てない。その年では大した力を持ってると思うが、まだ私と戦うには早過ぎる」
その通りだ。
ゴルディはブライティア王国最強の騎士だ。
俺がどんな小細工を仕掛けようが、絶対に通用しないだろう。
オリハルコン競争の時に居た人達が殺しに来ると思えば簡単だ。
太刀打ち出来るわけが無い。
「それでも、お前に勝たないといけないんだ」
「では、お願いでもするのかい? 私に負けてくださいと……」
「聞き入れてくれるのなら……」
考えろ。
勝つ方法を……考えるんだ……
「残念ながら、それは無理だね。アセリア姫は私の物にになるのだ」
まず平常心を無くさせるんだ。
そこから切り口を探そう。
「アセリア姫がお前が嫌いだとしてもか?」
「何……?」
「じゃあ、なんでアセリア姫はSOSを出したんだ? よく考えてみろ」
ゴルディの表情が崩れる。
「アセリア姫は、いつでも私に優しく接してくれた。私の事を頼ってくれた。SOSは私個人に向けた物ではない。もっと別の何かだ! 私はその何かを解決してみせる!!」
大声で言い放つその言葉は、ムキになっているというより、自分に言い聞かせているように双真には聞こえた。
「いつも優しく接してくれた……ねぇ」
「何がおかしい?」
「アセリア姫が王女として発見された日、俺はアセリア姫にレストランの食事を奢っていたんだ。何故だと思う?」
「粗相があったからだろう」
美緒が王女になったのはその後だ。
粗相だったら通算すると偉い数になる。
「それは王女って分かる前だぞ? 教えてやるよ。俺がアセリア姫を少しからかったら大激怒したんだよ。ドラゴンも裸足で逃げ出す位な……それがどういう意味か分かるか?」
「何が言いたい!! これ以上の姫の侮辱は許さんぞ!!」
そうだ怒れ。
そうして冷静さを失うんだ。
そこに勝機が見えてくるはずだ……!
「お前に常に優しく接していたアセリア姫、俺がからかって大激怒したアセリア姫、どっちが本当のアセリア姫なんだろうな?」
「な………!?」
俺はゴルディの返事を聞かずに決闘の開始位置へ移動した。
最後の表情を見る限り、少なくても冷静ではなくなっている。
「ルールを確認する。武器と防具の使用を認める、どちらかが戦闘続行不可能となるか、ギブアップするまでを勝負とする。以上だ」
説明が終り、お互い武器と防具を出す。
ゴルディは鎧と盾と片手剣、形状からしてカトラスだ。
対する俺は、アヴァロンの研究所で作ってもらったシルバーフォング製グレートアックス。
足にはシルバーフォングから作ったブーツを履いている。
グリーブと両方作ったのだが、今回はブーツの方を選んだ。
理由は単純に動きやすいからだ。
「正気か……?」
ゴルディが驚いているが無理も無い。
俺が持っているグレートアックスは2mを超えている。
普通に考えて俺が扱える代物じゃない。
「何の事だ?」
「そのグレートアックスの事だ。そんな大きな武器をその体で扱えると言うのか?」
「あぁ、フェンリルラブリュスって言うんだ。作ってもらったばっかりだから、扱えるかどうかはちょっと分らないけどな。でも綺麗だろう?」
フェンリルラブリュスの刃の部分には細かい装飾が施してある。
本体の色は黒、装飾と刃の部分は銀、柄と刃の中心に核となる宝石を埋め込んである。
装飾と色のコントラストがフェンリルラブリュスの元となったシルバーフォングをイメージし魔力特性を高めている。
「美しさと武器の性能は必ずしも一致はしない。使えなければ役立たずだ」
「分ってないな、自己満足だよ。お前だってそうだろう? お前は何故そのカトラスを使っている? そのカトラスが使いたいからだ。それと同じ様に俺はこの美しい装飾の施されたフェンリルラブリュスを使いたいのさ」
「まぁいい、元より私の勝ちは揺るがない」
「悪いが命の保障はしないぞ。公式戦じゃないからな、それにこの武器も始めて使うから手加減出来る自信が無い」
最初に言ったぞ? 本当に当たり所によっては死ぬ可能性あるから……
「君は騎士と言うものを甘く見すぎている。この国に忠誠を誓った時点で命より大切な物など幾らでもあるのだ」
「そうかい……子供の俺にはまだ分からないさ……!!」
そして決闘が始まった。
先手はゴルディ、その格好とは裏腹に物凄いスピードで向かってくる。
それをフェンリルラブリュスで迎え撃つ。
ギィン!!
火花が散りゴルディが後退する。
グレートアックスなら武器の質量差で打ち勝てる!!
「一振りも出来ないと思っていたが……」
そしてゴルディは肩口を狙ってきた。
肩口を防御するにはどうしても武器を持ち上げる必要がある。
先程の迎撃で全く使えない訳ではないと分ったゴルディは双真の疲労を狙いに行った。
高速で襲ってくるカトラスに対し、何とかフェンリルラブリュスで防御をするが防御が追いつかず、シールドを使いつつ何とか防いでいた。
あのカトラス…速い!!
カトラスを捌いていては反撃に移れないので双真は大きく振りかぶってゴルディ事吹き飛ばそうとした。
「そぉりゃあ!!」
今までの振りの速度から十分避けれると思ったゴルディが回避行動を始めた瞬間シルバーフォングの加速特性を使い、ゴルディの予想を超えた速度でフェンリルラブリュスを振り抜いた。
ギイイィン!!
一際大きな音を立ててゴルディが吹き飛ぶ、だが咄嗟にシールドと盾でガードをしていたので、あまりダメージは無いが今の一撃で盾は変形してしまった。
「これは……!」
ゴルディ自分の盾を見て双真を睨み返す。
「シールドブレイカーか……!!」
フェンリルラブリュスはグレートアックスの中でも大きい部類に入る。
シールドは物理攻撃と魔法攻撃両方を防いでくれるが、魔力を使わずに物理攻撃のみでシールドを破壊できる攻撃の事をシールドブレイカーと言う。
自分より魔力が高い敵に対して有効な武器だ。
特殊な能力を持つか、圧倒的な質量と衝撃で押し切る2つのパターンがある。
今回の場合は後者になる。
「あぁ、当たるとただじゃすまねぇぞ!!」
「確かに、当たればな?」
ゴルディが更に加速する。俺のシールドではゴルディの攻撃を少し止める程度で直に破壊されてしまう。
フェンリルラブリュスで捌ききれない分をシールドで防ぎその隙に攻撃をしようと思っていたが、そもそも捌くので精一杯だ。
更に加速されたら捌き切れなくなる!!
これ以上は無理だと判断した俺はバビロンのシールドの切り替えた。
「黒い……シールドだと!?」
バビロンのシールドはゴルディのカトラスを完全に防いだ。
破壊できると思っていたゴルディに側面からフェンリルラブリュスを叩き込む。
「うおぉぉぉ!!!」
「ぬああぁぁ!!!」
当たる瞬間にゴルディが最大出力でシールドを展開、フェンリルラブリュスの直撃は避けたが大きく吹き飛ばされた。
そして勢い余ったフェンリルラブリュスで闘技場の地面を叩き付けた。
ズドォン!!
辺り一面に砂が舞い、視界が塞がれた。
「次で決める!!」
ハッタリではない。
目くらましは出来た。
今ならバビロンの力を使っても誤魔化せるだろう。
先程の攻防でよく分かった。
今の俺では話にならない。
俺が勝っているのは持っている武器だけだ。
その他は全てゴルディが勝っている。
俺が必死になって防いでいたあの攻撃も小手調べ程度なのだろう。
だったら……もうバビロンの力を使うしか俺に勝つ方法は残ってない!!
警戒される前に叩き潰す!!
通常の重力操作ではフェンリルラブリュスの重力制御は完璧ではなく、本来の重さの半分位の重さで使っていた。
だが次の攻撃のみバビロンの宝玉を使い、フェンリルラブリュスの重量を無くす。
人目の付く所で宝玉は使いたくない。
この決闘は他次元にも放送されているのでバレる可能性がある。
だがこのままでは未だ実力の半分も出していないゴルディに絶対に勝てない。
やはり宝玉を使わなければ俺はその辺に居る大人と大差ないのだろう。
バレた時はバレた時考える事にしよう。
宝玉から力を引き出しフェンリルラブリュスの重さ無くす。
その場に居るゴルディは若干の違和感を感じるだろうが、テレビを視ている人間には分かるはずがない。
そしてバビロンの目を使いゴルディの位置を確認。
そしてフェンリルラブリュスを構えて叫ぶ。
「次は全力でぶち込む!!!!」
牽制、全力と言う言葉を使い、ゴルディに強引に最大出力でシールドを張らせる。
恐らくは盾も前に構えていると想定。
全力で振りぬけば当然大きな隙が出来る。
この一撃で倒せれば俺の勝ち。
倒せなければ隙を突かれて俺の負け。
恐らくゴルディもそれを理解しているだろう。
そして、双真は全力で突っ込んだ。
フェンリルブーツの加速性能を利用した突進。
一瞬でシールドと盾を構えたゴルディの前に立つ。
加速の勢いを保ちつつ、左足を軸にして腰を捻りフェンリルラブリュスの加速特性と、重力操作による加速を合わせ、最速でフェンリルラブリュスを振り抜いた。
「トリプルアクセル!!」
ズガァァン!!!!
フェンリルラブリュスがゴルディのシールドと盾を砕き、物凄い勢いでゴルディを闘技場の壁に叩き付けた。
壁に叩きつけられた衝撃で鎧もひしゃげている。
そして一気にゴルディとの距離を詰め喉元にフェンリルラブリュスを突きつける。
「ま……まさか……この私が……」
ゴルディは自分がこの状態になっている事を信じられないようだが、信じられないのは俺の方だ。
ぶっちゃけ死んだと思った。
「アレを食らって意識があるのか……此処まで実力の差があるとは、情けなくなってくるなぁ……続ける?」
「いや……ギブアップだ……」
ゴルディは簡潔に自分の負けを認めた。
不意を付かれたとは、自分の反応できる速度を超えた攻撃を食らったのだ。
もう一度同じ攻撃を食らえば間違いなく命を落とすだろう。
勝敗が決すると直にゴルディに治療が施されていた。
そして俺はシュバイン王に向き合う。
「決闘に勝った。それにより今回の結婚は中止とします 勝者の権利としてアセリア姫を渡してもらいます!!」
「奇襲とは言え、ゴルディに勝つとはな……大した物だ」
なぜか妙に落ち着いている。
何故だ? 諦めがついたのか?
「ではここに宣言する。国王特権を使い今の試合の結果を無効とする!!!」
「折角決闘で勝ったのに……その結果を無効にする!? そんな事が通るわけ無い!!」
「そうです! お父様!! これでは決闘をした意味が無いではないですか……」
俺と美緒の抗議の声にもシュバイン王は涼しげな顔だ。
「まぁ、知らなくても仕方のない事だ、国王特権とは年に1回使える特権で国内事情に限られるが如何なる融通も利かせる事が出来る権利だ。但し権利を行使するには半数以上の皇族の賛成が必要だ。さぁ皇族諸君挙手で応えてもらおう。この特権使用に異議がある者は手を挙げよ!!」
誰も手を挙げるわけが無い。
この結婚は皇族が先導をして行っているのだ。
その皇族が異議を唱えるわけが無い!!!
結局手を挙げたのは美緒1人だった。
「賛成多数!! よって特権によりこの決闘は無効となった!!」
「そんな……何の為に双君は戦ったと言うの……?」
美緒は自分の無力に涙を零すことしか出来なかった。
(これで、条件は全て整ったな? 双真)
(あぁ、全部な……)
俺は自分の中で勝利を確信した。