第20話:婚約発表
どうしてこんな事になっちゃったんだろう。
本当はあんな事言うつもりじゃなかったのに。
用意された自分の部屋のベッドに仰向けになりながら美緒は先日の事を考えていた。
「今までのように気安く話しかけないで……か。ははは………でもしょうがないよね。守るって決めたんだもん……」
王宮に招かれた美緒は自分の生まれと立場について聞かされた。
そして自分の中に眠っている。知らなくて良い情報まで教えられた。
「まだ、私が使えるって決まった訳じゃないのに……」
自分の中に眠っている古代魔法。
発現するかしないかさえも分からない強大な力。
この力でブライティア王国は栄えて来たのだという。
おまけに今の血筋で発現可能と診断されたのは私だけだそうだ。
他の人も見込みがないわけではないが、まだ発現可能段階までは来てないらしい。
「双君……」
もう一緒に話す事も出来なくなるのだと思うと涙が出てくる。
美緒と双真の関係は親子水入らずと言う名目の事情聴取であっという間に知られてしまった。
ブライティア王国の現国王であるシュバインは、自分の娘に言う事に背いた場合宮元双真を亡き者すると脅しをかけてきた。
そして美緒は王宮に軟禁状態になってしまった。
ブライティア王国の中でも騎士団長を務めるゴルディはブライティア王国で最強と言う名を欲しいままにしている。
性格は誠実で一直線なのだが、良くも悪くも疑う事を知らない。
この王宮で育ってきたゴルディはこの王宮と王族の人間が全てだ。
なので王の言われるがままに、力を振るい現在の地位を獲得した。
そんなゴルディと双真が対峙をしても結果など見えている。
「ゴルディから……違う。このブライティア王国から双君を守れるのは私しか居ない……」
美緒はそう自分に言い聞かせた。
双真を守る事と将来自分が双真の傍に居る為にはブライティア王国そのものを自分の物にするしかない。
その為に女王になり実権を掴もうとしている。
コンコン……
ドアがノックされる。
「どちら様ですか?」
「私だ、入るぞ」
入ってきたのはシュバイン王だった。
「どうしました? お父様?」
「アセリア…お前には少々無理な事を押し付けすぎたと思っていてな。苦労を掛けてると思い少し話をしに来たのだ」
美緒の中に希望が見えた。
ひょっとしたら、双真の所に戻れるかもしれない。
だが、次の一言でその希望は砕かれる。
「お前の結婚式を開く事にした。1人では辛くても2人ならば乗り越えられるだろう」
「え…? お父様…? どういう事ですか……?」
美緒は震えた。
この父親は自分が逆らえないと知っていながら、結婚相手を選んできたのだ。
「心配するな、相手はゴルディだ。あやつなら信頼出来るであろう?」
嫌だと言いたかった。
自分が好きなのは双真であってゴルディではないと大声で叫びたかった。
「まだ……早すぎるのでは無いでしょうか…?」
「ゴルディに不満があると?」
「いえ、ゴルディ様個人には不満はありませんが、突然の事だったので……」
「確かに……戸惑うのも無理は無い、必要以上にお前を縛るつもりは無いが、既に他国から多数の求婚が来ておる。大丈夫だ。ゴルディは信頼出来る奴だ」
「ですが……」
「1週間後、婚礼発表会をする。他国や各メディアにも放送されるだろう」
シュバインはそのまま美緒の部屋を出て行った。
「あ……ああぁぁ………」
そして一晩中、美緒は泣き続けた。
自分の前に敷かれたレールから逃れられない現実に……
「なぁ、美緒ちゃん、なんか元気無いな……」
「うん、なんか……落ち込んでるって言うか……」
次の日に登校して来た美緒は、生気が欠如しているように見えた。
誰から話しかれても、反応すらしなかった。クラスの視線が双真に集中する。
双真は溜息をつきながら美緒に話しかけた。
「おい、今日はどうした? 徹夜で勉強でもしてたのか?」
ピクッと美緒が反応し、双真に顔を向ける。
「別に良いじゃない……たまにはこう言う日もあるわよ。前に言ったでしょ? 気安く話しかけないで……」
そう言うとまた顔を机に戻してしまった。
これでは取り付く島も無い。
「美緒さん……どうしてしまったんでしょう……」
「さぁな……でも大丈夫だろう。その辺に居る奴らとは根性が違う。明日になれば戻ってるだろ」
美緒は誰にも知られないように涙を流した。
そして、次の日も、また次の日も、美緒は1人になるとずっと泣き続け、婚礼発表会の日になった。
双真の携帯に美緒から一通のメールが届いた。
「今日の午後7時にテレビの7チャンネルを見て」
と言うシンプルな内容だった。
そして言われたとおりにテレビをつけると、そこには美緒が写っていた。
「私、ブライティア王国騎士団長ゴルディはアセリア王女と婚約する事を発表します!!」
「はあぁぁぁ!?」
思わず大声を上げてしまった。
豪華なドレスを着た美緒の隣にはごっつい甲冑を着た男が立っている。
「えー、ではお2人にインタビューしてみたいと思います。ではまずゴルディ騎士団長から」
「はい、この度はこの婚約発表会にご参加頂きありがとうございます。私は幼少の頃からずっとブライティア王国で育ち、将来はブライティア王国の為にこの身を捧げたいと思い、今まで生きてきました。そしてその功績を認められ、先日ご帰還されたアセリア王女様との結婚を許され、そしてアセリア王女様に承諾していただきました。これほどの名誉はありません!!」
男は偉く気合が入っている。相当嬉しそうだ。
「ありがとうございました。それでは、次はアセリア王女様です」
「す、すみません、このような大きな舞台でインタビューをするのは初めてでして……上手く言葉で表現する事ができません……」
美緒は手を胸元に当てながらながら下を向いて何とか言葉を発していた。
緊張しているのだろうと思っているはずだ。
何も知らない人には……
「あの……!! 大馬鹿野郎……!!」
助けて欲しい時は胸元に手を当てて人差し指を動かせ。
それは双真が幼い頃に美緒に教えたSOSのサイン……
「なお、婚儀は皇族、親族関係の招待制で、場所はセルリア闘技場で1週間後に行われます。一般の方々は参加できませんが、テレビでは視聴することが出来ますので、皆様是非ご覧ください」
インタビューを終えたアナウンサーが日程の説明をした所で、元のスタジオの画面に戻った。
すぐさま日本に居る美緒の両親に手紙を出す。
あのサインを使うという事は俺も含めて監視をされている可能性が非常に高い。
ならばこれ以降の美緒との両親の直接的な接触は危険だ。
結婚式は2週間後、それまでに出来るだけの準備を整える。
(バビロン)
(何だ?)
(極力秘密にするって言っておいたけど、もう少ししたらバレるかもしれん)
(……行くんだな)
(あぁ、あの馬鹿、最後の最後でサインを寄越しやがった)
(相当入れ込んでいる様だな、あの女に)
(惚れている惚れてないじゃない、もう因縁のレベルだ。ここまで来ると……)
昔からそうだ。
結局俺はあいつが助けてと言ったら助けずには居られないのだ。
(ふむ、哀れだな、人と言う物は……)
(あぁ、完璧な理論を振りかざしても、感情に従ってそれに突っ込もうとする愚かな生き物だよ)
(だが、それが別の者からみて完璧ではないと判断されたのなら、それに突っ込む事も無駄ではあるまい)
バビロンはバビロンなりに俺の行動を認めてくれる。
(武器はギリギリ間に合う……練習してる暇はないな)
(つい先日獣と戦っていたと思ったら、今度は国家と戦うか)
(エヴァンス先生への言い訳考えておかないとな……)
その後、美緒の両親から美緒の結婚式の招待状と頼んでいた物と状況報告が書いてある手紙が送られてきた。
その内容を確認し、準備を整え当日を待った。
混乱を避けてか婚礼発表会以降、美緒は学校に来なかった。
そして、1週間後………双真が動き出す。