第17話:美緒の豹変とデートの約束
バビロンとの練習を終え自分の部屋でくつろいでいるとドアがノックされた。
「また、パートナー希望者か? 最近多いんだよなぁ……」
(有名な物、目新しい物に群がるのは人間の特徴と言ってもいいだろうな…)
そんなもんかなぁ…と思いつつドアを開ける。
「こんばんは双君。入っていい?」
そこに居たのは美緒だった。
「別に良いけど……」
「じゃあ、お邪魔するね」
何しに来たんだ?
メイド服の写真でも回収に来たか。
「夕飯は?」
「魔法の練習をしてたからな、まだ食ってない」
「そう、なら作ってあげる」
なんだ…?
感じが何時もと違う。
何と言うかテンションが低い。
「美緒…?」
「何? 双君。リクエストでもある?」
「いや、別に無いが…」
「じゃあ、大人しく待っててね? 練習で疲れてるんだから寝てても良いよ? 起こしてあげる」
そうか。
寝ている所の写真を撮って交渉と言う事か。
これは意地でも寝れないな!!
「さてと、こんな物かな? 出来たよ、双君」
「あぁ、ありがとう……いただきます」
「召し上がれ」
「美緒は食べないのか?」
「私はもう食べたから、双君が全部食べて良いよ」
美緒の料理は久しぶりだな。
カリバーンに来てからは自分で作ってたし。
ふむ、また腕を上げたな。
それにしても今回美緒が来た目的は何なんだ?
てっきりメイド服の写真を取り返しに来たのかと思ったが…
「ご馳走様、旨かったよ」
「じゃあ食器を洗面所に出しておいてね? 洗っておくから」
「流石にそこまではさせられない。後で俺がやっておくよ」
「……そう、ならお願いね」
怖い……なんだろう。
俺そんなに機嫌を悪くするような事したかなぁ。
「美緒……?」
「何?」
「何をそんなに怒ってるんだ…?」
メイド写真で人だかりを押し付けた事か?
それとももっと別の何かか…!?
「別に怒ってないよ? ただ双君に夕飯を作りに来ただけ」
本当に、何事も無いように笑った。
いつもとは違うギャップに俺はときめいた物なんて覚えなかった。
俺は一体何をやらかしてしまったんだろうとただひたすら考える。
「双君……どう?」
急に美緒がこっちに来て聞いてくる。
服は私服だが、それ以外はあまり変わっていない様に見える。
しかし、ここで違いを発見できなければ、俺は間違いなく恐怖体験をする事になるだろう。
「えー…と、何時も通り可愛いぞ?」
「そう、ありがとう」
また、ニコっと笑い俺の隣に座りなおした。
おいおい……本当にどうしたんだよ。
ナイフとか持ってきてないだろうな……
「テレビでも見るか? 今お前が好きなお笑い番組やってるぞ?」
平常心を保ちつつ言った筈だが、微妙に声が震えている。
「今日は……いいかな? それより、こっちを見よう?」
そして美緒がチャンネルを変えると……
大人のマナー常識編、と言う番組だった。
美緒が普段は全く興味を示さない番組だ。
しかし、それを一心不乱に見続ける美緒。
一体どうしたというのだろう……
テレビに映ってる人、オリハルコン競争の時に居た人に雰囲気似てるなぁ……ん?
大人の雰囲気って言う奴?
………あ!!
そして俺は結論に至った。
よし、ちょっとからかってやろう。
「美緒……」
「何? 双君…!?」
強引にベッドに押し倒す。
「双…君?」
突然の出来事にどうしていいのか分からなくなる美緒。
「美緒……」
優しく名前を呼びながら電気を消す。
明かりはテレビの光のみ……そして、俺は美緒に顔を近付ける。
「え……あ……」
急に近づいてくる顔に目を閉じ、唇を突き出す美緒……
カシャリ!
フラッシュが部屋を一瞬明るくした。
そして電気をつける。
そこには目を閉じて唇を突き出したまま耳まで真赤になった美緒が固まっていた。
「ふっ、まだまだだね」
そして、美緒のゲージが吹っ切れた。
「何してくれたのよぉぉぉ!!!!」
カメラは当然転移させた。
「ほら、大人の余裕、大人の余裕」
そう言うと、ハッ! として途端に口調を変える。
「双君? そう言うイタズラは酷いよ? 私ちょっと期待しちゃったんだから……」
まぁ、美緒の妄想の中で結構上位に入るシチュエーションだったんだろうな。
「でもな美緒、お前がやると違和感があり過ぎて、逆に怖いわ」
そしてここでカミングアウト。
もう限界……笑い転げそう……
「双君!! こういう大人の女が好きって授業中に言ってたじゃない!!」
「魅力的だったとは言ったけど、好きとまでは言ってないだろ? それに美緒はそうやって明るい方が似合ってるぞ」
また一瞬で美緒が真赤になる。
「も、もぅ……調子のいい事言って……」
「まぁ、無理に変える必要は無いと思うけどなぁ」
今の美緒がずっと続くのは面倒なので、何とか何時も通りに戻るように誘導してみる。
「続き……」
「ん?」
「さっきの続き……してよ……」
「それは、出来ないな」
「やっぱりホーミィの方が良いんだ………」
突然美緒が涙声になる。
「お、おい! ちょっと待てよ……別にホーミィとはそんな仲じゃないって……ちょっと前に実家で飯をご馳走になった位で……」
あ……
今俺余計な事言った!!
「実家……? 食事……? 何それ……? 私聞いてないよ……?」
あの……さっきの涙声は何処に行ったんでしょうか……
「研究所の所長が実はホーミィのお母さんでな…? 素材の事でちょっと話があるから、来てくれって言われて……丁度夕食時だったんだ。 その……一緒に夕飯をご馳走になったってだけだ……本当にそれ以外は何も無かった……」
「本当に……?」
美緒の目からは光が消え、口元が三日月に開いていた。
「考えてもみてくれ! 実家だぞ!? 俺がホーミィに変な事をしようものならそれこそ生きて帰ってこれないだろう!?」
「まぁ……それは一理あるね? けど、実家で夕飯食べたのは本当なんだ…?」
「あの、その怖い笑顔はマジで勘弁してもらえないでしょうか……さっきおちょくった事は謝るからさ……」
「食事一回」
「え?」
「今週の土曜日に何処か美味しい所へ連れてって、そうしたら許してあげる」
有無を言わせぬ、絶対的視線に俺は屈した……
「分かった……」
「よし♪」
美緒はご機嫌で自分の部屋に帰っていった。
そして俺はとある人物に電話をするのだった……