第13話:本日最後のイベント
「ふぅ…」
(やっと私の力を試すときが来たか、随分待った気がするな)
(気のせいだろう。まだバビロンを倒して2日しか経ってないんだぞ?)
俺はグランと別れすぐにプライベート空間にやってきた。
楽しみにしていたのはバビロンだけではない。
俺自身もこの宝玉を使ってみたいとずっと思っていたのだ。
(具体的にはどうすればいいんだ?)
(宝玉に魔力を流し込めば素材としての力を使う事ができる。宝玉の力を解放すれば宝玉そのものを使う事ができる。両立も可能だ。だが素材として使う事は滅多に無い。まずは宝玉の力の解放のみを練習すればいいだろう)
(分った)
宝玉に意識を集中し魔力を通す。
この状態からどうやれば力を解放出来るのだろうか。
何かきっかけのような物が必要なのかもしれない。
(それだけでは駄目だ。私から力を吸い出すようなイメージだ。自分の魔力を手にして、その手で力を引き出すのだ)
バビロンの言っている事は分る。
だがイメージが掴めない……
(ふむ、やはり慣れないうちは苦労しそうだな。少し手伝ってやろう)
宝玉から魔力が流れ込んできた。
「うおっ!?」
力が溢れてくる。
(この力を自分の魔力を使って引き出すのだ。慣れれば魔力なしでも引き出せるようになる)
自分の魔力を宝玉から流れてくる魔力に繋げる。
そして、流れ込んでくる魔力を自分に引き寄せてみる。
「おおぉぉぉ!!?」
自分の予想を遥かに超える魔力が一気に流れ込み、思わず声が上がる。
(そうだ、それでいい。最初の頃は一気に引き出す事は止せ。前のように倒れるぞ)
(分った……じゃあ先ずは自分扱える限界までを引き出してみる)
外部からの魔力提供と言う初めての感覚に戸惑いつつもどんどん魔力を上げていく…
(ここまでだな)
バビロンに言われ引き出すのを止める。
(これが、今の限界…?)
(そうだ、初めてにしては上出来だ。使っているうちに体が慣れてこれば、更に魔力を引き出せるようになる)
(試しに色々使って見ていいか?)
(そのための練習だ)
バビロンの能力は重力操作。
主な使用方法は加速戦闘の加速補助と攻撃の際の速度増加と威力増加だ。
グランと一緒に戦った時の結界はシールドの範囲を大きくしただけの物のようだ。
「よし!」
基本的な動作の確認。
重力系の攻撃魔法の練習。
シールドの操作方法。
一通り終わったところで、プライベート空間を出た。
(最初だしこんなもんでいいだろう?)
(基本的な事は教えた。後は双真自身が工夫するのだ。後は迅速な宝玉の開放だ。今のままでは遅すぎる)
バビロンと今後の課題を話しながら俺は魔力系バイトの求人を見ていた。
「これと、これと、後これ…」
適当に5つ選択する。
内職扱いにしてプライベート空間か自分の部屋でバビロンの魔力を使って一気に仕上げて、納品して次を貰う。
これの繰り返しだ。
ちなみに受けたバイトは全て同じ内容だ。
魔力の切れた商品に魔力を補充する簡単な物だ。
(こんな事が金になるのか?)
(日常消耗品だからな、需要は尽きないさ)
後は完全に俺次第、早速プライベート空間に戻り、バイトを始める事にした。
「ふぅ…今日はこんなもんか」
納品できたのは、自分が予想していた数の1.2倍程だった。
カリバーン自体バイトは禁止していないが、金銭的に困る事がまず無いので俺のように目的が無い場合バイトをしている奴はいない。
こんな無茶が出来るのもバビロンのおかげなので本当に感謝しないといけないな……
「あー…今日は色々忙しかったなぁ…」
納品した分の代金は即日講座に振り込んでもらえるようにして、俺は自分の部屋に帰ってきた。
夕飯の準備でもするか。
今月の練習は全部バイトだな。
もっと効率よく出来る方法があるはずだ。
「ん?」
突然携帯が鳴り出した。
ホーミィからだった。
「もしもし? どうした?」
「素材提供の事でお母さんが話をしたいって言ってるので、家に来てもらえませんか?」
「家…? 部屋じゃなくて?」
「はい、私の実家です。今からお迎えに上がって大丈夫ですか?」
「あぁ、別に構わないけど……」
午前中は実家でやる事を終わらせるのと研究所での素材提供の話。
午後からはグランと昼食会をしてオリハルコンの情報を収集。
その後バイトを探して今の時間までバイトをしていた。
これ以上何かあるというのか……まぁ、俺も相談したい事もあったので丁度いい。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
ホーミィの家に入ると、シルウィさんと知らない2人が迎えてくれた。
きっとホーミィの義理母さん達だと思う。
「急に呼び出してごめんなさいね」
「いえ、俺も相談したい事があったので、丁度良かったです」
「じゃあ食事しながら話しましょうか」
料理はシルウィさんとホーミィの手作りだった。
美緒以外の手作り料理なんて初めてだな……
「宮本君の話って何? 私の話は素材関係の話だけど」
「あぁ、俺は相談と言うかどちらかと言うとお願いって感じになります」
「どんな?」
「あのドラゴンの素材を使って武器を作りたいんですが、研究所じゃ作れないの他の所で作りたいんです」
「研究所じゃ作れない…? それは納得出来ないわね。その辺の工房じゃ作れないレベルの武具を作成する事だって出来るのよ? 中にはアヴァロンの研究所じゃないと作れない武具だってあるわ。それ程自信があるからあの条件を付けたのだけど」
まぁ確かに納得できないだろうなぁ。
だから現物持ってきた。
「現物持ってきてるんで見てもらえますかね? 作れるのであれば研究所にお願いします」
「拝見します」
そして取り出す一本の細い物体。
「これは…?」
「抜いて見て下さい。中に刃物が入ってます」
シルウィさんが言われたとおりに鞘から刀身を抜く。
反りのある刀身、片刃で美しい波紋があり、美術品と見間違えるほど美しい。
「これは……?」
「折れず、曲がらず、良く斬れるの3要素を非常に高い次元で同時に実現させた剣。日本刀です」
生まれて初めて見たのだろう。
目を大きく開いて注意深く観察している。
「これが……研究所では作れないと?」
「じゃあ、貸しますので作れるかどうかだけでいいので教えてください。作れる場合はどれ位掛かるかもお願いします。期限は1週間で」
「分ったわ。研究所の武具チームに渡します。もし作れないと言う事であれば他の所で作製する事を許可します」
「双真さん。私にも見せてもらっていいですか?」
「いいけど、怪我しないでね? 物凄い切れ味してるから……」
ホーミィも興味津々のようだ。
頼むから刃先には触るなよ……
「宮本君? これは一体何なの? こんな剣見たこと無いわ」
「俺の出身地、日本の剣ですよ。作られ始めたのは1000年位前ですけど……」
「1000年前にこれほどの剣を作る技術があったというの!? 日本と言う所は」
まぁ一番古い奴ですけどね。
当時の金属は現在では再現できないから当時と全く同じものは今は作れないらしい。
「そうですね。そこまで古い物の作製方法は残っていませんが、現在の作製方法は約150年前から変わっていません。日本の誇れる技術のひとつです」
「日本は150年前にここまで完成された剣を作っていたというの…?」
シルウィさんは信じられないという顔をしながら色々な角度で日本刀を振ったり眺めたりしていた。
流石に家の中で振り回すものじゃないと思うけどな。
「是非、今度この日本刀の工房へ連れて行ってもらえないかしら? とても興味が沸いたわ」
「別に構わないですけど、共通言語通じませんよ?」
「翻訳は宮本君にお願いするわ」
俺の日曜日潰れましたね。
「私も付いて行って良いですか?」
「気になるなら良いよ」
ホーミィも気になるらしい。
俺はホーミィがニコニコしながら日本刀をすぅっと抜くのをイメージしてしまい少し肝が冷えた。
美緒だったら、俺は一目散に逃げているだろう。
「分りました。じゃあ結果の出ている来週の土曜日で良いですか? 一応それ借り物なので」
「これほど興味を持った物は本当に久しぶりよ? ドラゴンの事もそうだけど、宮本君には感謝しないとね」
「そういえば、素材がどうとか言ってましたよね?」
今度はこっちの本題に移ろう。
何か重要な事がわかったのかもしれない。
「えぇ、調べて分かった事があってね。あのドラゴンはどうやら重力を操る能力を持っている事が分かったの。これは大変貴重な発見よ。今までに類を見ない能力だわ。この能力を応用すれば今まで出来なかった錬金術が使えるようになるかもしれない」
「そりゃあ、凄いですね……」
俺にとっては復習の方が多かったが、知らないふりをしておこう。
「けれど、あのドラゴン一匹だけでは市場に流せる量じゃないし、配当は宮本君とスフィア君の山分けと研究所に生態研究様の素材提供があるだけ、マスコミ関係には新種のドラゴンが発見された事は既に報道されていて、月曜日はテレビ局が来る。自然と宮本君とスフィア君は注目の的となるでしょう。そこに重力操作能力という新しい発見も加われば、間違いなく厄介事が出てくると思うわ。宮本君の両親や親戚関係を教えて。今から対策を練る必要があります」
事態は俺が思っている以上に深刻な物となっていたようだ。
そして俺は現在の家族構成と友人関係を説明する。
「分りました。思っていたより友好関係が少ないのね?」
「まぁ、色々あったんですよ、触れないで貰えますか?」
まぁ信じてもらえないだろうな。
俺がつい最近までとんでもない根暗だったなんて。
人は変われるんだと最近本気で感じてる。
「そう、ごめんなさいね。けどスフィア君の方は両親とも貴族だから問題ないけど、宮本君の場合はお婆さんと美緒ちゃんが巻き込まれる可能性があるわね。何かで防衛線を張らないと……」
「そこまでする必要があるんですか?」
流石に大袈裟過ぎると思った。
「大袈裟過ぎる位でいいのよ。こう言う事は、お婆さんの施設にこの事を知ってる人は?」
「居ません。婆ちゃんにも口止めをお願いしたので、苗字が偶然一緒と言う以外は問題ないと思います」
「美緒ちゃんは?」
「問題大有りです」
美緒の性格だ。
言いふらすに決まっている。
それだけならともかく、美緒はとにかく目立つのだ。容姿だけ見ても……
「カリバーンに居る間は間違いなく安全ですが、アヴァロンから外出する時に狙われる可能性があるかもしれません…」
「分ったわ。美緒ちゃんが外出する時に、ガードを何人かつけます。それで殆どは大丈夫だと思います」
黒服とサングラスの人が建物の隅っこで無線使って話すああいう人を付けるという事か。
「必要ないのが一番なんだけどなぁ……」
「少なくともほとぼりが冷めるか、生息地が見つかって市場に供給の目処が立たないと、少し難しいかもしれないわね」
「重力操作の情報の秘密にする事は出来ないんですか?」
ぶっちゃけ知られないほうが俺には都合が良い。
対策を練られた上に致命的な弱点が出てくる可能性もある。
「それは無理ね。新種のドラゴンの研究をしていると言う事が既に周知されてしまってる以上、公表せざるを得ないわ」
「分りました。美緒さえ何とかすることができれば大丈夫そうですね」
「けど、これは本当に最悪のケースを想定している事を忘れないでね? 殆どの場合そこまで大事にはならないわ。あまり気にしすぎていても気が持たないわよ? それに最近色々な新種が発見されてるから注目がそっちに行く可能性もあるし」
色々な新種か。
新しい次元でも発見されたのだろうか?
「分りました。何か気が付いたことがあったら連絡します」
「えぇ、そうしてくれると助かるわ。後もうひとついいかしら?」
「なんですか?」
「うちのホーミィとは何処まで進んだの?」
俺はお茶を噴出し、ホーミィが真赤な顔をしてこちらに走ってきた。
待て、日本刀を握り締めながら来るんじゃない!!
「お、お母さん!! 私達まだそう言う仲じゃ…!!」
「あら? 残念ね、宮本君だったら私は賛成してあげるから大丈夫よ?」
それって、親公認って事…?
むしろ午前中と言ってる事が違う。
「ホーミィはこう見えても、昔は凄くやんちゃだったのよ? あの頃は彼氏出来るのか心配だったわ……」
「そう言う昔の話はいいの!!」
珍しい、ホーミィが物凄く焦ってる
「宮本君は、大人しい子と活発な子どっちが好き?」
それって、大人しい子をホーミィ、活発な子を美緒って言ってないか…?
美緒の事も恐らく聞いてるとは思う。
俺が話題に出て美緒が話題に出ないとは思えないし。
「活発な子は一緒に居て楽しいと思うし、大人しい子だと女の子らしいさを感じやすいと思います」
「ほうほう…つまりどっちも好みって事でいいのかな?」
「恋愛感情まで発展した事がないので…」
彼女いない歴=年齢です。
「私から見ても、ホーミィは魅力的な子だと思うけど…?」
「確かに魅力的だとは思ってます。美緒もホーミィも、でも……」
「恋愛対象とまでは見れない…って所?」
「まぁ……そうです」
その辺は申し訳ないとは思っている。
「じゃあホーミィとしたいと思ったりしない? 男として」
「ちょっ!! それはいきなり過ぎじゃないですか!!」
ちょっと想像しちゃったじゃないか。
どうしてくれる。
「ーーー!!!」
ホーミィは耳まで真赤にしている。
「そりゃあ、俺だって男ですよ? ホーミィはそう言う意味でも魅力的だと思ってますけど……」
俺の顔も真赤だろう。
「わ…私は双真さんさえ良ければ……」
ちょっと待て。
このパターンどっかで……
「そうよ、ホーミィ! 時には強引に行かないと手に入らないものあるのよ!! 美緒ちゃんに先を越されないように!!」
「あの、そろそろ帰らないと、ゲート閉じちゃうんで……」
遠まわしに帰りたい宣言をしてみる。
「あら? 今日は泊まって行ってもいいのよ?」
いや、あなた絶対に俺とホーミィを一緒部屋に入れるでしょう!!
「いや、流石にそれは不味いでしょう」
「なんならホーミィの部屋でもいいのよ?」
「言うと思った!!」
思わず突っ込んでしまった。
「まぁまぁ、落ち着いて」
落ち着けるか!
自分の娘を何だと思っているのだろうか。
俺だって年頃なんだぞ。
「はぁ~楽しかった! 宮本君? いつでもいらっしゃい?」
「暫く来ません……」
間違いなく今日一番疲労した……
「あの…双真さん?」
「どうした?」
ゲートの前でホーミィに声を掛けられた。
「お母さんの事あまり怒らないでください。お母さん男の子が欲しかったみたいなんです。なので双真さんを自分の子供の様に思っているんだと思います」
「あれで……?」
「きっと照れ隠しだと思います。あんなに楽しそうなお母さんを見るのは本当に久しぶりなんです。なので、また来て貰えませんか?」
「ホーミィ、俺は小さい頃から両親が居なかったから、そう言うのが良く……分らないんだ。ごめんな」
そう言うと、ホーミィはガックリと顔を落とす。
予想外の出来事に思わず焦る。
「でも、俺も楽しかったかな…? ああいう空気は本当に久しぶりだったから、なんか新鮮だった」
「え……?」
「流石にしょっちゅうは無理だけど、またお邪魔してもいいかな?」
「はい、是非いらしてください」
上がった顔は満面の笑みだった。
「ふぅ……やっぱ風呂はいいな。今日は色々厳しかったから……」
湯船に浸かりながら今日一日を振り返っていく。
素材提供の事はある程度は予想してた。
グランとの昼飯でオリハルコンの情報を入手出来たのはかなりの大きいな。
最後にホーミィの家での夕食はシルウィさんのワルノリが凄かったなぁ。
今頃ホーミィに怒られてるんだろうな……
風呂から出た後携帯を見ると一件のメールが入っていた。
グランからだった。
明日は気をつけろ、朝一番に登校したほうが良い。
と書いてあった。
グランの言う事は大体当たるので、明日は朝一番に登校しようかな。
そう思い、今日は寝るのだった。