第12話:昼食と新たなる目標
(双真、何時になったら私を使うのだ?)
(あぁ、ごめん、素材提供の話で午前中全部使うと思わなくてさ)
何か忘れてると思ったらバビロンの力を使う事を忘れていたんだ。
素材問題で思ったより気疲れしたのだろうか。
すっかり忘れていた。
(ふむ……)
バビロンは余り納得していないらしい。
(焦るなって、グランと昼飯食べたらプライベート空間に行く予定だ)
「グラン、お勧めの所があるって言ってたけど、どの辺り?」
「少し歩く、本来は貴族しか入れないが、俺が居れば双真も入れる場所だ」
「マジかぁ、そう言う貴族しか入れない所って初めてだけど大丈夫かな…?」
貴族しか入れないか。
ナイフとフォークの扱いひとつで指摘を受けそうなイメージがある……
「ナイフとフォークが使えればとりあえずは問題ない。それに、情報収集も兼ねている。俺達の倒したドラゴンがどれほど噂になっているかを確かめる」
やっぱりナイフとフォークか。
テーブルマナーとか殆ど分からんぞ俺……
「まだ2日しか経ってないのに、噂は広がるものなのか?」
「甘いよ双真、月曜日にはテレビ局が来る事になってる。俺と双真を取材しに来る」
テレビ局だと!?
そんな全国放送レベルな物に出演してしまうのか……
「まじかよ、広がるの早すぎじゃない?」
「情報は色々な所から入ってくる。世の中そんなものさ。だがこれで双真も一目置かれる事になるだろうな」
「今までが無名だったからなぁ。どうなるのかさっぱり分らん…」
「慣れるさ、その内な」
そんな事を話しているうちに、目的地に着いた。
「いらっしゃいませ、お客様は……」
「私の友人です」
「はい、ようこそお越しくださいました。スフィア様、お連れの方」
え……グランさん顔パスっすか。
マジパネェっす……
(周りに居る人って全員貴族なんだよな?)
緊張のあまり思わず思念会話になる。
(ああ、そうだ、変に緊張する必要も無い。寧ろ今から双真を紹介するんだぞ? いつも通りにしていてくれ)
いや、ここに居る貴族に俺を紹介するとか……俺そんな大した人間じゃないぞ…?
「スフィア君、先日の君の活躍は既に聞いているよ? その年でドラゴンを倒すとは大した物だ。それも新種だそうじゃないか」
どうやらグランの知り合いが居たらしく、親しく話しかけてきた。
他のテーブルでも話題であったらしく一気に注目が集まる。
「ありがとうございます。しかし俺1人で倒したわけではありません。ここに居る双真が居たからこそ倒せました」
「ほう……君の名前は?」
凄く礼儀正しい。
流石は貴族だ。えーと、普段通り普段通り……
「初めまして、宮元双真です」
「私はピースウィルだ。よろしく」
お互いに握手を交わす。
思ったより普通だ。
ちょっと堅苦しいイメージを持ちすぎていたのかもしれない。
「東洋の出身だね? よくカリバーンまで来れたね」
「はい、町を歩いていた所スカウトされました」
「スカウト組か、スフィア君と居るという事はそれなりの力を持っているようだね」
「実は、自分の力がよく分からないんです。俺は急に自分自身の力に目覚めました。急すぎてついていけていないのが現状です…」
「最初はそんなものだよ。それより私は君達がどうやって例のドラゴンを倒したのか聞きたいね」
ピースウィルさんの目は輝いていた。
そうして、俺とグランはその時の話をしたのだった。
「成程、アスカロンを使ったのか。よく咄嗟にその判断が出来たね」
「ドラゴンを見たときに必ず必要だと思って、転移の準備をしておいたのが功を奏しました」
「それにしても聞いていると、双真君。君は将来有望な人財になるかも知れないね」
「いや、グランが俺を持ち上げすぎてるんですよ……」
「そんな事はない。俺がアスカロンを使っていてもあのドラゴンは倒せなかったと思う。双真の魔力があったから倒せたんだ。感謝してる」
グランがどうにも俺を持ち上げるので恥ずかしかった。
「お待たせいたしました」
そして料理が運ばれてきた。
見たことあるようなものから無いようなものまで様々だ。
お金足りるかな……
料理はどれも滅茶苦茶美味かった。
「はぁ~…満足だぁ」
「この店は気に入ってくれたかい?」
「あぁ、こんな旨い料理食べた事ない」
「そうだ双真、鱗は持ってきているか?」
「あぁ、持ってきてるけど? どうかしたか?」
その鱗と言うのがバビロンの鱗だと分るとまた注目が集まる。
「俺はまだ素材関係には手をつけて無くてな、ここのマスターが現物があるなら見たいと言っていたんだ」
「あぁ、そう言うことね」
そして懐からバビロンの鱗を取り出す。
「おぉ……これが新種のドラゴンの鱗ですか。触らせて頂いてもよろしいですか?」
「どうぞ」
マスターが手に取り、光にかざして見る。
「黒の中にひっそりと紅色が覗くこの色彩……美しい」
それに釣られて、どんどんと客が俺達のテーブルに押し寄せてくる。
「俺にも見せてくれ!」
「私にも!」
押さないでくださーい。
押さないでくださーい。
せめて一列に並んでくださーい。
大盛況だった。
「この鱗、競売に出すつもりは無いのですか?」
マスターからの質問だった。
「今の所考えていません。研究所への提供の関係もあるので」
「成程、もし競売に出す事があったら教えてください。機会があれば買わせていただきます」
他の人達も興味津々だった。
馴染めたので結果的には良かったと思う。
「競売で思い出した。来月の1日にオリハルコンコンが出るぞ」
「オリハルコンだって!?」
オリハルコン、Aランク鉱石。
その中でもかなり希少な錬金鉱石だ。
複数の鉱石と高度な錬金術が必要とされる。
オリハルコンの一番のメリットは、混ぜる素材を選ばない事だ。
本来は魔物の素材と鉱石は相性があり、相性が合わないものは組み合わせる事が出来ない。
だがオリハルコンはどの素材でも適合する特殊な金属だ。
そして、魔力の通り、鉱石としての硬さも申し分ない。
素材によっては追加効果が現れる場合もある。
武具を作るのにこれ以上の鉱石はないと言っても過言ではないだろう。
だが、精製する為の鉱石も希少で、精製量も非常に少ないので中々市場に出回らない上にとても高い。
「最新の情報だ。欲しい奴は今から金を貯めておくんだな」
「今回はどれだけ出るんだ?」
「20kgだと聞いてるが」
「ほぉ…今回は多いな。いや、前回が少なすぎたのか」
「あの……1kg幾ら位なんですかね?」
とりあえず聞いてみる。
バビロンの素材で装備を作ろうと思うとオリハルコンは喉から手が出るほど欲しいのだ。
「相場から換算すると500万位だろうな、前回は量が少なかったから700万程したが…今回は量が多いからその位だろう」
来月までの日数と今自分が出来る魔力系バイトを授業後フルタイムで入れると100g程買える…?
ちなみに計算は一般人の5倍だ。バビロンの宝玉を使えば多分それ位は出来ると思っている。
期待値なのではっきりとした数字は分らないが……
「まぁ、即日完売だろうな」
そう、間違いなく即完売なのだ。
オリハルコンは売りに出される事自体が稀なので直に完売になる。
事前の情報を知れた事はとても有利だが、金額が高すぎる……
しかし手に入れておかなければ今度は何時手に入るか全く分からない。
「どうした? 双真?」
「いや、ちょっと欲しくてな…」
「欲しいって、オリハルコンか?」
「あぁ、このドラゴンで武具を作ろうと思うと、適合する鉱石を探すより早いしそれに素材の数が限られてるから、極力質の良い鉱石で武具を作りたいんだ。妥協したくない」
「何を作りたいんだ?」
「武器だ。しかも恐らくこれが作れる最後の機会かもしれない……」
「最後の機会? どういう事だ?」
自分で使う武器をもう決めている。
だがそれは研究所では絶対に作れない上に、今でなくては作れない。
供給が多い素材ならば問題はないが、オリハルコンで作れるのは今回が最後の機会になるかもしれない。
「具体的に何kg欲しいんだ?」
「………2kgだ」
「1000万か……無理があるんじゃないか?」
それは分ってる。
今もってる貯金を全部使っても200g位しか買えない。
バイトをしても300g買えれば良い所だ。
だがそれでは全く足りない。
「なら素材を競売に出せばいいんじゃないか? 足りない分は」
「それは、最終手段にとっておきたい。研究所とも相談になると思うし」
独占研究したがってたから資金援助してもらえるかもしれないし。
「そうですね…新種のドラゴンですから、鱗一枚で大体10万~20万といった所じゃないでしょうか? 素材で何が出来るかによって値段は違ってきますが、どれだけ上がっても50万程だと思います」
マスターが大体の試算を出してくれた。
もし売るとしたら結構減るな。
「諦めるしか無いのかなぁ……」
「明日すぐに素材の配当を決めよう。そうすればまだ間に合うかもしれないぞ?」
「そうだな。そうすればまだ間に合うかもしれない」
「もし競売に出すときは教えてくださいね? 私も協力しますから」
「ありがとうございます、マスター」
そして、俺とグランは店を後にした。
「オリハルコンかぁ…」
「情報が手に入っただけでも感謝しないとな」
「あぁ。知らなかったら対策も立てれなかったからな」
「今からどうする? すぐにカリバーンに帰って配当を決めるか?」
「いや、配当は明日からでいいよ。それより俺は別にやる事があるから」
約束どおり、午後からはバビロンを使うのだ。
上手く使えるようになれば、バイトの時給に直接繋がる……
(私を金稼ぎに使うつもりか?)
(練習の一貫さ。多くの数をこなせばそれだけ繊細なコントロールが出来るようになる)
(それで双真の実力が上がるのであれば止めはしないが……)
バビロンは内心複雑のようだ。
(どうしても手に入れておきたいんだ。せめて1kgは……)
(ふむ、そこまで必要と言うのならば私の素材を売ってはどうだ?)
(駄目だ。研究所で具体的な結果が出るまでは手放したくない)
バビロンの素材はオリハルコンと同等かそれ以上の価値がある。
それを易々と手放すわけにはいかない。
(やるだけやるさ)
(そうか)
そして俺はプライベート空間へ急ぐのだった。