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第10話:実家

「ようこそ! って言った方がいいのかな?」

「写真とかで見たことはありましたが……実際に来ると何て言って良いのか分りません」


ゲートを潜りやって来たのは東京だ。

ここから更にゲートを潜り家の近所まで移動する。

一応まだ電車や車も走っているが、休暇や旅行でもない限り、あまり使われなくなった。


「悪いけど、先ずはこの介護施設に寄って行かないと行けないんだ」

「誰か居るのですか?」

「俺の婆ちゃんが居る。一ヶ月に一回くらいは顔を出さないとな」

「ご両親の方は?」

「生きてるって事は分ってるんだけど、それ以外が全く分らない」

「そうですか……」


ホーミィの表情が暗くなる


「気にするなって、俺は小学生の頃からずっと婆ちゃんと一緒に暮らしてきたからさ、それに慣れてるから」

「つまり、双真さんのお婆様が両親の代わりをしてくれていたと」

「そう言う事さ、だから特に気にしてないよ。俺は」


そして、祖母の部屋の前に来る。

色々あったからかな。

婆ちゃんに会うのが凄く久しぶりな気がする。


「なんだか緊張して来ました……」

「別にそんな緊張しなくても……」


苦笑いしながらノックをする。


「どちらさんかね?」

「俺だよ、婆ちゃん」

「双真かい、お入り」


そして俺が先に入り、ホーミィは俺の後ろに隠れた状態で入ってきた。


「おや? 双真その子は? 美緒ちゃんじゃないね?」

「あぁ、クラスメートのホーミィって言うんだ。日本に興味があるって言うから連れて来た。他次元の人だよ」

「そうかい、じゃあ日本語は分らないね」

「コ、コンニチハ……」


ホーミィの口から日本語が出てくる。

かなり片言だがちゃんと聞き取れる。


「はい、こんにちは」


祖母は笑顔でホーミィに応えた。

その笑顔にホーミィの緊張感も抜けたようだ。


「んで、これがそのドラゴンを倒したときの鱗なんだ」

「へぇ……これが、長い事生きてきたけど……初めて見るよ……」


婆ちゃんは俺とグランが倒したドラゴンの話と鱗を見せると驚いていた。


「命があるだけ儲け物だったね」

「あんな事は二度とごめんだよ。アヴァロンでも原因を調査して対策を立てるって言ってた」

「今度危ない事があったらすぐ逃げるんだよ?」

「分ってる。後この話は誰にもしないでね? 新種らしくて素材の価値が分ってないから、婆ちゃんが何かに巻き込まれちゃうかも知れない」

「分ったよ。孫を心配させるわけにはいかないからね」


この部屋には監視カメラはあるが、死角から鱗を見せているし、録音機器も無かったので外部に情報が漏れることは無いだろう。


「じゃあ、そろそろ家に戻るね。掃除しないといけないから」

「あぁ、ちょっと待ってなさい」

「?」


そう言ってばあちゃんが俺にお金を渡す


「これで美味しい物でも食べてきなさい。友達は大切にするんだよ? やっと出来たんだから……」

「うん。大切にするよ、婆ちゃん」


そして、俺達は部屋を出た。

そう言えば、美緒以外に友達連れてきた事無かったっけ……


「そういえばさっき、お婆様は何とおっしゃってたのですか?」

「あぁ、ホーミィの事を大切にしろってさ」

「そっ、それは、つまり2人の仲を認めていただいたという事ですか!?」


何処まで話を飛躍させてるんだ……?


「あぁ、折角友達が出来たのだから大切にしろって言われたよ」

「そ、それでも、とても嬉しいです!!」


ハイテンションだなぁ……ホーミィは路地裏で助けて以来ずっとこんな感じだなぁ。

俺以外にも男は沢山居るだろうに……





「さぁ、着いたぞ」

「ここが、双真さんの家ですか?」

「あぁ、造りは古いけど、良い家だよ。夏は涼しいし冬は暖かい。正に日本伝統の家だよ。築50年位経ってる」

「50年ですか!?」

「やっぱり驚くよななぁ…でも日本の家って凄い頑丈に出来てるんだ。京都とかに行くとそれこそ100年以上前の建物がそのまま残ってる場所もあるよ」

「信じられません……」


今度京都に連れて行ってやろう。

驚くことだらけのはずだ。


「じゃあ今度連れて行ってやるよ。今日はこの家の掃除だからな」

「はい! その日を楽しみにしていますね。後、掃除ですが具体的にはどういう風にやるんですか?」

「そうだね、ハタキで埃を落として掃除機で吸い取って、廊下を雑巾がけかな……」

「要するに、家の中の埃を無くしてしまえばいいんですよね?」

「まぁ、そう言うことだけど……」

「では…」


パチンとホーミィが指を鳴らすと、ホーミィの前に埃の塊が浮かんでいた。


「この家にある埃を全部集めましたけど……どうしますか?」

「何その便利な魔法、今度教えて」


こうして掃除はあっという間に終わってしまった。


「うわー……屋根裏の埃まで全部なくなってる。凄いなマジで」


ホーミィの事を信じないわけではないが一応掃除をする予定の箇所を全部回る。

見事だ。正に埃一つ落ちていない


「転移魔法の応用ですよ。対象をごく小さい物に絞れば出来ます。失敗すると色々着いて来ちゃうので元に戻さないといけませんが……」

「発想力って素晴らしい……大幅に時間短縮しちゃったなぁ、掃除をするのに一番時間が掛かると思ってたから」

「じゃ、じゃあ……ちょっとお願い事を聞いてもらっても良いですか?」

「別に良いけど……何?」

「お、お散歩がしたいです……」


外は快晴、程よい日差しと爽やかな風、確かに散歩日和だ。


「それはいいね。天気も良いから気持ちよさそうだ。ついでに夕飯の食材でも買って来ようか」

「一緒に頂いても良いんですか?」

「婆ちゃんからお金貰ったし、大丈夫。ホーミィは何か食べたい物ある?」

「双真さんにお任せします。私ではよく分からないので」

「分った。じゃあちょっと夕飯は豪勢に行こうかな」


そして、慣れ親しんだ商店街へ入って行く。


「あらあら! 双真くん!! どうしたのその子!!」

「マジかよ……えらい上玉じゃねぇか……」


商店街のおじさんおばさん連中はホーミィに興味津々だ。


「学校のクラスメイトだよ。他次元の出身だから共通言語じゃないと言葉通じないよ?」

「そ…そうか、そいつは残念だ……所で、今日の夕飯はこの子と食べるのか?」


小学は悪ガキで中学は根暗状態だったからな。

商店街の人達は婆ちゃんの事を知ってたから、たまに家に食品や雑貨等を持ってきてくれる事があった。

悪ガキだった俺が豹変してしまったのを見て結構心配してくれていたのだ。


「あぁ、その予定だよ。メニューは決まってないけどさ。日本じゃないと食べれない物にしようと思ってる」

「じゃあ、コイツがお勧めだ。今日仕入れたばっかりのマグロと鯛とイカがある。なんなら取っておいてやるぞ?」

「刺身かぁ……良いなぁ! よし今日の夕飯は決定だな。今から商店街一周してくるから帰りに寄るよ。ついでにアサリもよろしく。酒蒸しと味噌汁にする」


「ヘイ! 毎度ありぃ!!」


こういう会話もホーミィには分らないだろうな。

そう思うとちょっと寂しかった。


「遅くなったな、行こうか」

「はい」


そして、ホーミィは色々な店に入り、その都度俺は店の人に冷やかされたのだった。

そして魚屋で食材を買いに来た時に俺は不吉な知らせを聞いた。


「そう言えば、さっき美緒ちゃんを見かけたぞ?」

「……は?」


突然の言葉に頭が回らない。

美緒は今カリバーンに居るはずだが……?


「だから、美緒ちゃんを見かけたって言ったんだ」

「おっちゃん……それは何時位の話…?」

「一時間位前だったかな? えらい勢いで走っていったぞ」


俺の家だな……

恐らく、いや絶対……あの後起きてカリバーンに居ないから家に帰っていると思ったんだろう。

と言う事は……


「おっちゃん……」

「はい、毎度」


このやりとりだけで全てを察してくれるおっちゃんに感謝しよう……


「ホーミィ、魔力消して」

「はい…? どうしてですか?」

「いいから、早く!」

「はっ…はい!」


少し強めの口調で言うと、ホーミィはすぐに魔力を消した。


「俺の後ろにピッタリと付いてくるんだ」

「何かあったのですか…?」

「いいから……相手に気付かれないようにして……」


家から200m程離れた場所。

これ以上近づくと魔力を察知される可能性がある。

そして玄関の前に立つ。

既に奴は俺が此処に居る事に気が付いている。

昔の俺なら気が付けなかったが、今の俺なら容易な事だ。

ホーミィを死角に移動させる。


「ゴクリ……」


そして、玄関に手を掛け……一気に開く!!!


「お帰りなさいませ♪ ご主人様♪」


奴が目の前に現れた。


メイド服、それもミニスカで胸元を大胆に出している。

普通のメイド服ではないので、自分で作ったか何処かのコスプレ衣装屋で買ってきたのだろう。

何時もなら、何をやってるんだお前はぁ!! と言う所だが今日の俺は一味違う。


カシャリ!


うん、ベストアングル。

太もも。

胸元。

表情。

どれをとっても申し分ない。

そして即座にパソコンへ転送。

更に後ろの死角からはホーミィがばっちり録画。

こっちは後で回収。


「あ……あぁ……あああぁぁぁぁ!!!!!」


写真を撮られた美緒が真赤になって襲い掛かってくる。


「今!! 今撮ったの消して!! 消してよぉ!!!」

「駄目駄目、明日学年の掲示板に貼り付けるんだから」

「そ、そんな恥ずかしい写真ばら撒かないでよぉ!! 明日から学校に行けないぃぃ!!」


似合ってると思うけどな。

滅茶苦茶。


「美緒さんってそう言う趣味があったんですね……私びっくりしました」


そしてホーミィの登場。


「ななな……なんでホーミィが居るのよぉ!!」


美緒はもう耳まで真赤である。

そして次の瞬間全速力で家の奥に行ってしまった。


「あの……なんか悪い事をしてしまった気がするんですけど」

「大丈夫、良い薬になるだろう」


ホーミィにカメラを返してもらい、自分の部屋に転送。

流石に今家に入ると色々マズイので美緒が出てくるのを待つ。


「もう良いよ……入っても……」

「廊下とかに捨ててないだろうな?」

「ちゃんとカバンにしまったよ……」


ホーミィに見られてのが一番ダメージが大きい様だな。

涙目に顔になっている。


「今後は控えるんだな」


流石に今日は何も言い返してこない。


「でもホーミィ、双君はこういうのが好きなのは間違いないからね」

「そうなんですか!?」


まさかこんな反撃が待っていようとは……!!

美緒……恐ろしい子…!!


「まぁ……嫌いじゃない」


そう言ってそっぽを向く。

俺だって男だ。

ああいう衣装に興味惹かれるのは当然だ。

後で写真をじっくり見るとしよう。


「それより、なんで俺の家に居るんだ?」

「だって、カリバーンに居ないんだもん。後居る所言ったら家しかないじゃない」


まぁ確かにその通りなのだが……


「後……なんでホーミィが居るの?」


美緒の本題はどうやらこっちのようだ。

目が笑ってない……


「私は、双真さんとお婆様と会って来ました」

「お婆ちゃんに会って来たの?」

「あぁ、施設の人にも挨拶しないといけなかったしな。ホーミィを紹介した」

「そして、双真さんを大切にしてくださいねって言われました」

「それって……どういう意味?」


ホーミィは両手を頬に当て、少し赤くなりながら


「勿論……」


「友達としてだ。まぁ美緒以外だと初めての友達になるわけだしな」


俺が突っ込みを入れた。


「え…? 初めての友達ってどういう事ですか?」


思った通り意外そうな顔をされた。


「俺、中学生の頃根暗だったんだよ。だから友達1人も居なかった。カリバーンに入って一番最初に出来た友達がホーミィなんだ」

「そうだったんですか…でもそんな根暗には見えませんが……」

「カリバーンに入ってからは、根暗じゃ駄目だと思って頑張ったのさ」


流石にあの事件の事は言えない。


「ついでに婆ちゃんにあのドラゴンの鱗も見せてきた」

「あ! 私も鱗見たい」

「今朝メールが来てたけど、どうやら新種らしいな。暫く相場が安定しないぞ…こりゃ……」


新種のモンスターが出ると、ある程度素材が流通するまでは、かなり値段が変動する。

既存の素材で補える場合はそこまで高値にはならないが、その新種の素材でないと出来ない事、作れない物が発見された場合、軒並み高騰する。

更に今回の新種はドラゴンだ。

ドラゴンの素材は希少なので、新種と言うステータスが付けば高騰することは間違いないだろう。


「宝クジ当たった気分?」

「死に掛けたからなそんな気分じゃない。でも鱗一枚30万とかになるかもな? 他のドラゴンの鱗の相場から考えて……」

「あのドラゴンの配当はどうされたんですか?」

「俺とグランで山分け、その中から、研究所に提供って言ってある。どの素材をどれだけ渡すかは相談だけどな」

「うわー…大金持ちじゃない双君」

「命懸けだったからな……それ位の報酬がないとやってられんぞ……少なくとも婆ちゃんは安泰だ」

「私達は少ししか見てなかったのですが、凄い大きなドラゴンでしたよね……」

「あぁ、何で勝てたのか不思議でしょうがない、グランの持ってたアスカロンが竜殺しの特性を持っていたからかな……」

「何にせよ……生きててくれて良かった…本当に心配したんだから」


また美緒が少し涙目になっている。

ひょっとしてさっきのメイド姿は生きて帰ってきた俺へのご褒美だったのかもしれないな……


「さて……しんみりした話はここでおしまい。飯にするぞ。魚屋のおっちゃんの所で買ってきた。米炊いてあるか?」

「うん。明日の朝用に多めに炊いたからホーミィの分もあるよ」

「ホーミィに生まれて初めての刺身を食べてもらおうか」

「サシミ…?」

「簡単に言うと新鮮な魚を切って生で食べるんだよ。新鮮な奴じゃないと駄目。おなか壊しちゃう」

「な…生ですか…?」


流石に生と言う事場に抵抗を覚えたらしい。

確かに鶏肉や豚肉を生で食べるとなると俺も抵抗があるから、それと似たような物だろう。


「大丈夫。美味しいから」


調理自体はおっちゃんがやってくれていたので、簡単に盛り付けるだけだ。

後は追加で買ったアサリで味噌汁と酒蒸しを作る。


「さぁ、食べるぞ!!」

「いただきます!!」

「いただきます…」


やはりホーミィだけ少し元気が無い。

特にマグロは赤身なので、余計抵抗があるようだ。

俺が先に食べて反応を見せたほうが良いな……


「じゃあ早速マグロ貰うかな~」


そう言ってマグロを一切れとり、醤油とワサビを付けて口に入れる。

うん。やっぱりワサビいいわぁ……この辛さ最高…!!


「おっちゃんのお勧めだけあるわ。マジ美味いぞ!」

「本当!? じゃあ私も~」


そう言って美緒も一口食べる。


「わぁ! 本当だすっごく美味しい~ホーミィも食べてみなよ」

「は…はい…!」


「鮭と同じ様な物だよ。ちなみに鮭も刺身で食べれるよ?脂がのってて凄く美味しいぞ?」


今回はホーミィの希望で箸を使っている。

箸はなれるのにちょっと時間が掛かるが、慣れてしまえば一番使いやすいと思う。

けどそう感じるのは日本人だけなのかなぁ?


「はむ…もぐもぐ……ごくん」


そしてホーミィの顔が明るくなる。


「すごいです…凄くさっぱりしてて……美味しいです……!」

「言ったとおりだろう?」

「はい!」

「じゃあじゃあ、今度はこれかな?」


色々な種類を買ってきたので、美緒はどんどんホーミィに勧める。

そしてその一つ一つを食べる毎に笑顔になるホーミィ。

なんか新鮮だなぁ……

今までじゃ考えられなかった事だし、今度他の奴でも誘ってみようかな。

こうして今日の夕飯は非常に楽しい食事になった。





「双君、鱗見せてよ~」

「はいはい、そう急かすなって」


夕飯が終り、居間に移動すると美緒はすぐに鱗を見たがった。


「ほら、これだよ」


バビロンの鱗、全体から見た時は漆黒の竜に見えたが、鱗だけを見ると、ほんのり赤みを帯びている。


「ドラゴンの鱗なんて初めてみたよ……ねぇ一枚頂戴?」


「おいおい……なんて無茶なこと言うんだよ……せめて研究所に提供する分が終るまでは待ってくれ」


「出来たら私も一枚欲しいです…ドラゴンの素材はその物が希少なので無理にとは言いませんが」


まぁ実際どれ位の量が俺の物になるかだよなぁ……

あのドラゴンを真っ二つに割ってイメージするが、なんか途方も無い量になりそうだ。

第一保管場所が無い……素材を提供する代わりに保管場所借りるのも手かもしれない。


「流石に値段や価値が分らない状態じゃあげられない。上級者向け素材の可能性だってある。その場合今の俺達じゃ扱えない」

「じゃあどうするの? 宝の持ち腐れ?」

「必要な分以外は売るのが現実的かなぁ……何処から来たのかも分らないから生息地も不明だし」

(我々は次元を飛びながら生活をしていた。故に決まった生息地は無く、我らの種族とは遭遇する事自体が稀だろう)


成程、自分の意思で次元を行き来出来るのか。

俺達の世界じゃ新しい次元を発見してもゲートが開くかは運次第なのに……


「ひょっとするととんでもない素材かもしれないな、コレ……」

「そうだね……生息地が分らない新種……能力も不明。研究所から見たら宝の山だろうね……このドラゴン」

「厄介事にならなければ良いけどなぁ……」


俺もそれを一番心配してる。


「それは無理だと思います。希少価値が付加されれば、強引な手段を使ってくる人も出てくると思います」

「それが一番の問題だな。何処か良い保管場所を探さないと……もしくはある程度は市場に流出させたほうが良いかもしれない」

「それだと売るって言う方法しか無くなっちゃうけどね」

「グランとも相談するか……とりあえず、俺は明日の午前中に買い物と用事を済ませて、カリバーンに帰るがお前達はどうする? 俺は泊まっていっても構わないが……」

「私はいつもの部屋を使わせてもらうよ。流石にこの時間じゃゲート開いてないし」

「では…私は双真さんと一緒のお部屋ですか…?」


ホーミィの発言が美緒に似てきたな……


「ホーミィまで美緒みたいな事言わないでくれ……決して嫌とか嫌いって訳じゃないけどな? やっぱりマズいだろ? 色々と……」

「まぁ私が夜這いしても無理だったから、ホーミィでも多分無理だと思うよ?」

「でも、魅力が無いという訳ではないんですよね?」


恐ろしい事言うなぁ、ホーミィが魅力が無いわけ無いじゃないか……


「難しいけど、なんか駄目なんだわ。好意を持ってくれることは嬉しいけど、それに応える事が俺にはまだ出来ない」

「経験値不足……ですか?」

「違うよ。ホーミィただの臆病者」

「そこ、うるさい。本当は2人一緒にって思ってるだけだ」


やばい……ちょっとこれは言い過ぎたか…?


「ふっ…ふたり!?」

「え…えーと……それはちょっと……私も経験値が不足してるというか……」


全員顔が真赤である。

軽い気持ちでそう言う事をするのは嫌なんだよなぁ……

まぁ確かに2人同時に襲われたら流石に俺も我慢できないと思うけど、この反応からすると2人同時と言う事はまず無いだろう。

出来たらマジでハーレムだけどさ……

男なら一度くらいそう言うこと考えたりするだろ?


「いつか選ぶからさ、ひょっとしたらどっちでもない相手かもしれないけど……」

「それは認めない!!」

「それでも私の気持ちは変わりません!!」


なんか、ホーミィって美緒と感覚がずれてる様な気がする……なんでだろう……


「ホーミィは双君が他の女の人とくっついてもいいの!?」

「うーん、別に構わないんじゃないでしょうか?」


え…? 

何それ……浮気し放題じゃない? 

ちょっと俺心傾いちゃったよ!?


「1人の男性が複数のお嫁さんを持っている事なんて、珍しい事でもありませんよ?」

「浮気容認発言!?」


んー……ひょっとして……


「落ち着け美緒、多分ホーミィの次元は一夫多妻制なんだろう。そうじゃなきゃ辻褄が合わない……」

「はい、私の次元は一夫多妻制ですので、私の次元で挙式を上げれば何も問題ありません♪」


我ながら思う。贅沢だが、厄介な相手に好意を持たれたものだ……と


「え…つまりホーミィ的には将来2人一緒でもいいの…?」

「勿論ですよ? 私には3人のお母さんが居ますし」


最高じゃないっすかぁ!! ホーミィのお父様!!!!


その瞬間美緒が崩れ落ちた。


「そんな……これじゃあ双君が私だけの物にならない」

「おい、お前はいきなり何怖いことを言ってるんだ!?」

「だって、絶対双君は私と一緒になるって信じてたんだもん!!」

「幾らなんでも強引過ぎないか……?」

「じゃあ、中学生のままの双君を誰が好きになってくれる? 私以外居ないと思うし、私だって自分に自信があるから、その辺の女が近づいて来た位じゃ簡単に追い払えると思ってたのに……」


確かに……中学の根暗のまま人生を進めば間違いなく美緒と結婚していただろうな。

他に相手居ないし……

成程、美緒はそれを狙っていたのか。

だが今回ホーミィというライバルが現れただけじゃなく、一夫一妻制と言う制度で美緒の計画は根幹から崩されてしまったのだ。


「ちょっと、ホーミィに聞きたいことがあるんだけどいい?」

「何ですか?」

「俺とホーミィの接点って路地裏で助けた事位だよね? 俺の何処を好きになったの?」

「確かに、最初に助けていただいたのがきっかけでしたが、偶然同じクラスになり、一緒に過ごしている間に、どんどん私の中の双真さんが大きくなっていって、気が付いたら好きになってしまっていました……」


なんというテンプレートなんだ……!!

でも助けたのは一ヶ月以上前だからそれがきっかけになったとしても、実際一緒に過ごし始めたのは2週間前位なんだけどなぁ。

そこは恋する乙女の何とやらって奴なのだろうか。

一番凄いのはその事を本人の前で言えちゃう事だよな。

そう言うところは美緒より大胆かもしれない……


「他の男性とかに興味は…?」

「無いと言う事はありませんが、双真さん程ではありません」

「駄目だよ双君……完全に恋する乙女になってる……」


美緒も降参したらしい。


「無敵状態って奴か……」


美緒もこれで少しは大人しくなってもらいたい物だ。

まぁちょっと大胆な所も美緒の魅力でもあるんだけどな……


「でもね、ホーミィ一つだけ言っておくよ?」


美緒の顔が真剣になる。


「何ですか? 美緒さん」

「双君はホーミィに言ってない事がある。双君と付き合うのなら、まずそれを知っておかないといけない」

「おい……美緒!!」


いきなり何を言い出すんだコイツは……!!


「ここは甘やかしちゃいけない所だよ双君。絶対にぶつかる。知っておかなければお互い不幸になる。それだけは絶対に避けなきゃいけない。双君の為にも」


お前だってある癖によく言うよ。

それは俺が言ってないだけじゃないか……!!


「話してもらえますか…? 双真さん」

「今はまだ話せない、でもそれはホーミィには関係の無い事だ。気にする事は無いよ。話したとしてもただの昔話で終わる」


極力優しく、そして何事も無いように話す。


「そう…ですか……」


明らかにホーミィが落ち込んでいる。

好きな相手が隠し事をしていて、もう1人は知っているのに自分だけ知らない。

これがどれだけ不安になるのか美緒は分っているのだろうか。

その話題を持ち出した事に怒りを感じた俺は言わなくて良い事を口走ってしまった。


「知っておかないといけないのはお前の方じゃないのか? 美緒」


感情を込めずに小声で言うと、その瞬間美緒が凍りついた。


「双……君……?」


「風呂が沸いたから先に入って来い美緒。その後ホーミィに使い方を教えてやってくれ。ホーミィは今日美緒と一緒に寝てくれ」


すぐさま別の話題に切り替える。

だが美緒の表情を見れば分る。

あの事がバレてしまったのではないかと……


「…? 美緒さん?」


ホーミィに話しかけられて漸く反応する。


「え…何だっけ…?」

「おいおい、寝ぼけてるのか? 風呂に先に入ってホーミィに使い方を教えてくれ。なんなら一緒に入っても良いぞ」

「あ…うん、分った。先入って来るね」





どうしよう…どうしよう……どうしよう……!!


美緒は布団の中で震えていた。


もしあの事を知っているのなら、今の関係が続いているわけが無い。

という事はあの声は空耳……? 

それともまだ私の知らない事があるの……? 

駄目…!駄目駄目駄目ダメダメダメダメ!!!!!!


「はぁ…! はぁ…!」


心臓が爆発してしまいそうだ。

眩暈がする。

考えを纏める事ができない。

そう、知っているのなら今の関係は絶対に成り立たない。

成り立つわけが無い…!! 

そうだ……ホーミィにあんな事を言ったから、私を試したんだ……!! 

私を不安にさせようとしたんだ……!! 

そうに違いない……知ってるわけが無い。

これは私が墓場まで持っていかなければいけない。

決して双君にバレてはいけない……

バレてしまえば全てが終わってしまう……!!


「美緒さん? どうかしましたか?」

「えっ!?」

「息苦しかったようなので……どうかなさったのかと思いまして…」

「だ、大丈夫だよ、久しぶりだったから、ちょっとね……」

「そうですか? なら良いのですが……」


そう、知っているわけが無い……今はそう信じるしかない……

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