表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

紘燈&優李         (こんなの絶対おかしいよ)

 10月に入り後期が始った。紘燈と優李の関係は前回よりはよくなったものの進展する事は無かった。


 サークル帰り、その日もいつものように優李と美香と3人で帰っていた。ご飯でも食べて帰ろうかという流れになったのだが、美香が用事があるから先に帰ると言い出した。2人の時間を作るために気を利かせてくれたのだろう。どうする?と優李に尋ねると少し話があるからお茶だけ行こうと言われた。その内容は聞く前からなんとなくわかっていた。


 紘燈がカフェモカとキャラメルマキアートを両手に持ち窓際の席に腰掛ける。向かいに座っている優李の前にキャラメルマキアートを置いた。


 「それで……話って?」


 最初に1口飲んだきりただ目の前の飲み物を眺めている優李に向かって、紘燈は尋ねた。


 言い難そうにしながらようやく優李が口を開いた。


 「克輝君の事なんだけど」


 ああ、やっぱりね。知らないフリをしてどうしたの?と尋ねる。


 「あの、デートに……誘われたの」


 この相談は最初の世界でも受けている。それに克輝本人からも優李をデートに誘うとメールをもらっていた。


 「そうなんだ。それで?」


 少し言い方が冷たかったかもしれない。紘燈は反省する。


 「それで……どうしよっかなって……」


 そこまで言い終えて優李は再び飲み物を手にとった。そっか……と言った紘燈もカフェモカに口を付ける。普段よりも一層甘ったるく感じた。



 初めてビリヤードをした後も何度か4人で遊んでいた。紘燈なりにアピールはしてきたつもりではあるが何事にもはっきりしていて男らしい克輝と比べるとどうしても霞んでしまうのかもしれない。実際、克輝は本当にいい奴だ。たまたま好きな人が一緒になってしまっただけで、他の子であれば喜んで全力で応援したと思う。


 「いい奴……だよ」


 素直な気持ちだった。


 「うん。何回も会ってるし、紘燈君の友達だし、いい人だと思う……」


 そう言った優李は少し複雑な表情をしている事に紘燈は気づかない。


 「2人で遊んでみるのもいいんじゃないかな。それで決まりって訳でもないし」


 わかったといいながら優李はカップの淵を指でなぞっていた。ここまでは以前に経験済だった。



 しばらくして優李がもう1つ質問を投げかけてきた。


 「紘燈君は、好きな子いるの?」


 今まで耳にした事が無かったその台詞にとても驚いた。


 四十川だよ。そう答えたい。でも今がそのタイミングじゃない気がして言えない。


 「どう……かなぁ」


 そういいつつ笑って誤魔化した。


 「今、右に目線が動いてたよ。いるんでしょ」


 優李も笑ってそう言った。右を見ると脳内でイメージをしているらしい。そんなのアテにならないよと言い訳をする。


 「それって……美香ちゃん?」


 ん?想定の範囲外の単語が出て来た。それって私?なんて言われたらどうしようか困っていた所だった。美香?の事が好きかだって?俺が?


 ないないない、それはない。笑いつつ軽く一蹴した。


 「でも良く一緒にいるよね?」


 うん、それは案内役だから。とは言えない。


 「私と同い年だけど妹みたいでカワイイし」


 ああ、それ正解。実は優李の1個下だから。


 「髪キレイだし、スタイルすごくいいし」


 ああ、まあそれは。また右見てるよ、と突っ込まれる。


 「それにね……」


 途中で言葉を止めたその短い言葉はとても小さな声だった。なのになぜか脳に直接語りかけられているような感覚に陥った。優李から目が話せないのは毎度の事だが、いつものそれとは違っていた。


 「それにね……、とっても楽しそうだし、美香ちゃんを見る時の瞳がね、すごく優しい目をしているの」


 そう言われて少しドキッとした。いやいや、うん。やっぱりないよ。笑って答えた。


 そう。優李はそう言って窓の外を眺めた。その横顔をしばらく眺めた後、帰ろうかと切り出した。





 家に着く前に美香にご飯を頼んでおいた。お茶だけして帰るから、と。


 着いてそうそう美香がご飯を作りながら文句を言ってきた。


 「なんで2人でゆっくり食べて来ないんですか?まったく……」


 遠くでまだブツクサ言っている。料理している後ろ姿を見ながら先程優李に言われた事を思い出す。


 それって美香ちゃん? 優しい目をしているの。



 今まで一切気にした事などなかった。よく考えてみると美香とはもう2年以上も一緒に生活をしている訳で、もちろん気心はしれている。まあ楽しいし非常に感謝もしている。でも美香がこうしてくれているのも紘燈と優李の関係をどうにかする為であってそこに他意はない。美香の事が好きなはずなんてあるわけないんだ。そうだ優李の事がずっと好きでこうやって何度も頑張ってきてるんだ。


 「……トさん」


 



 「ヒロトさん?」


 目の前に美香の唇があった。心配そうな顔で見ている。なぜかその唇が妙にセクシーで魅入ってしまった。


 「な、なに?」


 取り繕って視線を外す。美香はテーブルに食事を並べながら言った。


 「何って、ご飯ですってば」


 またエロい妄想してたんですね?と付け加える。


 そんなことないよ。考え事だよ。そういって先にイタダキマスをした。


 「ああああああ!また先に食べる~。少し待って下さいよぉ」


 本気じゃなくプンプンしている美香も確かに可愛かった。箸を置いて待ってあげる事にした。


 準備を終えて美香が座りながら言った。


 「優李さんの事が大好きなのは知っていますから」


 脈略もなく言われて驚いた。お前こそどうした?


 「さっき口に出してましたよ?」


 さっき?呼ばれる前か? 顔が青くなりつつ尋ねる。俺、他に何か言ってたか?


 「いえ???」


 キョトンとした美香は不思議そうにこちらを見ている。よかった聞かれてなかった。




 カフェでの会話を聞かれたので美香に関する事以外を答えた。


 優李さんにそう言われたんですか? 美香は口に手をあてて数度頷いた後、紘燈に告げた。


 「ホント、バカ正直ですねぇ……。いや、馬鹿ですね」


 そう言い捨てて味噌汁を飲んでいた。


 なんだよそれ。喧嘩売ってんのか?少し本気で怒っている紘燈にもう1言投げかけられる。


 「でも、そういう所、私は好きですよ」


 目も合わせずにサラっといいながら食器を片付けている。


 何言ってんだ、ばーか、といいながら残りのおかずを掻きこんだ。


 どういう所だよ、訳わかんねーよ、てか好きとか言うなよ。




 さっき目の前にあった美香の唇を思い出した。柔らかそうで、艶やかで。そこまで妄想して首を振る。


 

 絶対に美香を好きだなんてない。まあ一億歩譲って好きだとしよう。それでも優李以上に好きだなんて一兆%ありえないっ!



 「食べ終わったんなら、食器ぃ~」


 台所から美香の声がした。いつもと同じその口調は甘えられている気がして、再度強く首を横に振った。

サブタイ(まどマギ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ