積極 接触 夏合宿 (オトコならー)
「ゴメンナサイ、モウシマセン」
そう言って紘燈は美香を見上げる。
「本当にわかってるんですか?反省したんですか?心がこもって無いような気がするんですけどねぇ」
仁王立ちで腕組みしている美香から冷たい言葉が飛ぶ。1日経ってようやく会話をしてもらえるまでに回復をした。
腕組みしている美香はただでさえ立派な胸元がより一層強調されて谷間を作り出していた。きっと自分のせいじゃない、その我侭ボディの魔力のせいなのだ……
「ちょっと聞いてるんですか?」
紘燈の顔はニヤついてしまっていたのだろうか、また怒らせてしまったようだ。
「あれはアニメのエロ主人公を真似したというか実験というか……気が動転してたせいなんだよ。本当にもうしないから。ね?ね?」
この通り、と言って土下座をする。
駄目人間に哀れみすら感じてきた美香は仕方なく許す事にした。
「ところでもうすぐ合宿ですよね?」
手帳を見ながらが呟いた。確かにもうすぐそんな時期だった。
合宿は年に2回ある。夏は海に冬は山に。夏合宿は8月上旬に行われていた。
何をするかといえばもちろん天文サークルなのだから星を見るのだが、割と望遠鏡そっちのけでお酒を飲んで終わる事が多かった。この前の<redo>の時などお酒を飲んではしゃいでいた記憶しかない。優李と話づらかったせいもあった。
「今度はちゃんと距離を縮めて下さいね」
ああもちろん、肉体的にじゃなく精神的にですよ。美香が念を押した。
わかってるよ…… てゆーかまだ怒ってるし……
適当な返事をして紘燈はベッドに仰向けになった。
夏合宿当日がやってきた。集合場所は駅のロータリーで先輩達の見慣れた車が並んでいる。
意を決して美香と一緒に優李のそばへと向かった。
「おはよう四十川。いい天気で良かったね」
こんな当たり前の挨拶をするのにも勇気が必要だった。今日までに少しでも挽回しておきたくて優李には何度かメールをしてきたのだが、会話がはずむ事は無かった。
「おはよう美香さん、紘燈君」
一瞬目が合ったがすぐそらされた。そう言って優李は美香や他の女子と会話を続けていた。
本当にこのルートの意味はあるのだろうか。心が折れそうになるもののここに戻ってきた事を信じるしかなかった。焦らず、徐々にだ…… そう自分に言い聞かせる。
道中は優李や美香とは別だった。まあ今一緒にいても逆につらくなったかも知れない。ポジティブに捕らえる事にした。
お世話になる所は別棟のような場所で、他のお客さんに会う事は食事の時以外なかった。入り口を入ると大きなロびーがありここで集まって話したりお酒を飲んで騒いだりしていた。その奥に部屋があって寝室になっている。ドンチャン騒ぎをする大学生には打って付けだった。
2泊3日のこの合宿は、初日は到着するとお風呂・食事・宴会だけだった。初日から天体観測したいなどという奇特な学生は存在しない。
お風呂と食事も終わり初日の宴会が幕を開けた。なぜか文科系の割りに酒豪が多いうちの宴会は大変な事になることも珍しくはない。
1年女子は最初のうち気を使って先輩方にお酒をついで回っているのだが、途中からめちゃくちゃに皆楽しみだすので後半はいつもよくわからない。
優李のそばに行こうと思ったのだが、今回も先輩に捕まってしまった。飲み会の時はいつも誰かに捕まってしまう。男の先輩にはモテルのだ。
優李はさほど酔った様子もなくにこやかにしていた。ふと思い出して美香の所在を探すと日本酒を飲んでケラケラとしていた。お前18だろう。まあ人の事言えないけれど。
いろんな先輩に捕まる事数時間。その場で寝てしまったり各部屋に戻る人達もチラホラ出て来た。玄関の方に歩いて行く優李の姿が見えた。追いかけようと立ち上がると先輩が手を掴んできた。
「どこいくんだ?」
目がすわっていた。トイレですよ、と言って逃げ切り優李の後を追った。
ビーサンを急いで履き前を歩く優李に声をかけて走り寄る。
「四十川っ!」
その声に反応して振り返った優李は、月の光を浴びてとても幻想的で綺麗だった。
走ったせいで酔いがさらに回った気がした。少し間をおいてどこにいくの?と尋ねた。
「少し酔い覚まししようと思って」
左の頬に手を当てながらはにかむ優李はさほど酔っているようにも見えなかった。
夜だし危ないかもしれないから一緒に行っていいか?そう尋ねると優李はコクリと頷いた。
2人で海辺へと歩いていく。岩場に並んで腰をかけた。月と星空、そして波の音が辺りを包み込む。
「星……綺麗だね」
空を見上げたまま優李が呟く。その横顔にまた見蕩れてしまった。
不意に優李がこちらを向いた。視線が合うとまた優李はいつものように少し俯いてしまった。
「あのさ、四十川……こないだの事怒ってる?」
決意して紘燈が切り出した。優李は俯いたまま首を横に振った。
「そっかぁ、良かった。避けられている気がしてたんだ」
素直に思っている事を伝えた。避けてた訳じゃ…… そう言って優李は言葉を詰まらせた。
「少し……その……恥ずかしくて」
小さな声で優李が呟く。
「それならいいんだ。四十川とはこれからも仲良くしたいし」
優李は無言で小さく頷いた。
「そろそろ戻ろっか」
先に立ち上がった紘燈は優李に手を差し伸べた。一瞬躊躇った優李は数秒後にその手を掴んで立ち上がった。
「ありがとう」
そう笑顔で言った優李の手は、すぐに紘燈の手から離れていった。でも上出来だ。最初なんてこんなもんだろう。それよりも大いなる1歩を踏み出したのだ。紘燈は満足していた。
トイレに行って戻るから。そう言って玄関で優李と別れた。
ロビーに戻るともう誰もいなかった。みんな部屋に戻ったのだろう。部屋へ向かう途中、椅子の陰で丸くなっている小さな物体を見つけた。美香だった。
どうも酔いつぶれて寝ているらしい。しょうがないなぁと言いつつ揺すり起こす。おい、起きろよ風邪ひくぞ。
体を揺する度に胸も揺れている。でも絶賛幸せ気分の紘燈はそんな事気にもしなかった。
「ん、ああ、ヒロロらん。ろこいっれらんれしゅか?」
おいおい飲みすぎだろう。大丈夫か?
「らいじょうぶれすっれ。ユリしゃんろいっそれしら?」
ああ、優李と一緒だったよ。ちゃんと話できたよ。
「よかっられすれー」
うん、お前のおかげだよ、ありがとな。
美香をどうにかおんぶして部屋をノックした。さっき戻ったばかりの優李が顔を出した。
こいつよろしくね。そう優李に頼み込んで紘燈は自分の部屋に戻った。
まず初めに
【お酒は20歳になってから】
サブタイはウルトラマンネクサスの歌の歌詞でアニメには関係ないのですが、よくアニメMADでも使われている熱い歌なので取り上げました。ちなみにネクサスは見た事ないですw
ようやく紘燈のいい所が出たのではないでしょうか。