このルートでいいの? (訳がわからないよ)
ここはどこだ。何も存在しない真っ暗な世界が広がっている。
その暗闇の中を方向もわからずただひたすら歩いて行く。どれほど歩いただろうか。少し息があがってきたのがわかる。それでもひたすら歩く。無心になって歩き続ける。だが出口らしきものは見えてこない。それどころか一縷の光さえも現れる気配がない。いつまでこうしていればいいのだろう。呼吸がうまくできない。この何も無い世界に1人取り残されて消えていくのだろうか。苦しい。とてもくるし……
暗闇に向かって手を伸ばした所で紘燈は目を覚ました。勢い良く上半身を起こしたそばには布団と枕が不自然な位置に散らばり、悪戯な笑みを浮かべた美香が立っていた。紘燈はまだ息が荒く汗もかいている。
--こいつ、布団と枕で顔を押さえつけやがったな?
優等生とはいえ相手はまだ高校生の女の子だ。しかもたまに天然。怒るのも馬鹿らしく大人な対応をしようではないか。実質23歳の紘燈はそう思った。
「たまには趣向を変えて起こそうと思いまして」
クスクス笑っている美香の頭を軽くポンポンしたときに紘燈と美香の携帯が同時になった。
克輝からの一斉メールだ。宛先には優李のアドレスも含まれていた。
「今日は美女2人と過ごせてとても楽しかった。またビリヤードとか行こうぜっ!あ、ヒロは来なくてもいいよ」
いかにも克輝らしいメールだった。そのうちな、と返信し終えた手が固まる。
4人でビリヤードに行ったのは前回<redo>して来たのが初めてだ。だいたい本来の世界線なら美香の存在を知っているはずがない。日付を確認すると7月30日、2度目の<redo>でビリヤードと食事をした初デートの日に戻ってきたのだ。
「美香、これは……」
本来の人生の世界線に戻るものだとばかり思っていたのだ。美香なら何か知っているのか?
「私にもよくわかりません。<redo>後の世界にも飛ぶみたいですね」
そう言って美香が考えこんでいる。どうしてここに、と呟いた紘燈に向かって美香は続けた。
「わからないですが、ここもトゥルーENDに繋がっているのでは?」
トルゥーEND……という事は、ここから優李とうまく行くという事だ。
1年間気まずい関係になって諦めたのにここから……?
欲望にまみれた視線を向けていたのにOKなの?それともただ見ていたと思ってくれた?
頭を掻き毟り考えては見たものの一向に答えは見つからない。
「だから、あれくらい大丈夫って言ったじゃないですか」
やれやれ、といった顔で美香が紘燈を見つめて言う。先生のおっしゃる通りでございます。
でも、そんなのわかんねーよっ! 無理だと思うに決まってんじゃんか。
何度やり直しても失敗しそうな気がしてきた。どうして3次元の女の子はこうも複雑なんだろう。気持ちが全くわからない。赤い目をした白い悪魔と同じ気持ちになった。
せめて、ルート分岐の選択肢出てくれないかな……
アニメ脳でありゲーム脳である紘燈は心からそう思う。わかりやすいフラグにして欲しいものだ。
それともあれか、ただエロいだけに見えるアニメ主人公がなぜかモテるのは……もしかしてそのエロのおかげなのか?
完全に思考が壊れていた。とりあえず美香で試してみよう。
無言で美香の背後から忍び寄り抱きしめた。
「な、何してるんですかっ!」
振りほどこうとする美香を無視してより一層きつく抱きしめる。さすがに力では負けない。嫌がるのは演技なのだろうか?本当は嬉しいのだろうか?
美香の耳元に息を吹きかけた。ヒャンっと悲鳴をあげた美香から力が抜けていく。心無しか瞳もウルウルしてきたようだ。
--なんだ。これが正解なのか。
美香を振り向かせて見つめ合う。
「美香、エッチぃ事していい?」
極めて爽やかな口調を心がけた。美香は頬を少し赤く染めて俯いている。
あれ、やっぱりこれでいいんだ。簡単な事だったんだ。エロは地球を救う。エロこそ至高。
それじゃあと美香の胸に手を伸ばそうとした時、こちらを見上げてきた。
ああそっか。やっぱりキスはしたいよね。ごめんごめん、お兄さんつい先走っちゃった。
目を閉じた紘燈の前では、顔を真っ赤にした美香が右手を強く握り締めていた。
「いいわけあるかぁぁぁぁぁぁっ!」
1発、2発、3発……。顔に胸にお腹にパンチが飛んできて紘燈はノックダウンした。
「馬鹿ですか?馬鹿ですね。まずそのおかしな脳から変えていきましょうか」
しゅびま゛せん゛。 本当にわからないから試してみたんです。もうしません……
「躾がなってなさすぎですね。今日はご飯作りませんから、勝手にして下さい」
そう言って美香は玄関の戸を開けて出て行った。
ああ、大切なご飯が。いや、美香様ぁ……
前話ラストの暗示と今回冒頭で比喩描写ぽいものをしてみますた。
訳がわからないよ(まどマギ)
赤い目の白い悪魔(QB様)