ファーストインプレッション<2度目> (ザ・ワールド発動)
集合場所は学校だった。紘燈と美香が到着する頃にはすでに20人ほど人が集まっていた。キョロキョロと辺りを見回したのだが優李はまだ来ていなかった。
先輩方も同期の奴等も当たり前なのだが若い。周りの1年生は新鮮さでいっぱいなのだろうが紘燈にとっては懐かしさしか無かった。
「遅れてすみません。ここ、天文サークルの集合場所でよかったですか?」
紘燈は即座にその声に反応した。
紘燈がミルクティーを飲むようになった理由である、それと似た色をした髪色。ふんわりとしたセミロング。パッチリとした目にあえていうならタヌキ顔の人懐っこそうな雰囲気。柔らかい優しさオーラが滲み出ている。優李だった。
--あぁ。18才の優李もカワイイなぁ。
我を忘れて見蕩れていた。四十川蕩れ。
上着の裾を引っ張られるまでガン見していた。美香が小声で囁き尋ねてきた。
「あの人がユリさんです?」
そうだよ。そう短く答えるとまた優李に視線を戻す。
カワイイ人ですねぇと美香の声がする。うん、そうだろう、そうだろう。胸を張って答える紘燈に美香がもう1言付け加える。
「初対面ですよね?見過ぎると不振がられますよ?」
……それはよくない。仕方ないので他の子にも視線を向ける。お?あんな子いたっけ?意外と……
「じゃあ私、ユリさんとお友達になってきますね?」
他の子に気を取られている内に美香はもう優李のそばまで歩いていた。美香ちょっと待て……。心の声が届く事は無かった。まあいいか……。
自己紹介でもしているのだろうか楽しそうだ。あの輪に混ざろうと思った時、出発するから車に乗るよう指示をされた。流れのまま優李や美香とは別の車に誘導される。まあいい。いくらでもチャンスはある。
キャンプ場に着くと4つの班に分かれて行動をした。一緒の班になりやすいようにススーっと優李の近くへ移動する。作戦は成功し優李とも美香とも同じ班になった。迂闊だったのは苦手な2年の先輩とも同じなってしまった事だ。
うちわでパタパタと火熾しを手伝っていると、苦手な蔵野先輩が女性陣によく聞こえるように得意げに語りだした。
「バーベキューってさB・B・Qって略すけどあれ間違いなんだよね。綴りでいうとb-a-r b-e c-u-e。だから本当はB・B・Cなんだよ」
みんな一様にへぇとかすごーいとか言い出した。まあほっといても良かったのだが反論をした。
「でも海外サイトとかでよく見ますけど、例えば for you を 4 U って表示しますよね?正しいどうこうじゃなく読み方にちなんだ簡単な略にしてるんだと思いますけど?」
これまたみんなから羨望の眼差しを受けた。蔵野先輩は、まあそうだねなどと言ってその後黙っていた。
さて、スッキリした所で各自の自己紹介が始った。美香の次が紘燈でその次に優李の番が回ってきた。
「1年の四十川 優李です。アイカワってどういう字だと思いますか?」
初めてその漢字を目にした時は驚いたものだ。周りのみんなはよくある漢字をどんどん出していく。先ほどの蔵野先輩の件で気分を良くした紘燈は正解を優李の代わりに答える。
「四十川でしょ?」
恐らく今まで正解を出された事は無かったんだろう。優李が目を丸くしている。よくわかりましたねーと言い、みんなも驚いていた。
うーん。こんな物知りキャラじゃないんだけどなぁ。
気まずさと照れ臭さに苛まれた紘燈が口にした。
「実はさっき四十川さんのパンツ見えちゃって。名前書いてあったんだよ」
<ザ・ワールド>でも発動したかのように周りの動きも音も止まった。しまったと思った時にはもう手遅れだった。完全に場を凍らせた。
「そんな幼稚園児じゃないんですから」
そう言って美香が左手で軽くツッコミを入れた。ようやく皆が笑いだした。のだが優李は辛うじて苦笑いをして合わせているだけだった。
大失敗だった。最低の第一印象。
その後の大学生生活は散々だった。美香も学内に紛れ込み紘燈と優李の恋を手助けしようとしてくれた。しかし紘燈本人も気まずさを感じてしまった事もあり、優李との仲が前以上になる事は無かった。
<redo>してこの世界線に来た初日に完全に安心、いや慢心しきって余裕だと高をくくっていた結果がこの様だ。死亡フラグにも程がある。
それでも1年間はどうにかあれこれと頑張ってみた。しかし事態は好転しない。
部屋の片隅で落ち込む紘燈。その肩に美香が優しく手をかける。
「大丈夫ですよ。次こそ頑張りましょう」
その優しい微笑みを見て、<おねぇたまぁ~>と言いたくなった。再び願う。やり直したい……
「redo」
紘燈は崩れ落ちる時ついうっかり美香の胸に触れてしまった。意識が薄れる感覚と懐かしい感触。だらしのない顔のまま気が遠くなって行く中で、怒った美香の顔がぼやけていく。わざとじゃないって。でも……
--やわらかーーーーーーい。
ザ・ワールド =ジョジョでDIOが使う時を止める能力。
○○蕩れ (化物語)
やわらかーい(アクエリEVOL)