【番外編】 a tale of memories
いつからだったろう、彼を名前で呼ぶようになったのは。
いつからだったろう、彼に好意を持ったのは。
四十川 優李は控室で物思いにふけっていた。
近くでは最愛の旦那様である月見里 克輝とその親友の月夜野 紘燈がいつものようにふざけていた。男同士というせいもあるのだろうが、この2人の関係性を非常に羨ましく思う。
--いいなぁ、男同士って。
一切遠慮をしない関係に憧れていた。少なくとも紘燈に対しては遠慮をしなければならない。
最初に見たのは新歓コンパ。人を寄せ付けない雰囲気を持っていた紘燈がなぜか少し気になった。
ああ、あの時だ。
学食で寝ている紘燈に恐る恐る声をかけた。それまでと人が変わったような笑顔で返事をくれた事に驚いた。でもその笑顔にはどこか影があった。紘燈の希望であの日から名前で呼ぶようになった。
いつもどこか諦めているような、達観しているような。そんな紘燈を目で追ってしまっていた。
しばらくして紘燈から克輝を紹介された。その前からだが紘燈はいつも微妙な距離感で私に接する。私の事をよく知ってるような接し方をしてきたかと思うと、急に離れて行ったり。
いつも紘燈からは優しさが溢れていた。それ以上にどこか寂しさを漂わせていた。
そして何かにつけて友達である克輝のアピールをしてきた。人柄を見れば克輝の良さはわかるが、私が気になってしまうのは紘燈君なのよ。そんな気持ちに紘燈は気づいてくれない。
仲良くなってから紘燈に言った事がある。
「月夜野と同じで四十川も長いでしょ?優李でいいよ?」
付き合いの少し短い克輝は最初から優李さんと呼んでいた。もちろん嫌では無かった。ある程度仲良くなったら皆から名前で呼ばれる事が多かった。
だけど紘燈は何度言っても苗字で呼ぶ事を変えなかった。皆と違う呼び方に何か特別なものを感じる事もあったけれど、名前で呼んで欲しいと当時は思っていた。
しばらくして克輝から告白をされた。悩んだ末お付き合いうする事になる。それ以来紘燈を異性として見る事はなくなった。
もうすぐブーケトスが始まる。紘燈がこちらに近寄ってきた。
「おめでとう、優李さん」
初めて呼ばれた名前にドキっとした。紘燈の思い出が蘇ってきた。自分の気持ちが心の中で行き交った。
「ありがとう」
きっと紘燈はお祝いの返事と思ったろうか。でも少し違うのよ。
名前で呼んでくれてありがとう。また1つ、誰にも見せる事のない思い出のアルバムにしまいこんだ。
タイトル
シャフトの最高傑作であり日本アニメの最高峰だと思っている
ef a tale of memories より。