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幸せの在り処  君と過ごした日    (デスティニー)

 手を繋いで歩いていた。隣にいるのは美香だった。その手が突然離された。美香が遠くに離れていく。追いつくことができずに美香がどんどん小さくなっていく。美香、美香。声も届かない。


 「美香っ!」


 紘燈は自分の声と共に飛び起きた。部屋に美香の姿は無かった。携帯をかけてみたが繋がらない。携帯のディスプレイを確認した。


 2008年4月29日。始まりの日だった。


 ふと自分の右足の太ももを確認した。傷らしきものは一切なかった。もちろん一緒に撮ったプリクラもない。何も無い。美香がそばにいない。


前回は先に目覚める事ができたのに、今回なんで。意識が途絶えるのを無理やり拒否した反動で深い眠りについていた。


 急いで着替えをして2人でよく出掛けた場所からスーパーまで彷徨い歩いた。


 美香を見かける事は無かった。



 コンビニでお弁当を買って23時くらいだろうか、家に着いた。


 暗い部屋の明かりを点ける。静かな部屋で無意味に音楽をかける。弁当を口に運ぶ。



 ああ、そういえば明日は新歓コンパか。風呂に入って眠りについた。





 集合場所には1番に着いた。先輩達への挨拶も適当に美香を探す。


 ああ、優李が歩いてきたようだ。声をかける事もなく美香を探し続けた。


 しかし、美香はどこにもいなかった。心が折れて美香を探す作業をやめた。


 順番に挨拶が始ったが、そんなのはどうでも良かった。適当に挨拶をすませた。


 先輩は飲め飲めとついでくる。それを一気に飲み干す。少し気が楽になった気がした。





 気がつくと自分の部屋にいた。気持ちが悪い。トイレに行き指を口に突っ込んだ。


 酔ったままシャワーを浴びる。お湯をはるなんて面倒だ。



 2週間何をして過ごしたろう。時間だけはゆっくり過ぎて行った。





 する事も無いので学校にはとりあえず向かった。学食で寝ていると声がした。


 「おはよー、月夜野君」


 顔を上げると優李がこちらを見ていた。


 「大丈夫?顔色良くないよ?」


 心配そうにしている。その顔を見た瞬間泣き付きたい衝動にかられた。




 --優李さんと幸せになって下さい。


 

 最後に美香が言っていた言葉が脳裏をよぎった。腐っていても何も始らない。紘燈は明るく優李に返事をした。


 「うん、ごめん。大丈夫だよありがとう」


 「あと月夜野って言いにくいでしょ?紘燈でいいよっ!」







 2013年6月23日。大安吉日のこの御目出度い日に結婚式が執り行われる。


 純白のウェディングドレスに身を包んだ優李は紘燈に優しく微笑みかけている。



 --ああ、とても綺麗だ。


 我を忘れて魅入る紘燈に声がかけられた。


 「おいヒロっ!うちの奥さんが綺麗だからってさすがに見すぎじゃね?」


 克輝が冗談交じりにそう言った。


 「ああ、わりぃ。でも四十川、本当に綺麗だよ」


 そう言って紘燈は優李を見つめ直した。


 「四十川じゃなく、月見里だろっ?」


 克輝は少し不貞腐れ気味に言った。


 「ばーかっ。誓いのキスするまで四十川は四十川だよ。てゆーか俺の中では一生、四十川だっ!!!」



 じゃあまた後でな。そう言って控え室から紘燈は出て行った。






 優李に紘燈と呼ばせるようにしたあの日以降、少しづつ紘燈は元気を取り戻した。初めは完全な空元気だったがそのうちに慣れてきた。


 初めて克輝に優李を紹介する時、紘燈は3人で遊ぶ事を望んだ。他の女の子と遊ぶ気分にはなれなかった。


 もちろん優李に対しても恋愛感情を抱く事はなかった。美香の事を完全に諦めた後でも。


 大体が最初の<redo>前の人生と同じように進んで行く中、2つ違う点があった。




 1つ目はより一層、克輝と優李と仲良く過ごした事だ。この2人との関係は紘燈にとってこれからも大きな財産となる事だろう。


 もう1つは、少しポジティブになったというか大人になったというか。昔と一番違う結果になっている事は、紘燈は大学卒業後に就職をした事だ。


 入社先はゲーム開発会社コネクト。そう<君と過ごした日>を世に出した会社で広報として現在は活躍していた。


 

 2012年の5月。紘燈の前に<君と過ごした日>のサンプルパッケージが出された。上司が期待の新作だぞーと持ってきたのである。発売前のそれは本来貴重なのだろうが実際にプレイも終えている紘燈に真新しさは無かった。


 ただ、美香に会いたかった。それを目標に就活を頑張ったとも言えた。


 現実にもう会えないのなら、せめて画面の中だけでも。


 表の見覚えあるメインヒロインに懐かしさを感じた。深く深呼吸をして裏面を見る。


 そこには3人の女の子が描かれていた。攻略した3人のヒロイン。


 美香がいなかった。


 慌てて上司に質問をする。


 「あの、もう1人出てくる女の子いますよね?」


 「いや、全部で4人だよ」


 「眼鏡の子いませんでしたか?」


 「眼鏡?会議には上がったけどベタだからボツになったよ」


 「案内役の子は……」


 「そんなのいないぞ?どこかの雑誌で見たのか?」


 


 ゲームでなら会えると思っていた美香はこちらの世界からも消えていた。未来が変わってしまったのか。どうやら<redo>機能も搭載されてなかった。


 「ちょっとすみません」


 トイレに駆け込んで声を殺して涙を流した。会う事が叶わないのは頑張って踏ん切りをつけた。しかし画面で見る事も叶わないのか……


 数分後仕事に戻った。


 これから先、あと何年か過ぎたら、顔も思い出せなくなるのだろうか。


 休憩の合間にPCで検索をした。大櫛 美香の声優とされていた名前を入力する。うろ覚えだが多分あっているはずだ。


 しかしその名前はHITしなかった。声優はおろか名前自体がHITしなかった。絶望のまま紘燈は仕事に戻った。





 その晩、克輝と優李を呼び出して飲みにいった。どうしても1人でいる事に耐えられなかった。2人は珍しく飲みに誘われたのを不思議がり初めの内は何かあったか?と心配をした。だが頑なに理由を話さない紘燈を見て、別の話題で盛り上がっていた。それが紘燈はとても嬉しかった。






 結婚式での友人代表挨拶も無事終わった。やりたくは無かったのだがさすがに克輝と優李に頼まれて断る訳にもいかずどうにかこなした。





 外ではブーケトスが行われようとしていた。その少し前、お祝いの言葉を伝えようとした時に困ってしまった。さすがにこの場で四十川とは言えなかった。かといって月見里とは死んでも言いたくなかった。仕方なく紘燈は決心する。


 「おめでとう、優李さん」


 代表挨拶の時を抜いて、初めて名前で呼んだ。


 聞きなれた声で聞きなれない呼ばれ方をした優李が一瞬固まった。


 「ありがとう」


 ニッコリ笑ってそう言った隣で克輝が少し不服そうにしていた。


 色んな世界線で、優李は紘燈に名前で呼ばれる事を想像した事はあるのだろうか?


 そんな事を少し考えたが周りの女の子達がざわざわしだした。どうやらブーケの争奪戦が始るようだ。


 紘燈は空を見上げた。とてもよく晴れて澄み渡った空だった。






 優李はどこに投げようかチラチラ周囲を見渡していた。


 「エイっ!!!」


 優李の手から離れたブーケは女の子のカタマリの方とは全然違う明後日の方向へ飛んで行った。女の子達の あーーーー という声が響き渡る。


 大失敗を笑ってやろうと思い優李を見ると一切落ち込んだ表情をしていなかった。それどころか満面の笑みをしていてなぜか紘燈の方を見ていた。


 --なにやってんだ優李の奴。


 仕方なくブーケの飛んでいった方向に目を向けた。俺が取ってきてやるから次はしっかり投げろよ?



 ブーケを取りに行こうと1歩進んだ時、紘燈の足が止まった。


 すでにブーケは拾われていた。1人の少女に。ざわざわとしながら他の参列者はライスシャワーにとりかかろうとしていた。


 紘燈はみんなの輪から離れた。参加者の1人が紘燈に声をかけるのを優李が制止した。いいのよ。


 紘燈の足は、急ぐ事なくブーケを拾った少女の方へと進んで行く。1歩。また1歩。


 その少女の前で紘燈は立ち止まる。うまく声が出てこない。




 「どうして……」


 言葉が続かない。少女が代わりに口を開いた。


 「5年間、陰から見てたんですよぉ」


 「ずっと応援してたんですよ、頑張れ、頑張れって」


 「それなのにちっとも頑張ってくれなくて」


 「優李さん結婚しちゃったじゃないですか。どうするんですか」


 聞き覚えのある明るい声がする。


 「なんで、なんで頑張らなかったんですか……」


 少女の声は泣き声に変わった。


 「せっかく……決心して消えたのに」


 「全く駄目な人ですねぇ」


 泣いている少女の頭を撫でながらようやく紘燈は口を開いた。


 「そんなの決まってるだろ?」


 「俺が好きなのは世界にただ1人」


 「美香だけなんだから」


 そういって紘燈は美香を抱きしめた。力一杯強く。


 「くるしいですよぉ」


 美香が悲鳴を上げた。


 「消えた罰だ。5年間ほったらかした罰だ。もう2度と逃げないようにこうしてるんだ」


 紘燈はより一層力を込める。


 美香が言葉にならない呻き声をあげた。さすがにやり過ぎたかと力を緩める。


 「だめです。いやです」


 美香が言う。


 「もう少しの間、強く抱きしめて下さい」


 どっちなんだよ、と紘燈は笑ってから抱きしめる。

 


 「本当に私でいいんですか?」


 「ああ」


 「結構わがままですよ?」


 「知ってる」


 「甘い物大好きですよ」


 「カワイイもんだ」


 「太るかもしれませんよ?」


 「うっ……」


 「今ちょっと悩みましたね?」


 「な、悩んでないよ」


 「本当かなぁ」


 「本当だってば」


 「ああ、私、ご覧の通り年を取らないみたいですよ?」


 「願ったりかなったりだ」


 「もう1度聞きます、本当にいいんですか?」


 「他の子なんて考えられない」


 「後悔しませんか?」


 「絶対しない」


 「私の事好きですか?」


 「大好きだ」


 そう言って紘燈は美香に口付けをした。


 「毎日キスしてくれますか?」


 「喜んで」


 「いつまでも手を繋いで歩いてくれますか?」


 「もちろん」


 「そうですか」


 そう言った美香が意地の悪い顔になった。


 「でも、エッチな事はしませんよ?禁止です」


 「ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 紘燈の嘆きが響き渡る。


 「声大きすぎっ」


 「ごめん」


 「で、いいですか?」


 「そこをどうにか」


 「だって私、永遠の18歳ですよ?捕まっちゃいますよ?」


 「バレないように……」


 「それじゃあこの話はここまでですねぇ」


 「そんなぁ……」


 「どうします?」


 「……よ」


 「聞こえないです」


 「いいよ」


 「いいよ、エッチな事はしない。我慢する」


 投げやりに紘燈は言った。あとで丸め込めばいい。


 「帰ったら誓約書書いてもらいますね」


  えええええ。



 「マジ……で?」


 「マジです」


 「……わかった。書くよ」


 とうとう観念した紘燈を見て美香は笑いが止まらなくなった。


 「ちっともおかしくないよ」


 「おかしいですよ」


 笑い続ける美香を見て紘燈は不貞腐れた。


 「カワイイですね」


 「カワイクねーよ」


 「まったく、ほんとしょうがないなぁ」


 美香は小声で言った。


 「週2くらいなら考えてあげます」


 「ん?何?」


 「なんでもないです」


 「今なんて言ったの?」


 「何にも言ってないですよぉ」





 「おーいヒロ。今日はうちらが主役なんだから目立つなよっ?」


 遠くから克輝の声がした。優李も微笑んでこちらを見つめていた。




 「優李さん綺麗ですねぇ」


 「ああ、綺麗だな」


 「私よりずっと綺麗ですよ?」


 紘燈は返事をせずにもう1度抱きしめてキスをした。


 「返事はこれでいいか?」


 「まぁ……今日のところは……」


 そういって2人は手を繋いで歩き出した。



 


 「なぁ優李。あの子誰だ?」


 克輝が言った。


 「さぁ、紘燈君の彼女みたいだけれど」


 私も知らないわと優李は言う。


 「カワイイ子だな」


 「可愛らしいわね」


 「若そうだな、高校生か?」


 「若い子が好きなの?」


 優李の言葉に絶句した克輝は優李が一番だよとつけたして話題を変えた。


 「なんであの子にブーケ投げたんだ?」


 「だってあの子、遠くからずっと私達や紘燈君の方をチラチラと交互に見てて……しかも悲しそうな顔で紘燈君を見つめてたのよ?」


 「そんなの気になるに決まってるじゃない」


 その答えに克輝は納得した。


 「それにね……」


 「それにね、なぜだかとっても懐かしい気がしたの。きっと前世で会った事あるのよ」


 そう言って優李は克輝を見て舌を出した。




 


 


長い間お付き合いいただきありがとうございました。


ラストは少し迷いました。前話のキスで終わるか、今回の空を見上げたで終わるか、このラストか。


1作目、2作目とも、あの終わり方が最善のハッピーエンドだと思って書いてああなってる訳ですが今回の一番のハッピーはどこなのだろうと。


迷いに迷った挙句これにしました。

いかがだったでしょうか。

これにて本編は終了となります。

番外編や第四弾で会う事があればまた。


少し疲れたので休むために過去にいってきます。それでは。


<redo>


サブタイ(ピンドラより)

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