ずっと (キミの事ずっとずっと)
ペンションまでの帰り道、2人手を繋いで歩く。雪を踏みしめる軋んだ音が2つ重なっていく。
ペンションに着くとロビーはさすがに暖房が消えていた。でもあそこなら。
「少し時間いい?」
紘燈の提案に優李が頷いた。玄関脇の階段を降りてブーツ等を乾かしている地下のボイラー室へと向かった。
そこはまだ暖かく外での寒さもすぐに和らいだ。こんな時間に人が来る事もなく都合も良かった。
壁にもたれ2人は寄り添い先程見た星の話をする。手は握られたままお互い目を合わせる事もなく。
「四十川」
優李を自分の方に振り向かせて名前を呼ぶ。視線が絡み合う。
「俺、四十川の事が、好きだ」
優李は少しだけビックリした表情に変わった。でもすぐにそれは今までで一番の笑顔に変わっていく。
「わた……」
最後まで優李が言葉を出さないうちに、紘燈は続けた。
「でも正確に言うと少し違う。……8年間ずっと好きだった」
優李の表情が少し曇った。
「8年……間?」
困惑した優李が問いかける。
「俺は、大学1年生の時に四十川を好きになった。でも気持ちを伝えられずに大学生活は終わった」
どこまで伝わるだろうか、優李の表情を見ながら紘燈は続けた。
「卒業した年の10月、俺の所に四十川から結婚式の招待状が届いた」
優李は一言も発する事なく、ただだまって聞いている。
「俺はすごく後悔した。そしてなぜか過去に戻ってやり直す事が出来るようになった」
「やり直してる世界でも失敗続きで、何度も過去に戻った。不甲斐無い俺は四十川に告白する事がずっとできないでいた。こうやって自分の気持ちを伝えたのは……今回が初めてなんだ」
「そうなんだ……」
優李は戸惑いを隠せないでいる。
「8年かかってようやく、好きって言えた。カッコ悪いよな」
苦笑いする紘燈に向かって優李は静かに首を横に振る。
「8年間、本当に四十川の事が好きで、大好きで、諦め切れずに何度も繰り返したんだ。でも……」
言葉が詰まった紘燈を前に優李の表情も悲しいものに変わっていった。
「節操が無いと思うだろうけれど、別の女の子も好きになってしまったんだ」
優李の瞳から零れ落ちた涙は頬を伝って落ちていく。無言で見詰め合う中、泣きながら笑顔を作った優李が小さく呟いた。
「美香ちゃん……ね?」
その問いかけに、うんと答えた。
「こうやって何度も過去に戻って来れるのは美香のお陰なんだ。四十川との事も、いつも傍で助けてくれた。ずっと見守って応援してくれていたんだ」
優李からまた笑顔が消えた。ずっと泣いている姿はとても儚げだった。
「でも、これは俺の自分勝手で我侭な願いなんだけど、好きだった気持ちをどうしても四十川に伝えたかった。本当に、本当に、ずっと好きだったから……」
申し訳なさのせいか別の感情からか、紘燈も涙を浮かべていた。
しばらくして優李が口を開く。
「これを私に伝えるって事は……」
「また過去に戻るの?」
「うん」
何か思い出した優李はより一層悲しそうな顔をして尋ねた。
「過去の私はこの事は……?」
「もちろん覚えていない」
だからこうして伝えたの? 優李は口にしなかった。
「そっかぁ……、忘れちゃうんだね」
「次に会う時は、もう好きって言ってくれないんだね……」
涙でグチャグチャになった顔を指で軽く拭った優李は紘燈の瞼のそばの涙を指ですくった。
紘燈君、少し屈んで?
優李はそう言って紘燈を抱きしめ耳元で囁いた。
「好きになってくれてありがとう。伝えてくれてありがとう。私も……好きだよ」
そのすぐ後、優李は出て行った。別れ際に「またね」と笑顔で手を振って。
紘燈は携帯で美香を呼び出して伝えた。
「4月29日に戻りたい」
ちょっと待って下さい、と美香が言う。
「ちゃんと伝えたんですか?駄目だったんですか?さっき優李さん泣いてましたよ?」
今回こそ成功すると思っていた美香が、まくしたててくる。
ああ、ごめん、今回も駄目だった。だから頼むよ。できるだけ早く。
優李が自分に好意を持っていたなんて思ってもみなかった。そして、とても悲しませてしまった。
だから……早く優李の記憶を消してくれ。
サブタイについて
これもアニソンではないですが、supercellの曲 さよならメモリーズ です。
とても大好きな歌です。