冬の大三角 (あれはプロキオン、ベテルギウス、シリウス)
「明日予定が入った。大した用事じゃないし、また今度な」
そう克輝にメールをすると深呼吸をした。隣では美香が無言で様子を見ている。
今回は美香と同時に目覚めた。いつも美香に起こされていたのでわからなかったのだがどうやら美香も意識が途絶えるようだ。この<redo>のショックに慣れてきたのだろうか。
秘密を話した記憶はもちろん克輝にはないのだが、毎回デートの度に紘燈にメールをしてくるクセは続いていた。もちろんその中には4人で遊びにいこうというものも含まれていた。一体なんのためにしているのだろう。4人で遊ぶ時はまだしも2人で遊ぶ報告をしてくる理由がわからなかった。
ただ今は克輝の事よりも自分の気持ちと向き合わなければならない。優李と美香、どちらが好きなのか。早めにはっきりさせるべきだ。
その答えが出るまでに思ったより時間はかからなかった。4人で遊んでいるうちに紘燈の心は固まっていった。
冬休みに入り合宿がやってきた。恋人がいる人にはいい迷惑なのだが、合宿はいつもクリスマスとかぶっていた。それが理由で合宿に来ない人もいたのだが事前に話をしていて優李が参加する事は知っていた。
今回の参加はとても少なく8人。紘燈と優李と美香。それに女子の先輩が2人、男子の先輩が3人。先輩は、寂しくなんかないゼーとツアーバスの中ではしゃいでいた。
昨日の夜に出発をして朝方にこちらについた。雪は積もっていたが天気は良かった。今夜は星が見れそうだ。昼間はスノーボードをして夜は観測する事になっていた。信州のペンションではオーナー夫妻の他に紘燈達と同じくらいの年齢の男女が数名働いていた。
道具をレンタルしていざ雪山へ。先輩方は経験者ばかりで、少し紘燈達に教えるとリフトへと向かっていった。完全に初体験な1年生3人は、なだらかな傾斜を登っては転びながら降りていた。
途中疲れてしまって雪合戦を始めた。優李に向かってフワリと投げる。その後に美香に向かって投げつけた。
「ちょっとぉ、どういう事ですか」
美香がむくれる隣で優李も笑っている。その笑顔のために今までやってきたんだなと振り返ると、非常に感慨深いものがあった。
夜がやってきた。さすがにお風呂に入ってから外に出るのは躊躇いがあったのだが、入浴は23時までできてありがたかった。
夕食を終えて近くの割と広い駐車場に出た。望遠鏡を準備し5分ほど眺めた頃だろうか、先輩達は皆部屋に戻ると言い出した。寒さに耐え切れなかったのだ。3人だけになるとしばらくして美香が根を上げた。
「もう限界です。ベテルギウスはお部屋に戻ります」
そう言って駆け足で戻っていった。
優李と2人でしばらく交互に望遠鏡を覗くと優李が言った。
「山で見る冬の星は空気も澄んでいてとても綺麗だね」
確かに都会では味わえない感動があった。さらに優李と2人きりで見ているのだ。綺麗でないはずがない。
いいムードだった。が、クシュンと優李がクシャミをした。さすがに寒さも限界だった。
「そろそろ戻りましょうか、シリウス姫」
望遠鏡を箱にしまったプロキオンはシリウスに手を差し伸べた。
優李の手は寒さで少しかじかんでいたはずだが、とても柔らかく暖かく感じた。
その温もりを胸に、再び紘燈は決意した。
サブタイ(化物語主題歌 君の知らない物語 風)
一瞬、大樹出そうと思ったんですが、西暦表記してて会えるはずなかった(笑)