盗まれに来た花嫁(老女百合のその昔。若い頃)
「えへへ、来ちゃった」
「……本当に来るとはね」
葬儀屋事務所の前で、ウェディングドレスを着た彼女が立っている。
純白の布地は艶やかに煌めいて、悔しいけれどよく似合っていた。
「というわけで、これからどうぞよろしくお願いします」
「待て待て待て。待ちなさい。親御さんには何て言って出て来たの」
いや、自分の結婚式からそのまま逃げて来た人間が、そう悠長に何かを言い残しているとは思わないが。
「置手紙に、『勘当して下さい』って。きっとそうするわ。あの人たち、面子が何より大事だもの」
くすくすと可笑しそうに彼女が笑う。
まあ、そういうご両親なのは、私も知っているけれど。
「私、こう見えて意外と力仕事出来るのよ」
「知ってる」
「教会でのお式なら、オルガンも弾けるわ。聖歌だけじゃなく、亡くなった方の一等好きだった歌、何でも弾いてみせるわよ」
「アンタ、耳いいもんね」
ふーっと天を仰いで、ため息を吐いた。
「……私の指導は、厳しいよ」
「ええ。知ってるわ」
そこが好きなんだもの、と微笑む彼女の手を取った。
「葬儀屋で花嫁。死神とでもアンタ、結婚するのかね」
「ふふ、キミちゃんが死神なら私、喜んで嫁ぐわ」
「言ったね?」
もう離さないから。
そう言った私に、彼女は「こっちの科白よ」と嬉しそうにうなずいた。
END.
一つ前のお話のおばあちゃんたち、若いころ。
葬儀屋さんの方は、この一年か二年前にご両親を亡くされ、若くして実家の葬儀屋を継いでいます。
花嫁の方は、裕福なお家の出ですが、これを機に基本、勘当されます(でも何かすったもんだはちょっとありそう)。葬儀屋は縁起が悪いから、という理由でご両親から「彼女は式に呼ぶな」と言われ、すべて嫌になった花嫁さんです。




