綺麗ごとだけでは駄目なのよ。弟と母に「優しくない」と冷遇された公爵令嬢ですが政略結婚の相手と幸せになります。
「本当にハリウスは優しい子ね。それに比べてフェレンシアはきつくて困るわ」
それが母の口癖だった。
フェレンシアはバセル公爵家の長女だ。
歳は17歳。
弟ハリウスは歳は16歳。
フェレンシアもハリウスも金髪碧眼の美男、美女の部類だ。
両親は後継のハリウスばかり可愛がって、フェレンシアはあまり可愛がられなかった。
ハリウスはともかくいい子ぶるのだ。
「使用人の給料をあげてやったらどうです?使用人達はよくやってくれます。それに応えてやったら如何です?」
父が渋い顔をする。
「我が公爵家の使用人の給料は他と比べればいい方だぞ。まだ上げる必要があるのか?」
「彼らの普段の働きに応えてやりましょうよ。父上」
使用人の給料が上がり、ハリウスは使用人達に感謝される。
フェレンシアが注意をする。
「あまり使用人に甘い顔をしてはいけないわ」
「何故です?姉上は思いやりが足りない。この間、民の税を今年は無しにしたらどうかと父上に訴えたのです。駄目だと言われましたが、減税はすると言っておりました。私は他人の苦しみを考えられる人間になりたいのです」
「貴方は甘いわ。まずは公爵家の事を考えないと。領地経営は赤字になったらやっていけなくてよ」
「でも、彼らとて人間ですから。人は平等でしょう」
フェレンシアは話にならないと、呆れ返ってしまった。
母もハリウスの味方するのだ。
「本当にハリウスは優しい素晴らしい子だわ。ハリウスのやることは間違っていないわ。フェレンシア。余計な口出しは許しません。いいわね」
一応、父は少しは常識がある。
三年前に厳しく領地経営をしてきた前公爵が亡くなった。
父の代になって、領地経営が傾いてきた。
祖父程、父は領地経営の才がないのだ。
母は甘やかされて育てられたお嬢様育ちである。
伯爵家から嫁いで来たのだが、父以上にハリウスを可愛がり甘やかす。
フェレンシアには冷たい母。
フェレンシアは祖父に可愛がられて育った。
祖父は常識を亡くなるまでフェレンシアに教えてくれた。
幼いフェレンシアには詳しい事は解らない。
ただただ、甘い顔だけしていたのでは、領地は傾く。
それだけは祖父を見ていてフェレンシアはよく理解していた。
だから、現在のバセル公爵家の状況はとてもまずいことはフェレンシアには解っている。
父も解っているはずなのだが。父は母とハリウスに甘いのだ。
そんな中、ガルディ公爵家のエルウィンとフェレンシアの婚約話が持ち上がった。
いかに名門バセル公爵家とはいえ、婚約話がいままでなかった。
代替わりして、危ないバセル公爵家を皆、敬遠していたのだろう。
しかし、ガルディ公爵家は婚約を申し込んで来た。
エルウィン・ガルディ公爵令息。同い年の17歳。
公爵家に両親と行って、エルウィンと初めて会った。
とても美しい顔をしていて驚いた。
金の髪に青い瞳のエルウィンは、
「私がエルウィン・ガルディだ。よろしく頼む」
と、自己紹介をしてきた。
そして、
「私は将来、ガルディ公爵になる。私の事をしっかりと補佐してくれる婚約者を探している最中だ。君は家柄もふさわしく、年頃も丁度同い年。だから最初に声をかけさせてもらった。君がふさわしいか見極めてから婚約を本格的に結びたい。私はガルディ公爵家を背負っている。この家を潰す訳にはいかない。君の事を信頼していないわけじゃない。調べた所、素行が悪い所は見当たらないから今回声をかけさせて貰った。ただ君自身を私の目でじっくりと見たいのだ」
フェレンシアは驚いた。
この人、凄く真面目にガルディ公爵家の事を考えているんだわ。
なんだか、綺麗ごとばかり言って人にいい顔しかしない母や弟を見ていたフェレンシアにとってとても新鮮に感じた。
「貴方の目でわたくしの事をしっかりと見定めて下さいませ。それから婚約を結ぶということで構いませんわ。わたくしも貴方の事をしっかりと見定めたいと思います」
相手は驚いたようだった。
「なかなか、しっかりした方だな。よろしく頼むよ」
エルウィンと握手した。
エルウィンは美しい。本人いわく、婚約者を今まで決めなかったのは、来年王立学園卒業18歳になった時に婚姻したかったので、一年前の17歳までには決めたかったとの事。
二人きりになった時に、母や弟の事を正直に話をした。
エルウィンは、
「君の母上や弟さんはそんな事を言っているのか。確かに民の事を考えるのは正しい事かもしれないが。こちらにだって領地を経営し、利益を出さないと、結果、首を絞める事になる。民にいい顔を見せる事は大事だけれども、時には厳しさを見せないと舐められる。私は厳しさも見せられる領地経営をしていきたいと思っているよ」
好感が持てた。
この人となら、結婚してもいいとフェレンシアは思った。
一方、弟の方は、市井で知り合ったと言う花屋の娘と結婚したいと、父に言ってきた。
「アリーナがとても、可愛らしくて。花屋を一人で守って生きてきたのです。私はアリーナを幸せにしてやりたい。だから、私はアリーナと結婚します」
さすがに両親は反対した。
「花屋の娘に公爵家の夫人は務まらない」
「そうよ。ハリウス。考えなおして頂戴」
ハリウスはいう事を聞かなかった。
「私はアリーナと結婚します。アリーナを妻に迎えます」
結果、ハリウスはアリーナと結婚し、彼女をバセル公爵家に迎えた。
その頃には、フェレンシアはエルウィンと結婚していて、バセル公爵家を出て、ガルディ公爵家に嫁いでいた。
実家の父が具合が悪くなり、ハリウスが公爵になったら、途端、公爵領の経営が更に悪化した。
ハリウスと母はやたらと税を軽くしたり、炊き出しだと言って民にご飯をふるまったり、色々と善行をした結果。金が無くなってしまったのだ。
フェレンシアの元に、ハリウスは妻のアリーナと、借金の申し込みをしに来た。
「姉上。金がなくなったのです。どうかお金を貸して下さいませんか?」
「お義姉様、お願いです。お金を」
「お金を貸しても返す当てはあるのかしら?貴方達、爵位を返上した方がいいのではなくて?これ以上、名門バセル公爵家の恥を広める事はないわ」
ハリウスは、
「でも、私は頑張って民の為に‥‥‥」
「でも、お金が無くなったのでしょう」
「仕方なかったんだ。だって、民が苦しむ顔を見たくはなかった」
フェレンシアはハリウスに、
「綺麗ごとだけでは領地経営は出来ないわ。爵位を返上しなさい」
エルウィンが、
「まぁまぁ、フェレンシア。ハリウス。私が金を出してやろう。ただし、領地経営は我が公爵家で行う。君達には引退して貰おう」
ハリウスが怒りまくって、
「私達を追い出すというのですか?」
アリーナが泣きながら、
「酷いわ」
エルウィンが、
「このままではどっちみち、家を失うだろう。住むところ位は用意してやろう。いいね?ハリウス」
ハリウスは悔しそうな顔をした。
フェレンシアは言ってやった。
「綺麗ごとだけでは領地は経営出来ないの。色々とお金がかかるのよ。貴方、それを考えた事あるのかしら。しっかりと領地経営を習ったはずなのにね。さようなら。ハリウス。社交界では貴方の事を笑っていたわ。愚かな男だって」
「姉上。なんて酷いっ」
二人は肩を落として帰って行った。
最近、気づいた事がある。
もしかして夫エルウィンは、バセル公爵家を乗っ取る気で、自分に婚約を申し込んできたのではないかと。
薄々は感じていた。
でも‥‥‥
潰れるのが確実だったバセル公爵家。
このまま、もし、結婚が決まらなかったら、いつまでも嫁ぎ先が決まらないフェレンシアは巻き込まれていた。
確実に。
エルウィンは微笑んで、
「いずれ、私達の子の一人にバセル公爵家を継がせよう。それならいいだろう?」
「そうね。わたくしの血を引いているのですもの。お祖父様も喜ぶわ」
母が今度は訪ねてきた。
「わたくしは、夫とハリウス達と、領地の片隅の屋敷で暮らすことになったわ。育ててくれた恩も忘れて。どうしてお金を貸してくれなかったの?」
母に詰め寄られたから、はっきり言ってやった。
「貴方がハリウスを甘やかしたから、借金だらけになったのですわ。もう顔を見せないで下さいませ。わたくしは嫁いだのです。バセル公爵領はお任せ下さい。安心して余生をお過ごしくださいね」
「親不孝者」
さめざめと母は涙を流した。
胸が痛い。
ずっと愛情をハリウスに向けられて、自分は愛されてこなかった。
でも、こんな酷い母なんていらない。
エルウィンが、
「粗末な馬車でここまで来たそうだ。こちらからきちっとした馬車でお屋敷まで送ろう」
「酷い母だったの。わたくしをちっとも愛してくれなかった。ハリウスばかり可愛がって」
「これから生まれて来る私達の子には、男の子じゃなくてもしっかりと愛情を与えればいい。甘やかすだけではなくて、厳しさもしっかりと私達は教えて行こう」
まだ子がお腹にいる訳ではない。
でも、そう言ってくれたエルウィンに愛しさを感じた。
母はバセル公爵家の馬車に乗せられて領地の片隅の屋敷に帰っていった。
病の父はきちっとした医者に見せて回復に向かっているという。
孫が出来た頃、久しぶりに両親に再会した。
彼らが訪ねてきたのだ。
子は男の子の双子で、今、二歳。とてもやんちゃである。
病が治ったが、すっかり痩せてしまった父は孫を見て、
「可愛い孫だな。抱かせてくれないか?」
と言われたので、父に二人の子を抱かせてやった。
父は涙を流して、
「この子のうちの一人がバセル公爵の名を継ぐのだな。私がしっかりしなくてすまなかった」
と謝罪された。
母は始終、口も利かず黙って紅茶を飲んでいた。
ただ、父の抱っこしている子供達は気になるらしく、ちらちらと見ていて。
フェレンシアは母に、
「お母様。抱っこして下さってもよいのですわ」
母は首を振って、
「わたくしにはその資格がないわ。ハリウスとアリーナは街に出て、花屋をやっているの。貴方によろしく伝えてって言っていた。本当にごめんなさい。ごめんなさいね」
母の言葉に涙がこぼれる。
父が二人の男の子達を一人ずつ、母に抱っこさせた。
母は嬉しそうに、男の子達を抱っこしていて。
何だか今までの苦しみが解けていくそんな気がした。
エルウィンに礼を言った。
「わたくしは貴方と結婚して、お父様お母様に親孝行出来たわ」
エルウィンは首を振って、
「乗っ取る為に君と結婚したんだ。感謝される筋合いはないよ」
「でも、わたくし達の子の一人がバセル公爵家を継ぐのですから、お祖父様も喜んでいるわ。政略で結婚したわたくし達だけれども、わたくしの事は今はどう思っているの?」
「今は?勿論、愛しているよ。君の真面目な所も。随分と君には助けられてきた。これからもよろしく頼むよ。愛しい奥様」
そう言ってキスをしてくれた。
今までずっと寄り添ってくれた。
わたくしはこの人に救われた。愛しているわ。エルウィン。
愛しい夫の唇にそっとキスを返した。
双子達が大きくなって、兄がガルディ公爵家を継ぎ、弟がバセル公爵家を継いだ。
エルウィンとフェレンシアの教えを守り、しっかりとした経営をし、両公爵家は繁栄した。
両親の教えを胸に、時には厳しく、時には甘く。
飴と鞭を使い分けて素晴らしい経営をどちらの公爵もしていったと言われている。




